ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

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本SSも、いつのまにか3周年を迎えていました(*'▽'*)記念SSでも書きましょうかね?

それと、前回の46話を少しだけ加筆しました。その千歌ちゃんに引き続いて、今回は久々の梨子ちゃん視点でどうぞ。





第46話 芽生え【桜内梨子】

「最近の梨子ちゃん、明るくなったね!」

 

 

海開きのライブまでの練習中、千歌ちゃんにふと、そう話かけられた。

 

……確かに、そうかもしれない。練習場所として慣れてきた屋上に置かれた、ダンス確認用の鏡に映った私の表情。それはこの瞬間にやり甲斐……みたいなものを感じているような、そんな楽しそうな顔だった。

 

なんだか不思議ね。つい2か月前まで、スクールアイドルなんてやりませんって言って、千歌ちゃんの勧誘を断ってた。曜ちゃんとは殆ど話したこともなかったし、1年生のみんなの顔も知らなかったし……

 

 

「善子、そこはもうちょっと左手あげられる? あと、花丸ちゃんはステップが全体的に少し遅いね。逆にルビィちゃんはちょい早いかな、他の2人にあわせてあげてほしい」

 

「だからヨハネよ! ……上げるって、こっち?それともこっちに?」

 

「ごめんなさいずら。スクールアイドル、まだまだ難しいなぁ……」

 

「うゆ、翔さんも、善子ちゃんも花丸ちゃんもごめんなさい。もっとみんなに合わせるね!」

 

 

……翔くんの事も、まだ好きになってなかったね。

 

今も全員が同時に練習に集中できるように、全体をカメラも使って見てくれてる。この学校の部活はみんな兼部で存続させてて、人手不足。たまに手伝っては貰うけど、専属のマネージャーさんみたいな人もいないから、その意味でも翔くんにはお世話になりっぱなし。

 

誰かを笑顔にしたいっていう彼の夢と、スクールアイドルで一緒に輝きたいっていう千歌ちゃんの夢は、ピアノで挫折した私に元気をくれてる。それが表情にも出てるなら、いいことなんだと思う。そんな翔くんに、恋をしちゃったのも初めての体験だけど、きっと悪いことなんかじゃない。

 

だけど……

 

 

(なんだかすっごく、恋のライバルが多いのよね~……)

 

 

水を飲みながら、チラリとみんなを眺めてみると……ほら、今だって。

 

 

「ところで翔さん、さっきの腕の位置のお話なんですけど、このくらいですか?さ、触って合わせてくれませんか……?」

 

「る、るるるルビィちゃんがますます積極的になってるずら……! しょ、翔先輩!おらも、マルもー!」

 

「ま、待ちなさいよ2人とも!注意されたのは私でしょ、ショウに手取り足取り教えてもらうのは私よー!?」

 

「ちょ、みんな落ち着いてくれ!今カメラ持ってるかr———……うぉわ~っ!?」

 

 

大きな音を立てて崩れ落ちる三脚と、4人の姿。はあ、壊れてないといいけど……

 

1年生の3人……特に積極的なのは、やっぱりルビィちゃんね。あんなにあがり症だった娘が、翔くん相手限定ではあるけど、どんどん勇気を出していってる。

 

それに比べたら控えめだけど、花丸ちゃんだってルビィちゃんが翔くんと話すとき、いつも傍にいる気がするわね……。善子ちゃんも、翔くんとは以前に知り合ってたみたいで、いつの間にか打ち解けてあの輪の中に加わっているし……。

 

(もしかして、もしかしなくてもこれって……1年生は全員、翔くんの事が好きなのかしら……!?)

 

そんな疑いをもってから数日。もう間違いないわよね……これ。多すぎる恋のライバルは、この時点で3人は確実。

 

でも、それだけじゃなくて……

 

 

「いやー、派手に転んだね。みんな大丈夫?はい、翔くん手出して。よい、しょっ……!」

 

「あ、サンキュー曜……不覚を取ったよ」

 

「いいのいいの、むしろ1年生のみんなに好かれてていいことじゃない。私たちの大事な『後輩』なんだから!」

 

 

ほら、今だって曜ちゃんも。みんなが倒れたと思ったら、いち早く翔くんに手を貸して、しっかりと握り続けてる。しかもさりげなくライバルに牽制してるし……

 

「そうだよな。俺たち先輩がしっかりしないと!今もそうだけど、やっぱり曜は気がついてくれるし、みんなのことも考えてくれるし。助かるよ」

 

「そ、そんなに褒められると照れちゃうね……?///」

 

「「「……」」」

 

 

だから、手!曜ちゃん、一体いつまで握り続けてるの!?

 

……い、いけないいけない。不満そうに見つめてる1年生の3人と、同じような感想を抱いちゃったわ。あれを見たら、曜ちゃんのことは最大のライバルと見るしかないわよね。

 

そう言えばだけど、曜ちゃんからは『翔くんのことが好き』だって、あまり聞いたことがなかった気がする。2年生のみんなで『協定』を結んだときだってそう。

 

確かに恋については聞いたけど、千歌ちゃんほど積極的な言い方じゃなかったのに、こうやってしたたかなアプローチはしてるんだから……

 

(ああ見えて曜ちゃん、実は色々溜め込んじゃうタイプなのかもしれない。翔くんと同じで)

 

だとしたら、もしかして……千歌ちゃんに遠慮してるところがあったりするのかな?幼馴染じゃない私が、横から口を出すのは気がひけるけど……もしそうだとしたら違う気がする。大切な友達だからこそ、きっと——

 

 

「しょーくん!どっか怪我してない、だいじょーぶ!?」

 

「おわ、ち、千歌……!?」

 

「だいじょーぶそうだね、はぁ良かった〜……あれっ?」

 

 

曜ちゃんが名残惜しそうな声を漏らすのより、少し早く。駆け寄ってきた千歌ちゃんが翔くんを一瞬で振り向かせて密着して、体のあちこちを心配そうに触り始めてる。

 

……途中でようやく、今の自分が翔くんにくっつきすぎてることに気がついたみたい。だんだんと2人の顔が赤くなっていって、曜ちゃんとルビィちゃん達の顔が怖くなっていく。

 

こういうところよね、千歌ちゃんの強み。無自覚に男の子をドキドキさせてる。

 

いかに翔くんが記憶喪失って言っても、幼馴染で居候先ってアドバンテージは大きい。部屋、隣だし。私が引っ越してきた隣の家は、もともと翔くんのご家族が住んでたら部屋らしいけど、だからって恩恵は薄いわよね……。

 

 

(ルビィちゃんたちは『協定』のことを話してないのもあるけど積極的に、曜ちゃんは曜ちゃんなりに『協定』の範囲で少しずつ、千歌ちゃんは無自覚に日頃から、それぞれ翔くんにアピールしてる……あと外からもダイヤさんだって)

 

 

……だけど、私はどうなのかな。

 

スクールアイドルは楽しくてやりがいがあるけど、翔くんとの関係も、本来やるべきピアノのことも、あまり進んでない。

 

別に翔くんと疎遠になったとか、嫌われたわけじゃないって……そう分かってても、私は心のどこかに寂しさを感じてしまう。

 

私だって、翔くんともっとお話ししたい。助けてもらった分、彼の力になってあげたい……。

 

 

 

 

 

 

———そんな日々を過ごす私たちに、また新しい出来事が起きた。それは、東京でのスクールアイドルイベントに呼ばれることになったこと。いつかは当然、もう1度は行くと思ってたけど、こんなに早いとは思ってなかった。それも、スクールアイドルでだなんて……ちょっと出来すぎよね。

 

 

それは、複雑だったけどいいニュースだったと思う。でも、異変も起きていた。千歌ちゃんが翔くんを、露骨に避けていたの。

 

最初は『もしかして2人の関係が、一歩進んでしまったんじゃないか』って不安にも思ったけど……千歌ちゃんの様子が、明らかに普通じゃなくて、すぐにそうじゃないってわかった。

 

(でも、ライブが終わってから昨日の今日で、一体なにがあったっていうの?)

 

みんな気を遣って、なかなか聞けないでいる。曜ちゃんは千歌ちゃんに話を聞いてみる、とは言ってたけど……それでも、2人の様子はかなり重症に見えた。曜ちゃんの事は信頼してるけど、あれじゃ上手くいくのかどうかは、分からない……しかも、ライブイベントは目前で、時間がない。

 

せっかく7人の歯車がかみ合い始めたのに、千歌ちゃんも、私も翔くんもズレ始めていて……

 

 

(私、やっぱり翔くん達の力になれるのは、作曲くらいしかないのかな)

 

 

 

 

 

 

———そう思いかけていた時、その翔くんがこっそりと、私の部屋を訪ねてきてくれた。話を聞くと、東京での電車や行くところについて、東京出身の私からアドバイスが欲しいって。

 

こんな形でも役に立てるのならって協力してると……彼の方から、千歌ちゃんについての相談の言葉が出てきたの。

 

 

「……梨子みたいに相談できる相手がいるのは、助かってる」

 

「わ、私だけなの……?」

 

「? う、うん。梨子だけだよ。こうして、こっそりアドバイスをもらえるのは特に」

 

「そう……なんだ。翔くんの頼りになれてるんだ、私だけが」

 

 

『梨子だけだよ』

 

……何気ない彼のその言葉が、やけに耳に残る。

 

彼の力になれないと思っていた私だったけど、本当に助けになれていたんだね……。

 

 

なんだか、心の底から嬉しい気持ちが湧いてくるのがわかった。あまり良くないことだって分かっていても、みんなよりも、今この瞬間だけは誰よりも翔くんに頼りにされている。求められている……そう思うと、ゾクゾクしてくる。

 

 

「俺……千歌に見られたくないところ、見られちゃってさ。それ以来ずっと避けられるんだ」

 

「見られたくないもの?……そうね。確かに千歌ちゃん、凄くやる気を出してたけど……あれもちょっと空元気が入ってたと思うわ。翔くんともっと一緒に喜びたかったんだと思う」

 

「梨子もそう思ったんだ。やっぱ間違いないよな……でも、俺も起きてしまってる事に対して、どうしたらいいかわからないんだ。それで、千歌に避けられてても、何も言えないで……梨子の部屋に上がり込んでる」

 

「……何があったのか、教えてはもらえないの?『仲間だから』とか『友達だから』って言い方で、話しづらい事まで無理に聞いたりはしないけど……」

 

「実は……」

 

 

そこから始まった彼の『告白』は、とても壮絶なものだった。

 

ダイヤさんとルビィちゃんからの告白、板挟みになって悩むうちに、ダイヤさんと果南さんに無理やり関係を迫られていた。まだ記憶喪失の事も、理事長との問題も何も解決してないのに……みんなが彼を求めて、彼に負担をかけていた。

 

あの、一番距離の近かった千歌ちゃんもそう……。

 

なんにでも気がつける曜ちゃんにすら、気がつけないこと……それを、私だけが。

 

 

「翔くん……辛かったのね」

 

「り、梨子……?」

 

「いいのよ、しばらくこのままで。……いままで『誰にも』相談できてなかったんでしょう? 『一人』で抱え込んで……」

 

 

いつかファーストライブの前、不安を抱えた私たちは手を繋いで、お互いの温かさを感じあった。今思えば、この前気がついた『輝き』にも通じることだったね?

 

私は……今度は翔くんに逃げられちゃうことのないように、後ろから身体を重ね合わせた。

 

 

 

 

あたたかいのね……翔くん。それに、上手く言えないけどいい匂い……これが男の子の、好きな人の香りなのね。

 

後ろからで、表情を見られなくて良かった。翔くんのことは本当に心配だし、さっきの話の大変さもわかっているけど、それを翔くんとただ一人共有できたことが、凄くうれしくて……

 

 

……私は、口もとが無意識に笑みを浮かべていたのだから。

 

 

 

「俺は……誰かを、みんなを笑顔にできたらって、それだけだった。記憶がないのを言い訳にしてたのもあるかもしれないけど、恋愛なんてあんまり考えてなくて、ましてやそれがみんなとの部活に、こんなに関係してくるなんて……どうしたらいいかわからないんだよ」

 

「辛かったね……翔くん」

 

「……そういう資格はないんだ、きっと俺は。みんながスクールアイドル頑張ってる間、一人でそんな関係ないことに悩んでたんだから……」

 

「そんなことない……誰にだって、大切な人にも話しづらいことや、相談できない事だってあると思うわ。むしろ、大切だからこそ傷つけたくないって気持ちも、あると思う」

 

 

もしかしたら、過去の事をただ一人知ってたっていうダイヤさんも、今の私と同じような気持ちがあったのかもしれない。

 

それは同じように、もしくは私以上に無意識だったかもしれないけど……気持ちがわかる気がしてくる。大好きな人、愛してる人に、自分だけが頼られていること……それが相手が苦しんでる顔を見るのは辛いけど、心のどこかで嬉しくてたまらない自分もいる。

 

……そんなところ、流石に見せられないけどね。

 

 

 

本当は、そういう私も悩んでることがある。それは、ピアノについて。

 

元々の私は、東京でピアノで失敗して……それで心配してくれた両親の勧めで内浦に引っ越してきた事は、2年生の2人と翔くんは知っている。

 

スクールアイドルは楽しいし、たくさんいい曲も作れてるけど、まだそれをピアノの曲で完成させられてないの。

 

焦っても仕方ないけど、このままで上手くいくのかなっていう思いはある。それに、失敗した経験を抱いたままの私は、東京に、音ノ木坂を怖がってる。

 

 

 

「今日聞いたことは、とりあえず私の胸にしまっておくわね。タイミングが良くて、ルビィちゃんもOKなら、もしかしたら私からみんなに打ち明けて、話し合うことになると思うけど……」

 

「梨子なら、それをするべき時を間違えないって信じてるよ。何かあっても恨んだりしない、その時が来ても、むしろ自分から話せない俺の失敗なんだから、全然気にしないでくれ」

 

「……本当はね?心細いのは私もなのよ。本当は東京がちょっと怖いの。生まれ育った場所だけど、私はそこで失敗して出てきてるんだから……」

 

「そうだったのか……確かに、ピアノのことだって解決したってわけじゃないものな」

 

「うん。だから私が翔くんや千歌ちゃん達を頼るように……翔くんも私を……私を頼ってほしいの。その方がお互い、気も楽でしょ?」

 

 

だけど彼はもっと多くのことに悩んでいた。同時に、それに無関心になってた自分に腹が立っちゃう。

 

翔くんは『みんながスクールアイドルに悩んでる時に自分のことで』……って言うけど、私からしたら、むしろ逆なのよ。

 

『スクールアイドルに一生懸命になりすぎて、彼の悩みに気づかなかった』

 

 

今だって、悪いとは思っていても、一人だけ彼の隣にいられることも喜んでもいる……それなのに。そんな私なのに、彼はまだ私を含めたAqoursのことを第一に考えてくれてる。……だからこそ悩んでいる。

 

そんな彼のために、私はいざという時は、解決のためにみんなと話しあうって約束した。それは『ダイヤさんとは違う』っていう、私の対抗心でもあったけど。それに、千歌ちゃんのこともね。

 

 

「千歌ちゃんは私がケアしておくし、東京も少しは気晴らしになると思うわ。だからとにかく、目先のライブイベントに集中しましょう?」

 

「そうだね。本当にありがとう、おかげで、根拠はないけどなんとかなりそうって思えたよ」

 

「ふふ、そんなに気にしなくても大丈夫よ。翔くんは一人で悩まなくていいの、私がついてるから……」

 

 

翔くんが私だけを頼ってくれてる……大好きな人が。私を頼ってる。

 

 

最愛の人が苦しんでるはずなのに、心の一部が喜んでる。その衝動に任せてしまいそうになるくらいに。

 

もしかして……あの頑固な生徒会長のダイヤさんや、無関心を装ってた果南さんが、翔くんを無理やり自分に振り向かせようとした理由もそれなのかしら? そして、それはもしかしたら、あの頃のルビィちゃんもそうで……?

 

そして自分もそれに抗えなくなる……これが、恋なのだとしたら。

 

 

(私が、今までの私でなくなる気がする。女の子って、恋をするとみんなこうなるのかしら……?)

 

 

 

自分の心に中に、彼の事を考えるだけで、おそろしく冷たくて。

 

同時に、とても悦んでしまう感情が芽生えてくることを……私は自覚し始めていた。

 

 

……それが恋って言うには、あまりにも強すぎる気持ちだってことも。

 

 

 

 

 

 

 

 




人間はみんなヤンデレになるのです(違) 千歌、梨子とくれば、次は東京で勿論あの娘が……?



シャウタさん、久々のお熱い感想とご評価、本当にありがとうございました!

そして、3周年のこのめでたい時期に、ついにお気に入り1600人超えました!!重ね重ね、ありがとうございます。本当にみなさんの応援だけが力になります。

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