果南に襲われてるあたりで、ダイヤたちが何してたかのお話。
和琴を前に、考え事をしてしまっている自分。
せっかくの稽古の機会だというのに、私は集中しきれていません。その原因は、ライブの直後に届いた、果南さんからのメッセージ。彼女は、翔との事を、勝ち誇るように報告してきていた……
「……やられましたわね。まさか果南さんが、こういう頭脳戦をしかけてくるとは」
確かに……普段の果南さんからして、確かに体力に偏重していますし勉強嫌いですが、頭の回転が悪いわけではありません。彼女をただのスポーツ系だと思っている人がいたとしたら、それは表面しか見ていないのでしょう。
もっとも、結果的にライバルを焚きつけてしまった形になる私が、言えたことではありませんが。
今すぐにでも彼の口を消毒して差し上げたい気持ちを抑えつつ、私はその日の失態を振り返ります……
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「鞠莉さん? こちらのエリアにわざわざ呼びだして、何か仕事が残っていたのですか?」
「ダイヤ? あなたこそこんなところで何してるの?私は別に呼んではないけど……だって、ライブがこれから始まるタイミングよ?」
「いえ、なのでそれに関連した話があるのかと思ったのですが……では、何かの連絡の手違いでしょう。皆さん忙しいですから、こういうこともあるかもしれませんね」
浦の星女学院の生徒みんなで、海開きに関するお祭りの開催の手伝いをしている今日。
それは同時に、翔とAqoursの皆さんが、満を持して2度目のライブをする日でもあります。今は、まさにその時。
本当は私とて、彼の元に行きたいところですが……こればかりは生徒会長としてきちんと、色々な仕事をこなさなければなりません。翔だって、仕事を放り出して逢いに行けば失望されるでしょうし、これが学校のPRにもなるのだったら、廃校を阻止するという本来の目的にもつながります。手は抜けません。
だから、名残惜しい気持ちは残りつつも……後から逢いに行けばいいと考えて、今はライブを見ることに集中することにしました。
「……いいライブね。ついこの間まで、あんな酷いPVを撮ってたみんなとは思えないくらい」
「ええ、まったくもって。あれは酷いものでしたからね……。ですが、昔の私たちも大差なかったと思いますわ。がむしゃらさという意味においては」
「それはそうね。4人とも、未来はきっと最高だって何一つ疑ってなかった。μ'sみたいに、廃校だって止められるって……無邪気に信じられたんだから」
そう、力無く呟く鞠莉さん。無力感を感じているのは私も同じです。
2年前のことをもさることながら、生徒会長となった今でも結局、学校を救う手立てを見つけられていないのですから。ですが、何もかも無駄に終わったわけではないと……今では思っています。希望のすべてが、消えたわけではないのだと。
その希望とは、ここから少し遠くで行われている、ランタンに照らされたあのライブ……新しいAqours。
(ルビィ、成長しましたわね……本当に)
彼女たちの成長……特にわが自慢の妹の晴れ舞台は、贔屓を抜きにしても、目を見張るものがありました。
初めてのライブで、よくぞここまで踊り、歌えるようになったものだと思います。おそらくルビィは、翔が話していたように、私がスクールアイドルから目をそむけた後になっても、一人で練習をしていたのでしょうね。
(……あまりに成長しすぎて、恋敵にもなってしまったという、複雑な気持ちはありますが)
まぁ、ルビィが話してくれた内容は、私が翔に溜め込んだ想いをぶつけさせるためのきっかけにもなりましたし……彼が私を愛してくれるのは確定事項なのと、目に入れても痛くない妹でもありますから、少しくらいなら許してあげるとしましょうか。
正妻となる役目は、私以外にあり得ませんが……愛人として、くらいならたまにはいいでしょう。少々妬けますが彼も、ルビィのことは憎からず思っているようですし。2人ならより、彼を満足させられるでしょうから。
……ルビィ以外は許しませんけどね。
(そう……あそこで踊る皆さん、新しいAqoursもまた、果南さんと同じく翔を好きになっているのでしょう)
彼女たちの持つ私への対抗意識は、果南さんと同じ。
決して、スクールアイドル部や翔の在籍を認めなかったことに対する怒りだけではなく……同じ男を好きになった『女』としての、嫉妬。ルビィのように自分でその気持ちに気づいているか、それとも無意識なのかは分かりません。もっと言えば、今後、彼に告白できるのかについても、個人ごとに差が出てくるのでしょうけれど。
それでも私が一番、彼に相応しい女なのだという気持ちは、全く譲るつもりはありません。そして、私が彼と結ばれるのだということも……おっと、あまり考え込んでばかりいては、目の前のライブに失礼ですね。恋敵とは言っても、彼女達は翔と共に歩んでいる、浦の星の『希望』なのですから。
(ダンスも歌も、まだまだ未熟なグループです。しかし……)
———私自身、あの新しいAqoursのパフォーマンスを楽しんでいる部分がありました。最初のライブの時点で、そうでしたが。
スクールアイドルは、確かに甘くはありません。特にラブライブに関しては、非常に厳しい世界です。彼女たちのパフォーマンスは、決してそれに耐えうるレベルには達していないのは事実。
しかし……それはスクールアイドルとそのグループが、楽しんでライブをして、お客さんと一緒に輝くということ。それと矛盾するわけではないのです。
彼女たちの今のライブは、今みんなで輝こうとする、まだ始まったばかりのその気持ちが前にあふれ出ていました。それこそ、先ほど話したような……昔の私たちのように。
そんなものを見せられてしまえば、ある程度は認めるしかないでしょう。……それを支える翔の手助けとなる私の内助の功、ともいえましょうか?
(なんにしても、もう彼女たちと翔だけが最後の希望かもしれません。この学校を廃校から救うには……)
そのために、出来る手伝いはしていくつもりです。そしてその末に私は、翔と添い遂げてみせるのです……♡
「……ねぇダイヤ。やっぱりダイヤもショウのこと、今も好きなの?」
ライブが佳境を迎えたあたりで、鞠莉さんからふと、前回と同じ質問が来ました。
今の私はもう、自分の気持ちに『素直』になっているつもりです。ですので、果南さんにしたようにハッキリと教えてさしあげても良かったのですが……鞠莉さんの様子は、少し違っていました。
(普段と違ってずいぶん、自信がなさそうですね……?)
帰ってきてから今日までの彼女は、(知らない故に当然ではありますが)翔に対して厳しい態度を崩しませんでした。私と彼について話すときもそう。余裕を維持し、鋭く指摘することをやめなかった。
しかし、今の彼女から感じられるのは……不安、弱々しさ。
(嫌っていた翔が、Aqoursといいライブをまた見せてきたから……というだけには、見えませんが。なぜ今更?)
そこは気がかりではあったものの、私は素直に答えます。少しだけ気を遣いながら。……素晴らしいライブを見ながらだったので、つい話したくなったのも、あったかもしれませんね。
「ええ……愛しています。2年前からも、1日たりとも忘れたことはないほどに」
本人や、自分や誰かに言ったのはこれで何度目でしょう。しかし、何度言葉にしても足りない気すらしてしまう……ふふ、『恋は盲目』ですね。
ところで、それを聞いた鞠莉さんは、また少し力を失ったようでした。
「やっぱり、ね……」
「……結果として、貴女に嘘をつくような形になっていたことは、謝ります」
「私……置いて行かれちゃった気がしてるの。ヘンよね、自分でショウを憎んでおいて、今更。だって、果南もダイヤもショウの味方ばっかりするんだもの」
「それは……無理もないことでしょうね。果南さんも、ショウを私から奪うと宣戦布告してきたくらいですから」
鞠莉さんが私の告白を聞いて、元気を失っている原因……それは、疎外感だったようです。
あの事件が無ければ、いずれ起きたであろう私たち同士の恋の戦争。それがこんな形でまた起きようとは、誰も予想できなかったこと。
かつての真実と言う意味だけでなく……そこに鞠莉さんが一人疎外感を覚えるのは、無理からぬことでもありました。
「2人共……どうしてそんなにショウが好きなのか、私なりに考えたの」
「……理由なんて、ハッキリとはないでしょう。あんなに一緒にいたのですから。さらに、会えなかった時間が、私たちの想いをむしろ膨らませてしまった」
「そうね。けど、今のはそういう意味じゃないわ。『あんなことがあったのにどうして』って意味。……さすがに、気づくわよ。あのとき私の知らない何かがあった。それをダイヤは知ってたから庇って、果南は勘づいた。私だけ……つい最近まで、1人で必死に憎んでたのに」
そう語る鞠莉さんの目線の先には、またAqoursのライブがあります。
……きっと、果南さんとも彼への気持ちについて、既に話したのでしょう。最初に聞いてきたときの『ダイヤも』とは、おそらくそのことを表しています。そうさせてしまった原因の一部は、私と翔の間の話せない約束だと思うと、彼の事を第一に考えている今の私の心でも、痛みを感じました。
それと……今回のライブの良さを見て、彼女なりに感化されたところもあったのかもしれませんね。彼女もまた、スクールアイドルを愛していることに変わりはないのですから。
翔が本当に鞠莉さんの考えてる通りの男なら、こんなライブの輝きの一つには、なれてなかったはずだ……と。
「私に話せない理由があったんでしょ? ……今は、聞かない。心の準備ができてないから」
「……やはり、いつか話さなければならないのですね。今はただ、このライブを楽しみましょう。彼女たちと翔が、浦の星を廃校から救ってくれることを願って。そして、私たちの失敗を取り戻してくれると願って……」
「……そのこと、なんだけどね。ちょっと小原家のコネを使ったの。これが『最終テスト』だって思って」
「テスト、ですか?」
「ええ。今日のライブがランキングに食い込めるくらいのものだったら、っていう前提だけど……東京のライブイベントの新グループ特別選考枠の1つに、Aqoursを考えてもらうようにね。まあ、この出来なら私が何もしなくても、呼ばれたと思うけど」
「!? それは、まさか……」
鞠莉さんが言いだしたこと。
それは、ある意味では体育館のライブの時以上の、過去の再現。私たちが膝を折るきっかけになった、あのイベントに再び出るというもの……
「分かっていますの!? 今の彼女たちのレベルで、それをさせるのは……何より、翔は」
「ええ、だからテストっていうのは2重の意味ね。ショウのことを確かめたい私の気持ちと、Aqoursのみんなが浦の星を救ってくれるかどうかの」
「……そういう試練を与えなければならないほどに、時間がないということですか。仰りたい意味は、分かりますが……」
今の彼女たちが、それに耐えられるかどうか。
……翔が同じ過ちを犯さないかどうか。
後者については、実はそんなに心配していません。あの時とは事情が違いますから。現在のAqoursのメンバーには、『当時の彼女と同じような事情』を抱えていた人間はいません。ですが、前者は。翔の心に、当時とはまた違った絶望を与えてしまうかもしれない。
全国から集まったスクールアイドル。その実力は……
「ダイヤは……私がひどいことをしてるって思う?」
「貴女の立場なら……無理もないことだとは、思いますわ」
「そう。ごめんなさい、ヘンなコト聞いちゃったわ。……いいPVが撮れたでしょうね、あれなら」
「……ええ」
空に舞い踊る、照らし出すランタン。それは翔を、ルビィを、Aqoursを……内浦を照らし出す、温かい人々の輝き。これなら、PVと今後の方針に関する問題は、解決したと言っていもいいでしょう。次は、東京で全国のレベルにどう向き合うかだけ。
ですが……
(……なんでしょうか、この違和感は)
それを感じるのは、Aqoursではなく、他ならぬ目の前の鞠莉さん。
果南さんに引き続き、鞠莉さんにも翔に思うところがあったとして……彼女の場合、こんなにしおらしくなるでしょうか?彼女は、怒るのも悲しむのも、喜ぶのも全力で感情表現をしています。スクールアイドルを始めてからは、特にそれは顕著でした。
もし。彼女が彼の過去に気がついたのだとしたら、ここを飛び出して今からでもショウに詰め寄りに行くはずです。それが、こんなところで悠長に私と話しているわけがありません。
彼女に一体、何が? いえ……もしかしてこの状況は、彼女が望んだもの? だとしたら何が目的で、こうして……彼女じゃないとすれば、誰が……
「そういえば……果南が見当たらないわね~?」
———……果南さん?
「鞠莉さん、貴女もしや……果南さんに言われて今、私と話しているのではないのですか?」
「? どう言う意味よ。どうしてそこに果南が出てくるわけ?」
「それは……」
「ダイヤの方こそ、果南から仕事を頼まれてきたんじゃないの? こっちのあたりのテント立てるの、もともと果南たちのグループが担当してたはずだけど」
……ッ!
「くっ……貴女と話している暇はないようですわね!」
「だ、ダイヤ!? どうしたの……?」
「果南さんが、私と貴女が近くにいない間に、翔を手籠にしてしまうかもしれないでしょう!?いえ、そうに決まっていますわ!!」
迂闊。
そんな言葉で言い表すのも、恥ずかしいほどの失敗でした。
もし私と鞠莉さんが、ライブが終わろうというこのタイミングで離れた場所にいることが、果南さんの計略なのだとしたら……
……私が翔のカメラを置いていた位置に到着したとき、既にそこには誰もいませんでした。
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そして、果南さんに勝利宣言を受けたのがその直後。
……もっとも。この程度で私と翔の関係は揺らいだりはしません。
(私も言い過ぎたとはいえ、彼女があそこまでこじらせてしまっているのなら……翔は私に靡いてくれるでしょう)
彼は、果南さんに無理やりキスをさせられたのです。そうに決まっています。当然ですわよね、彼は自分で気がついていないだけで、本当は私のことを愛してくれているのですから。むしろ好きでもない女に口づけをされたことで、慰めてあげるべきでしょう。
そう思って彼の家に行こうと思いましたが……遠回しに断られてしまいました。恥ずかしがっているのと、ライブイベントに向けての練習があるからと言われて。まだライブは2回しか、それもルビィ達は1度しかしていないのです。実力は勿論、なにより経験が不足しすぎています。
実際、ルビィもずっと練習に行っているようですし……私がお邪魔をするわけにはいかないでしょう。ルビィと翔が心配で、東京についていきたい気持ちもありますが、それも我慢することにします。
ただし……私にも我慢の限界というものがあります。
果南さんのことだけでも許せないというのに……
(翔……東京で私以外の女に靡くなど、絶対に許しませんからね……)
「フフッ……果南も甘いわね。人づてに用件を伝えさせて、私とダイヤを2人きりにしてる間に、こっそりと会っていたようだけど、バレバレよ。まぁ、騙されたフリをしてあげるのも女の甲斐性って奴よね?ショウ」
「さて。これでやっと、ダイヤと果南はイーブンってとこかしら。そして、2人との関係に疲れ切ってくれたところで、私が……楽しみだわ」
「『最初の女』なんて意味はないの、『最後の女』にならなくちゃね♪」
「ショウ、舞台は整えてあげたのだから、後はアナタ次第よ。東京で今度はどうするのか、見せてもらうわ。そして、その後は私に————……」
この回は本来の連載の予定にはありませんでしたが、入った方が面白いのでねじ込みました。そういうとこは臨機応変に。
ダイヤちゃんの心配には申し訳ないですが、東京ではあの2人組と会うので、靡かざるを得ないですね(笑)
明日のやたからすさん、高評価ありがとうございました!