ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

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久々に翔くんにバトンが帰ってきました。

まぁ、どっちにしてもヤンデレの手から逃れることはできないのですが……。





第49話 出発の日

レールを踏む、車輪の音……要するに電車が走る音。そして、小さいながらも商店街が織りなす声。それだけで想像もついた人も多いだろう。ここは沼津駅だ。俺のバイト以外で、こうしてみんなでやってくるのは、確か……ビラ配りの時以来になる。

 

今思えば、俺とここにいる6人のメンバーは、あの時全員ここに揃ってたんだな。偶然とはいえ、出来すぎな気もするな……ま、今となっては結果オーライだけど。

 

……そう思うと、なんでもない駅前でも、急に特別な意味を感じられてくる気がしてしまう。俺達と、μ'sのいた東京を結んでくれる場所だと思うと、なおさら。駅という出会いと別れ的な土地柄もあるんだろうね。

 

(さて。東京でAqoursにとって、初めての『他のスクールアイドル』との出会いにもなる機会だけど……)

 

ルートとしては、ここからは熱海まで行って、そこで東京に向かっての乗り換えに移る。そこまでいけば、便によっては後は一本の快速?でいけるというのだから、東京も意外と近いのかもしれない。兎にも角にも、忘れ物も欠員もなく、ライブイベントに出発する準備はこれで完全に整った。

 

 

 

俺と千歌の関係という、最大の問題以外は……。

 

 

 

「うぅ〜、沼津駅に着いただけなのに、もう東京に来た気がしてきたよー!」

 

「千歌ちゃん、それは流石に早すぎると思うわよ……?」

 

「梨子ちゃんは東京出身で、ただの里帰りだから分からないんだよ!内浦から東京に行くなんて一大事、ビッグイベントなんだよ!?」

 

「それじゃ、東京に行くことが目的になってるじゃないの……私たちが行くのはライブのため、でしょ!」

 

 

……千歌は見ての通り、周りと普通に話せるくらいには元気になった。取り繕ってるだけといえば、そうなんだろうけど。

 

あえて前向きな言い方をすれば、『取り繕えるくらいには回復した』ってとこだろうか。東京に行くというワクワクも、プラスになってくれているとは思う。

 

(こんな状態で東京に行くことになって、みんなには気を遣わせちゃうよな……)

 

この前相談した相手であり、今も千歌をケアしてくれている梨子をチラリと見ると、向こうもこっちを見ていた。手を口元に当てて申し訳なさそうにしゃべってるけど……口の動きと申し訳なさそうな表情を見る限り「ごめんなさい」って言ってる。間違いない。

 

……たぶん、『頑張ったけどこれが限界でした』っていう意味だ。本来謝るべきなのは、世話をかけているのに、一向に千歌と話し合えてない俺の方なんだけど……

 

 

と考えていると、今度は後ろから曜がやってくる。「おはヨーソロー♪」っていういつもの挨拶もそこそこに、千歌と距離があることもあって、少し突っ込んだ話をされた。

 

 

「え、えーっと……翔くん。その様子だと、昨日も千歌ちゃんとは……」

 

「うん……お察しのとおり、やっぱり話できなかったよ。帰ってきたら家族会議だな、これじゃ」

 

「そうなんだ……とにかく!それならそれで、私も精一杯フォローするからさ、今日と明日は翔くんも頑張ってね。途中、時間あったらまた相談乗るから、いつでも言って?」

 

 

ああ……曜にもこんなに心配かけちゃってたか。情けない。

 

申し訳ないけど、今の俺は確かにうてる手だてが何もない。このまま時間が過ぎていっても、ロクなことは起きないだろう。あるいは、それがダイヤや小原さんが当初心配していた『過去の失敗を繰り返す』ことにもつながるのだろうかと思って、不安になる。

 

何も、(未だに具体的には分からないが)過去の失敗と全く同じことが起きるとか。俺たちの関係が解決しないと絶対に明日のライブが失敗する……ってわけじゃないんだけど。それでもこのままじゃ、少なくともプラスの影響はないはずだ。

 

梨子だけじゃなく、もっといろんな人の意見を聞くべきかもしれない。この前はまだ不安だったけど、今なら曜に相談できるかな……時間を見て、本当に話してみようかな。

 

 

そう思っていると、今度はまた、違った方向から声がかかる。一瞬、1年生の3人が来たのかと思っけど、この声は違う。最近よく聞くようになった、浦の星の女子生徒の3人だ。

 

 

「みんなー!翔さーん!こっちこっち~♪」

 

「あ、むっちゃん!」

 

「お、むつちゃんに……いつきちゃんに、よしみちゃんか。送るのなんていいって言ったのに、わざわざ駅まで?」

 

 

通称、『よいつむトリオ』の仲良し3人組。みんなのクラスメイトでもある彼女達が、フラッグや横断幕を持って……とまではいかなくても、3人で沼津駅まで応援に来てくれたらしい。

 

 

「そうは行きませんよ!うちら浦の星、期待の星とお世話になってる用務員さんですから!」

 

「朝は部活がある人が多い分、明日の帰りはもっと大勢で押しかけますから、覚悟しておいてくださいね〜?」

 

「も、もっと大勢で……とりあえずその元気だけもらっておくことにするよ……」

 

 

彼女たちとの関係は、実はそこそこ長い。

 

最初のライブの時と、この前の海開きのライブの時も、流石に俺とAqoursのメンバーだけじゃ会場の設営や準備は足りなかった。そこで手伝ってもらったのが、ここにいるよいつむトリオの3人だったんだ。今回も俺たちのことを気にかけて、応援しに来てくれた。

 

みんなも部活をかけもちして、浦の星のために頑張ってくれてるのに、これ以上だなんて……結果を出せなきゃ申し訳ないな。これじゃ。

 

 

……って、差し入れまで!? あ、俺の食べたかった大判焼き……あれ、今川焼ともいうんだっけ。沼津の商店街で売ってるというアレまでいただいてしまった。

 

 

「ほら、コレ食べて頑張ってね!今回のイベントは、東京に浦女魂(うらじょだましい)を見せつける絶好のチャンスだよ!」

 

「ありがとうむっちゃん! ……でも、そんなの初めて聞いたよ?」

 

「ウチらでさっき考えたのっ!いいフレーズでしょ、都会っぽくない?」

 

「都会っぽくないし、Aqoursっぽくもないよ~……」

 

 

く……これは是が非でも、俺たちが廃校の阻止に貢献しなきゃならない。

 

ここにいる、よいつむの3人だけじゃない、生徒のみんな、この学校がなくなろうとしているのが嫌なんだ。だけど、今ある部活や草の根の活動には限界があるってことも、わかっていて……それで、今大人気のスクールアイドルに、千歌達に期待をかけてくれている。

 

俺たちは、その期待に応えなきゃ。

 

 

 

……そして、期待をかけてくれているのは、あの生徒会長ことダイヤはもちろんのこと。

 

 

理事長……小原さんもそうだった。

 

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

理事長室に、珍しく俺一人だけが呼び出されたと思ったら、ただの書類の確認だった。その書類というのは、今回のライブイベントのためのもの。

 

鬼と出るか蛇と出るか、なんて警戒してたけど、以外にも内容は想像とは真逆。なんと俺たちに部費で援助が出るというから、驚いた。

 

 

「ふ〜ん。『東京』の、『ライブイベント』ねぇ……いいわよ? この前のライブも掛け値なしに素晴らしかったし、理事長として止める理由は何もないわ」

 

 

いつも通りの、冷たい態度とトゲのある言葉。もう慣れてきたと言えばそれまでだけど、俺は記憶を失くす前にそれだけのことをしてしまった立場だし、相変わらず文句の一つも言えない。

 

 

だけど、この日だけは何かが違った。部費の援助という話も含めて。

 

 

「本当に、いいんですか? みんなはまだ分かりますけど……昔、やらかしたっていう俺までついていって。生徒じゃなくて用務員ですし」

 

「あら、ショウは行きたくない理由でもあるの? 先生が足りなくて、実質顧問みたいなものなんだから別にいいじゃない。『Aqours』のみんなのこと、お願いね」

 

「それは……理事長さえ良いなら、是が非でもついていきたくはありますけど」

 

 

……その『Aqours』は、かつて小原さんもそうだったろうに。もちろんそれを口には出さないが。どうせ今そのことについて話しても答えてはくれないだろうし、意味はないだろう。俺を送り出すって事には、彼女なりに何かしらの意図や考えがあって、それを俺が察するべきだ。

 

聞けば相手が何でも応えてくれるとか……そういう受け身でいたから、果南やダイヤにあんなこともされるし、そこから千歌だって悲しませているんだし。

 

(でも、そういう俺の考えの至らなさを差し引いても……)

 

 

やっぱり、今日の小原さんは間違いなく、何か違和感があって……でもそれを上手く表現できない。

 

強いて言うなら『含み』を感じるというか。表面上は今まで通りなのに、何かが違う……俺と目が合う時間が長い?それとも、『笑顔』の質の違いを、俺が感じている?くそ、それこそ果南やダイヤにヤられた時も感じてたじゃないか、理由の分からない違和感なんて。

 

 

「なら決まりデース!……頑張ってね。廃校から学校を救ってくれるって、私も期待しているのだから」

 

「……この前のライブを、認めてくれたということですか?」

 

「そんなところよ♪ 私もAqoursに入れてもらおうかしら、そうしたらショウがAqoursのみんなに手を出すのを防げるでしょうからね」

 

「人を何だと思ってるんです……」

 

 

……最近、手を出されているのは俺の方な気がするんだけど。

 

そうだ、俺が彼女たちの笑顔に普通じゃないものを感じた時、あんな結果になった。だとしたら、同じように小原さんも……?まさか、ありえないだろう。彼女は俺のことを嫌ってるんだし。今回の事だって、最初のライブの時に『確かめる』って言ってた内容の延長に違いない。結果で示せと言いたいんだ。

 

そうに決まってる。これ以上……あんな風に女の子に襲われるなんてありえないんだから。

 

 

結局俺は、彼女の意図を掴みきれないまま、理事長室を出ていかざるを得なかった。

 

 

 

———そして、ダイヤとも話す機会があった。電話だけど。

 

流石に彼女が電話口に現れた時は、俺も緊張を隠せなかった。この前のことは勿論、果南とのことで、何か知られているんじゃないか、何か追及を受けるんじゃないかと恐れてしまっていたからだ。……別に、つきあっているわけじゃないのに。そう思わせる彼女の束縛は、割り込んできた果南の影響を差し引いても、なお強く感じている。

 

『今回のことは聞いています。流石についていくことはできませんから……ルビィを頼みましたわよ、翔さん』

 

「ああ、そのつもりだよ。先生がいなさすぎて、用務員の俺が顧問みたいなものだからさ。引率は任せてくれ」

 

『ええ……お願いします。それと……私の目がないからと言って、あまり東京でAqoursのメンバーや他のスクールアイドルに優しくし過ぎないようにしてくださいね』

 

 

……だんだん、分かってきた。

 

ダイヤは俺と今以上に特別な関係であること、そして、まるでドラマみたいに結ばれることが『当然のこと』と認識しているんだと。そして俺は、それにどう対応していいか分からないでいる。小原さんとのことといい、千歌と話す手段と言い、わからないことだらけだ。

 

 

「わかったよ、気を付ける。参加するグループの仲では、一番活動期間の短い俺たちなんだから、なるべくそっちに集中するよ」

 

『……翔。心を強く、持つのですよ。貴方の「人を笑顔にする」という夢を忘れないでください』

 

 

わからないことが、たくさんありすぎて。そして分からないままで……そんなことだから、彼女のこの時の危惧と忠告の意味も理解なんてできていなかった。

 

 

 

 

そして……俺のことを狙う、もう一人の幼馴染にしてAqoursの元メンバー。果南とも電話で話した。

 

実際には、最初はメッセージだったんだけど。最初はその通知だけで次は何をされるのか、と怖がってしまったのが恥ずかしい。『ねえ、今度の休み。一緒に遊びに行かない?』という内容のものに、『悪いけど、Aqoursの活動で東京に行く』って返したら、即通話を求められたんだ。

 

……別に、そんなに長く話したわけじゃなかった。どうも彼女は、東京に行くというだけで、既に何かを察したようだったから。

 

 

『さっきの返信って……まさか、東京でのスクールアイドルのイベントだよね。Aqoursがライブをするの?』

 

「あの話だけで、そこまで分かるんだ。かなり有名なイベントなの?新グループは呼ばれやすいとか」

 

『……そんなとこかな。もう知ってると思うけど、全国レベルの有名なグループが結構来るんだ。かなり注目もされるし、そこに新グループ枠で呼ばれるのは、一つの登竜門ってやつだね』

 

 

もちろん、そこに出てなくても有名になっていったスクールアイドルはいくらでもいるけど、と付け加えてから、果南は応援の言葉を口にする。

 

 

『ライブ、頑張って。……どんな結果になっても、私は翔のことを二度と疑ったりしない。愛してるから……帰ってきたら、またキスしよっか?』

 

 

あの夜や、その後のメッセージではあんなに威勢の良かった果南が。

 

東京でライブをするというだけなのに……なぜか縋るような、不安そうな声色になっていたのが、気がかりだった。

 

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

あの3年生の3人……元『Aqours』との複雑な関係を乗り越えて(いや、まだ乗り越えられてないけど)、とにかく俺たちは東京の舞台に立とうとしている。あのμ'sやA-RISEが活躍した東京に。

 

廃校を阻止するにも、ラブライブで優勝するにも……地元でただライブをするだけじゃなく、ああいう大きいところのファンの入口が必要なんだろうとは考えている。地域だけじゃ、どこまでいっても頭打ちになることもあるだろうし。

 

……ここまではビギナーズラックで片付けられてしまうかもしれない。それに、俺たちが輝きとは人の中にあるものだとわかったけれど……逆に言えば、内浦のみんながいないところでの初めてのライブでもある。

 

(そういった意味でも、Aqoursにとっては大きな試練なのかもしれない。ましてや……)

 

 

相手は優勝を狙うクラスのグループ揃いだ。楽にならない条件ばかり揃う今回のライブに、俺の心も少なからず緊張し、不安が募るのがわかった。自分がステージに立つわけでもないのに、まだ出発すらしてないというのに、一丁前に怖がってしまっている。

 

……それはきっと、仲間との、千歌との絆の揺らぎがそうさせてもいるんだろう。

 

 

「ヨハネ、こうりーんっ!下等な人間どもよ、我が血と力とライブの前にひれふすがよいぞーっ!」

 

「みなさんおはようございますっ!善子ちゃん、ずっとこんな調子で……」

 

「東京を勘違いしてるずら。東京の渋谷は険しい山道、ちゃんと分厚い服を着なきゃダメで……って、翔先輩たち、普通の格好ずら~!?」

 

 

1年生の3人も合流してきて、よいつむも交えて一気に賑やかになってきた。その喧騒の中で俺は、もう1度千歌の方を見る。じゃれあっている梨子と善子の方を見て、曜と笑ってる……。

 

 

「花丸ちゃん。渋谷は別に険しくないし、普段通りの格好で大丈夫よ……善子ちゃんは言わずもがなね」

 

「だからヨハネよー!この堕天使がいよいよ東京に降り立つのよ!?リトルデーモン・リリーも降臨祭に備えなさい!」

 

「変な名前つけないでよ!?リトルデーモンってそもそも何なのか未だによくわからないし!」

 

「曜ちゃん、梨子ちゃんってけっこう……」

 

「そうだよね、仲良くなって素が出てきたっていうか……ツッコミ系?」

 

 

 

……俺は、何人もの女性に好意を寄せられている。それは素直に感謝したい。

 

千歌があの時のことでショックを受けたのも、女の子としてか幼馴染としてかはさておいて、きっと俺に好意をもってくれているからなんだろう。目の前で見せられたとくれば、ライブの後ということもあって落差も激しかったに違いない。

 

 

(なら……俺は千歌の事、どう想ってるのかな)

 

 

記憶を失くす前の俺は、どうだったんだろう。今の自分の気持ちも、過去の自分の気持ちも、何もハッキリとしたことを言えないでいる。誰かを好きになるだけじゃなく、愛するだなんて……

 

 

……誰かを愛したら、他の誰かを愛さないことにもなって。そしてそれは、誰かを必ず笑顔にできないってことで……でも、そもそも笑顔にするために愛するっていうのも順序が少し違う気もする。

 

 

 

(母さん、父さんは……いったい、どうしてたんだろう)

 

 

幼いころに亡くなったという父、安否さえ知れない母は、愛し合っていたんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

「ところで……ねえ翔くん。電車では誰と隣の席に座るの?」

 

 

 

……梨子の何気ない一言によって、その空から、爆弾が投下された気分になったけど。

 

 

 

 




私はこんな羨まs……大変な経験をしたことはありませんが、複数の女性から好意を持たれたら彼みたいなタイプは本当に悩むと思います。自分の時間は止まってるのに、周りの女の子たちの時間はむしろ動き始めているという。命短し恋せよ乙女。


北の地にいた頃と違って、久々に暑い夏が徐々に訪れるのを感じています。


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