ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

89 / 198
本SSでもなかなかに大変な状態で東京に来ておりますが、今日この時点での東京も非常に大変な事態ですよね。

早くいろいろと収まればよいのですが。




第50話 旅路の中で

(なら……俺は千歌の事、どう想ってるのかな)

 

 

千歌が俺のことを好いてくれているのなら……俺は?

 

あいつとのことは……この数カ月の隣の部屋で過ごした記憶しか『残って』ないけど、大切に思ってる。間違いなく好きだし、彼女の力になりたい。だけど、女の子として愛してるんだろうか。

 

ダイヤも、果南も、ルビィちゃんもぶつけてきてくれているその気持ちの正体や、それにどう向き合うべきなのか。考えても考えても、全然答えなんて出ない。学校を廃校から救うための、大事なライブイベントの前だっていうのに、俺は女性関係ですっかり落ち込んでしまっている。

 

そんな体たらくだったから、梨子の投下した『爆弾』への対応は遅れた。あの理事長が見ていたら、相当イヤミを言われただろう。

 

 

「ところで……ねえ翔くん。電車では誰と隣の席に座るの?」

 

「えっ、何の話? 別に……空いてる席にテキトーでいいでしょ。なるべく男の俺が立つようにはするけど……あ、一年生が優先?」

 

「そ、そういうことじゃないの。それじゃあダメで……ううん、本当はダメじゃないんだけど」

 

 

……はて、ダメとは何だろうか? 記憶喪失だけど、なんとなくこういうのが『修学旅行の班分け』に近い感覚なのは想像はつく。だとしたら、そういうのに絡んだ話かな?こういう時も女心に鈍いのか、俺。

 

 

「ほら、私と翔くn……じゃなくて、私たちAqoursは同じ部活の仲間で、翔くんも色々と大変なんだから、そういう遠慮は『なし』なの。わかるでしょ?」

 

「ああ、そういう方の話か。そこはわかってるつもりだけど……それなら余計、だれが隣でもいいんじゃ?」

 

「それはその……ほら、千歌ちゃんとは今は気まずいでしょう? 4人ボックス席で一緒になったら……」コソコソ

 

「あ、そっか……それは確かに抜けてたかも」

 

 

今一つ何が言いたいのか分からなかった梨子のことを、訝しんでたのが恥ずかしい。彼女は俺のことを思って言ってくれてたのか……申し訳ないことをしてしまった。

 

こういう部分でのメンバー分けは、考えてなかったから……早速、頭の中で考える。新しく加入した1年生は、お互い仲良くなり始めてるから、どんどんそれを進めていきたい。ただ、2年生との交流は流石にまだ活発じゃない気がするから、混ぜるべきという考えもあって……でも、いきなり混ぜても3人と3人じゃ、4人席でバランスよく組むのは難しいな……。

 

みんな

 

ただ、問題なのは俺がそれを理解するより前、梨子の言葉がすでに一部の関心を引いてしまったことだ。

 

彼女が咄嗟に声を小さくした努力もむなしく。その一部とは、偶然近くにいた1年生の3人のことで……特に、ルビィちゃん。

 

 

「そうです、翔さんが誰と座るかは重要なんですよ!? 東京に行くのと同じくらい一大イベントなんですっ!」

 

「うんうん、オラもそう思います!だいたい、翔さんはもっと女の子の気持ちに敏感になるべきです!善子ちゃんもそう思うよね?」

 

「えっ、そこで私? ショウが女心になんて…………そうね。もっと気を付けるべきかもね。あと、ヨハネ」

 

「よ、善子にまで……!?」

 

 

知らなかった……電車に乗ってる時間は確かに長いけど、誰と隣で誰と喋るかって、女子にとってそこまで重要な事だったんだな。こんなんで俺は本当に女の子の幼馴染がたくさんいたのかな。千歌に、果南に、ダイヤに、小原さんに……

 

(ミカンミカンー!)

 

(モグロウヨ、ウミ!)

 

(ワタクシガセイトカイチョウデスワー!)

 

(マリーガリジチョウデーッス!)

 

 

…………

 

 

……あんまり、普通の女の子いないな、うん。

 

みんな一癖も二癖もある。道理で多分、記憶を失くす前から俺の鈍さは筋金入りだ。これはきっとどうしようもない。

 

とはいえ、このまま揉めていてもしょうがない。そうだな……1年生のみんなとは、まだあんまり膝を突き合わせて話したことがなかったな。善子も加入して日が浅いし……

 

 

「じゃあ、1年生のみんなとボックス席にしようかな」

 

「……っ、そうね。なら、東京で千歌ちゃんと仲直りして……帰りは私たち2年生とにしてね?」

 

「? ああ、そうだよね……いいよ。じゃ、帰りは梨子たちとにしよっか」

 

「うん、ありがとう。……約束だからね?」

 

 

ただの思いつきで、深い意味はなかった。俺にとっても、梨子にとってもそのはずだった。

 

そのはずなのに……俺の言葉を聞いて、後ろで喜色満面といった様子でガッツポーズをする1年生の3人とは対照的に。梨子の表情には、どこか影が差している気がした。

 

それこそまるで……千歌みたいな、好きな相手と離れていくような『寂しさ』を秘めた表情。そして、その奥にある、何かわからないけど激しい感情……そんな仮初の笑顔が、以前みんなの前でダイヤの話をした時と重なって、俺の方が一瞬、体を強張らせてしまった。

 

 

これって……

 

 

 

もしかして、梨子『も』……?

 

 

 

「あ、電車がきましたよー!」

 

 

鈍い鈍いと言われ続けてきた俺が、重なる状況を前に何かに気がついたとき。ルビィちゃんの声で、それ以降梨子について考える時間は奪われてしまった。

 

 

 

ピロン♪

 

 

『東京に着いた後の自由時間、まだ約束がないのなら、私と回らない?千歌ちゃんについても、相談したいし』

 

 

……少し離れた位置にいる、曜からのメッセージも、あわせて。

 

 

 

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

「あ、見てみて!この雑誌のパフェ美味しそう、イチゴがたくさん載ってるよ~♪」

 

「こっちのイカスミなんてまさに堕天使の私に相応しいじゃない、このお店にしましょ!けってーい!」

 

「東京って、本当にすっごいお店がた~っくさんあるずら~♡」

 

 

……ところで、場面を切り替えておいて、先ほどの話題に戻るのもなんではあるのだけど。なぜ、『奪われてしまった』なんて言い方をしたのかと言うと。

 

隣のルビィちゃん、向かいの善子、斜め前の花丸ちゃんの3人のマシンガンガールズトークに、圧倒されてしまっていたからだ。手には、花丸ちゃんがまた書店で買ってきたという、東京のスイーツ雑誌が。帰りに食べに行くお店を、もう決めようとしているらしい。

 

 

「翔さんはどれにします? この抹茶系のアイスなんていいと思うんですけど、こっちの揚げアイスも捨てがたいですよねっ?」

 

「抹茶かあ、好きではあるけど、俺は記憶喪失になってから松月さんのところでしか食べてないから、そういうの。あんまり参考にならないと思うな……」

 

「ま、あそこのお店本当に美味しいから、それで満足するのはわかるけど。沼津も美味しいところ、結構あるのよ? 今度はヨハネが紹介してあげるわっ!」

 

 

うーん、みんな数カ月前まで中学生だったのはわかるけど、それでもこの元気さには驚かされる。こうしてみると、千歌と曜も元気系キャラに見えて、2年生としての落ち着きは結構あったんだなぁ。梨子は言うまでもなく。

 

にしてもみんな、観光とかスイーツの方が主目的になってない? 一応、融和団結も今回の目的ではあるけど、ライブは大丈夫なのかな……

 

 

……それとも、そういう不安を感じてるからこそ、なのか?

 

 

「沼津も行きたいけど、今は東京のお店が大事ずら~♪」

 

「せっかくのライブなんだから、しっかり食べて元気出さなきゃ!」

 

「ちょっと体重は心配だけど、その分ライブで使うから問題ナシよ!」

 

 

やっぱり、そうなのかもしれない。

 

これまでの2回のライブは、沼津のみんなの助力があってこその成功を収めた。だけど、今度はそれがない……本当に、自分たちだけの実力で、見たことのない土地で、映像の中でしかなかった他のスクールアイドルと競い、採点される。

 

その状況に怖さを感じているのが、ステージに立つみんなではなくて、俺だけのはずがない。みんなこうやって、不安を吹き飛ばそうとしているんだと思う。

 

 

それと……俺と千歌のことも。1年生の後輩にいつまでも心配かけてられないし、やっぱりこの後、曜としっかり話してみよう。記憶のない俺よりは、千歌についてよっぽど彼女は頼りになるし。きっとライブまでには解決して……

 

 

「それで、翔さんはどのメニューにしますか? どこも人気店だから、早めに決めておいた方がいいと思うんですっ」

 

「……へ、俺?」

 

「何ボーっとしてるのよ、さっきから話してたじゃない。アンタも来るの!どうせ自由時間の間、ヒマでしょ? 今日と、明後日。私たち3人でスイーツ店行こうって決めてるんだから、つきあいなさいよね」

 

「そうですよ、この前のライブを頑張ったご褒美、オラ達も翔先輩から欲しいな~って…… あ、おごりってことじゃないですよ? ちゃんと割り勘ですから安心してください♪」

 

 

あっ……や、やばい。俺がみんなの話をあんまり聞けてない間に、俺も行くことになってる!

 

……確かに、魅力的なお誘いだし、行きたいとも思う。甘いものはスキだし、1年生のみんなとますます親交を深めるべきだ。ルビィちゃんだって、俺は告白を受けている立場と言うのもあって、彼女のことは特に無下にするべきじゃない。

 

 

だけど……

 

 

 

「……ごめん、今日については先約があるんだ」

 

 

 

———その言葉を俺が発した瞬間、3人の顔が凍り付いたのがわかった。

 

最初は、困惑。相手が何を言ってるのか分からない、と。

 

 

「……せん、やく?」

 

 

だがそれも、徐々に違う色になっていく。次に、悲しみ。何を言われたのか理解して、どうしてそうなったのだろう、と。

 

「それって……私たちとは行けない、ってことよね」

 

……そして、最後に怒り。その発露の程度は、人や状況によって違いはあるだろうけど、中身は同じ。

なんでそんなことを言うのだろう、と。

 

 

「ねえ、翔さん。誰と……約束してるんですか?」

 

 

 

———何秒かのうちに、それらの感情が彼女たちの中で駆け巡ったのだと、俺は理解し始めていた。今の彼女たちだけじゃなく、さっきの梨子もそうで、千歌も。それに、なによりダイヤと果南も。

 

 

「っ、……ちょっと前に、曜と約束してたんだ。色々と、話したいことがあって……」

 

 

こういう誘いや反応が、少なからず俺に好意をもってくれているからこそ、だとは理解できていた。千歌の件は勿論、果南とダイヤの爆発と、正式な加入前のルビィちゃんの態度も、今ではそれに通じるものだとも。

 

だけど……さっきから梨子に、花丸ちゃんに、善子まで。彼女たちみんなまでがその反応だったことが、俺に新たな恐怖を抱かせていた。俺は、俺が自分で思っている以上に、Aqoursのみんなに依存している。記憶も家も身寄りもなかった俺に、唯一残った夢と友達。その象徴がAqoursだった。

 

そのAqoursのみんなへの怖さと、そして信じていたダイヤと果南に襲われかけた事実が、そこに依存していた俺のもろさを、容赦なく突き崩していく。

 

 

みんなが、ダイヤと果南みたいになっちゃうんじゃないか。

 

俺がそんな、誰かの好意を受け止めることなんてできるのか。

 

複数の女性の中から、1人を選べなんて言われて……選べるのか。

 

 

俄かにそんな恐怖が、俺の中に生まれ始めていた。だから、3人と目を合わせられずに、下を向いて震えそうになる手を抑える。……こんな調子の俺が、『しっかりしなきゃ』って思う資格すら、ない。

 

 

「……それって、オラ達には話せないこと、ずら?」

 

「私たちも、そりゃ付き合いは短いかもしれないけど、Aqoursのメンバーだし……ショウの力になれるつもりよ。この場でもいいくらいだし……それでも、ダメなの?」

 

「ルビィたち、そんなに頼りないですか? いっぱいお世話になったぶん、いっぱい恩返ししたいですし……もっともっと、翔さんと仲良くなりたいのに」

 

 

なんで、花丸ちゃんと善子まで。頭の中では、考えがまとまらないでいるけど、それでもこの状況の異様さはわかる。

 

普通、こういう風に断られたのなら、ある程度は『しょうがない』『残念』という反応になるはずだ。でも、今の彼女たちは違う。同じ仲間である曜への嫉妬、とまではいかなくとも、食い下がってくる。なんとか俺を繋ぎ留めておこうとするような、鎖が伸びてくるような感覚さえ覚えてしまうほどに。……絡みついてきて、離されなくなるような。

 

ダイヤと果南の時と、これも同じだった。

 

 

「ご、ごめん。俺も、自分で上手く整理できてなくて……」

 

「オラたちが翔先輩の力になりたいって気持ちは、2年生のみんなにも負けてないつもりですよ? ルビィちゃんは勿論、オラも、善子ちゃんも……先輩には、すっごく恩を感じてるんです」

 

「千歌とのことで悩んでるのは、私たちにだってわかるわ。だからこそっていうのもあるから、誘ってるつもりよ。3人もいるんだから、大変なことでも受け止められると思うし……」

 

「こんなに……みんな、翔さんのことを大切な人だって感じてるのに。やっぱり、幼馴染の曜さんの方が頼りになるんですか?私たちじゃ、ダメなんですか……?」

 

 

みんなが、怖い。

 

誰かに友達や仲間以上の感情を持たれる事に、今の俺は怯えている。ルビィちゃんとダイヤの姉妹に告白された時も悩んだりはしたけど、真剣には考えることができてなかったのかもしれない。

 

 

俺の夢……誰かを笑顔にしたいって言う、子供じみた理想。

 

でも、誰かの愛に応えることが、誰かの愛に応えないことで。しかも、迷っていたら力づくで応えさせられそうになった。それらが、夢と矛盾する。友達や仲間と、すれ違う。

 

残された夢と友達も、崩れていく感覚……。だから———

 

 

 

「ご、ごめんっ!必ず!! 必ず……明後日の、帰る日はつきあうから……」

 

 

 

———……そんな、その場しのぎの言い訳しかできなかった。

 

 

 

「「「………………」」」

 

 

 

ただ、電車の中ということもあってか。それとも、みんなはまだあの2人ほどの執着心ではないのか……この時点では、納得してもらえたらしい。少なくとも、表面上は。

 

 

 

「……しょうがないわね。それじゃ、その時はヨハネたちの甘き夜の宴にたっぷりつきあってもらうわよ、いいわね? お店、期待してなさいよ!」

 

「明後日行くのは夜じゃなくて、昼になっちゃうよ~……だいたい、夜に食べたらさすがに太っちゃうずら。約束ですからね、翔先輩♪」

 

「ライブをきっと成功させて、最高のあま~いお菓子も楽しみましょうね。私たちが、力になりますから……ね、翔さん♡」

 

 

 

 

……その後は、また元の会話に戻った。どこのお店の何が美味しいとか、何がオススメとか、そんなのだ。だけど俺は、そうなってからも生きた心地がしなかった。

 

 

今の自分の、Aqoursのみんなへの依存。

 

襲われかかった時のトラウマ。

 

みんなからの愛情と、そこからくる人間関係。

 

……それらと、夢との板挟み。

 

 

この2、3カ月間。いや……記憶を失う前、2年前の『Aqours』から、翔(かける)という存在が引き起こしてしまった、積み重ねてきてしまったであろう色々なことの、その矛盾に向き合わなければならないと、感じていたからだ。

 

 

ただ、そんなことを理解したところで、急に何でも上手くいくわけがない。

 

 

事実として……この時の俺は、今は少し離れた席に座っている曜も、理事長の小原さんも、心のどこかで『そう』ではないと考える数に入れてなかったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回で52話、ここまでで1期終わってないのは我ながらスローペース……。6月の仕事がガチで忙しくて、更新遅れ気味ですいません。

1年生側の視点は、また曜ちゃんとかと一緒に次のクールでやりたいですね。彼女たちも2年生に負けてませんよ!


しょう犬さん、以前からご愛読&この度のご評価、ありがとうございました!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。