ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

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第5クール開始です。

さっそくまた別の女に現(うつつ)を抜かす、我らが主人公の翔くんからどうぞ。





Ⅴ:ライバル
第53話 初夏の初雪・前編


季節は、既に初夏。

 

俺が故郷の砂浜に流れ着いて、Aqoursの活動が始まって……3か月が経とうとしている。良かったことは、数えきれないけど……とりあえず『今』は、みんなと東京に辿り着けていること。

 

……悪かったことは、『今』1人でいることだろう。

 

 

(短い間でも、色んな成功があって、色んな失敗をした。今回のは特にとびっきりだ……)

 

 

だけど、曜に置いて行かれて、孤独なはずの俺の視界には、隣を歩く女性がいた。ついさっき会ったばかりの人だけど……こうして一緒に、東京の道を歩く女性が。

 

 

「? どうかしましたか、急に押し黙ってしまって」

 

「あ、いや。ちょっと鹿角さんのこと考えてたんだ。函館って、ずいぶん遠いところから来たんだなぁ……って」

 

「ふふ。それじゃ、まるで東京(地元)の人みたいな言い方じゃないですか。 そういう貴方こそ、沼津は静岡なのですから、それなり以上に遠いでしょう」

 

「そうだけど、さすがに北海道ほどじゃないよ。オマケに、意外と特急1本でまっすぐ来れるんだ。 ……ま、俺も今回が東京初めてだから、ついこの間知ったんだけどね」

 

 

駅から、彼女……鹿角聖良さんの妹さんを追って歩く道。俺たちはこのたった10数分の間に、いつのまにやらすっかり打ち解けていた。彼女が、人の話に合わせるのが上手いんだろう。なんていうか、スムーズだ。

 

 

「そうですけど、私たちも何日もかけてきたわけではありません。新千歳までは遠かったですけど、そこから羽田までは2時間もかかりませんから」

 

「へぇ~……飛行機って、やっぱり速いんだな。しかも羽田から、そっちも1本か。俺も動かしてみたいな……」

 

「そうですね。他にも、大阪と函館の空港とが直通なので、関西の方はそちらを使うルートも……って、動かす方ですか?」

 

 

あとは、俺が突然に、女の子との会話スキルがアップしたのでなければの話だけど。どうも気が合うって言うか……同い年だとか、お互い余所者だとか。俺たちはとにかく仲良くなっている。

 

さすがに、用務員の事とか記憶喪失の事とか、そういうややこしいことは初対面の人には話したりはしないけど。それでも話が進む中でお互いの最低限の身の上話……東京に来た目的とかは出てくることは、避けられなかった。 

 

 

「部活で来ていたんですね。関東の梅雨も明けましたから……とすれば、大会か何かの日程で?」

 

「ああ、そんなとこ。でも俺はオマケみたいなもんで、メインは女子6人だよ」 

 

「……それはそれは。普通なら羨ましがられるところなんでしょうけど、貴方みたいなタイプの男性だと苦労していそうですね」

 

「うっ、顔なじみどころか、初対面の人にまで把握されてる……そんなにわかりやすいかな、俺って……」

 

 

いきなり見抜かれている俺も俺だが、彼女が聡明だというのが、一番の理由だろう。なんていうか、物事の本質を見抜く目……みたいなのが、鹿角さんは物凄いんだ。そういう観察眼とかセンスが、初対面の俺の何かにビビッと来たのか。

 

(まあ確かに、俺みたいな目に遭ってる人間は他に誰もいないだろうなぁ……)

 

 

記憶喪失になって、スクールアイドルを手伝って、その女の子何人にも告白されて……うん、ない。

 

 

……そういえば今頃、みんなは一度、宿に帰ってるんだろうか。集合時間には余裕があるけど、女の子って歩くのに体力使うだろうし。明日のステージを考えればみんな夜更かしとかはしないはずだ。特に曜は、さっきあんなことがあったばかりだから、ちゃんと戻ってきてくれてるか不安がある。でも、返信は未だに来ないし……。 

 

せめて、無関係の鹿角さんにそんな顔は見せないようにしようと、目線を別の方向に向ける。だけどその先には、そんな俺に逃げるなとでも言うように、『あの場所』があった。秋葉原に、いくつも並んでいるお店。そのうちの一つ……

 

 

(これは……スクールアイドルショップだ)

 

 

この辺りでは珍しくもない、どこにでもある光景。そうだと頭ではわかっていても、俺の胸には突き刺さるような感覚があった。

 

店頭にはいくつもランキング動画で見てきたスクールアイドル達のグッズが売られている。この前100位に入ったばかりの新米スクールアイドルであるAqoursが、ここにあるわけがない。

 

それでも……俺の目は、ここにみんなのグッズがないかどうか、目で追ってしまっている。みんながライブを成功させて、どんどん上に行って……ここに並べるくらい、輝ける姿に憧れている。曜とだって、ついさっきあんなことがあったばかりなのに。

 

いや、だからこそ、か。

 

 

(みんながここに並ぶのに……俺が邪魔になってしまってないだろうか)

 

 

……いつの間にか、足まで止めて見つめてしまっていた。当然、隣を歩いていた鹿角さんも止まって、不思議そうに俺を見ている。

 

 

「あ、ごめん。急に止まっちゃって……妹さん待ってるんだし、行こうか」

 

「いえ、気にすることはありませんよ。……翔さんは、スクールアイドルがお好きなんですか?」

 

「……うん、人気だしさ。そう言う資格があるのかは、よくわかんないけどね」

 

「? 確かに女性に大人気ですけど、男の人のファンだっていっぱいいますよ。資格だなんて、恥ずかしがらなくても良いと思います」

 

 

店頭に並んでいるCDを手に取って、鹿角さんは此方に微笑みかける。

 

(違うんだ……恥ずかしいとか、そういう意味じゃないんだ)

 

俺は、前のAqoursの時も、何かしてダイヤ達をバラバラにしてしまったし。今のAqoursだって、バラバラにしてしまいそうになっている。

 

やっぱり、理事長に言われた通り……『俺にスクールアイドルに関わる資格なんてないんじゃないか』って、そう悩んでるんだ。

 

 

「そう、なんだろうけど。ごめん、色々思うところがあってさ、スクールアイドルに」

 

「……スクールアイドルも、大変な世界ですからね。私には、翔さんがスクールアイドルの何に悩んでいるのかはわかりませんし、いきなり聞く事はしませんけど……」

 

 

お店を一瞥してから、また鹿角さんは俺の方に真っ直ぐ笑顔をむける。

 

……改めて美人だなぁ、この人。

 

 

「そんな悩みを吹き飛ばして、『笑顔』にしてくれるのが、スクールアイドルじゃないですか?」

 

 

「鹿角、さん……」

 

 

まるで、俺みたいなこと言うんだな……同じことを言ってるのに、その自信のほどの差をみせつけられてるようだ。

 

でも、イヤな気分はしない。それは、彼女の『笑顔』が真剣にそう思っていることを物語っていたからだ。そして、そういうコトを彼女が言える理由は、ただ一つ。

 

 

「———……もしかして鹿角さんこそ、スクールアイドルが好きなの?」

 

 

「へぇ……どうして、そう思うんです?」

 

 

「え。だって、スクールアイドルの話題になってからの聖良さん、すごくいい笑顔してたから……」

 

 

これは、今まで彼女に見破られっぱなしだったからっていう、意趣返しじゃない。

 

スクールアイドルの話が出てからというもの、彼女の瞳は興味に輝き、笑顔は……本当に面白いものを見つけたっていうものだったからだ。それはまるで、千歌達みたいな。

 

俺のそんな物言いに、彼女はますます面白そうな『笑顔』になる。自分で最初に言ったワードなのに、聞き返してくるくらいには興味津々で、生き生きとしていた。

 

 

「『笑顔』、ですか。この私の……」

 

「? う、うん。さっき鹿角さんが言った通りでさ、スクールアイドルってみんなの笑顔にする力があると思うんだ。それで、聖良さんがそれを見て、心の底から嬉しそうにしたのが、なんとなく顔に出てた気がして……あ、なんか上手く言えなくてごめん!」

 

「そうですか……そんなに嬉しそうですか。ふふっ、そんなことを言われたの、始めてな気がしますね! うふふ……♪」

 

 

前髪を少しかきあげながら、ますます嬉しそうな表情を見せられて、俺の方は少し困惑する。クールで清楚なだけじゃなくて、最初に俺の腕をつかんだ時みたいに……こういうワイルドで獰猛な一面があるのが、鹿角さんなんだ。

 

これは……なんか、つついちゃいけない好奇心をつついてしまった気がする。さっきとは違う意味で地雷を踏んだかもしれない。いや、間違いない!

 

だって彼女、心の底から面白いものを見つけたー!って感じの目をしてるし……なんとか、かわさないと。これはまずい興味を引いた……そう、あれだ、美渡姉さんに狙われた時と同じなんだ。だからこそ、同じように、同じようにかわして……

 

 

「え、えーっと!! 失礼なことを言ってたらごめん。俺達、初対面なのに!今の忘れてください!」

 

「いえいえ!むしろ、本当に楽しいと思ってるんですよ!? ……最初に声をかけてきてくれた事といい、アナタは本当に変わっていて……面白い人、ですね♪」

 

「そ、そうかな。そこまで変なことを言ったとは思ってないけど……」

 

「なら、今の私はどんな顔に見えますか?」

 

「……なんだか、余計に嬉しそうに見えるよ。獲物を見つけた猫みたいな!!」

 

「ふぅーん、そうですか。どんな猫ですか?」

 

「目の鋭いピンクと紫の猫ってとこかな……って何言わせるの!?」

 

 

だ、ダメだ。鹿角さんには、内浦の女性とは別ベクトルで勝てない……ついノリツッコミな感じで漫才をしてしまった。彼女のペースに乗せられっぱなしじゃないか。美渡姉さんと同じようにやられてどうする俺!!

 

……でも、そんなやりとりが、また落ち込みかけていた俺の心を少しだけ元気にしてくれた。

 

もしかしたら、話し上手な彼女のことだ。そういうところまで考えて、からかってくれたのかもしれないな……。

 

 

なんて、考えながらも……彼女のペースは続く。

 

 

「ふふ、貴方がひっかかりやすいだけです。でも……本当に驚いたんですよ? まさか、私の表情を見ただけでそんなことを見抜くなんて。そんな翔さんだから、私が困っているのも見過ごせなかったんですね」

 

「そんな立派なものじゃないよ。キミくらい綺麗な人だったら、いつか誰かが声かけてたと思うし」 

 

「それをいの一番に、下心なしでやってしまうのが、面白い人だと言ってるんです。これはやっぱり、お茶に誘って正解でした。こんな出会いがあるのですから、東京も良いところですね」

 

「うーん、なんか微妙に褒められてる気がしない……」

 

「何を言うんです。当然、すごく褒めてますよ!? ほら、もっと喜んでください(q|˘・ᴗ・˘)ʅʅ 」

 

 

……俺が言うのもなんだけど、鹿角さんの方も相当面白い人だと思うけど。

 

こんな美人で、函館から妹さんと2人で東京に来て、かなり頭もキレて、俺なんかを妙に気に入ってる。うん、十分に変人、間違いない。

 

(今の『笑顔』も、一点の曇りもないし……本気で俺のことを褒めてるんだから)

 

助けたのか、助けられたのか。褒めてるのか褒められてるのか。それもよくわからなくなってきた俺を置き去りにして、上機嫌の鹿角さんはまたペースを握り、強引に話を元に戻す。

 

 

「さて。ご明察通り、私もスクールアイドルは凄く好きですよ。特にこの秋葉原なんて聖地ですからね、μ'sやA-RISEの活躍した土地、アキバドーム……そのことを考えるだけで、イヤでも『笑顔』になってしまうというものです」

 

「確かにな……ひょっとして妹さんも? あ、わかった!それで神田明神周りのルートなんだ!」

 

「またまたご明察……ですね? 神田明神といえば、この土地の人たちにとって……というのは当然として、μ'sにとっても大事な場所ですからね。せっかくなら近くに宿を取ろうと思ったんですよ。音ノ木坂も近いですし」

 

「あ~……俺達もそっちにしときゃよかったかな。もうちょっと奥の方の旅館の予定なんだけど、お世話になってる家の知り合いってことで紹介してもらってたし……」

 

 

スクールアイドル関係の観光をするのなら、確かにそっちの方が都合がいい。だけど今回は、千歌のお母さんの昔からの知り合いだという、もう少し歩いた先の宿に泊めてもらうことになっていた。夏休みに入る前とはいえ、割と急だったのに10人の男女を受け入れてくれるというのだから、ありがたい限りだ。こっちの都合で立地がどうとかなんて、考えるだけでも失礼ってものだろう。

 

 

 

「そうでしたか、それならそちらが大事でしょうね。……翔さんは、音ノ木坂には行かないんですか?」

 

「え? ……ああ、μ'sの学校だよね。そういえば、あんまり考えてなかった」

 

「まあ、あまり意識になかったのもわかります。今も続く女子校ですし、男の人は近づきにくいでしょう。私でも、あまり他校の人間が長時間……とはいかないでしょうから」

 

「そう……だよね」

 

 

鹿角さんの言葉を聞いて、思い至ることがあった。

 

俺は梨子と東京に関して色々と打ち合わせたけど……そう言えばその中に、神田明神とかは入っていても、音ノ木坂は入ってなかった。俺にあんまり余裕がなかったこと、梨子がそんなにスクールアイドルに明るくなかったこともあるだろう。

 

だけど……

 

 

 

(音ノ木坂は、転校前の梨子がいたところなんだ)

 

 

鹿角さんに偶然にでもヒントを貰う前に、自分で気づくべきだったんだろう。

 

 

梨子は、きっと……音ノ木坂に、行きたがっていないって。

 

 

 

 

「……音ノ木坂が、何か?」

 

 

 

 

 




翼に優しく静かに降り積もる雪は、今はまだ夏の暑さに熔けていく。

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