ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

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今晩と明日は、AZALEA 1stを楽しむのです。

書いてて聖良さん、マジいい女さんすぎてつらい




第54話 初夏の初雪・後編

「……音ノ木坂が、何か?」

 

「あ、ううん。ちょっとね……」

 

 

μ'sがいて、今やスクールアイドルの聖地にもなった、国立音ノ木坂学院。目の前の鹿角さんだって、観光のためにと行きたがってる、ファンにとってはとても重要な場所だ。

 

『廃校を阻止する』。彼女たちが、最初に掲げた目標を、確かに成功させた証でもあり……Aqoursのみんなにとっては、その意味でも大先輩にあたる。千歌あたりは、(少なくとも普段の様子なら)行きたがってやまないだろう。

 

だけどそこは、同時に——……

 

 

(……音ノ木坂は、転校前の梨子がいたところ、でもあるんだから)

 

 

今の話で、俺は偶然にも、鹿角さんからヒントを貰った形になる。だけどそれより前に、自分で気づくべきだったんだろう。

 

梨子は、きっと……()()()()()()()()()()()()()()()ってことに、だ。

 

梨子は元々、音ノ木坂がμ'sの、スクールアイドルの聖地だとは知らなかったという。彼女が通っていたのは、1年未満くらいということにはなるし、ピアノばかりだったらしいから、周りのコミュニティも狭かっただろう。

 

『私は、桜内梨子。……音ノ木坂学院の、2年生。同い年だね!』

 

『ご、ごめんなさい。私ずっとピアノとか音楽とかやってたから、そういうの疎くって……』

 

そういう環境にいれば、他校の生徒からだって、そういった話を聞く機会もあまりなかったかもしれない。μ'sが、たった1年でその活動に終わりを告げてからも、そこそこの年数が経っている。今も時が流れている高校だし、たった今鹿角さんが言ったように、いわゆる聖地巡礼もちょっぴりやりづらい事情もあった。

 

でも、そんな事とは関係なく。

 

(梨子は、あの頃のことを話したがってないんだから……その意味はなんとなく、わかる)

 

……μ'sのことは、千歌の話や数か月間のスクールアイドル活動で、既に知っている。お隣(元は俺の部屋だったらしいけど)のピアノから聞こえてくる、美しい音色には、Aqoursだけでなくμ'sのものも含まれていることがあった。

 

それでもなお、彼女自身が、音ノ木坂にいた頃の事をあまり話したがらなかった。だから、俺もAqoursのみんなも、知らないままだ。唯一知っていることとすれば……彼女がそこで、ピアノで失敗したということ。

 

 

『ピアノを続ける中で、私には……翔くんみたいに『誰かのために』っていうような目的がなかったの。千歌ちゃんや曜ちゃんみたいに、『やりたい』って言う気持ちも、一緒にやっていく『友達』もなかった……』

 

『だからきっと、『弾けなかった』んじゃなくて……『弾きたくなかった』んだね』

 

『疲れてたのか、ただ単に行き詰まってただけなのか、本当に嫌になっちゃってたのかも……もうわからない。それでも、その中の一つでもあれば……あの日も、弾けたんだと思うの』

 

 

考えてみれば、自然なことではあった。

 

梨子は音ノ木坂にいた1年ほどの時間に、きっとあまりいい思い出はない。スクールアイドルのことを知る機会がなかったのも、それほどまでにピアノで悩んでいたんだろうと思う。そもそも、Aqoursの作曲だって、最初は積極的じゃなかったし。

 

ここに来る前だって、彼女は言ってた……

 

 

『……本当はね?心細いのは私もなのよ。本当は東京がちょっと怖いの。生まれ育った場所だけど、私はそこで失敗して出てきてるんだから……』

 

 

そういう考えをまとめると……梨子が俺との話で、音ノ木坂の名前を一切出さなかったのは、色々と思うところがあったからなんだろう。千歌やルビィちゃんは行きたがるだろうけど、梨子にとってはまだ自分の中で消化しきれていない出来事だ、無理にとは言えない。

 

戻ってみないと何とも言えないけど、とりあえず梨子を音ノ木坂に連れていくのは、やめにしよう。みんなが行きたいと言っても、上手く話題を逸らしてあげないと。

 

俺は、梨子のおかげで———……

 

 

「……大丈夫なのですか? また、いろいろと考え込んでいるようですが」

 

「、あ……!」

 

 

梨子のことを心配していると、また黙りこくってしまった俺の顔を、不思議そうに鹿角さんが見つめてくる。だけど、俺はそこでまた激しい動悸に襲われた。梨子のことを考えた刹那、別の女性が俺を見る。この状況が、まさにさっきあったことを、強烈に思い出させてしまった。少しの間でも、忘れようとしてしまっていたという、罪の意識もそうさせたのだけど。

 

 

『————どうして……いま、梨子ちゃんの名前が出るの?』

 

 

……この時の俺がしていた表情は、自分でも想像はつく。ひどく怯えた顔以外には、ありえない。それもそうだろう。鹿角さんが伸ばした手を、俺は今度は振り払うことができず、怖がってかわしたんだから。

 

反射的にでも、相当不自然な動き。当然、鹿角さんは、楽しそうな顔から一転して、俺のことを心配そうな目で見つめている。少ししてから、彼女が言った。

 

 

「……翔さん。貴方がここに来ている理由の『部活』というのは、スクールアイドル部なのではありませんか?」

 

 

絶対に隠しておきたかった、というわけじゃないけど……。その彼女の言葉を、俺は否定できない。

 

そして、沈黙は肯定を意味する。彼女はそんな俺に、スクールアイドルショップから離れて、再び歩き出すように促した。今、見続けることはないという、彼女なりの気遣いでもあったのだと思う。

 

 

「翔さんが裏表なく、誰にでも優しい人柄なのは、もう分かりました。……だからこそ、あえて言わせてもらいます。これは客観的な視点から、と捉えてもらいたいのですが……」

 

「う、うん」

 

「スクールアイドルは彼女達自身です。ステージに立つのは、貴方ではないのです。どんな理由や事情があっても、それは本人達の問題なのですから……」

 

「俺が悩む事じゃない、……って言いたいの?」

 

「結論から言えば、そうです。少なくとも、貴方がこうして一人になっている時にまで、そんなに悩むことではありません」

 

 

人のせいにしたいわけでも、責任逃れをしたいわけでもない。だけど、鹿角さんの言うことは、正論だ。『俺が悪い』ということは簡単ではあっても、それはそれで彼女たちの自主性とか個性とか、そういうものを否定している側面があるのだと……言われて初めて気づいた。

 

 

「もしそれが、裏方である貴方のせいだという人がいるのなら、間違いでしょう。貴方による部分が大きかったとしても、スクールアイドル部全体の連携や信頼の問題なんです。翔さんだけが悪いと言う人がいるとすれば、それは彼女たちに失礼というモノです」

 

「連携に、信頼か……」

 

「詳しい事情は知りませんし、原因が一つとも言いません。ですが、そのすべての責任を、貴方が気に病むのは全く誤解だと言いたいんです。その娘達を大人として……きちんと『スクールアイドル』として認めるのであれば、そういう視点も持つべきだと思いますよ」

 

「……」

 

 

鹿角さんの言葉は、的確に俺の考えの間違いをついていく。それで解決策が思いついた、というわけではないけど、逆に解決策が今まで思いつかなかった、その理由もわかってきた。

 

……俺は今まで、恋愛関係の悩みも、スクールアイドル部の色々な悩みも、自分のせいだと……自分が何とかしなきゃいけないと、何処かで思っていた。周りに『頼ってほしい』と言われても、自分の記憶喪失で失われた、過去の因縁が関係していることが多かったのも、一因だったと思う。だけど……

 

(俺はみんなを、ステージ以外で助けなければならないと考えこみすぎて、ステージに立つみんなの立場をかえって蔑ろにしていたのか……?)

 

当然だが、みんなにはみんなの人格がある。あんな行動をとるほどに俺を好いてくれていることも、スクールアイドルをやろうと決めたことも、みんな自分の意志だ。それで色々と拗れてしまうことや、スクールアイドルとして色々な苦難があっても、それを全部俺の『ミス』であるかのように考えるのは……

 

……俺がそれを『自分のせいだ』とだけいうことは、そこを見ないで、逆境の主人公に酔ってるだけだったんじゃないか。

 

 

「……仲が良いのはいい事だと思います。ですけど貴方達は、もしかしたら距離が近すぎるのではないでしょうか? ステージに立つ側の部員ではない翔さんが、それほどまでに悩んでしまうのは……」

 

「いや……鹿角さんの言う通りかもしれない。俺は……距離をとった方が、いいのかな。やっぱり」

 

「無理にとは言えません、人それぞれの形があるでしょうから。ただ、貴方のような立場の人がそんなに悩まなければならないスクールアイドルが……貴方が居なくなって、やっていけますか?」

 

「それは!……やって、いけるよ。当たり前だろ」

 

 

鹿角さんの言う『問題点』……俺だって、もう何が言いたいのか、すぐにわかった。

 

 

「……言い方を変えましょう。その人たちが、貴方とそういった距離感のままで……何かあった時に、ちゃんとしたパフォーマンスを発揮できるのですか?」

 

「それ、は……」

 

「スクールアイドルは、とても厳しい世界です。自分たちですら悩みながらでは……ライブの失敗はもちろんのこと、見てくれる人たちを『笑顔』にできないんです」

 

 

……完膚なきまでに、言い当てられた。不快感はない。鹿角さんが悪意を持って言ってきたわけじゃないし、何より俺にとってはここ最近、ずっと悩んでいたことについてのヒントでもあったからだ。

 

俺が恋愛関係に悩み、記憶も取り戻せず、Aqoursスクールアイドルの活動にとってもマイナスになってしまっていること……それら全てが、根は同じだったのかもしれない。

 

(俺は、みんなを頼ることも、みんなに頼られることも……どっちも下手なままだったんだ)

 

端的に言って仕舞えば、俺はまだみんなときちんとした絆がない、と言うことだ。

 

よく考えてみると、それも仕方ないかもしれない。まだ俺が流れ着いて3、4ヶ月しか経っていない。Aqoursの活動時期ともなれば、もっと短い。たとえ何人かの友達が、俺のことをよく覚えていてくれたとしても……俺自身は、スクールアイドルのことすら最近知った赤ん坊みたいなものなんだ。

 

なのに、あれこれと自分だけの頭で悩もうとしてた……その解決のために必要なのは、きっとみんなのこと、周りの人のことをきちんと理解することだだと思う。梨子と音ノ木坂のことだって、さっき気がついたくらいなんだし。きっと、そういうところから地道に変えていくしかないんだ。

 

……肝心の、その方法は、まだ浮かばないけれど。女性のことを……スクールアイドルのことを理解する方法。それが今、必要なんだけど。それができなければ、鹿角さんが言ったように、距離を取るべきなんだろう。

 

 

「ごめんなさい、部外者が言いすぎました。それに、翔さんを余計に悩ませてしまったかもしれませんね……」

 

「そんなことはないよ!俺、鹿角さんに言われて……みんなのことも自分のことも、もっとちゃんと理解しなきゃいけないと思った。ただ悩んでたって解決しない……そのために少しでも、前に進まなきゃいけないって」

 

「それは……ふふ、お役に立てたのなら幸いです」

 

 

千歌、曜、梨子……ルビィちゃん、花丸ちゃん、善子。

 

それにダイヤ、果南。

 

廃校、スクールアイドル、自分の記憶……。

 

どうしたらいいのかは分からないけど、その解決のヒントを掴むためにだって、みんなのことも自分のことももっと知らないといけない。ステージに立つみんなのように、俺自身が成長していかなきゃいけないんだ。

 

そのためには、何を————……

 

 

「———おや、そんな話をしていたら……いつの間にかここに着いていましたね」

 

「え? ここって……あ、神田明神か!」

 

「はい! μ'sとも大きな関わりのあった、由緒正しい神社ですよ。 さて、妹のGPSはこの辺りなので、おそらく迷っている中で、どこかに座って休んでいるのだと思うのですが……」

 

 

そうだった、話が変わった方向に行ってたけど、俺達の元々の目的は、彼女の妹を迎えに行くことだ。といっても、敷地としてはそんな極端に広い神社というわけじゃない。ここに鹿角さんがいるだけで、向こうからしたらきっと、すぐにでも……

 

 

「————姉様!」

 

 

そこまで言いかけたところで、俺たちの間に、一人の女の子の声が響く。そこから間をおかずに、鹿角さんの胸に飛び込んでくる、その子の姿。

 

……あ!これって、もしかして……

 

 

「理亞(りあ)!無事だったのですね?!」

 

「はい姉様!ごめんなさい……私、あんなに姉様に買い換えるように言われてたのに、わがままを言ってたから……」

 

「もういいのですよ、私の方こそ、もっとちゃんと手を繋いでおくべきだったのに、無理に人混みを通ってしまったのですから」

 

 

鹿角さんによく似ていて、ツリ目でツインテール、髪色はもう少し赤っぽい。ちょっとキツそうな声色だけど、今は半泣きだからそうでもないか。

 

……うん。絶対にそうだ。彼女こそ、間違いなく俺たちの御目当ての人物に違いない。

 

 

「姉様……そっちの人は?」

 

「こら理亞、『そちらの方は』でしょう! こちらの翔さんは、あなたの携帯が通じづらくなって困っていた私に、声をかけてくれた恩人ですよ? おかげで、あなたの居場所もわかったんですから」

 

「ご、ごめんなさい! 私、知らなくて……」

 

 

鹿角さんに叱られて、慌てて俺のほうに向きなおって、謝罪の言葉を口にする妹さん……えっと、理亞ちゃんか。見た目ほど怖い娘じゃないのかもしれないな。とりあえず、俺も自己紹介か。

 

 

「気にしてないよ。俺のことは翔(ショウ)って呼んでくれていいよ。とにかく、無事に見つかってよかった。君のお姉さんから人見知りって聞いてるから無理はしないでさ……」

 

 

そして、俺の知る姉妹の中では、特に仲が良いみたいだ。高海家はあんなんだし、ダイヤとルビィちゃんは今、スクールアイドル部(……と、俺)をめぐって少し気まずそうだし。

 

……あ、そういえば姉さんがスクールアイドル好きなんだから、この妹さんもそうなんだろうな。その意味では、ダイヤ達に似てるのか。もっとも、姉妹に限らず、今時スクールアイドル好きなんて珍しくもないんだろうけど。

 

 

「さて、理亞とも合流できたことですし、約束を忘れてませんよね?」

 

「や、約束? それってもしかして……やっぱり、今からお茶するの!?」

 

「姉さま、何の話……?」

 

「当然です!……と、言いたいところだったのですが……」

 

 

? なんだろう。

 

やる気満々といった様子だった鹿角さんは、俺の方を見ながら、また面白そうな顔半分、少し残念そうな顔半分といった表情を浮かべている。いや、見ているのは俺じゃなくて、もっと後ろの—————……

 

 

 

 

「———……しょーくん、その女の人、だれ……!?」

 

 

 

「千歌、みんな……!?」

 

 

 

「お茶は、また今度……のようですね」

 

 

 

……俺は、考えるべきだったのかもしれない。

 

 

音ノ木坂に並ぶμ'sの聖地であるここに、千歌や他のみんなが来る可能性について。

 

 

 

 

 




「ライバル」とは、スクールアイドルとしてのライバルとしての意味だけではなく、恋のライバルという意味でもあります。

そういえばμ's長編でも序盤、穂乃果とツバサがここでバチってましたね。

感想、ご評価等お待ちしてます(*ノωノ)

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