今日もAZALEA見ながら投稿です。
「……ただいま」
「あ、曜ちゃんお帰り!」
「おかえりなさい!……あれ?翔くんと一緒じゃないの?」
先に旅館に帰って、東京のスイーツがどうだったとか、翔と一緒にいる曜が羨ましいとか、明日のライブ頑張ろうねとか……
そんな他愛のない話をしていたところに帰ってきた曜は、泣いていた。おまけに、今にもこの世の終わりみたいな表情で。
「ちょ、ちょっと曜ちゃん、大丈夫ずら!? 泣いて……お、落ち着いて!」
「いったい、なにがあったんですか!? 翔さんに何か……?」
「アンタたちも落ち着きなさいよ!……あれこれ聞く前に。まず、座らせてあげなさい」
翔の事となると、みんなして目の色変わるんだから。ずら丸もルビィもベタ惚れだものね、翔のヤツに。でも、何するにしても、まずは曜から話を聞かないと始まらないじゃない。だから落ち着かせて……
…………あげてるんだから。曜、早くしなさいよ。
早く、早く早く早く早く早く早く早く……翔に何かあってからじゃ遅いのだから……!!
「私……翔くんにひどいことしちゃった」
———そんな私の不安は、幸い杞憂に終わった。
曜が頑張って、割と早めに話し始めてくれたから……これ以上遅れたら、耐えきれなかったわよ。
でも、それはそれとして……曜の話してくれた内容は、別の意味で耐えきれなくなりそうだった。最初は相談に乗るつもりだったのに、梨子の名前が出た時、自分を抑えきれなくなって、翔に食いかかったこと……。
……これだけでも十分衝撃的なのに、この時、私達1年生の3人は初めて知ったわ。2年生の3人が元々協定を結んでた事、ルビィのお姉さんを始め、昔のAqoursのメンバー2人に翔が襲われかかってた事。それで、今のAqoursからの『気持ち』に……怖がってた事も。
アイツ……そんなに悩んでたのに、2年生には先に相談してたのね。曜って話は、電車でも出てきてたけど……私たち1年生じゃ、頼りにならないって言いたいの!?
そりゃ、2年のメンバーに比べたら、付き合いは多少は短いかもしれないけど……ルビィの時にあんなにアドバイスをあげた私には、なんで聞きに来ないのよ……
……あ、いけない。せっかくの綺麗にしてきた爪なのに、噛んじゃってる。ダメよ、アイツに見てもらいたくって、気合い入れたネイルだったのに……
アイツに、褒めてもらいたかったのに……
「まさかこんな事になるとは思ってなかったから、『協定』については今日まで話してなかったんだけど……ごめんね。1週間前のことだから、みんなにも相談が遅れてたし」
「いえ!……私たちこそ、2年生の皆さんの気持ちをあんまり気にしてなくてごめんなさい」
「謝るべきは、翔先輩にずら。誰かじゃなく、オラたちみんなが……オラたちがもっと先輩を守ってあげなきゃダメなんだよ」
「そうね。もともと『協定』を結んだのは、ただでさえ記憶喪失で大変な翔くんに、負担をかけたくない……って目的だったわ。ダイヤさんにとられたくなかった、理事長から庇いたかったとか、色々あったけど、一番は守りたかったからよ」
梨子の説明の意味は分かるわ。私だって、加入して2~3週間しか経っていないのだから、分からないことが多くて……今の話で、やっとつながったのだし。
でも、『理解』と『納得』は別よ。
「……そう、ですね」
「大事なのは、先輩の気持ちだから……」
ほら。ルビィとずら丸だって、『そういう』顔してるわ。
当たり前よ。どんな事情があっても、自分が大好きな男の人にアピールするのに、大きく後れを取ってたのだものね。落ち着かなくて当然。翔のヤツも、罪作りなんだから……『堕天使』よりよっぽど女の子泣かせなんじゃない?まったく……。
「そして、謝らなきゃいけないのは……私も。心のどこかで喜んでたんだから、自分だけが相談してもらえたんだって……」
「私こそ、梨子ちゃんに嫉妬して、暴走しちゃったんだから……ごめんなさい!」
「ううん、もとはといえば、千歌がしょーくんと果南ちゃんの関係を誤解して、落ち込んでたから……」
……そうだったわね。せっかくの東京でのイベントだっていうのに、ずっと気まずくなってる原因。
もとはといえば、この前のライブの後にいなくなってた翔、それがあの果南って人に連れられて、襲われかかってたっていうのが発端だったわね。それを千歌が偶然見ちゃったっていう話。正確には『見せつけてきた』らしいけど。
でも、それがわかってるなら、もう誤解は解けてそうだけど……余所余所しいのは変わってないわよ?
「……言わせて。みんなにこれ以上、隠し事をしたくない。私は、高海千歌は、しょーくんのことが好き。子供のころから今まで、ずっと大好きなの……」
「千歌ちゃん……」
「でもね、スクールアイドルも同じくらい好き。Aqoursのみんなのことも、すっごく大切なんだ……だけど、みんなもしょーくんのことが好きだって思うと……どうしたらいいのか、わからなくなっちゃうの。すごく悲しくなったり、曜ちゃんみたいに、強引になっちゃいそうにもなったりするし……」
私たちのリーダーからの、告白……そう、2年生の3人は、翔のことが好きなのよね。そして、ずら丸とルビィも、翔のことが好き。でも、それはお互いに譲れない事だから……せっかくの仲間なのに、対立しかねない事でもある。それこそ、喧嘩で済めばいいくらいに。
私も、別に経験があるってわけじゃないけど……それでも、男女の感情っていうのが、どれだけ激しくて、戦争になっちゃうものなのかは、知識では知ってるつもり。最初にルビィを見た時のことといい……恋って、本当に人を変えちゃうのだから。
普段は小動物のルビィがあんな風に積極的になって、アイドルなんて無縁の文学少女だったずら丸が、いつの間にかダンスのステップもキレイに踏めるようになってるんだもの。信じるしかないでしょ?
……そういう風に、みんなが綺麗に『輝いて』いくの。単にスクールアイドルで頑張ってるからってだけには、見えないものね。それを見て照れながら褒めるアイツの言葉だって、お世辞じゃなく本心に決まってる。
(こんなメンバーに囲まれて、こんなに好かれてちゃ……このままじゃ『勝てない』じゃない)
……?
勝てないって、何によ?
それに、いけない……今度は服の端を握り込んじゃってるじゃない。この服とか、堕天使っぽくてもデートに使えるよう、オシャレなの選んできたのに台無しになっちゃう。まだチャンスはあるのに。明日のライブが終われば、明後日の約束だってあるんだから……焦らないことよ。
……チャンス?
あいつとスイーツ食べるのが、何のチャンスよ……?さっきから私、どうしちゃったの?こんな大事な話してるときに……
「それは、オラ達もありました。ルビィちゃんが翔先輩の事が好きで、ちょっと暴走気味になってることが……」
「気持ちについては……大小はあると思うんです。あくまでも、今の時点ですけど。とにかく大事なのは……みんな翔さんのことが好きっていうこと、だと思います。それに、千歌さんと同じで……」
「うん……スクールアイドルのことも、翔くんのことも、みんなのことも大切って事、だよね」
ルビィの言葉に、曜も頷く。
……色々、複雑よね。
そもそも、こんなにたくさんの女の子に迫られてるってだけでも、非現実的な光景だっていうのに……記憶喪失とかスクールアイドルとか、同じくらいの事情をたくさん抱え込んじゃってるんだから。
でも、他人事にはしておけない。
それは、アイツに助けてもらってきたから……最初に会った時だけじゃなく、こうしてAqoursっていう居場所を紹介してもらったんだし。それに、自分たちがその『重荷』になるなんて、ありえないでしょ。
恩を返したいし、このままじゃいられない。私たちは変わらないといけないのよ……
「……やっぱり、私たち翔くんのことが好きよ。それで、考えたのだけど。2年生の3人で結んでた『協定』だったけど……今はあまり意味がなくなってきてると思うの」
「梨子ちゃんもそう思う? 翔くんは今、生徒会長と果南ちゃんに傷つけられて、いろいろ気にしなきゃいけないことが多すぎるんだよ。このままじゃ、誰も幸せになんてなれない……それなら、1年生のみんなも加わわってくれたら、なんとかなるんじゃない?」
「それって……お姉ちゃんや果南さん、理事長さんから、翔さんをみんなで守るってことずら?」
「それが、『元Aqours』の3人っていうのは、皮肉だけどね……でも、一番妥当なやり方だと思うわ」
それで出てきた案は、今までのやり方をより、推し進めたものだった。まあ……梨子の言う通り、妥当なとこよね。
今はみんなスクールアイドルを頑張ろうって時だし、みんなでガードすれば、あの3年生の2人もこれまで通りってわけにはいかないでしょう。こっちは部活っていうグループで、6人っていう人数も強みだわ。部活で結果を出して行ければ、理事長も大人しくなるでしょうし。
(そうなれば、せめてどこかのタイミングで、私たちの中の誰かがチャンスがあるかもってことでしょ?)
あれ。そういえば、さっきから、『私たち』って考えてるけど。これって……チャンスって、アイツと恋人になるチャンスってことだから……?
「ねえ善子ちゃん! 善子ちゃんはずっと考えこんでるけど、賛成だよねっ?」
「そうずら! 善子ちゃんの意見はどうずら? 善子ちゃんだって、翔先輩に———……」
「…………」
行きの電車で、私もずら丸もルビィも『そう』なってて……さっきから考えてたことをあわせたら……まさかとは思うけど……
(……私も、翔のことが好き?)
だから、こんなに胸が苦しい?
そのせいで、みんなと同じように悩んでいるっていうの……?
この堕天使ヨハネが、下界の人間と同じようにアイツに、恋だなんて……ふふ、悪い冗談ね?そんなにチョロいわけないじゃない。
そりゃ、フツーの人間ごときなら、一瞬で恋に落ちてもおかしくはないくらいの『運命』ではあったけどね?ずら丸たちが惚れるのもわかるけど……
(翔が好きなのは、私……この堕天使ヨハネこと、津島善子なのだからね♡)
だってそうでしょ?
誰ともつながりのなかった私。それを何も知らないところから、助けに来てくれて……通りがかかっただけの私を、スクールアイドルに誘ってくれた。それを断っても、動画編集を理由に誘いをかけてきて……結局メンバーの一人にいれてるじゃない♪こんなの、私が好きだから、やってくれてるに決まってるわ。これは天界の頃から定められていた運命なのよ♡
みんなの新しい作戦っていうのも……ダメじゃない?『なんで』って、そりゃ不公平だからよ。みんながいいならいいけど、私に有利すぎるわ。
私が追うんじゃなくて、追われるのよ。翔が好きなのは決まってる。それは堕天使ヨハネたるこの私なのだから……♡
「————帰ってくるずらっ!」ペシッ
「いったーーーー!てかヨハネよヨハネ!堕天使ヨハネ!!」
「花丸ちゃん、さすが幼馴染……一瞬で元に戻しちゃった」
ずら丸、チョップもうちょっと手加減しなさいよ!?今の一撃、完全に古いテレビを直すためにやる角度と威力だったわよ!?乙女の頭になんてことするのよー!……って、あれ。私、今考えてたことって……
(……これが、みんなみたいになるってこと、なのね)
人を好きになる、恋をするってこと……こういう感覚なのかしら。
(堕天使になるときとは、また違う意味で自分が自分でなくなる感覚だったわ……確かに、ああなるのもわかる気がするわね。このヨハネまで、いつの間にか吞み込まれていたくらいなんだから……)
だとすれば、『相手』もそれは『同じ』とみるべきでしょうね。
あの生徒会長達に対抗するには、私たちで力を合わせなきゃ……何をされるかわかったものじゃないもの。ただでさえ向こうは、記憶を失うまえとはいえ翔のことを知り尽くしてる。そのアドバンテージを覆すには、数が一番。
特に私は、一番スクールアイドルとしてのつきあいが短いのだから……
「……私も賛成よ。翔をそんな女たちに渡すことなんてできないわ」
他のみんなにも、負けたくない。初めて私を本気で助けてくれた、男の人なんだから……譲りたくない。無理矢理自分のものにしようとする女なんかに、渡すわけにはいかないのよ……!
「とにかく、これで纏まったね。曜ちゃん、翔くんに連絡は返したの?」
「ううん、まだ。ごめんね、勇気が出なくって……」
「しょうがないでしょ……あんな事があったんだから。翔がどこで油を売ってるかは知らないけど、まだこの旅館への集合時間までは余裕があるわよ」
……曜は、まだ落ち込んでるわね。無理もないけど。かといって、私たちから翔にすぐ帰って来いって言っても、うまくいくとは思えないし。
「気分転換が必要かもね。少しは、外の空気を吸った方がいいんじゃないかしら?ルビィ、いいところ知らないの?」
「無茶振りずら……もう16時だから、あんまり遠くまでは行けないよ?」
「なら、みんなで神田明神に行ってみませんか?ここからも近いですし、明日のライブの成功もお祈りしておきたいですし」
神田明神って……確か、あのμ'sともご縁のある場所よね?
堕天使的には、パワースポットであるに越したことはないけど。2年生も賛成してるみたいだし、いいんじゃないかしら?
「神田明神……行く行く! この時間なら人、少なそうだし!」
「そうね、いいんじゃないかしら?他のところは、少し厳しいけど……」
「うん、お祈りしたらきっと明日のことも、翔くんのことも、上手くいく……よね?」
くっ……同じ分野なのに、このヨハネの占いより、人気じゃない!当たり前だけど……まぁいいわ。今は歴史ある神社と張り合ってる場合じゃないし。全員元気にならないと、それこそ翔と合流した時に、余計に暗くなっちゃうじゃない。
お互い協力するって決めたのだから、こういうところから、よね。私たち、こんなにもアンタのことを考えてあげてるんだから……
(翔……私たちAqours以外のところに行くだとか、さらに知らない女のところに行くなんて、ないわよね……?)
私は、自分の勘や占いに自信はある。不幸になる時は、だいたい当たってるし……
だからって、こんな時までその予感があたるだなんて、信じたくはなかった。自分が信じなくても、現実は変わらないってことも、頭でわかっていたって……。
ワクチンうった右腕がまだ痛いです。(世間の)夏休み期間中は、まだまだ更新していきたいですね。
adoreさん、高評価ありがとうございます!!ホントのホントに更新の励みになります~!!