ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

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2クールも重たい展開を続けてすいません。いつもながら、書いてる作者の胃もなかなか痛くなってきてます。

アニメ本編と同じように、ちょっと時系列の描写が前後しながらの57話をどうぞ。





第57話 0(ゼロ)

————初めての東京でのライブを終えてから、少しの時間が経った。しかし、帰りの電車の時間にはまだ余裕がある。

 

だから俺は、行きの電車での約束通り、1年生の3人とスイーツ店に来ている。『女三人寄れば』……と言う昔の言葉もあるが、4人用のテーブル席は、瞬く間に他の席に負けず劣らずの喧騒に溢れ始めた。

 

 

「ほら、雑誌に載ってたここの喫茶店! 写真でもテレビの画面の向こうでもなくて、本当に本物ずらぁ~」

 

「フンッ、ずら丸は相変わらず田舎者ね……いい機会だから、このカオスがひしめく魔都東京に精通した堕天使たるこの私が、色々とレクチャーしてあげるわ!」

 

「善子……俺、記憶ないから田舎者以下なんだな」

 

「うゆ……でも東京でスイーツ食べるの、善子ちゃん初めてだって言ってたよね?」

 

「……善子ちゃんだと、味に関係なく、とりあえず真っ黒なお菓子にしそうずら」

 

「し、失礼ねアンタたち!あとヨハネ!! ……でもこのイカスミケーキが一番良さそう……店員さん!これ一つお願いしまーすっ!!」

 

 

……なるほど、沼津のお菓子屋さんも美味しいけど、ここまで大規模でオシャレでユニークなお店は、東京以外にはなかなかないのだろう。海産物で有名な沼津から出てきて、こちらでイカスミ食うのも変な話だけど。

 

(善子の場合は、堕天使っぽければ好きそうなイメージ通り。逆に、花丸ちゃんが緑茶以外にお茶を飲んでるのは、初めて見たな。で、ルビィちゃんは、普通に甘いものをたくさんってタイプか)

 

ケーキバイキングという言葉だけは、聞いたことがあった。だけど、こっちのテーブルもあっちのテーブルも、次から次へと消費されていく。甘い香りでちょっぴり胸が焼けてきた気もする……。多分、しばらくいたら慣れてくると思うんだけど、女の子って凄い。

 

そういえば表に立つ店員さんも、俺達の周りの客も、女性ばかりだ。なんだか急に男1人いるのが気まずくなってきた。この前のクレープの苦い味を思い出しながら、プリンを食べる。美味しい。

 

 

「確かに美味しいしオシャレだけど、こういう店とか、男が入っていいもんなの? 浮いてないかな」

 

「全然大丈夫ですっ!ほら、あっちの奥の席にもカップルの人たちが何組かいますし、『あーん』だってしt……ピギィ!」

 

「自分で言って、自分で恥ずかしがってるずら」

 

「純情すぎるのよまったく……」

 

 

言われた方を横目で見ると……あ、本当だ。奥の方でバカップルみたいな人達がケーキをスプーンで『あーん』してる。よくやるなぁ……俺だったら恥ずかしくてできないや。東京の人はやっぱり違う。

 

片方の男の人は、目つきが怖くて筋肉質のカッコイイ人。もう片方は、店内だというのに帽子を被ってサングラスをしてる、短髪の女性。変装かな?テレビで見たような気もするくらい、物凄い美人だ。

 

こういうのは、ああいう美男美女のカップルだから許されるんだろうな。俺がルビィちゃんあたりにやってもらったら、通報されるに違いない。一般男性には許されない贅沢というものかな。

 

 

「……後輩の女の子3人とスイーツ食いに来てる俺も、十分に果報者かもしれないけどな」ボソッ

 

「? 何か言いましたか?」

 

「いや、独り言が出ただけだよ。みんなとこうして、無事にケーキ食いに来れて良かったな、って」

 

「……それよりも、今向こうの女の人に見惚れてなかったかしら!?リトルデーモンは私の眷属なのだから、よそ見禁止よー!」ガタッ

 

「先輩を勝手にリトルデーモンにしちゃダメずら!だいたい、それじゃオラとルビィちゃんのことが見てもらえないよ!?」ガタッ

 

「あわわ。2人とも、せっかく翔さんと一緒に東京のお店に来れたのに、喧嘩しちゃダメだよぉ~」

 

 

……そんな、明るくて、楽しくて、バカバカしい普段通りの会話。だけど、今日の結果は、全員の心の奥底に重く突き刺さっている。

 

それを数時間も経たないうちに忘れるなんて……

 

 

「そうよね……私たち、東京に来てるのよね。ライブのために」

 

「うん。他のみんな、すごいライブだったよね……」

 

「……全然、敵わなかったね」

 

 

できるわけなんて、ない。

 

だから、ふとした会話がきっかけで、また空気が重くなる。このお店までの移動中にも、何度かこういうコトがあったくらいだった。行きの電車では、あんなに怖く感じた3人が、今はとても力無く見える。

 

 

そう。みんなのライブと、その結果は……

 

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

『翔くん……さっきは本当にゴメンね。私、どうかしちゃってたんだ……』

 

『俺は気にしてないよ。こっちこそ……えっと、曜の気持ちにずっと気づいてなくて、ごめん。記憶喪失も前も後もそうだなんて、本当にずっと……』

 

『それこそ、いいの。翔くんが鈍感だって知ってたのに、何も言わなかったのは私なんだから……千歌ちゃんもだんだん、元に戻ってきたし。今は、みんなでライブに集中しよう』

 

 

鹿角さんに、厳しいことを言われた夜……俺たちは結局『大事な話』とやらをするよりも、ライブの練習や打ち合わせに集中することを選んだ。それは解決法の見えない問題の先送りが半分、対抗心が半分といったところ、だったのだと思う。

 

……みんな、あそこまで言われて黙ってられるわけない。さすがに旅館の中でダンスステップを踏んだり、大声で歌うわけにはいかないから、イメトレとかだったけど。

 

 

「ここ、もっと早く動かした方がいいんじゃない? それで、こっちの動きと合わせて……」

 

「それならオラはこう動いた方が……」

 

「賛成!あと、サビの初めのダンス合わせたいから、ちょっとつきあってくれる?」

 

「大丈夫だよ!絶対絶対、今までで最高のライブにしようね!」

 

 

———気合いが、入ってる。

 

気合いだけじゃなく、練習や内容の詰め方だって、今までで一番だと思う。近くで見てきた人間としては、少なくともそう感じられた。

 

(Aqoursは、明日きっと。今出せる最高のパフォーマンスで、ライブに臨むことができる……!)

 

鹿角さんに言われたことだけじゃなくて……沼津以外の『そういう人間』も視聴者としているのだと意識出来て、モチベーションになってるんじゃないだろうか。特に千歌については、仲直りの言葉もそこそこに、凄く集中している。

 

だけど、根の詰め過ぎは良くない。既に23時だ。明日のイベントは午前10時からスタートで、Aqoursの出番は2番目だから……そろそろ休んでおいた方がいい。

 

 

「みんな、いいかな? そろそろ時間も遅いから、今日はもう寝よう」

 

「……え、もうそんな時間なの?いけない、寝不足でライブするわけにはいかないわ」

 

「あ、じゃあ梨子ちゃん。ここだけ最後に見て!この部分なんだけど……」

 

「千歌ちゃん、それじゃ終わんないよ。あとちょっとなら、明日の朝やろう?」

 

 

練習の時も何度か思ってたけど、こういうところは、水泳部で大会とかの経験のある曜が一日の長があるな。移動の疲れだってあるはずだ。みんな緊張の糸が解けると眠そうにしてるし、この辺が潮時だ。

 

 

……だけど、寝る前にみんなを集めて、一言だけ言わせてもらうことにする。鹿角さんをライバル視するのはいいけど、これはケンカじゃない。それこそ、彼女の言う通りになってしまう。

 

眠そうな目をこするみんなに対して、俺は思いの丈をぶつけた。

 

 

「鹿角さんはああ言ってたし、実際、俺がみんなからの……気持ちに、どう向き合うかとか、そういうコトに悩んでたのは事実だ。だけど、俺はそれを負担だとか辛いとか、マイナスにばっかり考えたことはないよ」

 

「しょーくん……」

 

「世の男なら、なんていうつもりはないけどさ。みんなみたいな最高の仲間にこんなに好かれて、イヤな人なんていないって。ダイヤや果南とどうしてくかは、そりゃ問題だけど……とにかく!俺は夕方に言われたみたいに、みんなに負担をかけられてる気はしてないってこと」

 

 

Aqoursは、俺たちは、お客さんを感動させて、笑顔になってもらって、『素晴らしいライブだった』って言ってもらうのが目的のはずだ。それを忘れてはいけない。

 

 

「だから……言われたことは気にせずに、今まで通り、今まで以上のライブを精一杯やってほしい。俺はどんな結果であれ、みんなの力を信じている。明日の観客の人たちは全員笑顔で家に帰るし、廃校だってなんとかできるって」

 

 

……我ながら、クサいセリフだったと思う。記憶を失くす前の俺がもっとそうだったっていうのは、ちょっと笑ってしまうところかもしれない。

 

だけど、言った事は全部本心だったし、みんなもとりあえず納得してくれた。

 

 

「……翔さんがそう言うのなら、ルビィも信じます。明日は全力で頑張りますから、瞬きしちゃダメですよ?」

 

「私たちのダンスも歌も、この前よりずっと良くなったはずよ。ま、どっちにしてもこの私がついているのよ! 不安そうな顔してないで、大船に乗ったつもりで応援していなさい!」

 

「オラたち、あの人の言うことに負けません。理事長さんにも認めさせた私たちのライブが、ちゃんとしたものだって証明するずら!」

 

「そうよ。私たちだってこの数か月間、一生懸命頑張ってきたんだもの。みんなで作った歌と、曲があれば、必ず想いは伝わる……そうよね?」

 

「よーし、私燃えてきたよ!曜ちゃんのダンスは普段の2倍、頑張るからね!見送りに来てくれた学校の皆のためにも、応援してくれる沼津のみんなのためにも、負けられないし!」

 

「μ'sみたいに……スクールアイドルの聖地でも輝きを目指して、頑張るよみんな!……しょーくんも、私たちのライブ、よく見ててね!最高のステージにするから!」

 

 

また、いつもの『Aqours サンシャイン』のかけ声で、一つになるみんな。例え、明日のイベントで戦うライバルたちが、ラブライブ決勝に出たグループばかりであっても……これなら、きっと鹿角さんといい勝負はできるはず。

 

なんとなく、そう思えた。

 

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

 

「……翔さん。これからのライブを良く見ててください、私たち『Saint Snow』のステージを!」

 

 

だけど、現実は非情だった。

 

鹿角さんと、彼女の妹のコンビネーションから繰り出される息の合ったパフォーマンスは、俺たちにとっては圧巻だった。こういうイベントでトップバッターを任されるグループの、その力は……ステージすべてを飲み込んで、彼女たちの空間として支配してしまう。

 

 

最高だと言われたいよ 真剣だよ We gotta go!

 

 

いや……『姉妹だから』っていうのは、そんなに重要じゃないんだと思う。

 

彼女たちの動きは、Aqoursと『何か』が違った。一番最初にμ'sを見た時に感じたものとは違う何か。単なる小手先の技術とか、歌声とか、そういうのじゃない。

 

 

夢は夢でも簡単に届かない特別なもの目指そうじゃないか

 

そのためだから泣いたりしない

 

敵は誰? 敵は弱い自分の影さ

 

 

これまで、俺たちが見様見真似で練習してきたこととは違う。

 

ハッキリとした理論とか知識とか、正しいやり方というか……そういうものに裏打ちされたレベルの高さが、イヤというほど伝わってきた。彼女と最初に会った時に感じた、カリスマ性の意味も。

 

練習、プライド、目標……そういうものの先にある強さ。自信。

 

それが、Aqoursにはなかった。ただライブをすることとの、差。

 

 

わかるでしょう?

 

弱い心じゃダメなんだと

 

感じようしっかり いま立ってる場所

 

SELF CONTROL!!

 

 

彼女たちの歌名は、勿論狙ったわけではないんだけど……俺たちには、深く深く突き刺さる。

 

『SELF CONTROL』……自己管理だなんて、昨日指摘されたのと同じだ。シャレにもならない。

 

現実に見るトップクラスのスクールアイドルが、これほどのものなんて。

 

 

最高!(One more chance time!)

 

言われたいみんなにね (最高だと言われたいよ)

 

Dance now! Dance now!

 

最高!(One more chance time!)

 

言わせるって決めたんだよ (真剣だよ遊びじゃない)

 

Dance now! Dance now!

 

 

————レベルが違う。そんな言葉じゃ、言い表せない。違うのはきっと、レベルじゃなく『意識』だから。

 

みんなは、スクールアイドル達のこの『意識』には、到底……至っていなかった。PVや、これまでのライブや、ランキングは……沼津の皆の助けであそこまでいけたのであって。それがスクールアイドルとして、どれだけ素晴らしいものであっても……

 

……『ラブライブ』では、絶対に勝てない。 

 

 

遠くの光へもっとBaby! 一緒に跳びたいもっとBaby!

 

ふるえる指先知ってても見ないで

 

 

 

『……翔。心を強く、持つのですよ。貴方の「人を笑顔にする」という夢を忘れないでください』

 

 

 

大切なのは SELF CONTROL!!

 

 

曲の、終わり。会場のとんでもない盛り上がりとともに、出発前のダイヤの電話口での言葉が脳裏をよぎった。

 

人を笑顔にするだけなら、沼津だけでいいのなら、今まで通りでもいいかもしれない。

 

だけど……きっと廃校は阻止できない。絶対に。

 

周りの盛り上がりの質が、沼津の時とは全く違う。同じ人間なのに、違って見える。

 

 

 

そして、みんなも……

 

 

「あれが……全国の、トップレベルのグループ?」

 

「ウソ、だよね……」

 

「こんなの、ルビィ達には……」

 

 

 

—————その結果がどうだったのかは、言うまでもない。

 

俺にとって胸を張れるところは、目をそらさずに最後まで見届けたことだけだった。

 

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

「0(ゼロ)……?」

 

 

誰が最初に、そう漏らしたのか。

 

Aqoursに突きつけられた、評価。それは会場の反応を、何よりも雄弁に語っていた。

 

 

「30組中、30位で……ビリってことよね?」

 

「わ、わざわざ言わなくていいずら!うぅ……」

 

「私たちに入れた人、一人もいなかったってこと……?」

 

 

今回のライブイベントで、投票数で決まるランキング。入賞は8位から。その結果が書かれたA4用紙は、Aqoursにとって、これまでで一番ショックだった出来事に違いない。もちろん、俺にとっても。

 

(だからって。だからって……得票数ゼロだなんて……!)

 

不安が的中してしまった。俺の予想が甘かった……! まさかこれまでが、上手くいきすぎていただけだったっていうのか?みんな、あんなに頑張ってきたのに……

 

以前のAqoursだったダイヤにも、果南にも、理事長の小原さんにも。信じて応援してくれた、学校の皆にも……とてもじゃないが、申し訳が立たない。あの時の失敗を、払拭すると言ってきたのに。

 

俺だけじゃなくみんなだって、完全に打ちひしがれている。

 

 

(これが、現実だって言うのか……)

 

 

あの時もっとこれを勉強しておけばよかったのにとか、もっとこんな練習を思いついていればとか。後悔してもしきれない。笑顔なんて……笑顔なんて、ほど遠い。

 

でも、現実はまだ俺たちに試練を与えることをやめようとしなかった。

 

 

 

「お疲れ様でした!素敵な歌で……とてもいいパフォーマンスだったと思います」

 

 

後ろから現れたのは、スクールアイドルグループ……Saint Snowの鹿角さんだった。みんなも俺も、強気な言葉を返す余地もない。

 

 

「ただ、もしμ'sのようにラブライブを目指しているのだとしたら、諦めたほうがいいかもしれません」

 

 

彼女の言った通りになった。

 

Aqoursには……まだ、彼女たちと張り合えるだけの力なんて、とても身についてなかった。だけど、鹿角さんには、自分たちが勝負に勝って、それを誇るような笑みはない。

 

なぜなら……トップバッターで盛り上げ、あれほどのパフォーマンスを見せてくれたSaint Snowですら、順位は……

 

 

「……9位の私たちが言っても、あまり説得力はありませんけどね」

 

 

————彼女たちですら、入賞は出来なかった。

 

現実は、俺たちだけでなく、彼女たちにも厳しかったということになる。いや、彼女たちは、ラブライブ決勝に進出した経験のあるグループだ。この悔しさを乗り越えて、今ここにいて……また今日の悔しさをバネにして、飛躍していくのだと思う。

 

だけど、今のAqoursにそれができるのか。ステージに立っていない俺ですら感じる、これほどの悔しさと敗北感を、簡単にバネになんて……

 

 

「わ、私たちだって頑張って……」

 

「バカにしないで!本気で頑張って負けたんだったら、悔しいはずじゃない!姉様にだって、言い返せるはずじゃない!みんな、本気でやってるのに……」

 

 

ルビィちゃんの自信のない態度が、ますます彼女の癪に障ったのか。他人とあまりしゃべるタイプではない、理亞さんが叫ぶ。

 

目に涙を浮かべて、悔しさを必死に堪えながら。

 

 

 

「ラブライブは……遊びじゃない!!」

 

 

 

それはきっと、自分への叱咤でもあったのだと思う。ラブライブという夢にかける、その必死な想い。自然と涙を流させた想い。

 

 

なのに。

 

 

普段は口に出して、夢を語る俺は……理亞さんのように、涙を流せていなかった。

 

 

 

 




ミーハーなオタクなので、ギルキスライブ終わってからずっとギルキス聞いてます。歌詞機能いつもありがとうございますハーメルンさんとJASRACさん。


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