(※本作中で、μ's時代のことについてアニメ原作と違う点については、μ's長編の世界観を引き継いでいる影響です)
「スクールアイドルは、確かに以前から人気がありました。そして、ラブライブの大会の開催によって、それは爆発的なものになった……」
……7236。
たった今ダイヤから聞かされた、昨年のラブライブにエントリーしたっていう、スクールアイドルグループの数。今年はさらに増えているというんだろうか?
俺たちの得票は0で、内浦にスクールアイドルはAqours1つだけ。なのに、世の中では……たぶん一つの高校に、いくつもグループがあるところだって存在するんだろう。
(……それだけの中でランキングが急上昇してたんだから、大会やSaint Snowの人たちが注目するのも、当たり前だったんだな)
だとすれば……みんなは結果が出るのが、早すぎてしまったのかもしれない。廃校の事を考えれば、1日も早く有名に……とは思うけど、これはAqoursにとって、という意味だ。
本来ならもっと長い時間をかけて、心の準備をして、段階的にここまでたどり着いていたんだろうに……うまく、行きすぎたんだ。早すぎた……。
「特に、みなさんもご存知のA-RISEとμ'sによって、その人気は揺るぎないものになりましたわ。敗者復活まで含めて、アキバドームで決勝が行われるまでに」
「あの決勝で、μ'sとA-RISEが投票では同点だったステージだよな?雑誌と動画でしか知らないけど」
「記憶を無くす前は見せましたのに……いえ、それは後にしましょう。とにかく、その人気の高まりやその後のライブがさらに決定的となって、レベルの向上を生んだのですわ」
少し恨みのこもった目を向けられてしまい、申し訳ない気持ちになるが、今は話の内容が大切だ。
「ですが……『レベルが高くなりすぎた』のです。μ'sとA-RISEの持つ圧倒的なカリスマ性、ドラマ性に追いつけないとしても、歌やダンスの技術面において彼女たちを凌駕する才能は、日本中を探せば少なからずいましたから……」
……それは、理解できる話だ。
μ'sとA-RISEが、後のスクールアイドルに比べて何がすごいのか。俺には……俺たちには、まだ具体的に見えていない。それが見えたところで、誰にも真似できないことだっていうことは、分かっていても。
だけど、UTXでもともとプロを目指していたA-RISEはまだしも、μ'sはそのほとんどのメンバーが、普通の女子高生たち。だからこそ、多くの人が憧れた……というのは置いておいて、単純な歌唱力やダンス力だけでいうなら、上回る才能は多少なりと出てくるだろう。
勝っているかどうかは知らないが、あの鹿角さん達も、きっと強烈な才能の一人だ。そんな人たちが、一斉に彼女たちに憧れて、スクールアイドルを志せば。その結果は……
「なので、ラブライブを目指す以上……貴女達がこのような結果になりかねないということは、以前から危惧していたのです。こういったことが起きた時、耐えられるものかと」
「お姉ちゃん……」
……いや。その結果が、今日なんだ。
必然の敗北だった。
「それで……最初、私と千歌ちゃんの部活の申請に反対してたんですか?」
「半分正解、というところですわね。あの時言った、翔がいては『また同じ結果になりかねない』という話が、もう半分です」
「確かに……あの時はそう言ってましたけど。しょーくんに『内容は思い出せ』って言ってましたよね?」
千歌と曜が呈する当然の疑問に、俺はここまでの判明していた事を思い出し始めた。
ダイヤは、当時の俺との約束で『誰にも話さない』と決めていた。その内容を知っていれば、二度とスクールアイドルに関わろうなんてしないはずだ、という程のことだ。俺が全ての原因での、大きなトラブル。
かつての、俺とダイヤと果南と小原さんの4人だったAqoursは、それきり……。
「……もう、話すしかないのですね。あなた達のためにも、翔のためにも。ではここで、話を戻す形になるのですが」
意味ありげにこちらに目配せをしてくるから、俺が静かにうなずくと、ダイヤは呼吸を整えた。
そして、過去に起きた出来事の真実の一端を、ついに俺たちに与えてくれた。
「実は、私たち以前の『Aqours』と翔が失敗したのも、全く同じ東京のライブイベントだったのですわ。そこで、私たちはバラバラになってしまった……」
「「「「「「————!!」」」」」」
「……」
みんなは驚いているけど……俺にとってはある程度、予想通りではあった。
「……そうだったのか。俺たちが、やっぱりあのイベントで」
果南もダイヤも、みんな東京に対して、出発前にどこか変な様子だったからな。俺だって、記憶を取り戻そうとするのに、何も考えずに過ごしてるわけじゃない。失敗の『中身』までは、流石に知らないけど。
(でも、ダイヤが隠し通すくらいで……仲の良かった4人が全員バラバラになるくらいだから、相当のものなんだろう)
まず考え付くこととすれば、俺たちと同じ単なる『ミス』。圧倒的な観客数や、知らない土地、その他に何か、人間関係の引っかかりとか。そのどれだって、断定できる材料はないが。
「おや、あまり驚いていないのですね。予想はついていましたか……」
「ああ。出発前のダイヤや果南の話で、それ自体は薄々予想はしてた。何かあったんだとしたら、このイベントとか東京とかじゃないかって。小原さんも、何か変だったし」
「…………私だけでなく、果南さんと?しかも、鞠莉さん!?」
「しょーくん、なんの話なの……?」
「やましいことは何もないって! 話がそれたし……」
ううっ、そういうところで急に息を合わせないでくれないか。まだみんなのその『目』への耐性、ないんだから。俺……
「コホン……確かに、失礼しましたわね。そのことについてもあ・と・で!ゆっくり聞かせてもらうとしましょうか……」
「そ、それはいいから……それより、約束破っちまったことになるんだよな。同じ失敗はしないからって話で、Aqoursの名前を貰ったり、ノートとか色々教えてもらったのに」
「……いえ、本当は、約束は守ってもらっているのです。貴方達はきちんとライブをしたうえで負けたのですから。ですが、あの時の『失敗』は、『敗北』ではありませんでした。私たちはその土俵にすら、乗れなかったのです」
「……?」
気を取り直したダイヤの言葉に、引っ掛かりを覚える。……だけど、普通に考えてみたら、それもそうだ。
幼馴染同士とは聞いてるが、あの一人一人が気の強いのメンバーたちが、ただ1度ライブで失敗しただけで、喧嘩別れみたいになるわけがない。何か別の原因があったと考えるのが自然だ。でも、だからって……ライブイベントで『土俵にすら乗れなかった』っていうのは、どういうことなんだろうか?
もっともダイヤにとっては、俺たちがそういう疑問を抱くことなんて、とっくに想定済みだろう。その内容は、そういう心構えができていなければ、言いづらいことでもあった。
予想外で、深刻で……残酷な真実。
「あの時、私たちはあなた方と同じように、会場の空気とレベルの違いに完全に飲まれていました。それでも、ライブをしようとしたのです。ですが、そのライブの前に……ステージの電源が切れたのです」
「『電源が切れた』って、停電ってことずら?」
「いいえ……まあ、似たようなものですが。私たちのステージの音楽やライトが停止したのです。結果は、自主的な棄権扱いとなって、私たちはライブをすることすらなく敗退しました……歌うことすら、できなかった」
……歌え、なかった?
曲もかからず、ライトもなく……確かにそれで、ライブなんてできるわけない。イベント運営上も当然、棄権扱いだろう。初出場のグループが、自信を失って棄権……っていう流れそのものは自然だ。
でも、実際には彼女たちに棄権の意志はなく、電源が切れたためだという。それは、きっと人為的なもので……ダイヤの言い方からすれば。
「音楽のCDやライトの演出は、私たちスクールアイドル側が設定してたわよね? 今回のも『ショウと私が』『2人で』用意してたんだし」
「パソコンが上手だからって、翔先輩との関係を強調しなくていいずら……」
「善子ちゃんの冗談はどうでもいいけど、その時もそうだったんだよね?お姉ちゃん」
「ルビィあんたもずら丸に似てきて結構酷いわね……って、それってまさか。その時もショウが——……!?」
……善子やみんなだけじゃない。俺だってもう、気づいている。ダイヤが言おうとしているのは、過去の告白であり、ある種の『告発』でもあるのだと。
だから、4人は離れ離れになったし。俺たちにずっと、言わないようにしていたのだと……
「あの時。私たち3人は当然ステージ上で呆然と立ち尽くしていました。その間にステージの電源を
音楽やライトを作動させず、運営側に棄権を伝えたのは……ほかならぬ翔でした」
「そんな……翔くんがそんなことするわけないわ!私たちが一番良く知ってます!」
「ええ、勿論です。貴女たちが今日、ライブをやりきったように……翔は周囲に圧倒されたとか、私たちに恥をかかせたくなかったとか、そんな理由でライブを勝手に棄権させるようなことをする男性では断じてありません」
みんなにもダイヤにも、気を遣ってもらってしまってる。そんなの、この期に及んで要らないっていうのに。
「……でも、やったんだろ?俺が。それで、みんな喧嘩になったってわけだ」
「! 翔……そうです。他にもケンカになる要素はありましたが、ともあれ直接の原因はそれでした」
「そんなことを忘れてたんだから、最初の時も言われて当然だな……もちろん、小原さんや果南のあの反応も納得だ」
「「「「「「…………」」」」」」
そんなことをやらかしたなんて、盛大な裏切り行為……なんていうのも生易しい例えだ。大問題になって当たり前だろう。
みんなのダイヤに対する視線に、ほんの少し敵意が戻り、俺に対する視線は困惑の色になる。彼女の言うことが信じられないという気持ちと、でもウソを言っているようには見えないという気持ちとが、頭の中でぶつかり合っているのだと思う。
果南と小原さんの言葉を、思い出す……。
『どうして、スクールアイドルを手伝おうと思ったの? 自分も大変な状況で、部員も全然いないし。翔は浦の星の、生徒ですらないのに……』
『単にあの時のことだけ忘れてるんじゃないの? 今だって、ウソかもしれないじゃない!』
……実は、遠慮はいらないなんて言ってる俺自身が、一番真実を受け入れられていない。
鹿角さんにああ言われても、みんなの活躍を信じられた俺が、なんでその時はそんな行動に出たのか……俺自身でさえ、分からない。俺が記憶を失う前とそんなに変わってないというのなら、なおさら変だ。
なんでだ? なんで土壇場でそんな裏切りを、俺が……?
「あ!も、もしかして……私たちの最初のライブの時に停電したのって、理事長の仕業だったりするんですか!? ダイヤさんが、復旧してくれましたけど……」
「それってまさか……翔くんがしたのと、同じことをやり返したってことですか?ダイヤさん!」
「……ええ、ご想像の通り。おそらく、単なる大雨のせいではないでしょうね。翔があんなことをした理由や、本当に過去から変わったのかどうか……それで確かめられると思ったのでしょう。鞠莉さんが考え付きそうなことですわ。本当にあそこまでやるとは、この目で見るまで信じられませんでしたが」
確かに、事実だとすれば有効な手立てであると同時に、相当に非常識なことだ。俺だけならまだしも、千歌達まで巻きこまないでほしい。……だけど、それだけ俺のしでかしたことが、恨みを買ってしまっていたということでもある。
ただ、その事例を加えればなおの事、過去の俺の行動が分からない。あの時は停電による中止を認めず、今回はSaint Snowの後のライブを、しっかり見届けたのに。
みんなのライブを、この手で止めるだなんて————……
「また、話が逸れてしまいましたわね。翔がそんなことをしたのは、もちろん理由がありました。そして、私は偶然それを知ってしまい……2人で絶対に秘密にすると、約束したのです。あまりに状況が変わったので、2年越しにこうして話しているのですけどね」
「記憶喪失で、いなくなってたのが帰ってきて、千歌達とスクールアイドルだものな。それに……そういうコトをしておいて、肝心の理由を果南と小原さんに話していないんなら、バラバラになるのも当たり前か……何もかも妥当だよ」
「それはもう、特に鞠莉さんはとんでもない荒れ様でしたわね。あなたもあなたで、頑なに『みんなのライブじゃ東京では勝てないから辞めさせた』だなんて嘘を言って。長い付き合いでしたが、あれが最初で最後の、翔の嘘でしたわ……」
「……最初で最後で、ずいぶんと最悪の嘘だな」
そんなこと言って嘘を張り通したら、そりゃ仲たがいの一つや二つくらいするだろ、俺のバカ……。でも、それだけ言えない理由だったってことなんだろう。そうじゃなきゃ、何か他にメンタルやられるようなことでもあったのか。……それとも、その両方か。
理由や続きは、もちろん気になる。だけど、この夜の砂浜に、唐突に違う声が響き渡った。
「アンタたちーっ! ただでさえ疲れてるんだから、今日はもう早く帰りな!終バスも近いし!」
……美渡姉さんだ。俺たちがずっと話し込んでいるから、心配してくれていたんだろう。実際、時計を見ると、いつの間にか随分と遅くなりかけていた。少なくとも、女子高生が外にいるには、厳しい時間だ。
「……翔と話していると、よくこうして人が来ますわね。ですが、確かにもう遅い時間です。続きはまた別の機会にしましょう」
「ダイヤ……」
「ふふ……そんなに、名残惜しそうな顔をなさらないでくださいまし。私ももっと翔とお話をしていたいのですが、こればかりは仕方ありませんわ」
「……」
———続きは、確かに気になる。
だけどみんな、肉体的にも精神的にも疲れ切っていた。ダイヤがこうして俺のあごに手をかけて誘うような目をしていても、鹿角さんにみせていたような怒りは……そこまでは感じられない。
それもそうだ。移動の疲れ、東京での疲れ、人間関係での疲れ、ライブでの疲れ……そしてあの結果と、今のダイヤから聞いた真実。2、3日でこなすにはキツすぎる。そっと彼女の手を降ろさせてから、美渡姉さんの指示に従って、みんなを帰らせてあげることにした。
「いけず、ですわね? 家の者の車を待たせていますから、ルビィだけでなく皆さんもある程度は送迎できますわよ」
「……素直にありがとう。だけどこういうのは心臓に悪いぞ」
「では、今度はお声がけをしてからすることにしましょうか。……覚えておいてくださいね。私は何があろうと、愛するアナタの味方なのだということを」
「その気持ちも、素直にありがとう。……おやすみ、また学校でな」
それぞれに不満そうな顔や、疲れ切った顔をしながら、みんな仕方なく帰っていく。梨子も隣の家へ。俺と千歌は、十千万へ。
……千歌や姉さん達となんでもない話をして、なんでもなく、数日ぶりに夕食をいただく。今回の結果については、千歌の纏う雰囲気から察していたのだろう。俺たちが仲直りしながらも、もっと大変なことが色々とあったのだろう、とも。だからこそ姉さん達は、なんでもない話で終わってくれたんだ。
俺は……
(俺は、たくさんの人にこうして迷惑をかけて。たくさんの人に好きだって言ってもらって……)
……なのに、どれだけのことが返せているというんだろう。きっと2年前の出来事の前だって、そうだったんだ。4人で仲良くやって……ルビィちゃんの誕生日に、スクールアイドルをプレゼントしようなんて言いあって。
(でも、それを俺が壊した。どんな理由があっても、それは事実らしい……)
ダイヤの言う通り、確かにあの時とは色々と、状況が違うのかもしれない。
それでも、俺がかつての出来事を忘れちまってるままじゃ……それを乗り越えない限り、スクールアイドルの、みんなの力になれないってことには、きっと変わりないんだと思う。
今、みんないろんなことに悩んでると思う。俺の過去の事はともかく、Saint Snowや他のグループに『初めて』負けて、悔しくて……曜を始め、俺との関係でもあんなことになっちまって……
『ただ、もしμ'sのようにラブライブを目指しているのだとしたら、諦めたほうがいいかもしれません』
『ラブライブは……遊びじゃない!』
鹿角さんと、その妹の理亞さんの言葉。
『追いかけてみせるよ!ずっと、ずっと……この場所から始めよう!できるんだ!』
『……』
そして、希望に溢れた言葉を語っていた千歌と、今日の背中を震わせていた千歌の落差が、頭から離れないでいた。
俺は、遊んでただけだったのか?
千歌達が頑張ってるのに、俺はどうすればいいんだ?
これからも、ただ沼津の、内浦の人たちに助けてもらうだけのスクールアイドル部でいる気なのか?
ダイヤ、果南、小原さん……彼女達との失敗を、また繰り返すのか?
————部屋に置いてあった封筒を取り出す。
その中には、ここ数カ月の俺のバイト代と、用務員としての給料が詰まっていた。携帯代や家賃等として高海家に納めてる他に、多少はみんなの部活のために使っているが、こうみえて身寄りのない男。余計なものを買ってないので、まだまだ余裕があった。たまに美渡姉さんからお酒代で借りられても、これなら行ける。
俺は……俺はもう負けたくない。みんなを悲しませたくない!
だから、俺も成長してみせなきゃ……!
『……そんな悩みを吹き飛ばして、「笑顔」にしてくれるのが、スクールアイドルじゃないですか?』
携帯を出して、あまり慣れてない電話番号にかける。みんなに話したら、止めるかついてくるだろう。姉さん達は口が滑りそうだ。立場上も人間関係上も、俺を嫌う彼女に伝えるのが一番。
「小原さん?こんな時間に突然ごめん。伝えなきゃいけないことがあるんだ」
『ショウ!? ど、どうしたのよホントに突然。伝えたいことって、まさか。まさか私に———……!?』
「俺、明日の仕事休むから!先生たちや先輩のお爺ちゃんによろしくお願い!!」
『……えっ? ちょ、ちょっと待っちなさーい!?』ピッ
よし、これで連絡も済んだ。あとは一応、千歌のお父さんに書置き。お母さんにも連絡のメール。
スマホを使って、予約サイトから飛行機のチケットを取る。そう、今回は東京じゃない。
俺の、行き先は———……
気づいたらいつも物凄い文量になってるので、なるべく話しごとに分割して投稿しています。
男の子は、女の子がどれだけ束縛しようとしても、冒険に出てしまうのです……。