ISDOO   作:負け狐

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大体捏造とオリジナルの世界観で彩られた、割とISのような何かになっています。ご注意ください。


No00 「作り直してもらったんだ」

 彼女は少し変わっていただけで、紛れも無く普通の少女だった。日常に起きる出来事を喜び、怒り、哀しみ、楽しむ。そんなことが出来る少女であった。

 それは、彼女が他人よりも優れた能力を持っていると分かってからも変わらなかった。妹と、親友と、親友の弟。彼女の大切な人達と共に過ごし続けた。ただ、その頃からその能力――人並み外れた頭脳を目当てに寄ってくる人間が増えてきたことで、彼女の心は少しだけヒビが入った。

 やがて思春期に突入した彼女は、自身の頭脳を自分の思うままに使用するために動き始めた。見詰める先は、空。果てしなく広がる蒼穹。無限に広がるその先に、彼女は自分の目的地を夢想した。

 その後の彼女の行動は実に素早かった。幸いにして、欲の皮の突っ張った大人達に言われるままに発明した品物の特許を両親が自分名義で取得してくれていたおかげで、若干十三歳にして使い切れない資産は持ち合わせている。誰にも言われることなく、自分の好きな発明を行う余裕は充分にあった。義務教育の真っ最中ではあったが、彼女の『特別性』故に不登校でも文句は言われなかった。誰にも邪魔されること無く、彼女はただひたすらに空を目指した。妹と、親友と、幼馴染へとランクアップした親友の弟は、そんな彼女を喜んで支えた。

 そして一年と少しの時を経て、彼女は一つの翼を作り上げる。眼前に広がる無限の蒼穹を自由に飛び回る、人の持つ可能性の翼。単体機能完結型宇宙探査用マルチフォームスーツ。インフィニット・ストラトス。シンプルな白いその装甲をそっと撫でていると、背後から聞き覚えのある声が聞こえて、彼女はゆっくりと振り向いた。

 

「束、また『白騎士』を見ていたのか」

 

 彼女――篠ノ之束がちーちゃんと呼んでいるその声の主、親友である織斑千冬はそう続けた。完成したその翼を、彼女はここ数日飽きることなく眺めていたのだ。自分が、自分の意思で、やりたいように作ったこの存在を、どうして見飽きることがあるのか。そう目の前の親友に熱く語る彼女を見て、千冬は苦笑を浮かべる。分かったから、少しは外に出ろ。そんな彼女の言葉を受けて、しょうがないなとラボの電源を落とした。

 

「そういえば、いっくんと箒ちゃんは?」

 

 親友の弟にして幼馴染、織斑一夏と自身の妹である篠ノ之箒の名前を呟く。千冬がここに来ているということは、あの二人もここに来ているのだろう。そんなことを予想して彼女は言葉を紡いでいた。千冬も彼女がそんな予想をしたことに気付いたのか、ああそうだ、という肯定の一言だけを告げた。

 

「もっとも、お前が昨日と同じ状態だったのを見た時点で道場へと行ってしまったがな」

「おおぅ、何て薄情な幼馴染と妹」

「束、そういうセリフはあの二人の呼び掛けにちゃんと答えてから言え」

「へ?」

「今日はともかく、ここ数日ほとんど無反応だっただろうが」

 

 まだ若干七・八歳の子供にそんな行動を見せてしまえばそうなるのも仕方ない。そう言いたげな表情で千冬は肩を竦める。そんな彼女の指摘で視線を明後日の方向に向けながら、束は誤魔化すように咳払いを一つ。そして、ところで、と半ば強引に話題を変えた。

 

「この天才束さんの作った世紀の大発明、インフィニット・ストラトス略してⅠSは一体どのタイミングで発表するべきだろうね?」

「さあな」

「ちょ!? 反応冷たいよちーちゃん!」

「自分自身を天才と呼ぶ痛い親友に何か言葉を掛けろと?」

「……あ、はい、何か調子乗ってました、すいません」

「分かればいい」

 

 まあ、お前が天才なのはとっくの昔に分かりきっていることだがな。そんな言葉は口に出さずに飲み込んだ。自分自身が恥ずかしいのと、目の前のこの親友が調子付くのが少し気に入らない。そんな思春期の少女らしい子供っぽい理由であった。

 そのまま暫く雑談をしながら千冬自身も通っている篠ノ之の剣術道場へと足を踏み入れる。そこにはまだ幼いながらもしっかりとした姿勢で竹刀を振る二人の少年少女がいた。一夏、と千冬は少年に声を掛け。箒ちゃん、と束は少女に声を掛ける。その言葉に素振りを止めた二人は、先程とは打って変わって年相応の笑顔で彼女達の元へと駆け寄った。

 

「おかえり、千冬姉。束さんはこんにちは」

「おかえりなさい千冬さん。姉さんはこんにちは」

「ああ、ただいま二人共」

「あれ? 束さんの扱い軽くない?」

 

 口ではそう言いつつも、束の表情は満面の笑みである。そこには、天才などという肩書きの関係ない年相応の少女の姿があった。いくら優れていても、彼女は結局まだ思春期の子供なのだ。そして彼女の親友もまた、子供なのだ。

 

 

 

 

 

 

『準備はいい? ちーちゃん』

 

 千冬の脳内に直接響くようなその通信に、彼女は問題ないと返した。時刻はそろそろ正午、場所は某国のロケット発射場、そして千冬は全身が白い装甲に覆われたISを纏っていた。『白騎士』の全身装甲のおかげで外から表情を窺うことは出来ないが、声の調子からすると若干の緊張があるのだろう。束の通信の際のやり取りでそれを感じ取り、少し沈んだ声でごめんねと呟いた。

 

『本当なら私が『白騎士』に乗ってるべきなのに』

「気にするな、私が望んだことだ。第一、これは私の、織斑千冬専用のISなんだろう? だったら私が行かない理由はない」

『ちーちゃん……』

 

 ありがとう、と。謝罪ではなく感謝の言葉を呟いた。千冬は束のその言葉にもう一度気にするなと返すと、真っ直ぐに前を見る。遠目で分かる聳え立つ鉄塔、ロケット。それを打ち出すカタパルトに視線を合わせると、ゆっくりと息を吸い、吐いた。

 

「行くぞ、束」

『うん、行っちゃえ、ちーちゃん!』

 

 その言葉と同時に『白騎士』は空を駆ける。背後の翼が生み出すエネルギーにより、通常の人型大の装置では考えられないスピードでロケット発射場へ近付いていく。警備の人間がその異常な光景に一瞬あっけに取られていたが、そんなことは気にせんとばかりに『白騎士』は飛ぶ。我に返った警備員が取り押さえようと向かってくるが、宇宙の様々な害意を突き進む為に造られたISに生身の人間など相手になるはずもなく。やがて武装した者達が鎮圧の為に現れたが、同じように振り払った。必要以上に痛めつけることはしない。彼女等の目的は人を傷付けることではないからだ。

 

「着いたぞ、束」

『オッケーちーちゃん! んじゃ早速行ってみようか』

「ああ」

 

 カタパルトに足を掛ける。ロケット発射用にあつらえられているそれは、どう考えても人間大である『白騎士』には大き過ぎる滑走路であったが、しかしそんなことは歯牙にも掛けずに着々と準備を進めていく。

 

『ちーちゃん』

「何だ束。発射準備完了までならもうすぐだ」

『そうじゃなくて。……本当に、いいの?』

 

 それは、普段の彼女からは考えられない声。不安に押し潰されそうになっている声。今から行うそれが、本当に成功するか心配で仕方ない。そんな声であった。

 束の発明したインフィニット・ストラトス。今までの汚い大人達の意志の介入しないそれは、清々しいくらいに受け入れられなかった。どれだけ天才でも、どれだけ資産を持っていても、彼女はまだ子供。世迷い事のようなそんな話を聞いているほど、暇ではない。そんな風に一蹴されてしまったのだ。ならばと両親の協力をこぎつけたが、結果は変わらなかった。欲の皮の突っ張っている、汚い大人。それらが持つ社会的地位という説得力には、彼女の両親では足りなかった。大人の汚い面をまた見せ付けられた気がして、彼女の心はまた少しヒビが入った。

 そんなヒビ割れた心を持った彼女の選択した答えが、現在の状況だ。認めてくれないのならば、無理矢理認めさせればいい。百聞は一見にしかず、ISで宇宙に飛び出せば汚い大人達も納得するはずだ。そんな子供染みた発想で起こした行動だった。勢いで進めた作戦だった。

 だから、いざという時になって、無性に不安になってしまったのだ。

 

「何を言ってるんだお前は」

 

 だが、そんな束の不安を千冬は斬って捨てる。最初から不安などないとばかりに言葉を続ける。

 何せ、今自分が纏っているこの鎧は天才の作った世紀の大発明なのだから。

 

『ぷっ、何さそれ』

「ははっ、お前のセリフだ」

 

 そうして二人で笑い合う。その笑いが収まったのと同時に、準備を終えた『白騎士』はブースターを吹かした。全力で飛び、目の前に無限に広がる蒼穹を越える。そうすることで、この翼が飾りでないことを証明出来る。

 

「行くぞ、束!」

『行けぇ! ちーちゃん!』

 

 純白の騎士の姿をした可能性の翼は、その日、新たな世界を形作った。

 

 

 

 

 

 

 『白騎士』が宇宙へ飛び出し、千冬が肉眼で地球の青さを再確認したその日から、世界の話題はIS一色になった。各国の権力者はこぞってその技術を身に付けようと束とコンタクトを取り、そこに付け加えられる製法を模索していく。それこそ正に彼女が望んだ光景であった。自分自身の作ったこの翼を自分とその仲間とで認めさせた。そのことが、彼女はこれ以上なく誇らしかった。

 ある人間の一言を聞くまでは。

 

「……え? それは、どういう……?」

 

 束はその人物の発言の意味を理解することが出来なかった。正確には、それを理解することを拒んだ。それほどまでに、その言葉は彼女の心を抉ったのだ。

 こんな素晴らしい兵器を作り出してくれて感謝します。ある国の権力者の使いの者は、実ににこやかな笑顔でそうのたまった。人間一人の単体装備としては破格の力を持つパワードスーツ、それが今まで技術提供を求めてきた者達の認識だったのだ。だから、各国の研究は宇宙に飛び出すことなど二の次で、いかにして強力な武器を装備するか、いかにして相手を殺傷する力を身に付けるか、そんなことに注力していたのだ。

 自分が認められたと思い込んでいた彼女は舞い上がっており、提供した技術がどうなっているかなど調べもしなかった。あるいは、ヒビ割れていた彼女の心が傷付かないように無意識に避けていたのかもしれない。どちらにせよ、もう遅い。彼女は知ってしまったのだ、自分の作り上げた翼は、決して認められてなどいなかったことに。

 

「は、はははは……何だ、全部、私の空回り、か……」

 

 逃げるようにラボへと駆け込み扉に鍵を掛ける。周りに人の気配がないことを確認した束は、床にへたり込むと虚ろな表情で乾いた笑いを浮かべた。もう誰も信じたくなくなった。もう人など見たくなくなった。

 彼女の心は、ここで壊れた。

 それからの彼女は酷いものであった。生気の抜けた顔で、無表情のまま淡々と事務的な受け答えを続ける毎日。ISに必要なコアの製造技術も何もかもあっさりと提供し、もはや自暴自棄になっているとさえ思われた。幸いにして、各国の大企業が総力を挙げても彼女の作ったISコアに届くものは作れず、擬似ISコアと呼ぶべき代物が限界ではあったが、しかしそれでもISとしての機能を果たせる代物は爆発的に普及していった。各国の軍備にISが用いられるのも時間の問題、そんなことまで囁かれるようになっていった。

 そんな情勢を、間接的とはいえ引き起こした張本人である束は興味なさげに眺めていた。こんな世界がどうなろうと関係ない、そう言いたげな瞳は光を映していない。最近では人間の区別をつけるのも面倒になってきた彼女は、人を人と認識することを諦めた。有象無象の集まりが何かを言っている。束にとって今の世界はそんなものでしかなかった。だから、最終的に人前で何かをすることすらなくなった。電話か、パソコンによるやり取り。そうすることで誰とも顔を合わせることのないように彼女は過ごした。

 そのまま彼女が外界に出なくなって半年ほど経った頃。彼女の世界で認識している人間は自分一人だけになった頃。気紛れでラボを出て月明かりが照らす庭を目的もなく歩いていた時である。ふと、何かがぶつかるような音を聞いた。それだけならば別段興味を持つことも無かったが、それが断続的に響いていたことが彼女は少しだけ気になった。こんな時間に、こんな場所で何をやっているのだろうか。響く音は戦闘を想像させる激しいもので、そのまま音の発生源に行けば何かしら巻き込まれることは想像に難くない。いっそ巻き込まれて死んでしまおうか、そんなことまで思い浮かべながら、彼女は月明かりの道を歩く。

 やがてその音の主を発見した時、思わず彼女は声を挙げた。能面のような顔に、驚愕の表情が浮かんだ。それは、実に半年振りに彼女が人間らしい姿を見せたものであった。

 束にそうさせた張本人である音の主は、そんなことは露知らず上空で一体の影と相対する。影はIS、純正ではない擬似ISコアを使った量産機のようであったが、しかしその能力は普通の人間ではとても太刀打ち出来るものではない。それでも音の主は真っ直ぐにそのISを睨む。上空で相対しているということは当然音の主もISを纏っている者であり、そういう意味では条件は五分に見えた。

 だが、それは間違いである。音の主の纏っているISは傍から見てもボロボロの状態であり、ちゃんとしたメンテナンスを受けていないことは明白であった。全身を覆っているべき装甲は所々剥がれ、本来頭部全てを覆っていると思われるそこは四分の一ほどが消失して搭乗者の顔が剥き出しになっている。そして手にしているのは近接用のブレードが一本。対する相手のISは部分装甲であるものの万全の状態であり、そして多数の武装を持っていた。この戦いの天秤はどちらに傾くか、など問うまでもないであろうと思われるほどの、歴然とした差であった。

 しかし、束の反応した部分はそこではない。ISの状況ではなく、そのISそのものに彼女は反応したのだ。

 『白騎士』。満身創痍の状態で近接ブレード一本を構えて敵ISに突っ込んでいくそのISは、紛れも無く束が最初に作った可能性の翼。そして、壊れた頭部装甲から見えるその顔は、いつの間にか自分の世界から弾いていたかつての親友。

 

「ちー……ちゃん?」

 

 ぽつりと、束はその名前を呟く。そういえばそんな親友がいた。いつの間にか自分が世界から外れていったことで忘れ去っていた、大切な仲間。それが、何故こんな場所で、ボロボロの『白騎士』を纏って戦闘を行っているのか。何故、宇宙へ飛ぶための翼を戦闘に使っているのか。結局お前も、他の人間と同じなのか。そんなことが頭をグルグルと回っていたが、それは空から聞こえてくる言葉で掻き消された。

 

「束には、指一本触れさせん!」

「え?」

 

 それはどういうことなのか。千冬が戦っていることと、自分と、一体何の関係があるというのか。目を凝らすように『白騎士』を見ると、決意の表情でブレードを振り被っているのが見えた。その気迫に圧されるように敵ISは少しだけ後退するが、すぐに我に返ると右手の射撃武装を放つ。『白騎士』は回避行動を取るが、避け切れなかった弾が腕を掠め装甲版が少し弾け飛んだ。

 

「ちーちゃん……!」

 

 だがその程度のダメージなど気にせんとばかりに距離を詰め、手にしているブレードで敵ISの装甲を切り裂く。戦闘行為に支障はないとはいえ、決して小さくは無い傷が敵ISに刻まれた。パイロットは歯噛みすると、両手の射撃武装を一斉に放ち弾幕を作る。予測していたのか既に距離を取っていた『白騎士』はそれを避け、再び距離を詰めんと前傾姿勢を取った。

 

「千冬さんは、ああやってずっと姉さんを守ってるんです」

 

 背後から聞こえてきた声に振り向くと、幼いながらにしっかりとしている妹の姿が目に入った。そういえば彼女のことも自分の世界から外していた、そんなことを思いながら束は彼女の名前を呼ぶ。箒ちゃん、と。

 

「あ、束さんこんなとこにいた。探したんだぜ」

 

 そして箒の後ろから現れるもう一人。自身の妹と同い年で、親友の弟である幼馴染。そして二人と同様に忘れ去っていた少年。

 

「……いっくん。探してたって?」

「え? そりゃ束さんを狙ってくる悪い奴等がいるからそいつらから守る為――」

「一夏」

「あ、やべ」

「私を狙う、悪い奴?」

 

 どういうことなのだろうか。箒が現れた時も千冬がずっと守っていたと言っていたが、その言葉にいまいちピンと来ない束は二人に尋ねた。自身も口を滑らせていたことを指摘された箒は一夏の視線を意図的に無視しつつ口を開く。まだ小学生である彼女が自分で分かっていることを、話す。

 

「悪い国が、姉さんを戦争の道具にしようとしてるんです」

「だから千冬姉が敵をやっつけて、俺達で束さんのボディーガードをやってるんだ」

 

 箒の言葉に付け足すようにそう告げた一夏は笑った。そんな短い言葉であったが、しかしそれは束の心を揺さぶるには充分で。

 

「……いつから? いつからこんなことを?」

「結構前です」

「アバウト!?」

 

 小学生の感覚ではそんなものかもしれない、と結論付けた束は、もう一度戦っている『白騎士』を見る。一日二日ではああはならない。恐らく自分が世界から引き篭もったあの日から、彼女はずっとああやって剣を振るってくれたのだろう。自分に何も危害が加えられないように、ずっと。そう思うと、無性に嬉しくなった。そして、勝手に落ち込んで絶望していた自分が情けなくなった。

 

「『白騎士』は宇宙に飛ぶ為のISだから、向こうみたいに戦闘用のISと戦うなんて無茶なのに……」

 

 それでも、千冬は戦ったのだ。諦めずに、無茶を通したのだ。宇宙空間での作業用に用意されていたブレード一本で、戦闘用の機体を打ち破ってきたのだ。ボロボロになり続けて尚、親友の為に戦ったのだ。

 

「束は――」

 

 背中のスラスターにエネルギーを圧縮、一気に打ち出すことで爆発的な速度を生み出す。千冬が自分で編み出した特殊な加速法、それを使い一瞬で距離を詰めた『白騎士』は、敵ISが反応するよりもずっと早くその刃を振り抜く。

 

「私が守るんだ!」

 

 致命の一撃を食らった敵ISは戦闘続行どころかパイロットの意識も吹き飛ばし、そのままゆっくりと地面に落下していった。生体保護機能が備わっているはずなので死んではいないだろうが、多少の怪我くらいは免れまい。そんな光景を見ていた箒と一夏は慣れた手付きで携帯を操作するとどこかに電話を掛けていた。どうやら相手は警察のようで、先程の相手を連行してもらうつもりらしい。

 

「束」

 

 気付くと、彼女の目の前に先程戦っていた『白騎士』が立っていた。傍らにはISを奪い縄で捕縛した先程の敵パイロットの姿も見える。

 

「何だ、引き篭もりは卒業か?」

「ちーちゃん……」

「酷い顔だな。そこそこ整った顔なのに台無しだぞ」

「ち、ちーちゃんこそ……傷だらけ、じゃない」

 

 ISを解除した千冬の体は、目に見えるほどの傷で一杯だった。碌に修理もしていない、戦闘用でもない機体で戦い続けたのだ。その肉体に掛かる負担はどれほどか。

 だがそれでも、千冬はそんなことかと言わんばかりに笑顔を見せた。大したことはないと笑ってみせた。

 

「お前が守れるなら、このくらい何てことはない」

「……何で? 何でそんなこと言えるの? こんな、親友も妹も忘れて引き篭もってた人間を、どうしてそんな風に守れるの!?」

「どうしてって……お前も今言ったじゃないか」

 

 親友だからだ。迷い無くそう言い切った千冬を見て、束は視界が滲んでいくのを感じた。それは自分が泣いているからだと気付いたのは、千冬に抱き締められ頭を撫でられて、泣くな、と言われたからだ。そして自覚してしまえば、堰を切ったように涙が後から後から溢れ出し自分では止められない。叫ぶように声を挙げ、束はひたすら泣き続けた。そんな彼女に、千冬は気の済むまで胸を貸した。声が嗄れるまで、半年間の自分が全て流れ出るまで、彼女は泣き続けた。

 その翌日、憑き物が落ちたように晴れ晴れとした顔で各国にチャンネルを繋いだ束は、しゃがれた声で熱弁を振るった。ISを戦争の道具として使うことを認めない、間接的にそれに手を貸した自分の責任も合わせ、その為に自身は全力を尽くす。ただの天才小娘から世界的な天災に生まれ変わった彼女は、はっきりとそう宣言した。

 そして翌年、彼女はISによる直接的な戦争行為を禁止することを第一条とした『アラスカ条約』を締結。結果として各国のIS開発による冷戦を促すに等しいものではあったものの、これにより全面戦争が行われることは避けられることとなった。混迷を極めたこの二年間に、ようやく終止符が打たれたのだ。

 ここからISは戦闘兵器としての側面を大きく持ちつつも、別の分野でも活躍する文字通りのマルチフォームスーツとして進化していくこととなる。

 

 

 

 

 

 

 後に私設IS組織『しののの』を作ることとなる女性、篠ノ之束はこの時の話を思い出してこう語る。

 

「生まれ変わった? 違うよ、私は大事な大事な人に、作り直してもらったんだ」

 




こんな感じで始まります。既に原作の事件ガン無視です。
これからもこんな感じです。

……ISなんだろうか、これ。

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