ISDOO   作:負け狐

20 / 41
二巻の山場、学年別タッグトーナメント開始です。

オリジナル武装が激しく出てきます、ご注意ください。


No19 「楽しんでいこうよ」

 中間考査の終わったIS学園はにわかに活気付いてくる。それもそのはず、一学期の最大イベントともいえる学年別トーナメントが開催されるからだ。生徒会は右へ左へとてんてこ舞いであるし、一般の生徒も準備に駆り出され、それこそ全校生徒全員に何かしらの役職が付いて回るほどだ。

 そんな大わらわな準備期間も終わり。大会当日を迎えた生徒達は、皆気合充分の眼をしてそれぞれの機体を身に纏う。目指すは誰もが優勝、勝利を掴む為に今日まで特訓を重ねたのだから。

 そんな生徒達に混じって、何故かテンションの物凄く低い少女が一人。普段はのほほんとした態度を崩さない彼女が、世界も終わりかといった勢いで落ち込んでいた。ちなみに随分と前からである。

 

「もう、世界滅ばないかな~」

「物騒だなおい」

 

 クラスごとに割り当てられている控え室の一角で、その少女、布仏本音はそう呟いた。思わず一夏はそうツッコミを入れるが、しかしそれに反応することなく彼女は溜息を吐き続けている。

 それを見た一夏はどうしたもんかと頭を掻いた。もう一週間以上これである。大体中間考査が始まる直前辺りだったからそのくらいだったはず、と思い出しながらそんなことを思っていると、同じようにどうしたものかと考え込んでいるいつもの一行と、それを見守るクラスの面々の顔が見えた。何をやっても元に戻らない本音にどうやら皆お手上げのようで、後は任せたと言わんばかりに視線を向けている。任されても困ると思いながらも、とりあえず一夏は隣を見た。

 

「どうしたもんかな」

「補習を受けるか、期末に気合を入れるかだな」

「俺の中間テストのことはどうでもいいんだよ! いや、よくないけど」

「というよりもその答えで自分の中間考査のことだと思ってしまう一夏さんも一夏さんなのでは……」

「何だ織斑一夏、お前は馬鹿だったのか」

「歯に衣着せろよドイツ人!」

 

 ああこれはもう駄目だと癒子とナギは思った。恐らく本音をどうにかしようという考えは頭から抜け落ちているだろう、そう考えた二人はどうしようかと頭を悩ませ。

 そして何も浮かばないことに絶望した。

 

「まあ、思い付く事全部やってるもんね」

「せめて理由が分かればなぁ」

 

 どうせ簪関係だろうけど。半ば確信を持ってそう断言している二人だが、生憎答え合わせをしてくれる人物があれなのでどうしようもない。これはいよいよもって駄目か、自分達も見守る組に入ろうかなどと考えていたその時である。

 座ったまま項垂れていた本音が動いた。そろそろ出番だし、と羽織っていたパーカーをのろのろと脱ぎ捨てる。普段よりも倍以上掛かっていそうな動きでそれを行うと、幽鬼のような足取りで扉まで歩いていった。その姿は、このまま試合を始めさせてはいけないと誰もが思う姿で。

 

「……そんな調子じゃ、更識さんは一回戦負けだな」

 

 その言葉に足を止めて振り返った。視線の先には、明らかに見下す目で一夏が仁王立ちをしている。そのまま大げさな動きで肩を竦めると、まああの娘の実力はそんなもんだろと続けた。

 

「――何? かんちゃんを馬鹿にしてるの?」

 

 普段の彼女とは思えない底冷えした声。その目は鋭く、人懐っこさを覚えていたものとは真逆の様相を帯びていた。彼女を知っているならば思わず動きを止めてしまいそうなその変わり様に、しかし一夏は動じた様子もなく言葉を続けた。

 

「別に。本当のことだろ? パートナーの連携も上手く出来なさそうな奴じゃ、一回戦で負けちまうのが関の山だ」

「それ以上言うなら、おりむーでも怒るよ」

「ん? 何だ気に障ったのか? だらしない代表候補生のパートナーさん」

 

 パァンと乾いた音が響いた。一夏の首は右に弾かれており、その目の前には右手を振り切った本音がいる。その表情は憤怒で満ち溢れており、仲の良いクラスメイトを見るような目ではなく、嫌悪するべき敵を見るような目付きで睨んでいた。

 

「ふざけないで。かんちゃんを、私の親友を馬鹿にしないで!」

「……馬鹿にしたら、どうなるんだ?」

 

 それでも一夏は態度を改めない。あくまで相手を馬鹿にした調子を崩さない。それが本音にはたまらなく癇に障り、思わずもう一度右手に力を込めた。

 

「……なら、見せてあげるよ」

「ん?」

「私が、かんちゃんが強いって、証明してあげるよ!」

 

 真っ直ぐに彼の目を見て彼女はそう宣言した。一夏はその言葉を待っていたとばかりにニヤリと笑い、じゃあ期待してるぜと返す。ふん、と鼻を鳴らすと、本音はそのまま勢い良く扉を開いて飛び出していった。

 そのまま自動で閉まるドアと立っている一夏を交互に見ていたクラスの面々は、どうしたものかと皆無言で佇む。

 

「ないわー、マジないわー」

「何だよその口調は」

「ん? 気に入らなかったか」

「それを気に入ると思っているお前にビックリだよ」

「そうか? だってお前」

 

 あんな三流チンピラの芝居してたじゃないか。そう言うと箒は口角を上げる。その言葉を聞いた他の面々は、薄々勘付いてはいたけどやっぱりそうだったかと安堵の息を漏らした。もしあれが本性だったらどうしようかと少しだけ心配していたのだ。

 

「気合を入れるにしても、もう少し何か方法あるだろうに」

「咄嗟に思い付かなかったんだよ。悪役を用意するのが一番手っ取り早いかなって思ったんだよ」

「まあ、確かに効果は抜群だったな」

 

 きっと普段であればすぐに見破りノリで返したであろう彼女が、本気でその挑発に乗ってしまった。恐らくあれならば一回戦で負けてしまうなどということはないだろう。それは確かに喜ばしいことかもしれないが、と箒は続ける。お前の好感度ダダ下がりだぞ。そう言うと肩を竦めた。

 

「……今更女子の一人や二人に嫌われたところで、関係ないし。関係、ないし!」

「思い切り傷付いていますわね」

「矢張り馬鹿なんだな」

 

 セシリアとラウラの呆れたような声が、彼の心には非常に痛かった。

 

 

 

 

 

 

 更識簪は戸惑っていた。普段のほほんとしている幼馴染が、何故かこれ以上無いくらい好戦的だったからだ。とりあえず一回戦の相手を血祭りに上げるよ、と感情の見えない顔で言われ、彼女は思わず目を見開く。本当に彼女は自分の知っている本音なのだろうか。思わずそんなことまで頭に浮かべた。

 

「ほ、本音?」

「何? かんちゃん」

「ど、どうした、の?」

 

 簪の質問に、本音は何がと訊ね返した。それは言外に自分には何も無いと言っていて、そして聞いた側にはどう考えても何かあっただろうと思わせる行動であった。勿論簪はそのことを理解し、しかしこれは聞いても無駄だと話を打ち切った。

 恐らくクラスで何かあったのだろうということは予想出来る。だが、あのクラスでこんな風に彼女が怒ることが果たしてありえるのだろうか。そう考えると、どうにも答えが出てこない。

 ただ、もしやるとしたら。

 

「織斑君、かな……」

「かんちゃん、あんな奴の名前なんか呼んじゃ駄目だよ」

 

 あ、ドンピシャだ。言葉には出さなかったが、思わず彼女はそう呟いた。どうやらまた一夏が何かやらかしたらしい、ということを悟った簪は、まあそういうことなら仕方ないかと諦めることにした。あの男のやることを一々気にしていてはきりがない。流石に箒達のようにそこまで達観は出来ていないが、それでも何となく彼との付き合い方を身に付けてきた彼女は、おおよそ似たようなことを考えていた。

 何にせよ、本音が気合を入れてくれているのならば願ったり叶ったりだ。あの練習の時以来どうも彼女は落ち込んでいて上の空だったので心配であったが、これならばいける。そう結論付け簪は前を見た。

 

「……どっちみち、あの時は私が悪い、から」

 

 隣の本音に聞こえないように呟く。幼馴染で親友で、そんな彼女のことは一番分かっていると豪語した割に、彼女が自分のISで訓練しなかったことを気に掛けず、それを気にした姉に全部持っていかれた。結局はただ、それだけなのだ。自分が悪い、ただ、それだけ。姉はちょっとだけ悪いかもしれないが。

 だというのに彼女はそれを自分の所為だと責めて、落ち込んで。それを見た自分は余計にへそを曲げてしまって。結局その繰り返しで、今日まで来てしまっていた。

 

「よし、決めた」

 

 この試合が終わったら、本音に謝ろう。そう決意して、簪は出撃用のカタパルトに足を掛けた。隣では本音も準備を整えている。普段の彼女らしくないその表情を見て、ちょっとだけやりすぎじゃないかと一夏を責めた。

 

「本音」

「何?」

「……どうせなら、楽しんでいこうよ」

 

 そう言って笑顔を見せた簪を見て、本音は思わず表情を歪めた。怒りが霧散していったように、吊り上げられていた眉尻が下がる。大きく溜息を吐くと、やれやれと言わんばかりに首を横に振った。

 

「しょうがないな~、かんちゃんは」

「うん、しょうがないよ。……だから、ちゃんと私の、お目付け役でいてね」

「……うん! まかされたよ~!」

 

 そんな会話をした辺りで、出撃ですというアナウンスが入った。いくよ、と隣の本音に伝えると、了解、と元気な声が返される。

 ハッチが開き、アリーナが見えた。後は揃って飛び出すだけ。

 

「……更識簪。『打鉄弐式』、行き、ます!」

「布仏本音。『打鉄改』、しゅっぱ~つ!」

 

 水色の機体と狐色の機体が、空を舞う。

 

 

 

 

「お、出てきたぞ」

 

 生徒用観客席まで出てきた一夏は飛び出した二人を見てそんな声を挙げた。その隣には箒とラウラ、シャルルがいる。試合がまだの生徒達はここでのんびりと見ていることは少なく、実際癒子とナギは呑気に観戦していられる状態じゃないと断られ、セシリアと鈴音は試合が近いので機体の準備に行ってしまった。まだ試合をしていない四人がここにいるのは、余裕の表れか、それとも。

 

「いいの? 一夏、機体のメンテナンスとか最終調整とかしておかなくて」

「ん? まあ、大丈夫だろ。試合始まってみたらトラブルありました、とかそんなことそうそう無いって」

「だといいんだけど」

 

 シャルルはそう言って苦笑したが、一夏は何処吹く風で現在戦闘を始めている簪と本音を応援している。まったく、単純だな。そう頭の中だけで呟くと、彼と同じように視線をアリーナへと向けた。

 二人の対戦相手は一般機の『打鉄』と『ラファール・リヴァイヴ』のコンビである。しっかりと連取をしてきたのだろう、その動きは危なげなく、未熟ながらも芯を一直線に保とうとしていた。相手の『打鉄』は近接ブレードを、『ラファール・リヴァイヴ』はハンドガンをそれぞれ持ち、役目をきっちりと分けての連携に重視を置いている。

 対する簪と本音は、特にそのことを決めていないのか、簪が『打鉄弐式』の荷電粒子砲を構え、本音がハンドガンを構え横に並んでいた。

 相手に比べると何ともお粗末に見えるが、果たして。そんな感想を抱いたラウラは、隣の箒に視線を向ける。どうした、と言う言葉に、あれはどうなんだと訊ねた。

 

「何も考えていないようだな」

「大丈夫なのか? あの二人、専用機とカスタム機の組み合わせだぞ。耐久値は相当落ちているはずだが」

「さて、それはまあ」

 

 見てみないと分からないな。そう言って笑う箒に、ラウラもそうだなと返した。

 

「行くよ……!」

「りょ~かい!」

 

 試合が始まる。先手必勝とばかりに射撃を放ってきた相手から離れるようにスラスターを吹かした二人は、お返しだと射撃を放った。簪の荷電粒子砲『春雷』が空を裂き、相手にその牙を向ける。させない、と『打鉄』のシールドで防御した一人は、そのまま真っ直ぐに突っ込んできた。迎撃の為に『春雷』を放つが、『打鉄』の防御力とコスト制の恩恵を受けた耐久値をフルに使い強引に間合いを詰める。

 しまった、そう思った時には既に相手は刀を振り被っており。

 

「え!?」

 

 甲高い音が響いた。それは相手の近接ブレードが『打鉄弐式』を切り裂いた音ではなく、巨大な何かに斬撃が阻まれた音。狐色に塗装されたそれは、ISの全長と同じかそれ以上の大きさを誇る盾であった。それが、簪の前の前に展開されたのだ。

 

「大丈夫? かんちゃん」

「うん。……ありがとう、助かった」

「えへへ~」

 

 相手の女生徒は視線を簪の背後に向ける。攻撃を弾いたのは狐色に塗装された『打鉄改』、布仏本音の装備のようで、自慢げに胸を張っているのが見えた。短く舌打ちし、しかし攻撃の手を休めずにもう一度ブレードを振るう。同時にパートナーに援護を要請していた。

 

「本音!」

「おまかせ!」

 

 『打鉄改』が前に飛び出した。斬撃を放っている女生徒は無視し、一気に『ラファール・リヴァイヴ』へと突っ込んでいく。奇しくも先程自分の相方が行った行動を展開され、少しだけ反応が遅れた。だが、あくまで少しだ。『ラファール・リヴァイヴ』を纏った少女はハンドガンの他にアサルトカノンを取り出し連射する。『春雷』程とはいかなくとも、ダメージは免れない。そう確信していた彼女は、突っ込んでくる機体を見て目を見開いた。

 簪の前に展開していたものと同じ、巨大な盾。それが彼女を覆うように展開されていたのだ。ハンドガンもアサルトカノンも、その盾に全て弾かれ届かない。

 

「ふっふっふ~。これぞ布仏本音の専用装備、その名も――」

 

 巨大な盾を構えたそれが、勢いを弱めることなく突っ込んでくる。思わず射撃を闇雲に放ったが、無駄。一直線に向かってくる狐色の、巨大な盾六つに覆われた塊を止められない。

 

「完全防御兵装、『葛の葉』!」

 

 衝撃が彼女の体全体に走った。何の小細工も無い突進、だがその威力は折り紙付きだ。射撃を全く通さない硬さを持ったものが突っ込んできたのだ、推して知るべし。その衝撃はアリーナの中心部で吹き飛び、壁にぶつかってようやく止まるほどだ。肺の空気が押し出され、視界が一瞬暗くなった。

 何が完全防御だ、思い切り攻撃しているじゃないか。そんな悪態を吐きつつ顔を上げた。そこにはハンドガンを構えた本音の姿が見える。どうやら止めを刺す気らしい。そうはいくかとスラスターを吹かし、その場から回避。『打鉄弐式』と斬り合っているパートナーの下へと飛んだ。

 近接武装の薙刀『夢現』を振り被っている簪に射撃を放ち攻撃の邪魔をすると、こちらに意識を誘導させる為に派手に弾をばら撒く。簪が視線をこちらに向けたのを確認し、円を描くように位置をずらした。相手は自分に射撃武装を向けている。これならば、相手の一撃が届く。

 そう確信していた彼女に向かい、簪は一直線に突っ込んでくる。背後は完全に無防備、それを分かっているのか『打鉄』の少女はそれに追い付き近接ブレードを振るった。背中から袈裟切りにするそれは、しかしまたしても甲高い音と共に弾かれた。

 簪は後ろを振り返らない。それは、気付いていないのではなくそうする必要が無いと思ったから。自分のパートナーが、絶対に防いでくれると確信していたから。

 『夢現』を振るった。相手の射撃武装を切り裂き、バランスを崩したところに二門の『春雷』を腰にマウントし、放つ。閃光が少女に撃ち込まれ、後方へと吹き飛んだ。だが、それでもまだシールドエネルギーは残っているようで、空中で体勢を立て直して別の射撃武装を取り出していた。簪はそれを見て、本音、と自身のパートナーを呼ぶ。

 

「はいは~い」

「足止め、よろしく」

「おうともさ~」

 

 それだけで何をするのか分かったのか、本音はすぐに行動を開始した。全部で八枚ある『葛の葉』、その内二枚を簪の防御用に回していたが、それを全て自身に戻す。その光景を見てチャンスだと簪に向かう二人に狙いを定め、四枚ずつ『葛の葉』を射出した。二人の目の前に出現した四枚の巨大な盾は、文字通り全てを塞いでいる。視界も、進行ルートもだ。ぐるぐると二人の周囲を回る『葛の葉』を見て勝ち誇ったように本音は笑い、後は任せたよかんちゃんと後ろに下がった。

 『打鉄弐式』のウィングバインダーが変形し、そこに隠されていた砲門が姿を現す。六つの砲門が相手をロックし、簪の眼鏡上のディスプレイに表示が浮かぶ。準備完了、後は放つだけ。

 

「本音、解除」

「りょ~かい」

 

 『葛の葉』が二人の周囲から消える。それと同時に、『打鉄弐式』の六つの砲門が火を噴いた。マルチロックオンシステムによる四十八発のミサイル。クラス対抗戦で一夏を苦しめた八連装ミサイルポッド。彼女達を敗北に導くそれの名は。

 

「穿て、『山嵐』!」

 

 爆音が響き渡り、試合終了のブザーが鳴り響いた。

 

 

 

 

 なんじゃあれ、と一夏が呟いた。あれ、と一夏が差しているのは『山嵐』ではない。本音の使っていた『葛の葉』だ。完全防御兵装の名は伊達ではないらしく、試合を見る限りほぼ全ての攻撃をシャットアウトしていた。

 

「反則だろあれ……」

「まあ確かに、あれを見る限りでは突破口は思い付かんな」

 

 呟く一夏に箒はそう返したが、逆に彼に嘘を吐くなと睨まれた。お前はどうとでも出来るじゃないか、というその叫びに、シャルルとラウラは首を傾げる。知っている限り、彼女にあれをどうこう出来るような要素は見当たらなかったのだが、と。

 

「そうでもないだろう。いくら『玉兎』でもあの盾を破壊するほどのパワーは」

「展開する前にぶっ飛ばせばいいだろうが。惚けんな!」

「おお、その手が」

「素かよ!」

 

 一夏と箒のやり取りの続きを聞いていたが、二人はやはり分からない。そもそも『玉兎』とは一体何なのか。そこまで考えたところで、シャルルは何か分かったように手を叩いた。成程、そういうことかと呟いている。

 

「ん? どうしたシャルル」

「いや、ちょっとしたことだよ。『玉兎』っていうのが、篠ノ之さんの『紅椿』が持つ第三世代兵装だね」

 

 その言葉に、ラウラも成程と合点が行ったように頷いた。箒はああ、ばれたかと苦笑して一夏を睨む。お前の所為だぞ、と。

 別に名前しか分からないだろうに、と一夏は反論したが、じゃあこれで終わりに出来るのかという彼女の言葉に口を噤んだ。確かにシャルルもラウラも明らかに話の続きを待っている。ここでじゃあこの話はお仕舞いだ、と言える雰囲気ではなかった。

 

「と、言ってもなぁ」

「ああ、そういえば説明がしにくいとか言ってたっけ」

「そうそう。だから無理なんだよ、うんうん」

 

 わざとらしくそう言った一夏に対し、シャルルはしょうがないなと苦笑で返した。ラウラは若干不満そうであったが、箒はパートナーであり敵ではないからと思い直し、同じように仕方ないなと返した。

 良かった、この二人で。ここにいない二人を頭に浮かべながら、一夏はそう心の中で呟いた。

 

「てかそうじゃなくて、問題はのほほんさんのあれだろあれ」

 

 話を元に戻すように一夏が声を張り上げる。どうやったらあれを突破出来るのか、そういう話になるはずだったのだ。そんなようなことを言いながら三人を見た。

 

「見る限り、相当頑丈な盾みたいだね」

 

 先程の戦いを思い出しながらシャルルは述べる。斬撃も射撃も通さないあの防御力は驚嘆に値する。頷きながらラウラもそう述べた。

 それに対し、箒は違う感想を持ったらしく問題はそっちではないと述べた。どういうことだと一夏が聞くと、思い出せと、彼女は続けた。

 

「あれは相手にも放っていた。自身と味方の防御だけではなく、相手の拘束を行うことも出来るのだぞ」

「へ?」

 

 分かっていないのか首を傾げる一夏に対し、シャルルとラウラはそういえば、と何かを考え込むような仕草を取った。一人取り残された彼は箒に視線だけで救援を求める。やれやれ、とこれまた視線だけで答えると、彼女はこほんと咳払いを一つした。

 

「勿論あれは自身の周囲に展開することで攻撃を防ぐのが本来の役割だろう。だが、それとは別に、敵の周囲に展開させることによって動きを封じる用途にも使える」

「ああ、あの最後にやってたやつ? あれってどういうことなんだ?」

「斬撃や射撃を防ぐ盾が目の前に、自分の意思ではなく展開されていたら。自分の攻撃はその盾が全て受け止めるとしたら、どうする?」

「どうするって、そりゃ、何も出来ない――」

 

 言いかけて、成程そういうことかと手を叩いた。確かにそれは厄介だ、そう続けて表情をげんなりさせたものに変えた。やっぱり反則だろあれ、とブツブツ文句を言っている。

 

「まあ、通常の一対一の試合ではあまり役に立たないだろうがな」

「まあ、そうだろうね」

 

 ラウラの言葉にシャルルが頷く。そして再びどういうことだと一夏が問うた。そんな彼の態度に、お前は少し考えるということをしないのかとラウラが肩を竦める。どうせ俺は馬鹿ですよ、と拗ねたように顔を逸らした。

 

「子供だな」

「子供だ」

「ノーコメントで」

「やかましいわ!」

 

 しょうがない、子供の織斑一夏の為に教えてやろうとラウラは彼を鼻で笑う。その態度が無性に気に入らなかった一夏は一人拳を振るわせた。

 ついでに箒に本当のことだろうと止めを刺された。

 

「防御と拘束、これでは勝てん」

「あ、そうか」

「負けはしないんだろうけどね」

 

 攻撃手段ではないこの武装は、相手に勝つことを目的としていない。答えは非常に単純であった。何故それに気付かないと思わず一夏が頭を抱えてしまうほどに。シャルルが苦笑するように入れる補足を聞きつつ、彼はぐったりと項垂れた。

 

「そんなことだから中間が赤点なのだ」

「テストは関係ねぇだろテストは! っていうか誰が赤点だ!」

「違うのか?」

「違う! 多分半分ぐらいはやれてるといいなと思ってるっつの!」

「……」

「デュノア、思っていることははっきり言った方がいいと私は思うぞ」

「確かにそうだな。おい織斑一夏、お前は馬鹿だ」

「それさっきも聞いたっての! 後お前は言いたいこといつもはっきり言ってんじゃねぇかよ!」

 

 観客席で騒ぐこの四人は、教員が止めに来るまで暫く続いたそうな。

 

 

 

 

 

 

「更識さん達は順当に勝ちあがったようですわね」

 

 ピットのモニターを見ながら、セシリアはそう呟いた。横では鈴音がそうね、と言いながら自身の機体を眺めている。それを横目で見ながら、まだ不安なのですか、と彼女は訊ねた。

 

「あったりまえじゃない。特訓はしたけど、いざ本番となったらどうしてもそう思っちゃうのよ」

「確かに、そうですわね」

 

 自身の機体、『ブルー・ティアーズ』を眺めながらセシリアもそう呟く。普段の彼女らしくないその声と同じように、彼女が見詰める機体もまた『らしく』ない。射撃武装らしい武装のないそれは、『ブルー・ティアーズ』の近接戦闘用パッケージを装備した姿だ。増設された背中のスラスターがある代わりに背部ユニットを撤廃、BT兵器は左手の盾に収納され、腰のミサイルタイプのBT兵器は取り外されている。申し訳程度に射撃能力のある主武装のバスタードソードが、機体の右腕に握り込まれていた。

 

「わたくしも、これでどれだけいけるか。不安ではないと言えば、嘘になりますわ」

「やっぱそうよねぇ」

 

 言いながら鈴音も自身の機体を見る。射撃戦用パッケージに換装された『甲龍』は背部ユニットの衝撃砲がその形を変え取り回しの良い小型になっており、その代わりに腰や背部には射撃武装が多数マウントされていた。収納領域にあるものを合わせればその数は十を優に超える。『双天牙月』が残っているので格闘戦も出来るのだろうが、武装から考えれば明らかに射撃を主体に調整されていた。

 

「今からでも元に、って遅いのよねぇ」

「試合、もうすぐですわよ」

 

 今行っているものが終われば次は彼女達の番である。今更機体を通常用に戻して、などと悠長なことをやっている余裕などは無い。このまま行く以外に選択肢は無いのだ。

 まあ、覚悟を決めるしかないですわね、とセシリアは笑う。対照的に鈴音は肩を落とし溜息を吐いた。そう簡単に出来れば苦労しないっての。そう言いながら自分の相棒を軽く小突いた。

 

「ま、でもそうよね。こうなったら開き直るしかないか」

「そういうことですわ」

 

 言いながら鈴音は笑った。セシリアもそれに同意して微笑んだ。

 アリーナから歓声が聞こえる。どうやら試合が終わったようだ、とセシリアは呟き、自分の機体へと歩いていく。首をコキコキと鳴らしながら、鈴音も自分の機体へと近付いた。

 それぞれ自分のISを纏い、その動きを確かめるように手足を動かす。コンソールのチェックも済ませ、何も異常が無いことを確認すると、お互いに目配せをしてカタパルトへと足を進めた。

 場内のアナウンスが響く。次の試合の対戦相手の名と、そして自分達の名が呼ばれるのを聞きながら、二人は視線を前に向け意識をそこに集中させた。その表情は真剣で、どこまでも真っ直ぐで。

 ハッチが開いた。アリーナの広大な空間が目に入る。カタパルトのシグナルが赤から青に変わる。発射の準備から、発射へと移行する。

 試合が、始まる。

 

「セシリア・オルコット。『ブルー・ティアーズ』近接戦闘パッケージ『ブレード・ペンドラゴン』、参りますわ!」

「凰鈴音。『甲龍』射撃戦パッケージ『フォシァン(火山)』、行くわよ!」

 




もうこれ原作関係無くないか? ってくらいやりたい放題捏造武装ぶちこんでますね、はい。
というわけでのほほんさんの特殊武装の巻、でした。

次回はセシリアと鈴の特殊武装のお話、だと思います、はい。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。