ISDOO   作:負け狐

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二巻クライマックス。

何かもう原作の流れガン無視。
みたいな感じです。


No26 「待て」

「シャルル!」

「余所見をしている余裕があるのか?」

 

 箒とシャルルの戦闘に思わず意識が向いてしまった一夏は、ラウラのその言葉と共にプラズマ手刀を叩き込まれた。シールドエネルギーが減少し、コンソールに警告メッセージが現れる。それを一瞥した一夏は邪魔だと吐き捨てそのメッセージを非表示にさせた。

 ミスった。そんなことを思いながら彼は持っているビームブレードを構える。目の前の相手は他のことを気にしながら戦って勝てる相手ではない。目標とする人物、自分の辿り着く強さならば出来るのかもしれないが、生憎と今の自分は未熟者。それが分かっているからこそ、一夏は己の失態を恥じ、そして反省した。

 悪かったなラウラ。そう言いながらスラスターを吹かす。別に気にしてはいないぞ、そんな返しをしながら彼女はプラズマ手刀を構えた。

 

「ぶった切る!」

「やれるものなら、やってみろ!」

 

 ビームブレードとプラズマ手刀がぶつかり合う。甲高い音と火花を散らしながら数度打ち合うと、二人は距離を取り違う武装を構えた。一夏はビームガン、ラウラはワイヤーブレードをそれぞれ相手に向かって放つ。直線と曲線の軌道を描いたお互いのその攻撃は、回避を行ったことによりそのどちらとも空を切った。

 ならば、とラウラはレールカノンを構える。通常の出力で放っては相手を捉え切れないと判断した彼女は威力より連射性を重視した攻撃で一夏に向かい弾幕を形成する。予想外のその射撃を見た彼は表情を変え、しかし瞬時に『真雪』に換装すると前面シールドでそれを受け止めた。

 お返しだ、とばかりにビームカノンを放つが、威力重視のその射撃がこの距離で彼女に当たるはずもなく。最小限の動きでそれを躱すと、ラウラは再び接近戦に持ち込まんとスラスターを吹かした。

 

「だったら、こいつだ!」

 

 『真雪』を『飛泉』に換装。取り出した大刀でラウラを迎え撃つ。先程の一撃よりも重いそれは勢いを付けて攻撃してきたはずのラウラを押し返すほどで。ち、と舌打ちすると近距離でワイヤーブレードを展開、動きを制限させる為に周囲に張り巡らせた。

 そんなことは知らんとばかりに一夏は太刀を振り上げる。当然ワイヤーにぶつかり動きが止まるが、そこを狙ったラウラに向かって腰のアンカーを射出した。引っ掛かったな、そう言いながら彼は口角を上げる。

 

「引っ掛かった? 何の話だ?」

 

 アンカーが空中で何かに掴まれたように静止する。広げられた右手に縫い止められるように動かないアンカーを見た一夏は、しまったと叫んだ。ラウラは動きの止まったそれを掴み、引き寄せるように引っ張る。ワイヤーとの二段構えで身動きの取れなくなった一夏は為す術もなく彼女の眼前に引き寄せられ。

 

「織斑一夏、もう少し真面目にやれ」

 

 思い切り顔面を殴り付けられた。

 

 

 

 

 

 

「あーもう! 何やってんのよあいつ!」

 

 着替えの終わった前試合の四人は、ボロボロの自分達の姿を特にどうにかすることなくそのまま観客席まで移動してきていた。そして思い切りぶん殴られる一夏を見た鈴音は手を振り上げながらそんなことを叫ぶ。他の三人も声には出さないものの、概ね同じような感想を持っているようであった。

 

「っていうか、あの時一回戦ってるんだからもう少しやりようあんでしょ、ったく」

 

 情けない、と言わんばかりの表情でそう続けた鈴音に向かい、まあまあとセシリアは返す。あの時と今回は多少勝手が違うのだから、と彼女に述べた。

 

「むしろ今回の方が選択肢は狭まっていると言えますわ」

「え? 何で?」

「考えても見て下さい。前回の戦いで使った攻撃は相手の知るところ、極端に言えば対策の取られている動きです。となると、当然そうではない行動をしなければいけない」

「あー、成程ね」

 

 納得したように頷いた鈴音だが、ん、と何かを考えるように首を傾げた。いや、でもちょっと待った。そう言いながらセシリアの方へと顔を向ける。

 

「あいつの機体ほど選択肢の多いのはそうそう無いわよ。何で苦戦すんのよ」

「……それはもう、一夏さんだからとしか」

「……あ、うん。ごめん、あたしが悪かったわ」

 

 ボロクソ言われてるなぁ、と隣で聞いていた本音は思ったが、決して口に出さない。何だかんだで彼女も同じ意見だったからだ。さて、どうなるのかなぁと呑気に試合を見詰めている。

 そんな彼女に声が掛かる。どうしたのかんちゃん、と本音はそちらに顔を向けたが、その声を主である簪は試合の方に視線を向けっぱなしであった。

 

「……篠ノ之さんの『玉兎』。あれで全部、なのかな?」

「装甲が斬撃と射撃になるので終わりかってこと? ん~、どうなんだろ」

 

 あの様子だとまだ何かありそうだけど、と続ける本音に、やっぱりそうだよねと簪が返す。果たしてそれを使うか否か、どうやら彼女はそれが気になっているようであった。

 そんな簪を見て、本音は笑みを浮かべる。どうしたの、とその視線に気付いた彼女は首を傾げたが、別に何でもないよと隣の幼馴染ははぐらかした。

 

「……言いたいことがあるなら、言えばいい、のに」

「別にそんなに大したことじゃないからね~。見てたのおりむーの方じゃないんだ、って」

「え? そりゃ、だって、織斑君の機体はもう知ってる、し」

「……かんちゃんの春は遠いな~」

「……何の話?」

 

 まあ試合すぐだしこんなもんか。そう自分に言い聞かせ、本音は簪が見ていた方に視線を向ける。箒とシャルルのぶつかり合いは、大分天秤が箒側に傾いているようであった。シャルルも食い下がっているが、通常の格闘性能の高さに加え『玉兎』の変則的な攻撃が加わり自分の得意な戦法に持っていけていない。

 このままではやられてしまうのは時間の問題か。そんな風に思えてしまうほどであった。

 

「シャルルさんは大分不利のようですわね」

「箒相手じゃ分が悪いかぁ」

 

 いつの間にか鈴音とセシリアも見る相手を一夏からシャルルに変えたらしい。そんな呟きが聞こえてきた。バランスタイプの欠点とも言えるでしょうか、というセシリアの言葉に、「欠点?」と鈴音が聞き返す。

 ええ、と彼女は頷くと、視線は試合から逸らさずに言葉を続けた。

 

「どんな状況でも対応出来る、というのは確かに強みですが、しかしそれは逆に言えばどの状況でも不利にならないというところで止まってしまうということです」

「それのどこが悪いの? 不利になんないんでしょ?」

「不利にならないというのは、有利になるというわけではないのですわ」

 

 今のように相手が一点突破で来た場合、その他の部分では勝っていても肝心のその部分が圧倒的に負けてしまう。総合で見れば確かに不利ではないが、結局勝てる可能性はといえば。

 

「それって不利っていうんじゃないの?」

「あくまでデータ上の話ですわ。そして見ての通り、実際の状態がそんなもので計れるはずもありません」

「ふーん」

 

 消耗し始めたシャルルには使うまでもないと思ったのか、箒は『玉兎』を絡めた攻撃を控え、通常の戦法に切り替えている。それならば対応出来ると反撃に移ろうとするものの、シャルルの機体は思うように動かず戦況を覆すには至っていない。明らかに顔を顰めた彼の表情が、現在の心境を物語っていた。

 射撃武装で多少距離を離したところで有効打は与えられない。近接戦闘では歯が立たない。となれば、やれることは唯一つ。一か八かの一発逆転、それ以外には無い。

 

「『盾殺し』、か」

「可能性としてはそれくらいでしょう。ただ」

 

 そんなことなど向こうは先刻承知であるはずだ。そう続けたセリシアにやっぱりそうよねと鈴音は返し、どうやって当てるんだろうとシャルルを見る。ヒットアンドアウェイを繰り返し的を絞らせないようにしているようだが、あくまで箒が『玉兎』を発動させていないからどうにかなっている。そんな風に見えた。

 いや、とセシリアは思う。むしろそう見せるのが目的なのか、そんなことを考えながら、隣の鈴音ではなく簪に向かって声を掛けた。

 

「……どうしたの? セシリア」

「あのシャルルさんの動き、何を狙っていると思われますか?」

「んー……私には、敢えて隙を晒してる、ように見える、かな」

「やはりそうですわよねぇ」

「やるの、かな?」

「恐らくは」

 

 うんうんとお互いに何か通じあっているのを横目で見ながら、本音は面白くなさそうに頬を膨らませた。それに気付いたのか、彼女の隣に移動した鈴音が何拗ねてるのよ、と笑う。

 

「別に、何でもないし~」

「ふーん。……そういえば、更識さんいつの間にかセシリアのこと名前呼び捨てにしてるわよね」

「私はもっと前から呼び捨てだし」

「うんうん、そうよねぇ。急に何だか別の相手と仲良くなっちゃってるけど自分が一番仲いいし、ってやつよねぇ」

「……ふん!」

「あ、ごめんごめん。そんな怒らないでよ」

「ふん!」

「ごめんってばー!」

 

 

 

 

 

 

 さて、どうするか。シャルルはそんなことを考えつつ、ハイパーセンサーで一夏との距離を測った。このまま一人で戦っていてはこちらが負ける。そうならない為には、何とかして二対一の状況に持っていくしか無い。そう判断したものの、向こう側では一夏がラウラ相手に苦戦しているのを見て表情を苦いものに変えた。

 いや、と彼はその思考を切り替える。今この状況で苦戦しているということは、相手は分散させて各個撃破を得意戦法としていることに他ならない。ならば、数で押す戦法が尚更有利に働くはずだ。

 そう考えた彼の行動は素早かった。射撃をばら撒きながら今まで以上に大きくアリーナを使い距離を取る。その機動に訝しげな表情を浮かべた箒であったが、しかし罠なら乗ってやろうと笑みを浮かべ距離を詰めんとスラスターを吹かした。

 対するシャルルは相手が近付くとその分離れ、ボルトで固定したように相手との距離を一定に保つことに終始している。戦う気すら感じられないようなそれに、何を企んでいるのかと箒は首を傾げた。一発逆転の手段を狙っているのかと疑ったが、そうでもない、あれではまるで。

 

「そういうことか!」

 

 視線をシャルルから一夏に動かした。いつの間にか箒はアリーナの端に追いやられており、ラウラ達が戦っている位置とはまるで反対にまで離されている。しかもパートナーであるラウラもまた端に移動させられており、一夏とシャルルが挟撃体勢を取っていた。救援に行こうとしても、遠い上にどちらかに気付かれ阻まれる。完全に分断された形になっていたそれに、彼女は思わず歯噛みした。

 

「ナイス一夏!」

「そっちこそ! 箒を引き離してくれて助かった」

 

 拳をコツンとぶつけ合い、それを合図にしたようにラウラに向かって左右から迫る。嘗めるな、とワイヤーブレードを射出し相手の行動範囲を狭めたが、その合間を縫うように距離を詰める二人に思わず目を見開いた。

 

「そっちこそ嘗めんなよ! 何回も食らえば流石に分かるっつの!」

 

 左から近付いた一夏のビームブレードがラウラの機体の装甲を薙ぐ。シールドエネルギーが減少するのがコンソールに表示され火花が散ったが、彼女は気にせずに二撃目を放とうとしている一夏を『停止結界』で縫い止めた。そのまま射出していたワイヤーブレードを引き戻すようにして背後から切り刻むと、視線を素早く右に向ける。

 

「ちぃ!」

「遅い!」

 

 狙いはレールカノン。そこにブレードを突き刺すと、残った方の手に持っていたアサルトライフルを弾が切れるまでトリガーを引き続けた。一発一発の威力は低くとも、近距離でひたすら連射されればそのダメージは馬鹿にならない。衝撃に顔を歪めたラウラはプラズマ手刀でシャルルを追い払うと距離を取るためにスラスターを吹かす。が、既に場所はアリーナの端。これ以上離せる距離はない。

 ならば、とエラーを吐いているレールカノンをパージ。それを追撃を行おうとしていた一夏にぶつけると、そこにワイヤーブレードを叩き込んだ。爆散するレールカノンに紛れ一気に距離を詰めると、一夏の頭を鷲掴みにしてそこからプラズマ手刀を発生させようとする。

 その背後から射撃を受け、ラウラは掴んでいた手を離した。しつこい、とワイヤーブレードで背後の相手を引き離そうとするが、生憎とその相手、シャルルは元々接近などしていない。スナイパーライフルを構え、遠距離から彼女の背中を狙い撃ったのだ。

 

「悪いなラウラ。初っ端ならあしらえたかもしんねぇが、ある程度ダメージ食らってからだと割とキツイだろ。相手の消耗に付け込むってのが悪役臭いが、まあ、しょうがない」

 

 これで終わりだ。そう言いながら『飛泉』に換装した一夏が大刀を振りかぶった。両手のプラズマ手刀で受け止めることは成功したものの、ラウラの背後には彼女の頭部を狙っている狙撃手が。

 ギリリ、と奥歯を食いしばる音が聞こえた。これで負けるわけにはいかない、そう思うものの、着実に敗北の足音は聞こえてくる。優勢に進んでいたはずが、どうしてこうなったのか。それを思い返す時間もなく、彼女の頭部に銃弾が叩き込まれる。

 

「『玉兎』、開放!」

 

 その直前、瞬時にシャルルの目の前に現れた箒がスナイパーライフルを切り裂いていた。『紅椿』の全身装甲が展開し、そこから機体色とはまた違う紅い粒子が溢れている。

 いきなり出現した箒に驚いたものの、シャルルは瞬時に気を取り直しダガーを目の前に突き出した。が、目の前の姿は瞬時に掻き消える。

 咄嗟に頭を下げた。一瞬前まで首のあった場所に二閃の斬撃が放たれる。後ろ、とそこに射撃を放つが、やはりその姿は即座に消え去る。ハイパーセンサーを全開にしても捉え切れないその動きは、明らかに既存の機体の速度を超えていた。

 爆発音。視線をそこに向けると、一夏が箒の斬撃で体勢を崩され、ラウラの一撃を食らって吹き飛ぶところであった。スラスターを吹かす、だけでは間に合わない。そう判断したシャルルは『瞬時加速』で一気に距離を詰める。左手を振りかぶり、当たればそのまま一撃必殺をお見舞いしてやると突き出したそれは、未だ粒子を放っている『紅椿』に触れることなく空を切った。

 三度目のそれを見たおかげで、彼にはようやくからくりが見えた。射撃、格闘、そしてもう一つ。

 

「『玉兎』は、機動にも使えるってことか」

「ご明察、だ」

 

 装甲を元に戻した箒が言葉と共に二刀を振り下ろす。体を回転させるように捻りそれを躱すと、横にいたラウラを踏み台に更に反転、吹き飛んだ一夏へと目標を定めるとそちらにスラスターを吹かした。

 大丈夫? と訊ねるシャルルに大分マズイと軽く答えると、一夏はそっちこそ『玉兎』にやられたんじゃないのかと苦笑した。

 

「目を逸らすなも何も、見えないんだけど」

「ああ、そうだろうな。千冬姉ですらあれは見えないんだから」

「……それはまた」

「ま、でも欠点はしっかりあるぜ」

 

 あれであいつの『玉兎』は打ち止めだ。そう言って一夏は笑った。こっちもボロボロだけど、向こうも切り札無くなってるからそうそう不利じゃない。そう続けると、『雷轟』に換装し直した彼はビームブレードとシールドを構える。

 

「打ち止め?」

「『玉兎』はべらぼうにエネルギーを食うのさ。特にあの機動形態なんぞ使っちまえばあっという間にスッカラカンだ」

「じゃあ、この試合中はもう」

「そういうことだ」

 

 てわけで、シャルル。そう続けながら一夏は視線を箒に向ける。あれ、頼むぜ。そう言うと彼はラウラに向かって一気に空を駆けていった。

 結局相手は僕がするのか。そんなことをぼやきつつ、シャルルは左腕を撫でる。まだこいつの残弾は残っている以上、切り札的な意味ではこちらが有利かもしれないな。そう結論付け、無理矢理に笑顔を作ると一夏と同じように箒へと突っ込んだ。

 

 

 

 

「ケリを着けるぜラウラぁ!」

「ふん、そんなボロボロで何が出来る」

「テメェだってボロボロじゃねぇか!」

 

 ビームブレードとプラズマ手刀がぶつかり合う。鍔迫り合いを行うことなく、お互いに一撃ごとに距離を離し、そして再び刃を振るう。分かっているのだ、双方共に限界だということを。そして、射撃武装が今役に立たないことを。

 決め手の一撃を欠いたまま、お互いにアリーナを飛び回る。縦横無尽に戦闘領域を広げるということは、逆に言えばパートナーをそこに巻き込むということで。

 

「箒!」

「シャルル!」

 

 お互いにパートナーの名を叫ぶ。箒は任せろと、シャルルは人使いが荒いと、そんな言葉を紡ぎながらお互いの相手へと武装を構えた。

 このパートナーのアシストのタイミングは同時であり、そしてそのどちらもが正確に相手へと攻撃を放っていたが、唯一つ違う部分があった。シャルルは射撃、箒は斬撃。攻撃属性こそ違うが、共に遠距離攻撃。ならば何が違うかといえば。

 

「今更んなもんに当たるかよ!」

「……だろうな」

 

 箒の攻撃など常日頃嫌というほど見ている為に一夏は慣れ切ってしまっているということだ。彼女もそのことは重々承知であったが、このタイミングで彼の虚を突く一撃を咄嗟に放つには少々余裕が足りなかった。

 ならばと追撃の為に箒は一夏へと迫る。流石に格闘戦に持ち込めば軽くさばけるなどということはあるまい。そう判断しての行動であったが、しかし。

 

「それは――読んでる!」

 

 自身の目の前にシャルルが躍り出た。邪魔だ、どけ、と二刀を構えるが、彼は回避をすることなくその場で構える。左手を前に出し、そこに全神経を集中させる。

 既に一夏はシャルルの背後にいない。彼が立ち塞がった隙に一気にラウラへと肉薄したのだ。ビームガンを放ちながら距離を詰め、そして右手のビームブレードを腰だめに構える。ラウラは左手にプラズマ手刀を出しつつ、右手で何かを掴むような仕草を取った。

 

「切り裂く!」

「撃ち抜く!」

「ぶった切る!」

「叩き潰す!」

 

 箒の二刀が。

 シャルルの『盾殺し』が。

 一夏のビームブレードが。

 ラウラの『停止結界』が。

 それぞれ、お互いの相手の攻撃とぶつかり合う。そのどれもが必殺の威力を秘めており、誰が勝っても、誰が倒されてもおかしくはない。ダメージも相応であるし、気迫も誰一人として劣っていない。

 そんな四人のぶつかり合いは、同時に生まれた強烈な激突音で思わず観客が目をつぶってしまうほどのものであった。

 そして、彼等彼女等が目を開けたその時、この戦いの決着は付いていた。

 

「紙一重、だ」

「は、ははは。あー、もう。くやしいなぁ……」

 

 箒の二刀の内一振り、それがシャルルの首を刈っていた。もう一振りは『盾殺し』によりへし折られており、『紅椿』の装甲も左半分がボロボロになっている。ゆっくりと落下していくシャルルを見ながら、箒はそこでようやく呼吸をするのを思い出したように大きく息を吐いた。

 そしてもう一方。ラウラと一夏は。

 

「最後の最後に、そんなんに頼っちまったお前の負けだ」

「……貴様の突拍子の無さが少しだけ上回っただけだ」

 

 右手の『停止結界』で縫い止められているのは一枚のシールド。そして、彼が持っていたはずのビームブレード。

 背中からゼロ距離で射撃を食らったラウラが、悔しそうに、しかしどこか満足そうにそうぼやいた。

 居合の構えを取ったそのブレードを、あろうことか一夏は直前で投擲したのだ。そして素早くシールドを取り出すとそれでラウラの顔面をぶん殴る。『停止結界』を構えていた彼女が捕まえたのは結局その二つの武装のみで、視界を一瞬遮られた隙に背後へと回られたのである。

 

「別に考えてやったんじゃないけどな。勘だよ勘」

「つくづく規格外だな、貴様は」

「褒め言葉として受け取っておくぜ」

 

 そう言って笑う一夏を見ながら、ラウラもゆっくりと下に落ちる。ああ、どうやらこれで私は負けのようだ。そんなことを思いながら、重力に身を任せ。

 唐突に、あの夢を思い出した。

 

「さて箒。お互いボロボロだけど、やっとくか?」

「何を言う。お前はボロボロかもしれんが、私は余裕だ」

「左側! 『盾殺し』食らって半壊してんじゃねぇか!」

「目の錯覚だ」

 

 頭上で行われている箒と一夏のやり取りがどこか遠くで聞こえているような感覚に陥る。確実に目の前で起きているのに、まるでテレビでも見ているような。

 そう、自分の体が、自分以外に動かされているような。自分が自分でないような。

 自分が本物ではなく、偽物であるような。そんな感覚が。

 

「待て」

 

 自分の口から、自分が発したわけではない言葉が出る。どこか他人事のようにラウラはそう思いながら、ああ、そういえば左目の眼帯が外れているじゃないかなどと呑気なことを考えた。

 

「そんな状態で戦うのはいささか大変だろうが、まあ仕方ないと割り切ってもらおう」

 

 丁度いい具合に役者が揃っているのだからな。そう言うと、地面に横たわっていたはずの『ラウラ』がゆっくりと立ち上がった。

 金の両目を獰猛に歪め、その口を狂気に歪めながら。

 

「『シュヴァルツェア・レーゲン』、か。ふん、こんな機体など使えるか」

 

 纏っていたISを服でも脱ぐかのように弾き飛ばす。吹き飛んだ装甲に目もくれず、彼女はその下から現れた新たな装甲、血のように赤いそのISの感覚を確かめるように一瞥した。

 赤い翼が背中から生まれる。剥き出しの骨と皮で出来ているようなそれは、瞬時に地面から二人の目の前に移動するほどの推力を持っており、それだけでも今の二人の機体の状態で戦えるような相手ではないことを伺わせた。

 

「なあ、箒」

「どうした一夏」

「逃げるって有りか?」

「無論、却下だ」

「だよなぁ」

 

 『雷轟』の武装を呼び出しながら、一夏は真っ直ぐに目の前の『ラウラ』を睨んだ。そして、戦いたいならやってやるけど、と述べる。

 

「誰だお前は?」

「見て分からんのか? 私はラウラだ」

「あー、そうかいそうかい。んじゃ俺なりに呼ばせてもらうぜ」

 

 行くぜ闇ラウラ。そう言いながら真っ直ぐに一夏は突っ込む。その呼称に顔を歪めた『ラウラ』は、漫画の読み過ぎだ、と吐き捨て彼の突進を体を横にずらすことで躱した。

 仕方ないな、とそのまま一夏の頭を掴むと箒の方に投げ飛ばす。空中で体勢を立て直して彼女の隣で静止した一夏は、何しやがると吠えた。

 

「織斑千冬の弟。お前が変な呼称で呼ぶからだろう」

「そういうテメェだってちゃんと俺のこと呼んでねぇじゃねぇか! 俺は織斑一夏だ!」

「そうか。では改めて名乗ろう。私はラウラ」

 

 ラウラ・クロニクルだ。そう言うと、彼女は右手に一振りの近接ブレードを構え、一夏と箒をそれぞれ見た。そこから放たれる威圧感は、先程までのラウラとは比べ物にならないほどで。

 どこか、彼の姉を想起させた。

 

「行くぞ織斑千冬の弟と篠ノ之束の妹。織斑千冬に八つ当たりする為の生贄になってもらう」

「はっ! やれるもんならやってみろ! でもってちゃんと名前で呼びやがれ!」

「……お前はもう少し緊張感を持て」

 

 ヒートアップする一夏に不安を覚えつつ、箒は残っている刀を正眼に構えた。

 学年別タッグトーナメント一年決勝戦、試合は終われども、戦いは終わらず。

 




ゲームとかの連続のボス戦って、たまに絶望することありますよね。
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