専用機軍団vs銀の福音 の巻。
空中で二つの影が舞う。片方は静かに、優雅に。片方は喧しく、無様に。
「今だろ!? 換装出来なきゃ駄目だろ!? 『白式・金烏』! 何でだよ! 『金烏』ぅぅぅぅ!」
情けない声を上げながら一夏は飛ぶ。それを見ながら彼と対峙している相手は不機嫌さを隠そうともせず腰にマウントした荷電粒子砲の引き金を引いた。
左右交互に弾丸が奔る。それを何とか躱しつつ、一夏はコンソールのメッセージを見ながら叫んだ。何で換装出来ないんだ、と。
「……嘗めて、るの?」
ウィングスラスターの片側を変形、自身の必殺装備を展開しながら一夏の相手は呟く。そんな体たらくなら、わざわざこの高揚した気分をぶつける相手に選ぶのではなかった。そんなことを思いながら、真っ直ぐに彼女は彼を睨む。
「穿て! 『山嵐』!」
前回のタッグトーナメント以降増設したマルチロックオンのミサイルが、集中出来ていない一夏へと迫る。しまった、と彼が目を見開いた時には既に時は遅し。
「さ、さねゆ――のぁぁぁぁ!」
無数の爆発に蹂躙された一夏はあっさりと撃墜、砂浜へと落下していった。グシャリ、と嫌な音を立てて倒れた一夏へと、対戦相手――更識簪はノシノシと歩く。その顔は普段の彼女らしからぬ表情で、一言で説明してしまえば怒ってますと言わんばかりであった。
「織斑君……」
「お、おう」
「馬鹿に……してるの?」
「い、いやそんなつもりは全くなかった。ただ」
ただ、何だ。視線だけで彼の次の言葉を促すと、自分の思う通りの換装をしたかったのに出来なかったから。段々と小さくなっていくその声を聞いて、簪はやれやれと肩を竦めた。
あの時以来一夏は度々『白式・金烏』に頼ろうとして失敗する傾向があった。全ての能力を兼ね備えた進化形態、そんな分類であるそれを使いたくなる心理は周りの面々も重々承知であったが、しかし。
その為に著しく勝率を落としている今の状態はどうかと思う。というのも彼女達の偽らざる意見であった。
「ねえ……織斑君」
「な、何だ?」
「強い力を、持ってる……って、だけじゃ……何も出来ない、よ」
「っ。いや、分かってる、分かってるけど」
一夏のその言葉に簪はゆっくりと首を横に振る。いいや、お前は分かっていないと、口には出さずに態度で述べる。
ふぅ、と溜息を吐くと彼女は踵を返す。ISの勝負もいいが、今は臨海学校、海で泳ぐのも悪くない。そんなことを思いながら、とりあえず終了と天然のアリーナを後にした。
そんな彼女の背中を見ながら、一夏は悔しそうに奥歯を噛みしめるとガクリとうなだれるのであった。
空は青く、太陽も高い。一日は、まだまだ終わらない。
「あれ? 一夏は?」
「落ち込んでる」
砂浜へとやってきた簪は、鈴音の言葉に短くそう答えた。それで大体察した彼女は、ま、ならしょうがないかと流してしまう。それでいいの、と簪が問い掛けると、まあ別にすぐに来るでしょ、と返された。
「だってアイツ馬鹿だし」
「誰が馬鹿だ!」
「ほら」
簪が振り向くと、そこには水着姿になった一夏が。女性と違い男性は着替えるのが簡単なこともあり、後からやってきた彼は彼女に追い付いたようであった。
その顔には先程の焦りは見付からない。吹っ切ったのだろうか、と簪は首を傾げたが、それも違うだろうと頭を振る。多分、向こうにいるのと同じ状況だろうな。そんなことを思いながら視線を一夏から海へと向けた。
「ケツの穴に手ェ突っ込んで味噌汁流し込んでやりますわ!」
「ちょっとセシリアに物騒な言葉教えたの誰!?」
「いや、あれは日頃心の奥底に溜まっていた負の感情が噴出しているのだろう。先程千冬さ――織斑先生に負けた悔しさは一夏の間抜け面を見て吹っ切ったようであったが、やはりまだ完全には落ち着けることなど出来なかったというわけか。というわけで、あの言葉を教えたのは決して私ではない」
「つまりお前か箒」
「む。何故分かったのだラウラ!?」
ビーチバレーで人でも殺さん勢いでアタックを放つセシリアを視界に入れつつ、簪は鈴音に尋ねた。うんそう、と簡潔な答えが返ってきて、ああやはりと一人納得する。
まあこればかりは二人共に本人の問題であるし、自分に出来ることはない。そう結論付け、彼女は一夏と騒いでいる鈴音に一言述べると本音のいる場所まで歩いて行く。基本インドア派である簪ではあるが、こういう日くらいはアウトドアを満喫するのだ。翌日のことを脇に置いて。
で、と簪が見えなくなったのを確認した鈴音は一夏に問い掛けた。何やってんのよ、と呆れたように述べるその姿を見て、一夏も少し顔を顰める。
「別に、鈴には関係ねぇだろ」
「まあね。一夏がへっぽこになってもあたしには関係ない。――と、言いたいとこだけど」
てい、と彼の鼻を指で小突いた。急なその一撃で顔を押さえている一夏に向かい、鈴音はそのまま指を突き付ける。残念ながら、関係有るのよ。そう言いながら突き付けた指を更に近付けた。
「アンタはあたしのヒーローの一人。だから……あんまり情けない姿、見せないでよ」
「…………はっ、誰が情けないって!?」
見てろよ、と拳を彼女へ伸ばす。しっかりと使いこなしてやるから、惚れるなよ。そんなことを言い放ち、一夏は砂浜へと駈け出した。彼に気付いた女生徒達はキャイキャイと黄色い声を上げるが、無駄に高いそのテンションを見てそっと距離を取っていた。
そんな彼を待ちなさい、と鈴音が追う。ある程度距離を詰めると跳躍し、一夏の背中を足場にしてそのまま肩へと飛び乗った。うご、という悲鳴が下から聞こえたが、彼女は気にしない。
「おい鈴」
「ん?」
「痛い、すっげぇ痛い」
「重いって言わなかったのは褒めたげるわ」
「いやお前軽いし」
よっこらせ、とジジ臭い声を出しながら肩車状態の鈴音を乗せて一夏は歩く。二人分の高さを誇るそれは砂浜の中でも一際目立った。監視塔みたいだな、という一夏の言葉に、それ建物じゃない、と鈴音は笑う。
そのまま監視塔状態の二人はビーチバレーを行っている面々の場所まで歩いて行き、俺達も混ぜてくれと声を掛けた。突如現れた怪人に一同まじまじとその姿を眺め、じゃあ審判ね、と癒子が代表して言葉を紡いだ。
『なんでやねん!』
「あ、ハモった」
「いや、どう見ても審判の座っている土台だろう、それは」
「俺それ扱い!?」
「審判とかめんどいじゃん。あたしもやりたい」
「む。では誰か審判役になるか」
「いや待て何で俺は土台役に決定してんだよ」
二人追加なのだから、普通に混ざれるだろう。そんな一夏の主張にそれもそうだと頷いたラウラと癒子は、改めてチーム分けをしようと皆を見渡す。監視塔に視線を向けて、よし、と呟いた。
「じゃあ織斑君はその状態で」
「おい」
「ブロックは完璧だな」
「この状態で左右に走れと!?」
「では箒、お前はそっちのチームだ」
「こんな木偶の坊が仲間で勝てるはずあるか!」
「おい、お前ついさっきの発言もっかい言ってみろ」
「その位置ならば、いい具合にスパイクの的になりそうですわね……ふ、ふふふふ」
「はーいあたしセシリアのチームがいいでーす! 一夏は顔面ブロック役ね」
「顔面限定!?」
ワイワイと騒いでいるものの、結局はその通りになったことを記しておく。一夏、箒、鈴音チームとセシリア、ラウラ、癒子チーム。収まる場所はこんな感じで。
一夏の顔面は、ビーチボールと幾度と無くキスをしたそうな。
ふぅ、と一息付いた一夏は砂浜に腰を下ろす。全力でぶつけやがって、と痛む鼻をさすりながら、海の家で買ったペットボトルのジュースに口を付けた。ビーチバレーをしていた面々も今は休憩に入ったらしく、各々別の場所へと散っている。鈴音は遠泳、癒子は他の女子達の場所、セシリアとラウラはパラソルの下で寝転がっていた。
「焼けるぞ」
炎天下の日差しは中々にキツイ。そう判断した一夏は二人のいるパラソルへと足を進める。とはいえ、それでも完全に陽の光は防げないようで、日陰にいてもジリジリと熱は肌を焼いた。
一夏の言葉にラウラは別に気にしないと述べ、セシリアはだったらサンオイルでも塗ってくださいなとボトルを彼に手渡した。渡された方はしばし固まり、そしてセシリアに視線を移す。
「あ、やっぱりラウラさんお願いしますわ」
「ああ、それがいい」
「どういう意味だ」
「いえ、ちょっと目付きが……」
苦笑しながらセシリアはうつ伏せに横たわり、ラウラがその背中にサンオイルを塗っていく。見ているだけの状態になった一夏は、俺の立ち位置何なんだよとぼやいた。
その呟きに、ラウラは決まっているだろう、と返す。まあそうですわね、とセシリアも続いた。
「具体的なことを言われてないけど何だか酷いことを言われた気がするぞ」
「では聞くぞ。織斑一夏、お前はサンオイルをどう塗ろうとしていた?」
「普通に塗るっつの。まさかいきなりセシリアの尻を揉むとでも思ってたのかよ」
「え? ……揉まないのですか?」
「俺って信用されてるなぁ、マイナスの方向に」
所詮男子の扱いなどこんなもんか。そう結論付けた一夏は体育座りでドナドナを口ずさむ。彼の歌声をBGMにサンオイルを塗っていた二人も、ちょっとからかい過ぎたかもしれないと頬を掻いた。無論、一通りが済んでからである。
そんな三人に声が掛かる。ん、とドナドナのループが三周目に入っていた一夏が顔を上げると、先程一緒にビーチバレーをした後どこかに消えていた白ビキニの箒の姿が。そしてその後ろには、水色と白のストライプビキニを着たウサミミと、スポーティとセクシーを兼ね備えた黒のビキニを纏った彼の姉の姿が。
三者三様の格好ではあったが、ただ一つだけ、鈴音が見たら目が据わってしまうであろう共通点があった。思わずラウラも自分の胸元に視線を落として溜息を吐いてしまうほどである。
「どうした一夏、精肉店にでも出荷されるのか?」
「あー、まあ気分はそんな感じ」
「しかしお前は可愛くないからな」
「実の弟に向かって何て言い草!?」
「じゃあいっくんに質問。私達を見た感想をどうぞ」
「おっぱいがいっぱい」
「駄目だな」
うんうん、と後ろのセシリアとラウラも頷く。さっきはああ言っていたが、結局直球のスケベではないか。そんなことを追加で考え苦笑しつつ、セシリアは三人に何かこちらに用でもあるのかと問うた。
まあな、とその問いに千冬が答え、午後の予定は空いているかと二人に尋ねる。聞き方からして、予定が無ければ千冬の用事に付き合わされるのだろう。そう判断した二人は、しかし断る理由も用事もなかったので首を縦に振った。
「そうか、凰やデュノア、更識と布仏にも尋ねたが、皆予定は無いらしくてな。丁度いいから少しお前等にやってもらおうと思ったんだが」
「おい先生、俺聞かれてないんだけど」
「お前は強制参加だ」
「差別!?」
文句を言いつつ、しかし一夏は断る様子はない。そんな彼を見て、束はニヤリと口角を上げ、チシャ猫のように笑った。本当にブラコンだねいっくんは。そんな発言をしつつ、じゃあこっちも対抗だ、と箒に抱き付く。
「暑っ苦しいです姉さん」
「容赦無い!?」
そうは言いつつも、箒は束を引き剥がす様子はない。そんな彼女を見て、一夏はニヤリと口角を上げて三流悪役のように笑った。そっちだってシスコン姉妹じゃないか。そんな発言をしつつ同意を求めるように姉へと顔を向けた。
馬鹿者、とチョップを食らってのたうち回る一夏を見ながら、蚊帳の外で野次馬をしていたセシリアはどっちもどっちだと肩を竦めた。まったく、と隣のラウラに同意を求めるように顔を向け。
「……うらやましいんですのね、ああやって織斑先生とベタベタ出来る一夏さんが」
「へ? はっ!? いや、そ、そんなことはないぞ。本当だぞ! 本気と書いてマジだぞ!」
鈴音か簪のどちらかが来ないとツッコミが追い付かない。そんなことを思いながらセシリアは大きく溜息を吐いた。
昼食も終わり、時刻は午後。千冬に集められた専用機一行は、朝も使っていた天然アリーナにやってきていた。一同の前には千冬と束、そして特別講師だと紹介されたナターシャの姿がある。
それで、一体何をやるのか。一夏がそう千冬に問い掛けると、簡単なことだと笑みを浮かべた。同時に視線を一夏達から隣に向ける。
「ナターシャのIS『銀の福音』は、お前達のスタンダードなレギュレーション機体とは構造が違うが、だからといって全く相手にならないわけではない」
まあ、そうでなければ特別講師などには呼ばんがな。そう言って笑うと、隣のナターシャも薄く笑う。
そんな会話を聞いた八人は、これから行うことの大凡の予想が出来た。つまり、自分達はあの機体と勝負をするのだ。全員の意見が一致したので、では誰から行くのだろうかとお互いに顔を見合わせる。本音が一人だと無理だよとぼやいていたが、まあ仕方ないと皆で慰めた。
「何を言っている? 勝負は『銀の福音』と、お前達全員同時だ」
は、と皆が一斉に千冬へと視線を向けた。それは一体どういう冗談だ、そう一夏が千冬へと問うたが、その表情はふざけてなどおらず、冗談などではないときっぱり言い放つ。大体、と額を指でコツコツ叩きながら、彼女は少しだけ眉を下げた。
「お前達ヒヨッコなんぞまとめて戦ってもボコボコにされるのだから、一対一で戦ったら瞬殺だ。それでは何の修行にもならん」
「……言ってくれますわね」
挑発染みたその言葉に反応したのはセシリア。先程千冬に完敗したこともあってか、その目はいつも以上に獰猛さを湛えている。それに続くように、吠え面かかせてやると一夏も一歩踏み出した。更には箒とラウラが表情を引き締め真っ直ぐ前を睨み付けている。
こうなると残りの面々も腹をくくるしか無い。まあ修行は望むところだと鈴音は笑い、簪は少しだけ不安そうに頬を掻いた。本音はそんな彼女を励まし。
そしてシャルルはなるべく感情を出さないようにその環の中へと入っていった。
「決まりだな。では、行くぞ」
「行くのは私だけれどね」
そう言うと、ナターシャは千冬より数歩下がる。同時にISを展開すると、高速で空へと舞い上がった。
その姿は、さながら銀の天使。全身装甲により覆われた仮面には彼女がどんな表情を浮かべているのかは分からない。だが、機体から流れてくる賛美歌のような声が、見えないそれを表しているように思えた。
専用機持ち八人が同時にその機体を展開する。白が、紅が、青が、赤が、橙が、黒が、水が、狐が。一斉に銀を取り囲み、相手を撃墜せんとそれぞれの獲物を構えた。
最初に動いたのは、白。ビームガンを連射しながら突っ込むいつもの一夏の戦い方は、少し体をずらすだけで悉くを躱されることで重大な隙を晒してしまった。『銀の福音』の頭部後ろに装備されている巨大な翼が展開され、お返しとばかりに銃弾の雨が降り注ぐ。
「うぉぁ!?」
雨、文字通りの雨である。線でも点でもなく、面。四方八方逃げる場所などありはしないその銃撃は、その膨大な量に一瞬気を取られた一夏には既に為す術が無く。
目の前に巨大な盾が現れる。一夏を覆うように展開されたそれは、『銀の福音』の銃弾を防ぎきって尚堂々と顕在していた。
「のほほんさんナイス! 助かった!」
「うん、でも、実はイッパイイッパイ」
『葛の葉』を自身に戻しながら本音は苦笑する。全員を守る余裕はないから、なるべく自分で頑張ってね。そう述べると、とりあえずと自身のハンドガンを『銀の福音』に放った。その隙に一夏は一度離脱し、お次は私達だと言わんばかりに紅と赤が疾駆する。
『紅椿』の二刀と、『甲龍』の二刀。それらが同時に銀の機体へと叩き込まれ、しかし直前に受け流されたことでダメージを最小限に抑えられてしまう。瞬時に『銀の福音』は距離を離し、両の翼を重ね巨大な閃光を打ち込んだ。一瞬前まで箒と鈴音のいた場所を灼き、しかしまだだと二人は飛ぶ。
左右に別れた二体を再び面制圧せんと翼を展開した『銀の福音』であったが、別方向からのアラートでその動きを中断した。急上昇と急降下を交互に行い、飛び交うミサイルの嵐を躱していく。
「まだ、まだ……っ! 穿て! 『山嵐』!」
『打鉄弐式』の両スラスターを全て変形・展開し、以前より五割増しになったそれが先程の向こうの攻撃のお株を奪うように面制圧を行う。
ちょっと、キツイかしら。そんなことを呟きながら、ナターシャは『銀の福音』の翼、『銀の鐘(シルバーベル)』を起動させた。彼女の声と機体の声。二つの歌声が重なり、アリーナに穏やかな音色が響き渡った。
その歌声とは裏腹に、翼から放たれた銃撃は先程よりも苛烈なもの。炸裂特性を持っているらしく、『山嵐』のミサイルとすれ違うと同時に爆発し、周囲のミサイルを巻き込んで次々と爆ぜていく。爆煙により周囲の視界が著しく低下、そのことで簪は焦って周囲を見渡してしまう。
「La……」
「しまっ……!」
頭上を取られた。そう気付いた時にはもう遅い。相手は射撃体勢に入っている。対して、自分は動けない。
紫電が飛ぶ。同時に黒が空を駆けた。『シュヴァルツェア・レーゲン』のレールカノンで簪への攻撃をキャンセルし、同時に自身の間合いへと引き込む。『停止結界』を叩き込めば、いくら相手が高速機動に優れていてもどうにもなるまい。そう判断したラウラは。
「下!」
「ちぃ!」
『銀の福音』本体とは異なる意志があるかのように展開し砲門を広げた翼を見て瞬時に高度を下げた。銃撃の嵐は一区画に降り注ぎ、しかし尚もその暴風域を広げようとしているのを見てラウラは顔を顰めた。
「私達を」
「忘れてもらっちゃ困るのよ!」
再び飛び交う紅と赤の閃光。一直線に向かうそれは先程と同じで、芸の無いその攻撃はいとも容易く迎撃される。
その直前、真っ直ぐ高速で飛んでいた二つの流星は曲線軌道を描く。
「行くぞ鈴! 人呼んで――」
「篠ノ之スペシャル! ってか!」
背後を取った。箒の太刀と鈴音の『双天牙月』、二つの刃が『銀の福音』の翼をへし折らんと振り抜かれる。躱しようのない必殺の一撃、そう二人は確信したが、しかし。
ダンスを踊るように回転し、二人の刃を受け止めた。同時に翼を変形、近接ブレードのようにそれを振り被った。胴に大剣の一撃を叩き込まれ、そのまま二人は吹き飛んでいく。
「箒! 鈴! ちっくしょう!」
「ダメよ弟君。熱くなったら負けるわ」
勢いに任せて飛び出した一夏のビームブレードを先程と同じように受け止め、ナターシャは仮面の下で微笑む。そういう真っ直ぐな子は嫌いじゃないけどね。そんなことを呟きながら、同じように近接用に変形させた翼で一夏を切り裂かんと。
「させない」
両の手に持ったアサルトライフルを連射する。手を離し間合いを取った『銀の福音』と『白式』の間に割りこむように、『ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ』が舞う。次々に武器を変えながら、向こうに的を絞らせないように弾幕を形成していた。
そんな二人に意識が集中した、というタイミングで、再びラウラと簪がレールカノンと『春雷』を放つ。シャルルの弾幕とは違い一撃一撃の威力の高いそれはそう簡単には被弾出来ない。手数が少ない為に普通に放っては向こうの機動で簡単に躱されてしまうそれを、闇討ち気味のタイミングで撃つ。
「これでも駄目か」
「速い……でも」
速さなら、この中の誰よりも優れた人がいる。相手が回避動作をしたその瞬間、真っ直ぐにビームが叩き込まれる。突然の銃撃に一瞬動きが止まったのを見逃さず、閃光は再び『銀の福音』へと吸い込まれるように放たれた。
何事、とハイパーセンサーで確認したナターシャは、その相手を見て思わず口笛を吹いた。先程千冬と戦った時に見せたあの技、誰よりも速く撃つ、その極み。
この一瞬の為だけに、己の集中力を全てつぎ込んだ『ブルー・ティアーズ』、セシリア・オルコットがそこにいた。バイタルを一定に保つ機能があるはずのISを纏って尚汗だくのその顔が、どれほど彼女が全身全霊を懸けていたかを物語っている。紛れも無くあの一撃は、己の限界を超えた『クイックドロウ』であった。
だが、しかし。
「――届きません、か」
左腕。損傷しているのはその部分だ。眉間と心臓を狙ったはずの射撃は、完全に命中することは能わなかった。その射撃に全てを懸けていたセシリアは、『銀の福音』の返す刀の攻撃を躱す力など残っておらず。
危ない、と『葛の葉』を飛ばそうとしている本音を手で制した。その意図を察した彼女は不満げに頬を膨らませ、撃墜されるセシリアを背に残っている面々に盾を飛ばす。
それを待っていたかのように、『銀の福音』は高速移動と広域殲滅を開始した。縦横無尽に飛び回り、周囲を埋め尽くすほどの弾幕を形成する。受け切ることも、躱すことも。その両方を不可能だと思わせるそれは、すなわち相手が勝負を決めに来ている証拠でもあり。
「今が、チャンスか」
「とは、言っても……」
一夏は『真雪』の装甲も合わせて弾幕に耐えているが、他の面々はそうはいかない。本音の『葛の葉』は確かに防御性能は随一だが、ここまでの広範囲だと一つの盾だけではカバーしきれず、かといって盾を誰かに集中させるということは他の誰かを見捨てるということに他ならず。
「仕方ないか……布仏本音!」
「うぇ!?」
「私の盾を他に回せ。二枚ならば多少はどうにかなるはずだ」
「でもでもっ! そしたらボーちゃんが!」
「私はどうとでもなる! 後毎回言ってるが――」
それは鼻水垂らした幼稚園児みたいだからやめろ。そう言いながらラウラは『銀の福音』へとワイヤーブレードを投擲した。触れた部分が次々爆発し、その爆風によって彼女へと向かう弾を掻き消していく。そのまま出来た空間へと突進、『停止結界』を『銀の福音』へと今度こそ叩き込まんと腕を振り上げる。
「……まあ、予測の範囲内か」
「ええ、そうね」
爆煙の先では『銀の鐘』をチャージしているナターシャが待ち構えていた。ラウラが『停止結界』を発動するよりも速く、向こうは彼女を撃ち抜くだろう。
だが、ラウラはそれでも笑みを絶やさない。自分が墜とされても、終わりではない。そう信頼しているからだ。
巨大な閃光に飲み込まれたラウラの影から飛び出してきたのは、橙。左手のシールドをパージし展開したそれを、全力で相手へと叩き込む。
「『盾――」
「Shit!」
「――殺し』!」
セシリアに撃ち抜かれて動かなくなっていた左手を無理やり前に突き出す。パイルバンカーが炸裂し、左手の装甲がまとめて弾け飛んだ。が、ナターシャ本体、『銀の福音』は未だ健在。あーあ、と苦い顔を浮かべたシャルルを吹き飛ばすと、残りの三人の姿を探す。
再び無数のロックオン。やってくれる、と笑みを浮かべたナターシャは、ボロボロの左腕を無理矢理組み直し、再び高速移動と広域殲滅を開始した。ミサイルと弾幕がぶつかり合い無数の爆発が起こる。その爆煙の中を飛びつつ、恐らく向こうが決めに来るなら今だ、と彼女は確信していた。
「うぉぉぉぉ!」
「たぁぁぁぁ!」
大刀を構えた『白式・飛泉』、薙刀『夢現』を構えた『打鉄弐式』。本音の『葛の葉』で攻撃を防いでいるからこそ出来る強引な攻めで、『銀の福音』を切り裂かんと獲物を振り被る。狙うは首、そして、胴。一気に勝負を決めるのならば、そこしかない。二度目がない以上、他の部位では浅いのだ。
それが分かっているからこそ。
「うん、惜しかったわ」
『銀の鐘』を盾のように構え、それぞれの部分に展開する。二人の武器は開かれた砲門から形成された刃によって受け止められ、そして、ゼロ距離からチャージの済んでいる砲撃が放たれる。
吹き飛び倒れた二人を見て本音は降参。一対八の勝負は、千冬の予想以上に健闘したものの、結局『銀の福音』の勝利と相成るのであった。
「チフユ。ちょっと流石に次はキツイわ」
「そうかもしれんな。まさかこうも上手く行くとは」
そう言って二人は笑う。彼女達の予想以上に、一行は戦闘中のレベルアップを果たしてくれた。それが千冬には楽しくて仕方ないようで、先程から彼女は終始笑顔である。
いつか自分を追い越してくれるかもしれない。そんな思いが湧き上がると同時に、決して抜かせはしないという対抗心が同時に湧いてくる。それが彼女にとってたまらなく楽しいのだ。
「後進を育てるのもいいけど。まずは目の前の相手よ、チフユ」
「分かってるさ。お前と全力で戦うのがこの臨海学校の一番の楽しみだからな」
そんなことを言いながら、二人は顔を見合わせ笑った。
撃墜されている生徒をほったらかして、である。
「うへぇ……これ結構時間掛かるよ」
「あ……ごめんなさい、姉さん」
「箒ちゃんが謝ることじゃないよ。勿論他のみんなもね。ま、それに」
明日には全機直ってるから大丈夫。そう言ってブイサインを向ける束を見て、箒はやはり自分の姉は頼もしいな、と思うのであった。
決して口には出さないが。
三巻のクライマックス部分終了。
でもまだ臨海学校は続くわけで。