ISDOO   作:負け狐

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このくらいの短さで、ちまちま更新にシフトチェンジ、かも。


まあもう今更感漂いますが、オリジナルの機体が出ています。


No35 「操り人形になるのは、誰?」

 海上で二つの機体が舞う。白銀の天使はその羽根を広げ、目の前の相手を蹂躙せんと無数の弾丸を生み出した。それらは防ぐことも避けることもままならないほどの、そんな密度で。

 対する相手はそんな弾幕を手にした刀で弾き飛ばした。数合で使い物にならなくなったそれを投げ捨てすぐさま新たな刃を取り出し、再び弾く。幾度と無く繰り返し、結局彼女はそこから動くことなく弾幕を受けきった。

 ふん、と彼女は鼻を鳴らす。こんなことは当たり前だと白銀を睨む。どこかつまらなそうな表情を浮かべ、しかし次の瞬間には真剣な顔に戻し。

 

「とっとと正気に戻れナターシャ!」

 

 瞬時に距離を詰めると、持っている刀ではなく、その拳で殴り飛ばした。その衝撃でグラリと体勢が後ろに傾く『銀の福音』の肩を掴むと、まだまだとそのまま投げ飛ばす。スラスターで姿勢制御をすることも能わず、福音はそのまま盛大な水飛沫を上げて海へと沈んでいった。

 暫くその海面を見詰めていた千冬は、あくまで視線を外すことなく通信を行う。相手は彼女の親友にして、彼女の所属する組織の一応のトップ。能天気のようでいて真剣味を帯びているその声を聞いて、千冬は少しだけ表情を緩めた。

 

「束、状況はどうなっている?」

『現在『しののの』のエージェント四人が原因をぶっ潰しに向かってくれてるよ。それまでにそっちの対処が終わるならそれでもいいって感じかな』

「さてな。どうなるかは――」

 

 そこで彼女は言葉を止めた。今こいつは何と言った。一夏と箒は合わせて二人にしかならない。にも拘らず四人と言ったのは、つまり。

 

「誰だ、こんな厄介事に首を突っ込んだ馬鹿者は」

『鈴ちゃんと金髪縦ロールちゃんの二人』

「分かった。後で説教だ」

『お手柔らかにね』

「お前もだ束」

『なして!? 束さんはあの二人の覚悟を酌んでやっただけじゃん!?』

 

 そのままギャーギャーと通信で騒ぐ束に、千冬は少し黙れと返した。そのことで更に文句を言おうとした束は、休憩が終わったという彼女の言葉で口を噤む。

 巨大な水柱を立て、水の滴る『銀の福音』が姿を現した。その機体には傷らしい物は見当たらず、フルフェイスでパイロットの表情が分からないままゆっくりと千冬に向き直る。翼を広げ、そこから再び砲門を展開し、先程と同じように無数の銃弾を降り注ぐ。

 何も考えていないように。操り人形のように。

 

「そんなものでこの私がどうにかなると思っているのか?」

 

 先程放り投げた刀が再び手に舞い戻る。弾き、投げ捨て、拾い、弾く。予定調和のように行われたそれは、目の前の銀色には何の動揺も起こさない。それが分かっているからこそ、千冬も動きはそのままで表情だけをどんどんと苛ついたものに変えていく。

 

「……そうだな、お前も説教の対象だ」

 

 言葉と同時に刀を投擲。弾幕を切り裂きながら飛来するそれを、『銀の福音』は躱さない。声も発さず、迎撃のために銃弾を撃ちこむだけだ。

 その衝撃で明後日の方向に飛んで行く二振りを見向きもせず、その銀の仮面は真っ直ぐに目の前の相手を見据える。見据えようとする。

 が、既に相手の姿はそこにはなく。

 

「どこを見ている馬鹿者。ナターシャならすぐに反応するぞ」

 

 その弾き飛ばした刀を足場に立つ『暮桜』を視界に捉えた時には、千冬は既に白い日本刀型の近接ブレードを居合に構えているところであった。

 

 

 

 

 

 

 四人の目の前にぽっかり空いているその洞窟は、まるで怪物の大口のようにも見えた。おそらく昼間ならば観光スポットとして親しまれているのだろう。夜は夜で肝試しに使われることもあるかもしれない。

 だが、今この瞬間は、得体の知れない何かが潜む空間でしかなかった。普段のそれは、全て塗り潰されていた。

 

「うし、んじゃ行くか」

 

 それでも尚一夏は軽い調子で述べる。傍らにいる箒はまあそうだなと軽く述べ、鈴音もそうねと頷く。唯一セシリアだけがその言葉に苦い表情を見せた。

 一応相手の隠し球だと思われる能力はバレている。だが、それはあくまでそういう能力を搭載している機体がいるという程度でしかなく、それ以外の能力は未だ不明。束に尋ねても細かいところまでは面倒見きれないと返された。

 

『こっちはこっちでちーちゃんのフォローしてるし。まあウィルスなんだから感染しないように気を付けてね』

 

 肝心の感染経路が不明であるが、確かにそこには注意しなくてはいけない部分だ。四人はその言葉に頷くと、夜の闇に覆われたその洞窟へと侵入していった。

 とはいえ、現状彼等はISを展開している。ハイパーセンサーによって暗闇であろうともどんな地形であるか、どのような生物がいるかなどを正確にコンソールに映し出した。

 

「で、束さん。相手はこの奥にいるってことで間違いないんだよな?」

『うん。そのまま――』

 

 そのまま暗闇の洞窟を進んでいると、突如通信が途絶えた。ん、と少し首を傾げながら一夏は再び束に通信を送るが、先程とは違い何の反応も返ってこない。隣を見ると、同じことを試したのか箒も黙って首を横に振っていた。

 ウィルス、ということであるが、直接作用せずとも通信障害などを起こすことも可能な代物なのかもしれない。そう判断したセシリアは三人にそれを告げようと口を開き。

 

「これは!?」

「うお!? 何か視界が急に真っ暗になったぞ」

「一夏もか。私もそうだ」

「あたしも」

 

 ハイパーセンサーによって映し出されていた周囲の状況が一瞬にして見えなくなった。コンソールの操作を行っても、出てくるのはエラーの文字のみ。四人が四人共にその行動を繰り返し、そして暗闇で誰かは分からないが舌打ちと悪態が聞こえた。

 周囲を見渡す。が、通常の人間の視覚でしか状況を捉えられない今、そこに映るのは黒で塗り潰された空間のみ。視界の隅で流れているエラーログが目を開いているということを思い出させる唯一の証であった。

 

「束さんと連絡も取れない。で、ハイパーセンサーも潰されて動けない。これ、マズいぞ」

「八方塞がり、か……?」

「ある程度進んだところでこの状況を作り上げた向こうの作戦勝ちですわね。……これでは戻ることすらままなりません」

 

 どうする、とセシリアは唇を噛む。こういう状況こそ冷静な判断力がものをいう筈だ。そして、少なくともここの面々の中でその役目を担えるのは自分のみ。あれだけ啖呵を切って参加したのだ、ここで無様に立ち尽くす訳にはいかない。

 

「『ブルー・ティアーズ』!」

 

 背部に装着されていたBT兵器を展開、自身の操作の及ぶ限界まで一気に遠距離へと飛ばした。一体何を、と恐らく彼女の方を見たであろう三人に静かにするよう述べ、彼女は飛ばした四基のビットの位置を探る。直線的に移動させながら、周囲の障害物の位置を探る。

 現在いる場所は、どうやら細長い通路。反転した記憶はない事を考えて、道なりに進むことで今回の犯人の場所へと向かうことが出来る。そこまでを判断したセシリアは、周囲にいるであろう三人にそのデータを飛ばした。至近距離であれば通信は可能らしく、それを確認した彼女はふうと安堵の息を漏らした。

 そのデータを貰った一夏達はセシリアの先導で通路をゆっくりと進み、ある程度進んだ先で再び索敵、を繰り返す。数回繰り返したところで、周囲の反応が今まで違うものに変わった。

 通路ではない、ある程度開けた空間である、と。

 

「……これ以上は、この方法では探り切れませんわね」

 

 苦々しげにセシリアは呟く。分かるのは自分達が来た入り口とも言える通路の位置のみ。この暗黒の空間ではそれだけでもかなり有用ではあるが、生憎それだけでは現在の状況を打破する基準値に満たない。

 

「ここが一番奥、ってわけじゃないの?」

「それならば話は早いが……」

「せめて洞窟のマップがあればなぁ」

 

 それを貰い忘れているのは完全なる彼等の失態であった。行き当たりばったり、現状のデータで何とかする。そんな普段の行いが完全に裏目に出た形だ。

 とはいえ、どちらにせよやることは一つであり、ここを進み目標を撃破するという一点のみだ。無論、やれるかどうかは考慮していない。

 とりあえず前に進んでみよう。そんな鈴音の言葉にそうだなと頷いた箒は黒一色の視界の中ゆっくりとスラスターを前に吹かす。少し遅れて、音を頼りに鈴音も真っ直ぐに空間を進む。俺も俺も、と一夏が続き、最後に少し呆れ顔でセシリアが続いた。

 景色が変わらず、本当に進んでいるのかも分からない。だがこれ以上勢いをつけてしまうと、場合によっては壁に激突、混乱のまま自身の平衡感覚さえ失いかねない。あくまでゆっくりと、何が起こるかを警戒しながら手探りで。

 瞬間、一夏の背中に悪寒が走った。下に落ちろ、と大声で叫び、自身は正確な方角を確認できないまま嫌な予感がした方へと盾を向ける。

 

「一夏!」

「一夏さん!?」

「大丈夫なの!?」

 

 盾に射撃が被弾した衝撃で火花が飛ぶ。一瞬だけ洞窟を照らし、そして再び暗闇に戻したそれは、彼等の警戒心を高めるのには充分であった。

 周囲を見渡す。何かが見えるわけでもなく、相手の声も次の攻撃もない。それが却って不気味さを増し、四人の精神力をすり減らしていく。

 

「……そういや、何かそんな拷問があったって聞いたことあるな」

 

 実際体験してみるとよく分かる。これは、確実に危険だ。そんなことを思いながら、しかし一夏はどうにか状況を打破しようと視線を巡らせる。どこを見ても真っ黒のそれを見て、何かないかと鍵を探す。

 

「あーもう! 分かんねぇよ!」

「まあ、そうだろう」

「一夏が何か見付けられるとは思ってないわよ」

「お前等も同じだろうが!」

 

 確かにそうだ、と暗闇で見えないのをいいことにセシリアはうんうんと頷く。が、今現在は自分も同じような役立たずであることを思い出し項垂れた。先程思った不安が、再び彼女の頭をよぎり、その気持を沈めていく。

 が、それをすぐに闘志へと変えたセシリアは、顔を上げると一夏に向かい声を張り上げた。何だ、という彼の返答を聞き、少し尋ねたいことがあると続ける。

 

「相手の射撃、予想出来ますか?」

「……直前になって、勘でもいいなら」

 

 出来ないとは言わなかった。それだけで充分、とセシリアは笑う。ちゃんと言葉で伝えてくださいねと述べると、大きく息を吸い、そして目を閉じた。暗闇から暗闇へ、何も変わらないように思えるその変化の中、彼女は自身の内に意識を集中させる。

 見えないなりに何かを行っていると感じた箒と鈴音は、それの邪魔にならないようにと少し後ろに下がった。それがきちんと果たせているかどうかは分からないが、少なくともぼさっと突っ立っているよりはマシだ。そう二人は判断した。

 真っ暗な空間で、反響する自然の音がやけに大きく響く。そんな中、一夏は何かに反応した。来る、と感じた。

 

「左!」

 

 正確な方向は分からない、ただ漠然とそちらの方だとしか言えない。そんな彼の叫びであったが、しかしセシリアはそれを聞いて口角を上げた。目を閉じたまま、言われた方向に意識を向ける。

 刹那、閃光が走った。相手の放った射撃の寸分違わぬそこへ、セシリアは自身の射撃を放った。ビームの光が洞窟をわずかに照らし、そしてその向かう先に着弾したことで一際それは輝く。

 放たれたビームによって打ち抜かれたそれは、相手が持っていたと思われる射撃兵器はそれにより爆散した。続けざまに光が生まれ、見えていなかった洞窟内の構造がほんの僅かの間顕になる。

 相手は見えない。流石に射撃の精度は落ちていたようで、本体には回避の余力を与えてしまっていたらしい。

 だが、それがどうしたとセシリアは笑った。ここまでは、自分の予想通りだと微笑んだ。

 

「鈴さん!」

「へ? あたし?」

「先程の洞窟で生まれた光、見ましたわね?」

「え? あ、うん、見たけど」

「なら、その光で照らされたものも当然『視た』のですよね?」

「……っ! うん! 視た視た!」

 

 そういうことかと鈴音は笑う。拳を打ち鳴らし、その両手に『双天牙月』を呼び出した。キョロキョロと真っ暗闇の空間を見渡し、よし、と一人頷く。そして、一夏、と声を張り上げた。

 

「相手、どの辺!?」

「無茶言うなよ!? ……右側だ、多分」

「オッケー!」

 

 叫び、スラスターを吹かした。何も見えない空間でそんなことをしてしまえばどうなるか、それは今までの彼等の行動から充分に理解しているはずである。だというのに、彼女は普段通りに空を駆けた。

 一気に距離を詰める鈴音に、相手は一瞬だけ息を呑んだ。が、すぐに馬鹿にしたように鼻を鳴らす。そのまま壁にぶつかるのがオチだ。そんなことを思いながら、自身ははっきりと認識しているその姿を目で追い。

 

「ちぇ、すとぉ!」

 

 反転し壁を足場に自身に突っ込んでくる彼女を見て目を見開いた。馬鹿な、と思わず言葉が口に出る。何も見えていない状態で何故あんな芸当が。そんなことが頭を巡り、思わず回避が遅れてしまう。

 

「あたしってば目がいいらしいのよね。さっきセシリアに洞窟の構造『視せて』もらったから、うろ覚えでもこの程度は出来るってわけよ!」

 

 両の手に持つ『双天牙月』を振るう。敵もさるもので直撃こそ至らなかったものの、しかし決して少なくないダメージを与えることには成功した。

 何故なら、視界が黒一色ではなくなっていたからだ。装置をたまたま破壊したのか、はたまたセンサーに異常を起こす余力を失ったのか。ともあれ、これで四人は小細工を労せずに周囲を認識することが出来る。

 となれば後はやることは一つ。赤い閃光は瞬時に自分達ではないそれを認識すると、その首筋に刀を振るった。

 

「ち、躱されたか」

 

 惜しくも外れたが、しかし次は外さん。そんなことを思いながら、箒は二刀を構えまっすぐに相手を見る。青と黄色に彩られたISを見る。

 危ない危ない、とそのパイロットは少しおどけた様子で呟いた。ヘルムとバイザーで隠された頭部からはどんな表情をしているのかは読み取れないが、しかし。

 

「覚悟しろ。からくりのバレたお前では勝てん」

「見えてるんならこっちのもんよ」

 

 箒と鈴音がそれぞれ自身の得物を真っ直ぐに突き付けた。センサーに映る敵影は一つ、どこかに潜んでいる様子もなし。そしてこちらはほぼ万全な状態の四人。確実に勝てるとまでは断言出来ずとも、少なくとも負けはないと思える状況であった。

 その状況で尚、相手は笑った。確かにこのままでは勝てない、と二人の言葉を肯定しながら笑みを浮かべた。

 

「だから」

 

 くい、と相手が右腕を動かす。それはまるで、人形劇のマリオネットを操るような動作にも見えて。その指先に、まるで糸が伸びているような錯覚さえした。

 そして、その動きと同時に一人の少女が素っ頓狂な声を上げた。何で、どうして、と困惑しながらも、その少女はゆっくりと自身が持っているそれを隣に立っている仲間に振り下ろそうとする。

 

「鈴!? どうした!?」

「あたしが聞きたいわ! ちょっと何これ!? 何で機体が勝手に動いてんのよ!」

 

 次々と繰り出される『双天牙月』の斬撃を弾きながら、箒は短く舌打ちをした。失念していたのだ。通信とセンサーを狂わされたことで、それを解除したことで。

 本来、相手の能力は他の機体を操るウィルスだということを。

 

「箒!」

「箒さん!」

「待て、二人共。近付くな」

 

 一夏とセシリアを箒は手で制す。向こうが機体を操る条件が不明瞭な以上、うかつに近付けば思う壺だと判断したのだ。それが分かったセシリアはすぐに停止、相手に向かい射撃を放つ。が、それは『甲龍』によって防がれた。半ば予想していたとはいえ、その光景に彼女は顔を顰める。

 

「卑怯な……」

「あら、四対一は卑怯じゃないの? 今だってようやく三対二なのに」

 

 ぐ、と口を噤む。そんなセシリアを見て楽しそうに笑った相手は、少しだけ距離を取るとその傍らに『甲龍』を従えた。自分の意思で動かせない四肢を何とかしようともがきつつ隣の敵を罵倒する鈴音をちらりと見ると、視線を残りの三人に移す。

 

「さあ、次にこの『ラブ・レイター』の操り人形になるのは、誰?」




もう原作ガン無視の方向で。

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