ISDOO   作:負け狐

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前フリ回

ついでに当時のプロットから余り変更をしていないので余計に原作って何だったっけ状態に


No38 「やりたいなら、やればいい」

 臨海学校も終わり、後は夏休みまで何ら問題もなく時は進む。本来ならばそうなるはずのIS学園の一年生達は、正確には一年の専用機持ち達は、その僅かな時間の中で色々と行動を起こしていた。

 

『はぁ!? ちょっと、どういうこと!?』

「いや、どういうことも何も。そのまんま」

 

 あはは、と笑う鈴音の電話の相手は笑い事じゃないと怒鳴る。思わずスマホから耳を離した鈴音であったが、まあでもしょうがないと続けながら再度耳に近付けた。

 

「代表候補生なんて肩書は、あたしのやりたいことの障害でしかなかったんだもの。むしろ早いうちに分かってよかったわ」

『良くない! アタシどうなるのよ! おねえちゃんが代表候補生だからって頑張ったのに!』

「あー、うん。それは、ごめん」

 

 でも、これは譲れない。そう鈴音が電話の相手に述べると、真剣さが伝わったのか小さく唸ると押し黙った。本当にずるい。呟くようなその言葉に、鈴音はもう一度ごめんと口にした。

 

『それで、おねえちゃんどうするの? 代表候補生辞めるってことは、機体も回収されちゃうんでしょ?』

「そう。乱に連絡したのはそのことなのよ」

 

 はぁ、とよく分かっていない返事を電話の相手である乱音は零す。とりあえず続きを聞いてからと何も言わない彼女に向かい、ちょっとお願いがあるのよと鈴音は述べた。

 

「あたしの『甲龍』、乱が使ってくれない?」

『……え?』

「乱は代表候補生っていってもまだ専用機ないでしょ? どうせなら、知ってる相手に渡したいなってね」

『いや、アタシ台湾の代表候補生なんだけど』

「そこんとこは多少融通利くから。……どう?」

 

 受話器からは何も返事は聞こえてこない。何かを悩んでいるような、小さな息遣いが耳に届くのみである。まあそりゃそうか、と鈴音も小さく溜息を吐きながら暫し答えを待ち、そして時間が掛かりそうだと判断して口を開きかけた。まあ返事は後でもいいから。そう言いかけた。

 

『分かった。おねえちゃんの機体は、アタシが継ぐ』

「いいの? 自分で言っといてなんだけど、そんなすぐに決めていいもんじゃないと思うわよ?」

『もたもたしてて他の誰かが使うことになったら絶対後悔するもん』

 

 そっか、と鈴音は笑う。それじゃあお願いするわよ、と続け、任せてという力強い返事を聞いて顔を綻ばせた。

 これで憂いもなくなった、と鈴音は伸びをする。綺麗さっぱり中国の代表候補生を辞められる、と電話口の向こうにいる乱音に語った。

 

『ところでおねえちゃん』

「ん?」

『代表候補生辞めても、学園いられるの? 補助金とかその辺なくなっちゃうでしょ?』

「…………」

『鈴おねえちゃん?』

「そ、その為の『しののの』入りよ! バイトも兼ねて、学費を払ったりとか、その辺ちょっと束さんに土下座してくるから」

『本当に猪だなぁ……』

 

 こういうところは反面教師にしよう。毎度のことながら、と凰乱音は溜息混じりで心に誓った。

 

 

 

 

 

 

「それで? 御当主サマは納得したのかい?」

「してない、んじゃ……ないかな?」

 

 駄目じゃないか、と白衣の女性は笑う。笑い事じゃないと頬を膨らませた簪は、そんなことより篝火さんと彼女の名を呼んだ。

 彼女――篝火ヒカルノの机の上には現在開発中の新機体のデータが表示されている。日本の代表候補生である更識簪が、『代表候補生として活動しない時のための』新機体のシステムプログラムだ。

 

「しっかし、無茶するねぇ。なんだってまたわざわざ暗部になろうだなんて」

「そうしないと……友達が、無茶するから」

「だったらいっそ自分も無茶しようってか。あっはっは、若いね」

 

 笑い事じゃないでしょうと作業をしていた所員がぼやいた。いやいや笑い事だよとそんな所員に返したヒカルノは、さてではと簪に目を向ける。

 現在の場所は倉持技研の第二研究所ラボ。『打鉄弐式』の開発を担当した部署であり、そこの責任者であるヒカルノとは簪もある程度親しくしていた。だからこそ、今回の無茶振りをお願いしたのである。

 

「ま、こちらとしてはそっちの持ってきた草案を形にするだけの簡単なお仕事なんだけどねぇ」

 

 いっそ代表候補生とか暗部とか辞めてこっち来ない? そんな彼女のお誘いを丁重に断りながら、しかし何か手伝えることがあったら遠慮なく言ってくれと簪は述べた。

 とりあえず今のところはないよ、とヒカルノも所員もそう返し、だから応援でもしていてくれとヒカルノが続ける。それはそれでどうなのだろうかと苦い顔を浮かべた簪は、じゃあ向こうで本音でも手伝ってこようと腰を上げた。

 

「お、本チャンのお手伝いにでも行くのかにゃー」

「その、つもり……ですけど」

「おーけおーけ。あっちもあっちで機体のパーツ調整してると思うから、応援してあげてよ」

 

 簪が暗部に入るのならば、当然自分も。そう言ってのけた本音は本音で、自分の機体をベースに完全なる専用機を開発中であった。『葛の葉』は残し、それ以外はほぼ新規パーツで組み上げられたそれは、まさにワンオフ機。

 

「あれで案外……凝り性だよね」

 

 ふふ、と移動しながら簪は笑う。そのおかげで自分の新機体も完成が早まっているのだから、本音には感謝しなければ。そんなことを思いながら廊下を歩き。

 

「……何で、ついてきてる、んですか?」

「いやだって私も今暇だもの」

「所長ですよ、ね?」

「偉い人ってのは、大抵ふんぞり返ってるのが仕事なのさ」

 

 絶対違うと思ったが、口に出すのは憚られた。言っても無駄だと悟ったからだ。

 その代わり、といってはなんだが。ふと思い出したことを言葉にするべく隣でケラケラ笑っているヒカルノへと向き直った。ちょっとした意趣返しのつもりで、それを口にした。

 

「この間……『打鉄弐式』と、本音の『打鉄改』を篠ノ之博士に修理してもらったの、だけれど」

「……うん、そうらしいね。それで?」

 

 ピクリとヒカルノの眉が上がる。何を考えているのか分からない人をからかうような態度が、一瞬にして鳴りを潜めた。それを知ってか知らずか、簪は話を続ける。機体を見て束が彼女に述べたことを、隣の女性に伝える。

 

「『案外いい仕事するねぇ、同級生』……だって」

「……そうかい」

 

 髪を掻き上げた状態のまま、頭痛を堪えるようにヒカルノは俯く。その表情は隣の簪からは窺えない。笑っているのか、怒っているのか。それすらも分からない。

 突如彼女が顔を上げた。やる気なさげであったその瞳は細められ、変人で変態であった篝火ヒカルノから、倉持技研第二研究所所長篝火ヒカルノへと変わっていく。

 

「簪チャン」

「はい」

「君の新機体と、本チャンの『九尾ノ魂』、急ピッチで仕上げてやろうじゃないか」

「はい。……手伝います」

「こき使うよ?」

「望むところです」

 

 

 

 

 

 

 ふう、とラウラはベッドに寝転がる。年頃の娘のようなその行動に、随分と腑抜けてしまったなと彼女はひとりごちた。

 だが、それも悪くない。そんなことを思いながら彼女はゆっくりと目を閉じる。

 

「どうした? 随分とお疲れのようだが」

「……ん」

 

 気付くと隣に同じ顔が座っていた。その顔を見て現実空間ではないことを確認したラウラは、寝転がったまままあ少しなと返す。

 

「臨海学校の事件で協力出来なかったのが少し歯痒くてな。ある程度行動の許可を取ろうとしたのだが」

 

 はぁ、と寝転がったままラウラは溜息を吐く。そんな彼女を見ながら、ああそれは済まなかったと少し切り揃えた前髪と金の双眸が違いである同じ顔の少女は頬を掻いた。

 

「私が原因だな。どうせ大人しく封じられていればよかったのにとかぼやいていたのだろう、あのハゲ」

「お前がいた時より発言力は小さくなってはいるぞ。とはいえ、まあ多少は影響もあるからな」

 

 クラリッサがぼやいていた、とラウラは苦笑する。旧ラウラ、現クロエを更生させた千冬達の協力をするのは彼女達にとって至極当たり前のことなのだ。が、そんな心情だけではどうにもならないこともやはり存在しているわけで。

 体を起こした。どちらにせよ気に病むことはないとラウラは笑う。元々自分が異物で、ある意味我儘を言って主人格になっているだけなのだ。本来の主であるクロエを邪魔に思うようなことがあるはずがない。

 

「もうすぐ夏休みだ。一度祖国に帰り直接交渉をするとしよう」

「大丈夫か?」

「心配いらん。私を誰だと思っている」

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒ、クロエ・クロニクルの親友だ。そう言って笑うラウラを見て、クロエも笑う。それなら確かに大丈夫だなと声を上げて笑う。

 そうして二人顔を合わせて笑い合うと、さてではそろそろ起きるかとラウラは再度寝転がった。

 

「疲れは取れたか?」

「ああ、わざわざこっちで話をしてくれてありがとう」

「気にするな、私は気にしない」

「そうか」

 

 ふふ、とラウラは笑う。ではもう一頑張りするとしようと彼女はゆっくりと目を閉じ。

 ああそうだ、と目を開けることなく隣に座っているであろうクロエに声を掛けた。

 

「クラリッサがな、せっかくの二重人格キャラなのに口調とか被ってるとキャラが薄くなるとかなんとか騒いでいてな」

「は?」

「今度会った時に色々と特訓をするとかなんとか」

「おいちょっと待てラウラ」

「せっかくだからクロエを丁寧口調にしてやろうと張り切っていたぞ」

「張り切るな!」

 

 まあ頑張れ、と親友宣言をした少女に投げやりなエールを掛けながら、ラウラは夢の世界から旅立っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 色々と情勢が変わったことで、ここIS学園のある街にはちょっとした射撃場がある。主にISパイロットが生身の特訓に使うようにと建てられたものであったが、結局は新たなレジャー・スポーツスポットして機能しているのが現実であった。

 そんな場所でペイント弾をストレス解消にぶっ放している男性客は、やってきた新たな客を見て思わず固まった。

 いかにもお嬢様といった風貌の、英国人だと思われる少女。そんな人物がスカートを翻しながらゆっくりと定められた射撃場のスペースに立つ。リボルバーを軽く回し、弾が込められているのを確認すると、銃から一番遠い的へと視線を動かした。

 ちょっとした好奇心で来たのだろう、と男性客達は思う。あんな少女がこんな場所に来るのはそれ以外にまず考えられない。まさかあの見た目で射撃が趣味ですというわけでもあるまい。

 そう結論付けていた客達は、だから少女がクルクルと銃を回すと目の前のカウンターの上に置いたのを見て、ほらやっぱりと苦笑した。大方やっぱり怖気づいたか、あるいは思ったより重かったり難しそうだったりしたので諦めるかどうか迷っているのだろうと推測した。

 だから、次の瞬間カウンターの上の銃が消え去り、そして猛烈な勢いで銃声が聞こえたのを耳にして客は皆目を見開いた。銃は少女の右手に握られており、左手が撃鉄に覆い被さっていることからシングルアクションの連射を行ったのだろう。そうは思っても、理解が追い付かない。あんな少女がそんなことを出来るはずがない。誰もがそう考えていた。

 

「……やはり、命中に難ありですか」

 

 ううむと少女は唸る。くるりと銃を回すと、今度は別の銃を手に取った。そして同じように目の前に置くと、ふう、と息を吐く。

 瞬間、銃声と共にリボルバーは少女の手に握られていた。今度聞こえたのは一発。ふむ、と的を眺めているところからすると、ある程度思った通りの結果が出たようであった。

 

「鈍っていますわね」

 

 やれやれ、と少女は肩を竦めた。その言葉に客達は先程の射撃の結果に視線を向ける。

 最初の連射は位置こそバラバラだが全弾命中。二回目の射撃は中心を僅かに外していた。これで鈍っているのならば、本調子ならばどうなるというのか。

 そんな客の驚愕を余所に、少女は――セシリア・オルコットはまあ気晴らしに来ただけですしと再度銃を構える。今度は『クイックドロウ』なしで、普通に撃つらしい。

 

「ここのところISは使えない運動も碌に出来ないと拘束されっぱなしでしたもの。今日くらいはっちゃけても罰は当たりませんわ、っと!」

 

 連射したそれは的の赤い部分に寸分の狂いなく撃ち込まれる。打ち切った薬莢を殻入れに叩き込むと、素早く装填し再度連射した。瞬く間に一番遠い的がペイント弾で真っ赤に染まっていく。

 それを何度か繰り返していたセシリアは、ある程度満足したのか伸びをすると銃を返却、悠々と射撃場を後にする。

 『拳銃姫』と後々噂されるようになることなど露知らず。

 

「さて、次は――」

 

 言いかけて言葉を止めた。自身のスマホが震えているのに気付き、取り出し画面を確認する。その表情があからさまに苦いものに変わった彼女は、しかし出ないわけにもいかないと通話にスライドさせた。

 

「どうしました?」

 

 電話口の向こう側から聞こえてくるのは呆れたような声。どうしたもこうしたもないだろうと前置きしたその相手は、この間の事件のことを再度蒸し返す。それは以前も話したではないですか。そう伝えるが、相手はそういう問題ではないと繰り返すのみだ。

 

「では、何が問題なのですか? わたくしとしては、そのまま失効してくださっても一向に構わないのですが」

 

 そういうわけにもいかないのだと相手は述べる。それを聞いたセシリアはげんなりした表情で溜息を吐いた。何で鈴さんはあっさり所属変更出来たのに自分は出来ないのか。そんなことが頭をもたげ、それは違うと頭を振った。自分はオルコット、代表候補生以前に、そこを違えるわけにはいかない。

 

「分かりました。では、この件は再度オルコットとして答えを出しますわ。それでよろしいでしょうか」

 

 どのみち今の自分はまともにパイロットとして動くことが出来ない。最低でも夏休みまでは安静にしていなくてはならないのだ。相手もそれは分かっているらしく、渋々といった様子ではあるが納得をしたらしい。一言二言述べ、そこで通話は終わった。

 やれやれ、とセシリアは暗くなったスマホの画面を暫し見詰めると、次の気晴らしに向かおうとそれをカバンに仕舞おうとする。

 

「げ」

 

 そのタイミングで再度震え、着信を知らせるように画面が明るくなる。表示されている名前は。

 

「……図ったようなこのタイミングが、本っ当にムカつきますわ」

 

 そうは言いながらも口角を上げているセシリアは、その相手と通話すべく先程と同じように指を画面上でスライドさせた。

 表示されていた名前は、彼女の父親である。

 

 

 

 

 

 

 壁にもたれかかり、空を見た。晴れ渡っているそれは自身の気持ちを嘲笑うかのようで。

 

「……」

 

 口を結び、ただただ空を見る。あんな風に晴れ渡るには一体どうすればいい。自問自答しても答えなど出てこない。

 否、違う。とうに答えなど出ているのだ。それを認めるのが嫌なだけ。

 

「マドカなら、なんて言うかな」

 

 好きにすればいい、だろうか。そんな甘言に騙されるな、かもしれない。別に聞くことはすぐに出来るので、実行に移せばいいだけなのだが、どうにも彼女はそれをする気にならなかった。

 頭に浮かんだように自分に向き合ってくれるならばいい。だが、もし。もしも、裏切り者だとこちらを見たら。『亡国機業』のエムとして、裏切り者デゼールを始末すると武器を向けてきたら。

 きっと立ち直れない。デゼールは、シャルロット・デュノアは抵抗することなく消えるだろう。実際に殺されずとも、その行動だけで十分だ。

 

「……何で。私は、マドカを信頼出来ないの……」

 

 違う、とデゼールは叫ぶ。信頼出来ないのは皆一緒だ。一夏達だってそれ以上に信頼することが出来ない。デゼールの姿で、素顔を見せて。それで何だお前だったのかと、それでも友人だと言ってくるなどという希望は、微塵も持ち合わせていない。

 なんて寂しく、浅ましい。自嘲するようにあははと笑い、もうどうでもいいとばかりに地面にへたり込む。

 ふと、そんな彼女に影が差した。何だとゆっくり顔を上げると、そこには先程信頼出来ないなどと口にしてしまった親友の姿が。

 

「……何で、ここに?」

「お前の様子がおかしかった。だから来た」

「それ、って」

「シャル、お前が心配だったんだ」

 

 正体がバレるかもしれないという危険を冒してまでも、直接会いに来た。そう言い放ったマドカを見て、デゼールは――シャルロットの表情がくしゃりと歪んだ。笑いながら、その目尻に涙が溜まっていく。

 そんな彼女の前に屈んだマドカは、ゆっくりとその体を抱きしめた。心配するな、と頭を撫でた。

 

「私はお前の親友だぞ。どんな答えを出しても、それは変わらん」

「……ほんとうに?」

「ああ、今まで私が嘘を吐いたことがあったか?」

「しょっちゅう」

「ははは、よく覚えてるじゃないか」

 

 だが、今の言葉に嘘はない。そう言い切ったマドカがどんな表情をしているかは、シャルロットには分からない。だが、その体から伝わってくるぬくもりで十分だった。親友だから、信頼出来る。そう思わせてくれるのに十分だった。

 

「ねえ、マドカ」

「何だ?」

「私、『亡国機業』やりたくない」

「そうか」

「家が嫌い、親が嫌い、同僚が嫌い」

「ああ」

「あんな連中と一緒にいるより、友達と笑っていたい」

「ああ」

 

 そこで一度言葉を止めた。もうあらかた言ってしまっているが、それでももう一度だけ覚悟を決めるために、息を吸い、吐いた。

 

「私、一夏達に、全部話そうと思う」

「……そうか」

「怒らないの?」

「怒ってどうする。シャルがやりたいなら、やればいい」

 

 ただ、とマドカは続ける。向こうが受け入れてくれるかどうかは知らんぞ。そう言って彼女から少しだけ離れると意地悪そうに笑みを浮かべた。その笑みの意味は、つまりそういうことである。

 自分ならばお前を受け入れる。

 

「うん、ありがとうマドカ」

「それで、いつやるつもりだ?」

「終業式の日。そこで決着を付けて、夏休みと同時にフランスに帰るよ」

 

 勝とうが負けようが、もう『亡国機業』になど所属しない。そう決意した彼女の目を見て、マドカは仕方ないなと苦笑する。それまで何か妨害がないように、自分が護衛をしてやろう。そう言って立ち上がり腕組みをした。

 

「いっそそのまま、私と新しい組織立ち上げない?」

「それもいいかもしれんな。……まあ、私の場合はお前以上に呪縛がある。それを解くのはそう簡単じゃないが」

「そっか……うん、ごめんね、我儘言って」

「気にするな、親友だからな」

 

 そう言って笑うマドカを見て、シャルロットも笑顔を見せる。よし、と立ち上がったシャルロットは、じゃあとりあえずとマドカに手を差し出した。

 

「スッキリしたらお腹空いちゃった。どこか食べに行こう?」

「割り勘だぞ」

「分かってるよ」

 

 ぎゅ、とシャルロットの手を握る。彼女と同じように、マドカもまた、このぬくもりに安心を覚えていた。決して失いたくないものだと、そう思っていた。

 だから織斑一夏が、『しののの』が彼女を排除しようとするならば全力を持って抵抗するつもりでいる。逆に、受け入れてくれるのならば。

 

「……私も、大概馬鹿だな」

「どうしたの?」

「なんでもないさ」

 

 親友のために、自分勝手に行動するだけなのだから。そんなマドカの呟きは、言葉になることなく呑み込まれた。




ようやくシャルが仲間になる兆しが見えてきた気がする

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