風呂から上がったあと、アリスの家にあった子供用の洋服に着替え、居間の中央にあるテーブルについている4つの椅子の一つにホットミルクを飲みながら少年は座っていた。
ふと少年は疑問を浮かべる。
(そういえばこの服は誰のものなんだろう。)
部屋の北側の壁側には棚があり、その上に人形が何十体と置かれており、その殆どが西洋風のものであった。
少年はその人形たちを見ていると、逆に人形たちが自分を見ているということに気づき、急に怖くなってきた。
よく見てみると、西洋風の人形の中に、一体だけ、黒髪の和服を着た少年の人形がいることに気づく。
(たしかこれは夏祭りの人形劇のときに使われていた人形だっけ?)
少年は立ち上がり、その人形に近づく。近くでよく見ると、髪型といい、顔立ち、服装が少年に酷似している。
少年がその人形に触れようと手を伸ばす。
手が人形に触れようかという瞬間に、ドアが開く音がし、振り向くとアリスが部屋に入ってきていた。
咄嗟に少年は手を引っ込める。
「その人形に興味あるの?」
「え、うん。これだけ他の人形と違って髪が黒かったから。」
「ふふ、そうね、この人形はあなたをモデルにしたの。」
「え、そうなんだ。なんで?」
「私には兄弟がいなかったから君みたいな弟がほしいなって思って。それで、人形を作っちゃった。」
アリスは少年の頭をなでた。
「ぼ、僕も、アリスさんみたいなお姉さんがいたら良いなって思ってたよ。」
「ほんと?君は私のこと好き?」アリスはかがみ込み、少年と顔を向かい合わせる。
「す、好きだよ。」少年は顔を赤らめた。
「じゃあ、私とずっと一緒にいてくれる?」アリスと少年の顔が息がかかるくらいの距離まで近づく。
「ずっと?」
「そう、ずっと仲良くしてくれる?」
「うん、いいよ。」少年は深く考えずに応える。
「良かった・・・そう言ってくれて。」アリスは寂しげな笑みを浮かべた。
地下室の作業台の上に寝そべり少年は眠っていた。
正確にはアリスの魔法によって眠らされていた。
また、少年の隣には先程の黒髪の少年をモデルにしたという人形が横たわっている。
彼女はこれから少年の魂を人形に移し替える魔術を行おうとしていた。
アリスは少年の上半身を右手で抱え上げ、三角フラスコに似た容器に入った、硫酸銅水溶液のような半透明の青色をした液体を少年の口内に流し込む。
すると呼吸、脈動、少年のあらゆる生体機能がその活動を停止していき、みるみるその体は冷たくなっていく。
アリスはその様子を無表情に観察する。
五分後、少年の体は完全にその生命活動を止めた。
その過程を見と届けたアリスは右手に持った十得ナイフで少年の服を裂き裸にし、胸部の皮膚を切開、
肋骨を切除、血管を切断し、丁寧に少年の体から心臓を取り出すと、予め開胸してあった人形の内部に埋め込む。
埋め込んだ心臓に今度はビーカーに入った濃褐色の粘性のある液体を垂らす。
そして、胸部を縫い針で縫合する。
これで、心臓に閉じ込められていた少年の魂が人形の体に滲み出し、人形に魂が宿り、自動で動き出すはずである。
アリスは人形が動き出すのを期待と不安の入り混じった心境で待つ。
しかし、暫く経っても人形が動き出す気配はなかった。
アリスは少年の魂を人形に宿す魔術に失敗したのだった。
その代わりに得たものは心臓の入った人形と、かつて少年の体であったはずの有機物の塊だけであった。
次回、最終話です。