学力強化研修が終わったその日、いきなりの通達があった。
――文月学園第2年全男子生徒総勢149名、上記の者たち全員を一週間の停学処分とする――なんで私が停学になるのか…などという思考をしている間に処理は進められてしまったらしく、私は一体何が起きていたのかを知ることもできずに自宅での謹慎生活を始めてしまった。
文月学園職員室にて…
「で、あのクソガキどもはどうしてるんだい?」
「いまのところは処理もすんでおとなしく謹慎していると思われます」
学園長室は三人の人物の話し合いが行われていた。
「まったくあのクソジャリども…人の裸見てなにが割に合わない、だ」
そうボヤくのはこの学園の最高権力者にして学校のメインシステム研究者ともいわれる学園長、藤堂カヲル。
「(その気持ちもわからなくはないですが)学園長、その件でひとつ報告が…」
そう進言しているのは、素晴らしい肉体と、鍛え上げられた肉体と、巧みに創られた肉体、現在学園でもある意味最強のクラスを請け負う、西村宗一教諭である。彼は極めて落ち着いて、しかし若干の焦りを伴い書類を学園長に渡した。
「今回の合宿での騒動、どうやら参加していない男子生徒がいるんです」
「木下秀吉のことかい?だがあいつは最初から男子側にいたって報告があるよ?」
「いえ、木下ではなく…」
学園長は木下のことかと尋ねたが、
「2-A 加藤 裕紀。騒動時は自室にて自習をしていたそうです」
今回の騒動がおこった第二学年の主任であり、Aクラスの担任でもある高橋洋子教諭が答えた。
「…まさか参加してない男子生徒がいたとはね。あれだけの騒動だったとはいえ、全員停学は早計だったか」
顔をしかめる学園長だったが、すぐに思考を切り替えて指示を出す。
「すぐに停学処分の内容を訂正するとしようか。かかわってないなら完全にとばっちりだからね」
しかしここで二人の教諭が異論を唱え、
「そうできればよかったのですが…」
「いま加藤の停学を取り消すのは得策ではありません」
「どういうこったい?」
「参加していなかったとはいえ、いま男子生徒の停学を取り消すと…」
「加藤君が女子に殺されてしまいます。間違いなく」
通常の高校ではありえない発言が飛び出した。
「ちょいとお待ちよ、いくらなんでもそれは…」
「いまは停学処分が下されて落ち着いていますが、一部の女子がかなり殺気立っていました。学校が処分しないなら私たちが…という感じで」
「私が付きっきりで護衛をすれば大丈夫かもしれませんが、授業などもありますので…」
「いったい最近の高校生はどうなってんだい…」
あまりにも過激な女子の言動に頭を抱える三人。しばらくの沈黙の後、学園長が切り出した。
「仕方ないさね、その生徒への謝罪と説明をして、なんとか納得してもらおうか…しかし、私が行こうにもシステムのメンテがあるし…」
「なら、担任ですし、私が行きます。2年になってからの家庭訪問も彼にはできていませんでしたから」
学園長の言葉に、高橋教諭が名乗りをあげ、加藤 裕紀への家庭訪問が決定した。
「ところで、高橋先生?」
「はい、なんでしょう」
「加藤という生徒はどんな生徒なんですか?1年の時からいたのなら、顔も覚えているはずなんですが…」
「加藤君、ですか?いつも落ち着いていて、勉強もしっかりと深くまで理解するいい子です。ただ、あまりしゃべらない子なのでAクラスの中でも少し孤立気味というか…気にかけてはいるのですが。1年の頃からあまり親しい人はいなかったみたいですね」
「ふむ…生徒の顔は記憶していると思ったが…お恥ずかしい限りです」
「あまり印象に残る子ではないようですし、西村先生は結構個性の強い子を指導してますから…」
「まぁ、確かに個性的な生徒が多いですが…まじめな生徒なら高橋先生が行かれても問題ないでしょうな。では、授業がありますので」
「ええ、お疲れ様です」
カリカリ…カリカリ…
少年は独り問題を解いていた。学校から停学中にするよう求められた、大凡一週間で解ける量を少し超えた課題である。
しかし、少年のとなりにはすでに終わったと思われる課題がかなりの量つみあがっていた。いま解いている問題集ももう終わりに近付いているようで、少年は一旦筆を置き、水を飲むために台所へ向かった。
コク…コク…コト
――ピーンポーン――
「あれ?だれか来ましたね」
少年は少しお待ちくださーい、と言いながら玄関へと向かった。
そこにいたのは―――――
加藤君の家に向かう前、ある程度書類上の彼を確認してみた。どちらかといえば童顔に属する顔立ちに、検査データではそれなりに高めの身長。素行に問題はなく、現在係累の死亡により独り暮らし。係累の―――つまり親類がいない、高校生が独り暮らしをおこなえているのは何故かとも思うが役所は手続きさえすれば細かく介入しないのだろう。とはいえ男の子の独り暮らしだ、家庭訪問も少し時間がかかるかな、と思いながら加藤君の家の前に着く。
―――ピーンポーン―――
インターフォンを鳴らす。間もなく屋内から声が聞こえ、このドアを開けた。そこにいるのは加藤君―――ではなく。
「あれ、いらっしゃいませ、高橋先生」
―――とてもかわいらしい、女の子だった。
あとがき遅くなりまして申し訳ありません、以前にじファンにて投稿していたEINSでございます。
今回名前を変更しての移転となりますが、リアル事情も重なりかなりゆっくり(ほぼ停止?)な更新となっていくかと思われます。
ゆったりと気長にお待ちいただければと思います。