「あ、そうそう。加藤君に言っとく事があったんだ」
「はい?」
「この間、姉さんがお世話になったみたいで、ありがとう」
「えっと…何のことですか?」
「ナンパされてるのを助けてくれたって言ってたんだけど…君じゃなかった?」
「……あぁ、あの女性は貴方のお姉さんでしたか。気にすることはありません。私が勝手に首を突っ込んだだけですから」
「いや、でもさ、やっぱり感謝は大事だよ」
「…では、有り難く受け取ります」
「それでね、姉さんが今度のテスト後に、うちで食事をっていうことでさ、テストの翌日とかどうかなって思うんだけど…」
「…ええ、その日で構いませんよ?」
「ありがとう!じゃあ、姉さんにも伝えておくね。ところで、ここの問題なんだけど…」
「あぁ、これはですね…」
―――霧島家 PM3:30―――
さっきの坂本君の告白騒動後、ざわついた皆さんだったが、私の「勉強、しましょうか?」の一言で本来集まった意味を思い出し、それぞれの試験勉強を始めた。私は秀吉と何故か吉井君を任され、二人に世界史、日本史、現代国語の三教科を教えていた。姫路さんが吉井君を教えたがっていたが、坂本君の「点数上げに専念してくれ」という言葉で不承不承といった様子で引き下がった。島田さんは坂本君に古典を教えられている。…秀吉はすでに十分な勉強をしてきたこともあり、私が教えなくてもある程度まで解けるようになっていたのだが…。
「加藤君、ここがわからない」
「ああ、ここは…」
「加藤君、ここ教えてくれるかな?」
「ええ、これはですね…」
「あと、ここからここもなんだけど…」
「さっきの問題と同じ内容でしょう!?貴方は私の話を聞いていましたか!?」
「わあぁぁ!ご、ごめんなさい!!」
実質彼とのマンツーマン。同じところを何度も聞かれ、つい怒鳴ってしまった。まったくもって理解できない。何故さっき聞いた問題が分からないのか。…いや、待てよ?
「吉井君、もしかして関連付けを忘れていますか?」
「関連付け?」
「その言葉だけを覚えようとするのではなく、その周りまで一緒に覚えるんです。人物、事件、国や年代など、暗記科目では重要ですよ?」
「…知らなかった」
「それをしておくと、どれか一つを忘れても、関連付けしたことから思い出すことができます。周囲を覚えて、更にその周囲、こんな風にしていくと、忘れてしまっても周りや内側から攻めることができます。…これが貴方に合った勉強法なら、すぐに結果が出るはずです」
「でも、具体的にどうすれば…」
「ノートを出して。マーカーを用意してください。例えば、ある事件を覚えるなら、まず真ん中にその事件を書いて」
「こう?」
「そうしたら、それを囲んで、周囲から放射状の線を引く。その先に、年代、国名、中心となった人物、その時期の文明・文化等を書き込み、更に囲む。それにまた線を書き、さらに関わりのあるモノを書いていく」
「こんな感じかな?」
「ある程度線が多くなったらページを分けてもいいです。その時に使うのがマーカー。関係性の高い物同士を同じ色でグループに分け、別ページの一番上にその色を塗る。そうすると、関連したものがどこにあるかもわかります」
この方法でやってみましょう、と彼にどんどんノートを取らせていく。この勉強法は決して突出して良い勉強法というわけではないが、吉井君のような人は利点がある。
「へー、結構あみだくじとか魔方陣みたいで楽しいね!」
「そうでしょうね。色分けも、謎解きパズルみたいで楽しいんですよ?」
「面白いや!このまま広げていってみるね!」
吉井君は楽しんでやっているようだ。勉強が苦手、と言う人は、大抵勉強を苦痛だと思っている。苦痛なことをやりたがる人はいないのだから、面白みを見つけることが必要だ。それに、書くことによって文字を目だけでなく手でも認識するようになる。こういう意味でも、動作を記憶と関連付けることができるのだ。
「日本史、世界史はこういう形で勉強していきましょう。現代国語は…先に小テストをしてから傾向を見てみましょうか」
―――霧島家 PM5:00―――
「…上限なしの模擬テストの結果ですが」
「………」
「世界史、196点。日本史、201点です。Bクラストップとほぼ同じ点数ですね」
「……えっ?」
「まさかここまで早くできるようになるとは思いませんでした。あとは現代国語を中心にしていきましょうか?」
「僕が…200点越え…?」
吉井君はまだ信じられないようで、ポカーン…といった感じがありありとみて取れる。私自身もここまでとは思わなかった。思った以上に結果が出たようだ。
「ただ、安心はしないでください。これはあくまでも模擬テストですし、若干問題は簡単です。実際の試験ではもう少し難易度の高い問題もありますから。ただ…」
「ただ、何?」
「問題の取捨選択次第で、この点数は超える可能性もあります。難しい問題に時間をかけず、解ける問題を先に解きましょう。吉井君の解答を見ると、下の方に空欄が目立ちます。下の方にも比較的簡単な問題はありますから、上から順に解くという考えを捨てていきましょう」
「ぼくが、このうえのてんすうを?」
平仮名だと分かりにくいです、吉井君。
「間違いないとは言い切れませんが、可能性は高いですね。吉井君の答えた問題をレベルわけしていくと、解ける問題は後半にもかなりありましたから」
「………なんか、すっごい嬉しい」
「さ、現代国語に移りましょう。勉強法は違いますが、高校のテストは全て暗記が肝心です。現代国語にあった暗記法は…」
「裕紀よ、明久だけでなく、こっちにも構ってほしいのじゃ」
「どうしました、秀吉。甘えんぼさんみたいに」
「ち、違うぞい!?別に明久に嫉妬したわけではないのじゃ!!」
「冗談なんですが…わかりにくかったかな?」
秀吉が解らないところがあったようで、私に聞いてきた。秀吉は既に古典に教科を変えていて、現代語訳でつまっているらしい。問題自体は難しくない、だが…。
「お前、古語辞典を引きなさい。お前に足りないのは単語力だけですよ」
古典は英語と同じで、単語と活用法の暗記力が試される。秀吉はどうやら単語が解らずに、訳を上手くできないだけのようだ。
「古語辞典を引くだけでよいのか?」
「引いたら品詞別に書き込みなさい。記憶するだけなら単純作業が一番楽です」
「わかったのじゃ。…明久の模擬テストの結果、どうじゃった?」
「聞こえないくらい集中していましたか?コレですよ」
「…!?」
秀吉はテストの結果を信じられないモノを見るかのように見つめ、吉井君の顔とテストの結果を交互にみた。そのくらい、吉井君が勉強ができなかった証拠か。
「目の前の現実を受け入れましょう。そして、温かく迎えてあげるのです」
「明久が…明久が…!」
「まぁ、そのくらいショックなんでしょうね…」
―――霧島家 PM6:00―――
「…そろそろ夕飯の時間だから、みんな、別の部屋に来て」
霧島さんに呼ばれ、全員が夕飯を摂りに移動した。流石に大きい家だけあって、食堂と呼べるそれは一般家庭とは比べるまでもなく大きい作り。そこに運ばれた料理の数々も見事な品ばかりで、中央に設置された円卓の上にあるのは…中華、それも満漢全席と言っても過言ではないくらいのフルコースだった。
「…友人、知人を呼んだ程度のときに出される食事ではないですよね」
「最近はまともな食事ができて…僕は最高の気分だ!」
「…見事な中華」
「はわわわ…すごいです」
霧島さんはみんなの驚きをよく理解していないようで、不思議な顔をしているが、せっかく出された好意をずっと見ておくのは申し訳ない。私は率先して席についた。
「皆さんも、早く席についてはいかがですか?もてなしを受けるのも礼儀の内ですから」
「それもそうだね!早く食べようよ!!」
「そうじゃの。戴くとしようかのう」
「また食べすぎちゃうかもです…」
「うわー、おいしそうだね。たくさん食べちゃおっと」
私の言葉に反応し、みんながそれぞれ席についた。霧島代表が席についたのち、全員で食事を始める。
「…このレベルの中華はなかなか食べられない」
「そうなの、ムッツリーニ?僕はそもそも中華をあまり食べないからわからないや」
「食事がとれないから、の間違いじゃねえのか?…翔子、あまりくっつきすぎると食べにくいから離れろ」
「…いや」
「いいじゃない坂本、お嫁さんの可愛いお願いなんだから」
「…霧島さん、杏仁豆腐を食べたいからナイフか包丁、日本刀を「杏仁豆腐を切り分ける以外の目的に使ったら怒りますよ?」…デザートナイフかなんか持ってきてくれないかな?」
「…今持ってくる」
「…雄二、覚悟は「食事の最中に騒いだら、問答無用で怒るわよ?」なんでもない」
私と優子さんの言葉に、二人も坂本君を標的にするのを止めたようだ。
「…全く、二人が合意してる上で付き合うんなら外野は口を出すべきじゃないわ」
「嫉妬は感情として仕方ないかもしれませんが、それによって相手を貶めるのは人間的にどうかと思われますよ?」
「あぅ…ごめんなさい」
「…それでも、FFF団の後援を務める俺には…」
「人を呪わば穴二つ、ですよ?貴方が女性と付き合い始めたときに困るでしょうし、そもそも女性からすれば、男の嫉妬は見苦しいと思われがちです」
「……」
「…食事の場で苦言を呈してしまいましたね。すいません。さ、せっかくの料理ですから、おいしく戴きましょう?」
食事の場を微妙な空気にしてしまったことを詫び、食事を再開する。…が、女性陣が私の方を見ているため、どうにも居心地が悪い。
「…どうかされましたか?」
「いえ…まともな男の人もいるんだなぁ、って」
「うん、Fクラスは全員こんな感じだから」
「男女の交際は他人によって制限されるべきものではない。それは基本だと思うんですが…まあ、私も男ですので、やはり仲のいい男女をみると嫉妬、というか羨ましく思ったりもしますよ?」
「「ダウト!」」
優子さんと工藤さんからうそつき呼ばわりされた。
「裕紀、アンタが嫉妬するところなんて想像つかないわ」
「ボクも。というか、加藤君って女の子をそういう目で見そうにないよね」
「………泣いてもいいんでしょうか?」
私は一瞬反論を試みるも、まぁ実際あまりそういう感情は抱かないか、と納得した。
―――霧島家男子寝室用客間 PM9:00―――
「雄二から始まる!」
「「イエェー!!」」
「古今東西、加藤が絶対に言わなさそうなこと!!!」
食事も終わり、あまり遅くまで勉強してもかえって体に良くないからと、食後の勉強はほどほどにして、今は男女分かれてのレクリエーションタイム、と言ったところだろうか。坂本君、そのお題は何ですか?
パンパン<―――坂本君の番
「『私にひれ伏しなさい、愚民が!』」
パンパン<―――吉井君の番
「『近づいてくんじゃねえよ、カスが!』」
パンパン<―――土屋君の番
「…『女の子のお尻っていいよね!』」
パンパン<―――秀吉の番
「『実は私、秀吉のことがすきなんです』」
パパパパン<―――私が全員の頭をはたく音
「私を愚弄するためにこのゲームを始めたのなら、相手になりますよ?」
「ま、待て加藤!左手だけなはずなのに何故か勝てる気がせん!」
「ごめんなさい!許してください!!」
「………!!!」フルフル
「悪かったのじゃ!謝るから許してほしいのじゃ!!」
私を完全にバカにしているとしか思えない台詞を吐いている彼らに、どうお仕置きしようか考えていると(その間中彼らは土下座していた)、 女性陣からお風呂を勧められた。
「裕紀~、お風呂あいたわよって何この光景!?」
「あ、わかりました。皆さん、行きますよ?」
「待って加藤君!秀吉と一緒に入るなんてことはできないよ!」
「はい?なぜですか?」
「男が入浴している最中に秀吉みたいなかわいい女の子が入るなんて!」
「ワシは男じゃといつも言っておるじゃろうが!!」
…まったくわけがわかりません。
「でしたら皆さん先に入られてはいかがですか?私は秀吉と入りますので」
「……加藤、混浴なんてみとめない」
「土屋君、私も秀吉もれっきとした男ですから、混浴にはなりませんよ?」
全く収拾がつかないので、秀吉を除く男性陣を浴室に突っ込んで、部屋に戻った。
―――霧島家浴室 PM9:40―――
「…ひでよし~、かみあらって~」
「裕紀、お主、やはり風呂に入ると途端に怠惰になるのう」
「…だって、こんなにゆっくりできるところなんておふろくらいしかないんだもん」
「…まぁ、そこが可愛い所なんじゃが」
「ん~?なに~?」
「いや、ワシだけが知ってる、お主のいいところのことじゃよ。ほれ、髪を洗ってやるからこっちへ来るのじゃ」
「ん~」
「さっぱりした」
「上がった途端にいつもの調子に戻るんじゃな」
「まあ、ダレていられるところなんかそう多くはないですからね」
「ワシとしてはもっと他を頼ってほしいのじゃが…」
「性分だと思って諦めてください。さ、明日の朝から軽く勉強したら、家に帰って頑張りましょうね。その後は…期末テストです!」