馬鹿とテストと薄い影   作:のろし

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第十一話

「いよいよテストの日じゃのう」

 

「頑張りなさいよ、秀吉。アタシと裕紀であれだけ教えてやったんだから」

 

「100点以上取ればご褒美も待っていますからね?気負いすぎることなく、頑張りなさい」

 

「うむ、頑張るのじゃ!姉上も裕紀も、ワシが言えたことではないが、頑張ってほしいのじゃ」

 

「言うまでもないわ!」

 

「左手でどこまでできるか試すいい機会でもあります…と思うことにします」

 

「「…」」

 

「アンタ実は結構未練タラタラでしょ?」

 

「言葉の最後に怨嗟と諦観が入り混じっておる気がするぞい?」

 

「…さ、行きましょうか」

 

「「コイツ流しやがった!」」

 

 

 

 

 

 

 ―――文月学園Fクラス AM8:10―――

 

 

「おはよう、秀吉」

 

「よお、おはようさん」

 

「うむ、おはようなのじゃ」

 

 秀吉が教室に入ると、既に登校していた明久と雄二が挨拶をしてきた。秀吉はそれに答え…明久のふらふらとした状態に驚いた。

 

「明久、どうしたのじゃ?かなりふらついておるぞい?」

 

「あ、うん。ちょっと勉強しすぎたかな…昨日帰った後に姉さんから更に減点されちゃって」

 

「おいおい、明久。一体どれだけ減点されたんだ?」

 

「…合計で400点くらい」

 

「お前の前のテストが800点くらいだったから…1200点以上必要か。なるほど、そりゃきつい」

 

「今までの僕の総合点が、調子いいときで1000点くらいだったから、昨日までの勉強会で、無理な点数ではなくなったんだけど…」

 

 明久の言葉は途中で詰まり、数瞬の間をおいて続けた。

 

「ちょっと姉さんと喧嘩しちゃって…」

 

「明久、悪いことをしたのなら謝れ」

 

「姉?明久には姉がいたのかの?」

 

「あ、秀吉は知らなかったっけ。そっか…秀吉は加藤君の付き添いで病院に行ってたから」

 

「ちょうどその日であったのか…明久よ、自身の非を認め、謝ることの重要性は、裕紀との件で学んだのではないのかの?」

 

「…僕が悪いところもあるのはわかってるんだ。ただ、僕のしたことが全て無意味だって言われたような気がして…!」

 

 先日の件もあり、二人は明久を諭すように語りかけるが、明久は落ち込みつつも、このことばかりは曲げられぬといった様子で反論する。

 

「…なるほどのう。ならば、無意味でなかったことを証明してやらねばの?」

 

「今日のテスト、しっかりがんばるんだな」

 

「…うん、精いっぱいやるよ」

 

 

 

 文月学園のテストは二日に分けて行われる。初日に6教科のテストがあり、今回のテストでは現代国語、英語(リーディング)、世界史、数学Ⅱ、化学、保健体育の6教科を初日に行う。明久にとって、教え込まれた3教科の内2教科が初日になっていることは幸運といえるだろう。一昨日の模擬テストの結果で自信をつけた教科ならば特にである。テストが始まったときに、よほどのミスをしない限りは大丈夫だ…と、明久は考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――文月学園Aクラス AM8:50―――

 

「注意事項です。机の上には筆記用具以外は置かないこと、机に何か書かれている場合は内容に関わらずカンニング扱いになります。確認して、覚えがない落書きでも消してください。また、途中退室は無得点扱いとなりますので―――」

 

 教諭のいつも通りの常套句を聞きつつ、裕紀はテスト前の精神集中を始めた。

 

(…………左手で字を書くこと自体にはそれなりに慣れた。まだ、どうしても右手ほどには早く書けないけれど、それでも前と同じ点数は取って見せる。姉さんに甘えるわけにはいかないから)

 

「…では、始めてください」

 

 教諭の号令によって、テストが開始された。裕紀は落ち着いて問題を解き始める。周りから聞こえるペンを走らせる音の速さは、裕紀のそれとほとんど変りない。若干歪な恰好にはなっているが、十分に読める字を書いていることを鑑みると、十分すぎるほどの速さだ。これが右手であったなら、とは考えない。今の時点で使える左手を、裕紀は最大限に使っていた。

 

(…しかし、流石にきついか)

 

 周りの音に比べ、段々と裕紀の解答速度が落ちている。慣れ切っていない左手は、やはり字を書くときに余計な力が入る。つまり、疲労がたまるのも早いのだ。それなら…と、裕紀は一旦ペンを置いた。

 

(解く時間がかからない問題を見つけるまで…!)

 

 30秒ほどそのままだった裕紀だが、またペンをとり、解答を再開した。彼はテストの全てをその方法で解いていった。

 

 

 

 裕紀の解答速度が落ちていることに、隣の席の木下優子は早い段階で気付いた。

 

(やっぱり左手はきついわよね…)

 

 とはいえ、裕紀がそこで諦めるような人間でないことは、彼女もよく知っていた。一旦ペンを置く音が聞こえ、しばらくの沈黙。その後、すぐにペンを走らせる音が再び聞こえ始めた。しばらくすると、ページをめくる音がする。

 

(問題用紙1ページにある問題は大体50点分、この速さで全てを解くことはまず無理…。裕紀のやつ、解答にかかる時間を重視してるわね)

 

 点数上限なしのテスト。これが裕紀に味方をしたか…、と彼女は考えながら、自身の問題を解くスピードを上げた。

 

 

 

 

 

 

 ―――文月学園玄関前―――

 

 一日のテストが終わり、帰ろうとしている裕紀、優子の後ろから、秀吉と明久がやって来た。

 

「おや、二人とも。お疲れ様でしたね。テストはどうでしたか?」

 

「秀吉、アンタもしできてないとか言ったら…怒るわよ?」

 

 二人はそう言って、秀吉たちの言葉を待つ。

 

「大丈夫じゃ、今までのワシとは思えんほどによく解けた。5分前のチェックもしっかりしたし、問題なかろう」

 

「僕も現代国語はよくできたかな。世界史の方は…」

 

「おや、なにかありましたか?」

 

 言葉を途中で止めた明久に、裕紀は尋ねる。すると、まさかの答えが来た。

 

「すっごくよくできたんだ!今までのテストの中で一番自信があるよ!」

 

「「「………」」」

 

「そうですか、それはよかった。教えた甲斐があったというものです」

 

「加藤君…」

 

「とはいえ、今回のテストだけで満足してはいけませんよ?今回の科目以外にも、大事な科目はたくさんありますからね」

 

「う…、はーい」

 

 自分の言葉に一喜一憂する明久を見て、「…将来犬を飼ってみたいな」と呟いた裕紀だった。

 

 

 

 

 

 ―――明久の家 PM6:00―――

 

「そうですか。それは頑張りましたね」

 

 気まずさをあえて無視して今日の結果を報告した明久に、玲は彼の予想とは違い、嬉しそうに答えた。

 

「で、でさ。明日も得意科目があるから、きっと姉さんの手を煩わすような結果には…」

 

「アキ君、貴方は、姉さんを追い出そうとしていませんか?」

 

「いや、決してそんなことは…」

 

「姉さんがいなくなった場合の心境を英語で答えてください」

 

「Verry happy」

 

 ………一瞬の間………

 

「あ、やめ、姉さん、いた、痛い!」

 

「まぁ、私としても結果が出たのなら文句を言う気はありませんが…」

 

「うん、そうして…あれ?」

 

「どうしましたか、アキ君?」

 

 いきなり不思議そうな顔をした明久に、玲は怪訝な顔をして尋ねる。

 

「換気扇が付いてる…ここのところ使う用事はなかったんだけど」

 

「にゃんでも」

 

 舌を噛んだ。

 

「なんでもないでしょう。アキ君のことだからきっと消し忘れただけで…」

 

「いくらなんでも三日も気づかないわけないよ。ちょっと見てくる」

 

「あ…」

 

 

 

 

 

 ―――明久視点―――

 

 ………冷凍室の中に、黒焦げのパエリアがあった。僕の中で小さな違和感がどんどん氷解して行く。どうしてあんなに材料が多かったのか、どうしてパエリアだったのか、どうして作りなれたものでなく、別のレシピだったのか。すべてがつながったとき、僕は姉さんに飛びついた。

 

「姉さんッ!」

 

「にゃぁ!?」

 

「酷いこと言ってごめん!僕、姉さんのこと大好きだよ!」

 

「ぁ…」

 

 姉さんが帰ってくれればうれしいなんてもう絶対に言わない。テストの結果がどうであれ、姉さんの時間が許す限り、帰らないでいてほしい。だって…

 

「僕と一緒に、パエリア作れるようになろ?勉強は僕が、料理は姉さんが頑張っていこう?」

 

「…アキ君」

 

 姉さんが僕から離れて、顔を少し赤くして答えた。

 

「アキ君がそういう覚悟なら、姉さんもお嫁に行くことを諦めます」

 

 …最後の最後で締まらないなぁ。

 

 

 

 

 

 

 ―――木下家 PM7:40―――

 

「………秀吉」

 

「…なんじゃ?」

 

「優子さんが意気揚々と用意しているのは…私の家にあった服(女の子用)だと思うんですが…」

 

「…鍵を姉上に渡しておったからな。一昨日のことが影響したかのう?」

 

「私は決して趣味があってそう言う格好をしているわけではないんですが」

 

「あの状態の姉上に言うても、意味はなかろうの」

 

「…あきらめましょう」

 

「…じゃなぁ」

 

「~♪ ~♪」

 

 次の日のテストもどうやら全員上手くいったようで、明久に至っては過去最高点を250点更新したんだとか。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――文月学園 PM7:30―――

 

「…学園長、これは何ですか?」

 

「そう非難がましい目をしないでおくれ、西村先生。システムの調整をちょいと間違えちまっただけだよ」

 

「これを「ちょっと」と言い切りますか?」

 

「見てくれが悪いだけで、それ以外は問題ないんだよ。そんなに目くじら立てなくても、できるだけすぐに復旧させるから。教師陣をありったけ集めとくれ」

 

「……………………」

 

「……………夏だねえ……………」

 

「言ってる場合ですか!?生徒にばれたら…」

 

「言っただろう、見てくれが悪いだけなんだよ。…とはいえ、怖がる生徒もいるか…。メンテナンスが完全にできるまで召喚許可は出さないでおくれ。ちょいと時間がかかりそうだよ」

 

「…仕方ありませんな」

 

 

 

 

 

 

「…この化粧道具は何なのじゃ?」

 

「姉さんの会社のモニターで貰ったんです。演劇のときに使えるかとおもって」

 

「そうなのかの?ワシはてっきり趣味だとばかり…」

 

「趣味でするには私は少々度胸が足りないので…」

 

「なんでアンタは私より化粧が上手いのよ!」

 

「いや、試供品を正しく使うためには知識も必要でしたし。演劇部では大道具のほかにメイクも担当していますから」

 

「…そうだったわ、アンタは完璧超人だったわよね…」

 

「ですから完璧超人なら右腕の骨折などしていないんですってば…チッ」

 

「「やっぱり根に持ってるだろう、お前」」

 

「…何のことやら?」

 

 

 

 

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