「まさかAクラスの人たちがこんなに参加してくれるとは思わなかったよ」
「Aクラスとて、ワシらと同い年の集まりじゃ。なんだかんだで騒ぐこと自体は好きなのじゃろうて」
「おかげでかなりの作業効率だ。上手くすると、今日中に終わるだろう」
「…まあ確かに、お勉強よりも楽しいことの方がいいよね」
「わ、私はお勉強の方が…」
「ウチも…あんまり得意じゃないのよ、日本の妖怪って」
「あれ、美波は怖いのって苦手なの?」
「に、苦手なんかじゃ…苦手です」
「あはは、美波の思わぬかわいいところだね」
「…むぅ、美波ちゃんが一歩リードしちゃってます…」
『……ロス…コ…ス…』
「「きゃあぁぁぁぁ!?」」
「へぶっ!?」
『吉井、てめえ!なんて羨まし…もとい、けしからん事を!!!』
「へ?」
「アキ…怖いよ、なんかブツブツ変な声が聞こえてくる…」
「ぅうー…怖すぎます」
「ふ、二人とも、大丈夫だから離れて!じゃないと僕の命が危ない!」
「お姉さまに抱きつくなんて許せませんわこの豚野郎ー!」
「し、清水さん!?どう見てもこれは僕が抱きつかれて頭が割れるように痛いぃ!?」
『パース、パース!』
『もう少し先でな!』
『ひでぇな!俺にも(吉井の頭)蹴らせろよ!』
『仕方ねえな!それ、パース!』
『うおおぉぉぉ!シュート!!!』
「ぎにゃあぁぁぁ!!!??」
―――文月学園新校舎3F AM11:00―――
………お化け屋敷の設計で、どこにどうしたら効果的かを調べるために図書館へ行っていた。予想以上に文献が少なくて、遅れてしまったが、急いで新校舎へ戻る。
「すいません、少しお化け屋敷の文献を調べていたら…別に調べる必要ないくらいに阿鼻叫喚の様相ですね」
「裕紀よ、すまんが明久を助けてやってくれんかのう?」
そこでは吉井君の召喚獣(頭が体とつながっていない騎士)の頭を使ってサッカーが行われていた。おもにFクラスの男子によって。
「秀吉、吉井君の召喚獣には物理干渉能力があるんですか?」
「知らんかったのか?観察処分者の召喚獣の特徴なのじゃ。ついでに召喚者へのダメージフィードバックもあるから、一長一短じゃのう。って、それより早く助けてやってほしいのじゃ!」
「とは言われましても…」
私の召喚獣を出しても彼らの動きについて行くのは難しい。かといって生身で行こうにも、右腕のハンデで不利だ。
「ふむ…彼らはなぜああなったのですか?」
「実は………というわけで」
「なるほど。つまりは『醜い男の嫉妬!』ですね」
『『『うぎゃああぁぁぁぁぁ!!!』』』
…おや、ここまで効果があるとは思わなかった。
「お前たち、何をしているんですか!?まだあの豚野郎への制裁は終わっていません!再開できないのなら美春が―――!」
「はい、残念。この頭は貰い受けます」
「ッ!誰ですか!?」
その場で崩れ落ちたFクラスの人たちをよそに、私は吉井君の頭をとり返した。しかし、声帯模写で女性の声を使っただけであそこまでの効果があるとは…。
「返しなさい!美春はその豚野郎の頭を使って、豚野郎へ制裁を加えねばならないのです!なのに何故邪魔をするのですか!?」
「Aクラスの加藤 裕紀と言います。豚野郎、が誰を意味する言葉なのかは貴女の言動でわかりましたが、この召喚獣は召喚者に対するフィードバックがあるそうなので、お返しする事はできません。というか、別に貴女の所有物でもないでしょう?」
「うるさいですわ!顔に特徴のない豚野郎に、指図される謂れはありません!」
………何この人、的確に人の心をえぐるような発言をしてくるんだが。
「お姉さまに抱きついたその豚野郎を、さっさと始末しなければならないのです!さあ、よこしなさい!」
「…お姉さま?」
「…ウチのことよ」
そう言って島田さんが話しかけてきた。
「美春!あれはウチから抱きついたことだし、暴力的なのはいけないでしょ!」
「お姉さま!あの豚野郎に操られているのですね!すぐにお助けしますから!」
「人の話を聞きなさいよ!?」
二人が会話している間に、一旦吉井君のもとへ行く。
「どうぞ。吉井君はスリーピー・ホロウの怪物ですか」
「え、いや。デュラハンだよ?」
「デュラハン…?あぁ、日本ではこの格好がメジャーですからね。吉井君、デュラハンは元々、首のない女性の姿で、コシュタ・バワーという馬が牽く馬車に乗って近々死者の出る家の前に首を携えて立つ、という妖精なんですよ」
「え、じゃぁ、僕の召喚獣もそうなの?」
「いえ、貴方の召喚獣の場合、アメリカ・ニューヨーク州にある、残虐なドイツ人騎士が首をはねられた後、怪物と化して森をさまよう人を殺しにかかるという伝説が元になった怪物ですね。この怪物自体に名前はありませんが、のちにワシントン・アーヴィングによって小説化され、スリーピー・ホロウの首なし騎士として描かれています」
「へぇ、でも、じゃあなんでこれが日本ではデュラハンになってるの?」
「諸説ありますが、類似点が多い、というのが一番大きな説でしょうか。首がない、馬を使う、死者に関係する、という大きな特徴が符合した為、同一視されるようになったという説が一番有力です」
スリーピー・ホロウは映画にもなっているので見てみたらどうですか、と言って私は島田さんたちのもとへ戻った。
「お姉さまのぺったんこな胸に飛び込んでいいのは美春だけなのです!他の豚野郎にわたしてたまるものですか!」
「だから、ウチにそっちの気はないんだってば!!」
まだやっている。島田さんは困った顔をしていて、私が近付くなり此方へ助けを求めてきた。
「加藤、助けて!ウチの手にはおえないの!」
「邪魔をするんじゃありません影豚!お姉さまと話す時間がなくなります!」
影豚…略された。助けを求められた以上、助力するほかないだろうと、私はツインドリルの女子生徒に話しかけた。
「あー、お話し中申し訳ないのですが、島田さんが嫌がっていますので。これ以上お話を続けられると島田さんに多大な精神的ダメージを負わせてしまう可能性があります。お話を聞いた中で貴女はどうやら島田さんのことが好きな様ですから、彼女を疲れさせるのは本意ではないでしょう?さ、一旦ここはお引き取りください。準備などでまだ忙しいですから、作業もせずにただただ立っているだけなのは非常に邪魔になります」
「お前のような影豚に指図される謂れなど…!!」
「お気を悪くされたようですが、あくまで夏期講習の一環になっていますし、作業をあまりしなさすぎると周囲からの評価も低くなりますよ?貴女の愛してやまないお姉さまからも」
「う……」
いい加減に作業がストップするのは坂本君も困るでしょう。さっきからイライラしているようですし。できる限り穏便に話をすると、彼女は諦めてくれたようで、自分の持ち場に帰って行った。
「ありがと、加藤…助かったわ」
「いえいえ、お気になさらず」
―――文月学園新校舎3F AM11:30―――
先ほどの騒ぎも治まり、作業を再開したのだが、私は右腕が使えないため、作業ができない。仕方がないので、現場指揮を坂本君から頼まれた。
「あ、そのカーテンは室内に吊り下げる用なので、此方へ持ってきてください」
「はーい!」
「えっと、現場監督!これはどこだ?」
「それは坂本君の担当です。坂本班の人へ受け渡しをお願いします」
「了解!」
AクラスメンバーとB・C・D・Eクラス参加者の指揮。言葉だけだと私の方が大変に聞こえるが、その実…。
「てめえら!作業ほっぽり出して遊びにかかるんじゃねぇ!!!!」
坂本君の方が大変なようである。だんだんとあちらの騒ぎが大きくなっていき、このままでは召喚許可が取り消されるな、吉井君の召喚獣はとても頼りになるのだけれど…、と思っていると、通路側からどなり声が聞こえた。
「「「お前らうるせえんだよ!!!」」」
貴方達の声の方がうるさいのだが。どうやら3年の先輩方のようである。夏期講習の最中に動きまわっていたのだろうか…?
「騒がしいと思っていたらやっぱりお前か!吉…井?」
「お前はつくづく目障りな奴…だ…な…?」
「へんた―――変態先輩でしたっけ?今回は僕、まじめに作業してるんですけど…」
「「なん…だと…。って、言いなおそうとして俺らの顔を確認した途端に言い直すのをやめただろ、てめぇ!!」」
「えっと…常夏先輩、それで、今回はどうされたんですか?」
略されてた。吉井君、いくら覚えにくくても先輩ならちゃんと呼んであげなさい。
「省略された上に混同された!?」
「流石の吉井だな。脳の容量が小さいと見える」
あちらもあちらで失礼ですね。吉井君がどれだけバカでも、脳の容量が他と比べて著しく小さいはずはないんですが。覚えもいいですし。
「っていうかお前らうるせえんだよ!俺たちへの当てつけかコラ!」
「夏期講習に集中できねえだろうが!」
二人の先輩の言葉に、周りの3年生も「そうだそうだ」と同調している。…いや、おかしいでしょう。
「すいません、上の階まで響いているとは―――」
「吉井君、謝る必要はないですよ」
「おいおい先輩方、酷い言いがかりはほどほどにしてもらおうか」
「言いがかりってどういうこと?」
「言いがかりというのはだな、口実を設けて難癖をつけることだ。いちゃもんとも言う」
「別に言葉の意味が解らなかったわけじゃないよ!現代国語はそれなりにいい点数だって言っただろう!?さてはキサマ、僕のこと未だにバカだと思ってるな!」
「……え……?」
「坂本君、吉井君も頑張っているんですから、そこまで意外そうな顔をしなくても」
「ほら!周りの人だって僕のことをそこまでバカだとは……皆なんで目をそらすのさ……?」
傷着いた様子の吉井君をしり目に、坂本君は二人の先輩と話を再開した。
「で、どこまで話したっけ…。ああ、アンタらの話が言いがかりだってとこか」
「んだとコラ!言いがかりとはどういうことだ!」
「そうだ!俺らの言葉のどこに言いがかり要素が―――」
「ありますよ」
私が坂本君の言葉に続けて言うと、今度は私の方へ矛先を向けたのか、彼らは私へ怒鳴りつけてきた。
「なんだてめぇ!文句あんのかコラ!」
「影薄そうな顔しやがって!モブキャラは引っこんでろ!」
「一応この物語の主人公であるとか言うメタな発言は置いておいて、言いがかり要素があると言ってるんです。一部男子が騒がしくしていたのは認めますが、騒音が他の階の教室まで響くはずはありません。試召戦争の際に他の階まで影響を与えては、勉学に集中するという高校生の本義がなされませんから」
私が言うと、二人は怯みを見せた。私の言葉に、今度は坂本君が続いた。
「それに、だ。今回のことはちゃんとした学園長の許可に伴う召喚獣を使った勉強の一つだ。これを否定しちまったらアンタら、自身の学校を否定する事になるぜ?」
「つまり、貴方達、勉強に疲れて歩きまわっていたんでしょう?それで我々の騒ぎに出くわした、と」
「無論騒がしくしたことは謝罪する、すまなかった。できれば俺の謝罪で終わらせてくれるとありがたいんだが」
坂本君はあくまで此方側の非を認め、ここで収めてもらえないか提案する。だが、先輩たちはどうやら逆切れ、という状態になったらしい。
「ふざけんな!大体、テメエらが問題行動ばっか起こしてるせいで、学校の評判が下がってんだ!そのせいで俺らの評価まで下がっちまうかもしれないから、いつも以上に勉強しなきゃいけないんだろうが!」
「迷惑極まりねえんだよ!学園初の観察処分者だってお前らの学年だし、勉強合宿では全員女子風呂覗いて停学!テメエらのせいで勉強漬けだ!」
なるほど、逆切れは非常にみていて見苦しいものなのである。ただ、事実は事実であるために坂本君も反論はできないらしい。
「大体、お前らが邪魔しなきゃ今頃俺らは受験勉強からおさらばだったってのに…」
「そうだぜ!おかげでこんなに勉強する羽目に…!」
「って、結局は逆恨みかよ。なんだ、申し訳なく思って損しちまった」
「てめぇ…!!」
「おい夏川、暴力はやばいぞ、近くに先生もいる」
「わかってるよ、だからこいつで勝負だ!試獣召喚(サモン)!」
そう言って、髪型の特徴的な先輩が勝負を仕掛けてきた。
「さて、吉井よぉ。お仕置きの時間だぜ?」
「………あれ、なんで僕?それに、僕の召喚獣がこの中からわかりますか?」
「こいつだろ?」
「みぎゃぁ!」
そう言って夏川先輩は自身の召喚獣に吉井君の召喚獣を殴らせた。…牛頭ですか。
「なんでわかった!?」
「頭がないなんてバカの極みな召喚獣、お前しかいないだろう?」
「鋭い洞察力ですね、褒めてあげます!」
そう言って吉井君は泣きながら叫んだ。…あぁ、このオカルト召喚獣、その人の本質を表しているのか。なら、私の召喚獣にも納得できる。
「吉井君、助太刀しよう。理不尽な先輩の仕打ちに従うことなんかない」
「あ、ありがとう、久保君」
いつの間にか学年次席の久保君が現れ、吉井君に助太刀を申し込んだ。…どこから現れたんだ?そしてなんで私を睨む?
「チッ…常村、頼む!」
「あいよ、加勢してやるぜっ試獣召喚(サモン)!」
久保君が加勢したことにより、すかさず常村先輩が応援に入った。…馬頭。二人合わせての召喚獣とは、仲がいいのだろうか?
―――Aクラス 常村勇作 & Aクラス 夏川俊平―――
―――世界史 174点 & 163点 ―――
Aクラスとしては平均点といったところか。対峙する吉井君たちの点数が出るのを待たずに、夏川先輩の牛頭が吉井君の首無騎士を殴りつける。
「ちょっと痛い!」
「そいつは何よりだ…なあ!」
更に先輩二人が追撃を仕掛けようとするが、久保君の召喚獣に阻まれる。…迷ひ神?迷わし神ともいい、人を迷わせる妖怪だ。道に迷い果てた人の亡霊がなるともいわれていて、仲間に引きずり込もうとする。
「…って、ちょっと?」
吉井君の言葉に疑問を持ったのか、二人の先輩が表示された点数を見る。
―――Aクラス 久保利光 & Fクラス 吉井明久―――
―――世界史 357点 & 232点 ―――
「「何ィーー!?」」
ああ、吉井君もかなり頑張ったらしい。しっかりとテストで結果を出してくれたようだ。
「ちょっと待て!なんでバカ代表のおまえがそんな点数をとれるんだ!?」
「カンニングか!?しかしお前が教師にばれない様にカンニングするなんて高度な真似できるはずがねえし…!?」
「僕って一体どういう扱いなのさ!?」
どうやら吉井君の点数が信じられないようで、先輩方は目を丸くしている。
「お、おい夏川、き、きっとこれは最近噂になってる試験召喚システムの不具合だ!そうだと言ってくれ!」
「そ、そうか!それならこいつの点数が間違って高いのも納得がいく!!」
どういう言い草だろう。不具合にしても局所的に吉井君の点数が変わるとは考えにくいだろうに。
「―――不具合だなんて、人聞きが悪いねぇ」
そう言って廊下からやって来たのは、学園長先生だった。
「ところで、学園長先生はどのあたりから話を聞いていたんですか?」
「ん?3年生がいちゃもんつけてきたあたりからかねえ。様子を見に来たんだが、入るタイミングを逃しちまってさ…」
「…お気の毒に」
「ワシも全く気付かなかったのじゃ」
「…俺は気味の悪い銅像が動いていると思った。加藤がそう言うアトラクションでも作ったかと」
「土屋君の中で私はどういう扱いなんですか!?」
「私としてはそのガキの発言自体に突っ込みたいよ!?」