馬鹿とテストと薄い影   作:のろし

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第十五話

 

 

 

―――文月学園旧校舎3F AM9:30―――

 

「………なんでここの生徒はこういうことになると全力投球なんでしょうか」

 

「さぁ?しかし、確かに凄い作りじゃったのう。手が込んでおる」

 

「土台を作ったとはいえ、ああまで立派なものにするのは俺達でも骨が折れただろうな。素直に凄いと思うぜ」

 

「だね。外から見ただけでもかなりの作りこみだったよ。頑張ったんだろうね」

 

 昨日の騒動から一夜明けて、肝試し当日。学園の新校舎、3Fを少しのぞいてみた感想である。よくぞ一日でここまで仕上げたものだ。その熱意を勉強にまわせばきっと試験なんて楽勝だろうに。

 

「そう言えば雄二、二人一組のペアはどうやって決めるの?昨日は言ってなかったけど」

 

「あぁ、それか?それならくじ引きだ。男女別の」

 

「…男女別?」

 

「なるだけ男女で別れてもらえば、公平性も増すだろ?下手に一緒にやりたい奴同士で組むと、僻みも出てくる可能性があるからな」

 

「そっか。…でもさ、それだと霧島さんと一緒になる確率も減るよ?」

 

「な…!べ、別に翔子と一緒である必要なんかねえよ!!」

 

「もう相思相愛なんだから、気にする事ないの『坂本を捕らえろ!!』に…って、これがあるからか。ごめん、雄二」

 

「謝る前に頼むから助けろー!!?」

 

「ど、どうしよう!?加藤君、助けて!!」

 

 …前々から思っていたのですが、Fクラスの人はなんでこうも他人の恋愛に口うるさいのだろうか。そういう態度のせいで、他クラスの女子から白い目で見られていることに気付かない愚かさは、見ていて憐れにさえ思う。

 

「…わかりました。『霧島さんと相思相愛だっていうのに、それを邪魔するなんてサイテーの男どもね!あんなのは死んでも彼氏にしたくないわ!!』」

 

「「「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」

 

 …うん、昨日の反応からその光景は読めていた。

 

「………見ていて憐れじゃのう。だからと言って慰める気もおきんが」

 

「そうですね。…くじ引きを始めましょうか?」

 

 私は背後の気持ち悪い光景をよそに、自身のペアが誰なのかを決めるくじを引いた。

 

「………『独り身万歳』………」

 

「ぜぇっ、ぜぇ…。お、加藤がそれを引いたのか。それが単独組みのくじだぜ」

 

「…坂本君、もう少し良い表現はなかったんですか?」

 

「わりィ、わりィ。ちょっとした遊び心なんだよ」

 

 見た瞬間のイラつきで、遊び心も吹っ飛ぶ気がするのだが。…そうだ。

 

「坂本君と秀吉はすでに知っているかと思いますが、再来週の土曜、バイトをしませんか?私の後見人が務める服飾関係の会社の衣装モニターなんですが」

 

「……服飾なら後学にもなる。任せろ」

 

「面白そうだし、行ってもいいよ?姉さんもその日は仕事だって言ってたし」

 

「良かった。内容なんですが、女装用の「「断る」」衣装の仕事なんです。当日限りでもちろん個人情報保護のために外部に漏れることはありませんから、「聞いて、人の話を聞いて!」よろしくお願いしますね?」

 

「…見事なまでのスルー」

 

「冗談です。でも、そうなると男子の参加は坂本君と秀吉だけですか」

 

「男子の?」

 

「ええ、昨日の内に霧島代表と工藤さん、優子さんには話を通していまして、今朝、島田さんと姫路さんにも了承をいただけました。彼女らは男装ですが」

 

「「行きます、是非行かせて下さい!!」」

 

「…わかりました。では、男子5人参加ということで伝えておきます」

 

「…ん?男子は4人でしょ?僕とムッツリーニ、雄二と加藤君」

 

「ワシを忘れるでない!!」

 

 秀吉、多分ナチュラルに女性側に入れられていただけだろうと思うよ?

 

「じゃぁ、そう言うことで。皆さんもくじを引いてください…」

 

 

 

 くじ引きの結果。私の知り合いはほぼ纏まったらしい。その組み合わせはこうだ。

 

・吉井明久&島田美波ペア

・坂本雄二&霧島翔子ペア

・土屋康太&工藤愛子ペア

・木下優子&木下秀吉ペア

・姫路瑞希&網田脇雄ペア

 

 姫路さんのペア以外は、完全に知り合い同士のペアである。順番は決められていないので、最初は怖がりな人たちが、内部の確認を買って出てくれた。

 

 

 

 

 

 

―――文月学園旧校舎3F Fクラス―――

 

 

『ね、ねぇ………。そこの角、あやしくない?』

 

『そ、そうだな…、何か出てきそうだ』

 

モニターに映る既に入った人のカメラ視点で内部を観察する。古めかしい江戸時代の街並みをモチーフとした作りになっていて、薄暗い中にぼんやりと浮かぶその背景は、モニターで見てもそれなりに雰囲気のある作りだった。というか、それ、演劇部の作った背景だよね?

 

『そ、それじゃ先に行くぞ?』

 

『うん…』

 

 一つ目の曲がり角につく。しばらく躊躇った後に男子の方が先に曲がった。遅れて女子も曲がるが、そこには何もない。

 

『な、なんだ。驚かせるなよ…』

 

男子の声が聞こえるが、安堵した瞬間である。一番驚かせるにはもってこいの状況を、3年生が見逃すはずもなく。

 

『『ぎゃあぁぁぁぁ!!!』』

 

「「きゃぁぁぁぁぁ!!!」」

 

 うん、モニター以外からも悲鳴が聞こえた。何も映っていなかったが、どうやら死角から驚かしたようだ。タイミングを外すのは、古典的だが有効な手である。

 

「…失格」

 

 土屋君の声で、判定モニターの音声グラフが赤くなっていることを確認した。最初の曲がり角でこれとは、なかなか手ごわいのだろうか。

 

「…?」

 

 霧島代表は何が怖いのか分からないらしい。大丈夫ですよ、人それぞれですから。

 

「用意したカメラは5台、一度に突入できるのは5組までだが…少ししくじったな」

 

「ですね。斥候のつもりで1組だけ送ったが故に、恐怖が助長されてしまった」

 

「加藤は大丈夫なのか?」

 

「えぇ。演劇には胆力も必要ですから。怖くないわけではないですが、表には出しませんよ」

 

 演劇で必要な能力は意外とどんな場所でも使える。別にこういった場所で使わなくても良い気はするが。

 

「次も一応1組にして、カメラに移すことを目的にしてもらうか」

 

「カメラに移せなくても、喋る余裕があるならその正体を叫んでもらいましょう」

 

 

 

 …2組目の活躍で、そこで血みどろの生首と口裂け女が出ることが分かった。そしてもう一つわかったことがある。

 

「3年もこのモニターを有効活用してるようだな」

 

「…どこに注意を払っているかをモニターで確認。そこから外した場所で召喚獣を出して、驚かす」

 

「流石に考えていますね。ですが、このままだと成績上位の失格者が出すぎる。少し順番を変えましょう」

 

「そうだな…Fクラス須川&福村ペアと、朝倉&有働ペアを先行させてくれ!」

 

 ここは胆力のあるFクラス男子に、内部把握を任せるとしよう。上手くやってくれると思うのだが…。

 

 

 

『お、あの角か?何か出るって場所』

 

『だな』

 

 最初の角を曲がる須川君ペア。そのまま周囲をカメラで撮り…横の壁に血みどろの生首、後ろに口裂け女が立っていた。

 

「「きゃあぁぁぁぁ!!!!」」

 島田さんと姫路さんが悲鳴を上げる。その他のモニターの周囲でも悲鳴が上がっており、これは確かになれない人にはきついだろうな、と思う。

 

『お、この人、口は大きいがなかなかの美人だな』

 

『バカ言え、こっちの生首の方が、スタイルはわからんが血を洗い流せばかなりの美人だろう』

 

 ………彼らの基準は男女だけであるらしい。胆力があるわけではなく、ただのバカである。

 

「…な、なんであいつら平気なのよ!?あれだけグロテスクなもの見ておきながら平気な顔してるなんて!!」

 

「…だって、彼らはあれ以上のことをしたりされたりしているわけで…」

 

「お主が前明久にしておった暴力の方がよほどグロテスクじゃったし…」

 

「Fクラスはわりと見慣れてるんじゃないか?」

 

 …………坂本君たちの常識は、周りの環境によるところが大きいのは間違いないことがわかった。

 

 …その後、須川君たちのペアは些細なことで失格になったが、後続の朝倉君たちのペアの先行のおかげで、Bクラス内の様子は把握できた。朝倉君たちは残念ながら3年生の代表に瞬殺されたけれど、十分な働きを見せてくれたと思う。

 

「…あの点数なら後続の奴らだけでどうにかなるな。良し、成績上位ペアは一旦残ってくれ。しばらく様子を見て、必要なら補充突入するぞ!」

 

 

 

 補充の必要は結局なく、朝倉君たちから後続4ペア目での突破となった。突破したペアはそのままDクラスに行くようで、突破できた安心感からか油断しているようにも見える。新しい部屋なので、注意を払ってほしいのだが…。

 

『きゃああああ!な、なにかヌメッとしたものが首筋に!』

 

『大丈夫か?真美!?』

 

 …どうやら次の部屋は触覚に切り替わっているらしい。だから、こういうことを考える頭をぜひとも勉強につぎ込めと言いたいんだが。

「…失格」

 

 土屋君が管理するモニターの音声レベルが赤まで上昇した。これでこのペアは失格。残るペアは50組ほどだが、チェックポイントを超える実力者を温存するとなると、内部把握に使えるのは30組ほど。残るクラスは3つだから、10組が1クラスに充てられる内部把握組というわけだ。不可能ではないが、少し厳しいかもしれない。

 

「仕方ありません。私が行きます」

 

「お、加藤が行くのか。気をつけろよ?」

 

「えぇ、…坂本君、一つ確認なんですが、これは途中で戻ってきても反則ではないですよね?」

 

「ん?…まぁ、ルールに入れていないし、反則にはならないな」

 

「では、一通りの確認を終えたのちに戻ってきます」

 

「別にいいが…、なんだ、試召戦争はしないのか?」

 

「あまり得意ではないですから。本命組が倒してくれた方が楽ですよ」

 

 そう言って私はルート確認へ出発した。

 

 

 

 

 

―――文月学園新校舎3F Dクラス―――

 

 

「…リポートした方がいいですよね?加藤です、Dクラスに入りました」

 

 …なるほど、Bクラスほどの大きさがない分、内装には凝ることができなかったようだ。視覚効果をねらえないが故の変更部分もあるようだな。

 

「広さはBクラスのおよそ3分の1、先ほどの広さがない分、触覚によるおどしに変更した可能性ありです…後ろから何かに触られました。確認してみます。どうやら蒟蒻のようです」

 

 振り返ってみると、あわてて蒟蒻を回収する釣り竿のようなものが見えた。古典的ではあるが、有効な手だ。但し、一回見つかると、得体のしれない何かではなくなる為に、悲鳴を上げにくくなる。ある程度進んだところでまたおどしの感覚を変えてくるだろう。

 

「もうすでに正体はばれたので、悲鳴を上げるほどではないでしょう。3年生も、他の感覚に切り替える可能性があります」

 

 

 

 しばらく進んでいくと、開けた空間に出た。薄暗いものの、既に慣れた目を使ってあたりを見回す。天井には照明設備があり、スポットライトが一点を照らすようになっているらしい。そこには誰かが立っているようだ。

 

「えー、誰かが脅かし役として立っているようです。皆さん気を付けてください」

 

 そしてそのまま進もうとすると、パッとスポットライトが照らされた。

 

「「……………………」」

 

「あの、もしよければメイクを直して差し上げましょうか?」

 

「あ?なんだってんだ!この衣装である程度は予想できてたけどよ!無反応どころかメイクの手直しを勧められるってどういうことだよ!?」

 

 そこには昨日の騒動の中心である、夏川先輩が立っていた。ゴシックロリータの、女装姿で。メイクは厚塗りにすればいい、とでも思ったのかケバイし、もはや褒めどころなんかかけらほどもない。手直しを持ちかけたら怒られた。

 

「いや、しかし…これを見てごらんなさい」

 

「あ?…ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!???」

 

 手鏡を渡してみた。…自分の顔だろうにそこまで驚かなくても。あ、吐いた。

 

「えっと、この先はもうチェックポイントでしょうし、私は戻りますね?」

 

「……道理で……見せない……もう……終わり……」

 

 吐きながら落ち込んでいる夏川先輩をよそに、私は待機本部へ戻って行った。

 

 

 

 

 

 

―――文月学園旧校舎3F Fクラス―――

 

 

『…リポートした方がいいですよね?加藤です、Dクラスに入りました』

 

 そう言って加藤はリポートを開始した。一瞬いつもの無表情な奴の顔が出て、その後教室を映し出す。奴の顔の影の薄さのせいで、一瞬各モニターの方から悲鳴が上がったが気にしない。

 

『広さはBクラスのおよそ3分の1、先ほどの広さがない分、触覚によるおどしに変更した可能性ありです…後ろから何かに触られました。確認してみます。どうやら蒟蒻のようです』

 

 そう言って映し出された先には、確かに蒟蒻のようなものがあわてて回収される様子が映っていた。

 

「しかし、アイツも全く物怖じしないな。演劇部にいるとそうなるのか?」

 

「…いや、裕紀のあれは元々じゃ。おそらく恐怖という感情を感じるのを『諦めて』いるんじゃろう」

 

「…なんだ、それ?」

 

「どういうこと?」

 

「聞くなら裕紀に直接聞いてほしいところじゃが…ワシの発言が原因じゃ、少しだけ話すとするかのう?」

 

 そう言うと秀吉は語り始めた。

 

「奴の許容範囲が広いのはお主らも知っているじゃろう?あれは偏に奴の性質によるものじゃ。奴が優しいわけではないのじゃ。ただ、彼奴が諦めているからだけなのじゃよ」

 

 …何というか、かなり重たい話だな。俺らのように恐怖を感じにくいんではなく、『諦める』。それは人間として考えにくいことのはずだ。それをできる加藤に、俺は少し恐ろしさを感じた。

 

『もうすでに正体はばれたので、悲鳴を上げるほどではないでしょう。3年生も、他の感覚に切り替える可能性があります』

 

 そう言って加藤は、いつものテンションで進んでいく。俺にはそれが、まるで人間じゃない別の物に見えた。

 

 

 

 

 しばらく進むと、開けた空間に出たらしい。カメラがぐるりとあたりを見渡す。

 「中央の上部に照明器具らしきものが見えるのう。おそらくはスポットライトといったところじゃろうか?」

 

 秀吉の言葉に、どんな仕掛けなのか思案を巡らす。そこへ加藤の言葉が流れた。

 

『えー、誰かが脅かし役として立っているようです。皆さん気を付けてください』

 

 なるほど、確かにうっすらと人影が見える。向こうの仕掛けか、或いは囮か…。加藤がそのまま進んでいくと、パッと照明がついた。人が佇んでいる方向を加藤のカメラが捉える。

 

『『……………………』』

 

「「「「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!????」」」」

 

―――そこには、全身フリルのゴスロリファッションで佇む夏川先輩が立っていた。

 

 …お、恐ろしいものを…!翔子ですら少しビビってやがるじゃねえか!?

 

『あの、もしよければメイクを直して差し上げましょうか?』

 

『あ?なんだってんだ!この衣装である程度は予想できてたけどよ!無反応どころかメイクの手直しを勧められるってどういうことだよ!?』

 

 加藤の奴が冷静に話しているのを見て、まるで加藤が人間じゃない別の物に見えたのは、俺の気のせいではあるまい。

 

『いや、しかし…これを見てごらんなさい』

 

『あ?…ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!???』

 

 夏川先輩が加藤の取り出した手鏡を見て悲鳴を上げる。その後嘔吐していた。どうやら自分にも大ダメージであったらしい。

 

『えっと、この先はもうチェックポイントでしょうし、私は戻りますね?』

 

『……道理で……見せない……もう……終わり……』

 

 加藤はそう言って元の道を引き返していく。後ろから聞こえる夏川先輩の声に、俺は少しだけ同情した。

 

 

 

 

 

「しかし、あの化粧の仕方は…あまりにも酷かった。メイク担当としてあんなメイクは腹が立ちますね。塗りムラもひどいし、それを隠そうと厚くファンデを塗って…。怖いメイクにするにしても、あれはお粗末です。3年生の皆さんにも聞こえてるでしょうが、あのメイクを担当した人はもう少しメイクの勉強をしてくださいね?あんなメイクでは自身を美しく魅せるなんて絶対に不可能ですから」

 

 驚くところが違う裕紀であった。

 

 

 

 

 

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