馬鹿とテストと薄い影   作:のろし

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第十六話

 

 

 

 

 

 ―――文月学園旧校舎3F Fクラス―――

 

 

「よし、敵の仕掛けはわかった!なら、俺たちからはムッツリーニ&工藤ペアを出す!」

 

 私が帰ってくると、丁度坂本君が土屋君たちのペアを出すところだった。どうやら二人ともかなり有名であるらしく、皆からは歓声が上がっている。

 

「ただ今戻りました。どうやら突入組みは決定のようですね?」

 

「おぉ、加藤か。お前のおかげでずいぶん楽ができそうだ。ありがとよ」

 

「いえいぇ。…しかし、少しマズッたかもしれません」

 

「どういうことだ?」

 

「残りのペアが多すぎて、最後のクラスまでに突入できないペアが出てくるかもしれない」

 

 私がそう言うと、姫路さんが勢いよく反論してきた。

 

「べ、別にいいじゃないですか!怖い思いをしたくない人もいるかもしれませんし、それを考えると、加藤君の行動はありがたいものです!!」

 

「あ、…そ、そうですか」

 

 普段はあまり声を荒げない人のようなので、少しびっくりする。どうやら怖いものが苦手なようで、自身が行く可能性が低くなったことに安堵しているらしい。

 

『…チェックポイント到着』

 

『さっきの先輩はずっとブツブツ言ってるだけだったし…結局あんまり面白くなかったね』

 

 そんな会話をしているうちに、どうやら二人がチェックポイントについたらしい。このクラスは確か私たちが決めた教科だったか…。

 

『『『『試験獣召喚(サモン)!』』』』

 

 お決まりの文句の後、いつものように召喚獣が現れる。

 

 ――――――Aクラス 市原両次郎 & Aクラス 名波健一――――――

 ――――――保健体育  303点 & 301点     ――――――

 

 ミイラ男とフランケンシュタイン。オカルト的な存在としてはかなりのメジャー所だろう。試験科目にないとはいえ、流石にAクラス。手を抜くことはしないようだ。私の召喚獣ではかなり苦戦を強いられるだろう。が、そんな点数の先輩を前にしても、工藤さんたちは全然うろたえた様子がない。

 

『ムッツリーニ君、先輩たちの召喚獣、なんだか強そうだね?経験も一年分差があるし、結構危ないのかな?』

 

『………確かに、強い』

 

 そう言う土屋君の召喚獣はオカルトの代表的な存在、吸血鬼だ。恰好から察するにブラム・ストーカーのドラキュラだろうか。青白い肌とタキシード姿の、一般的なスタイルだ。

 

『『だが、俺(ボク)たちの敵じゃない』』

 

 ――――――Aクラス 工藤愛子 & Fクラス 土屋康太――――――

 ――――――保健体育 479点 & 557点     ――――――

 

 二人はそう言うと、瞬きの合い間も与えずに先輩の召喚獣を組み伏せた。確かに点数差は凄いけれど…危ない!

 

『……何?』

 

『くぅッ!まさかまだ動けるとはね!』

 

 二人の召喚獣がダメージを受ける。元々の点数があったが故に戦死は避けられたが…。

 

 

 ――――――Aクラス 工藤愛子 & Fクラス 土屋康太――――――

 ――――――保健体育 106点 & 129点     ――――――

 

 ――――――Aクラス 市原両次郎 & Aクラス 名波健一――――――

 ――――――保健体育   99点 & 105点     ――――――

 

 上手く不意を突かれた形になり、ダメージはかなりのものだった。

 

「何!?」

 

「二人が保健体育でダメージを受けるだなんて…!」

 

 …坂本君と吉井君はどうやら一撃で決まると思ったらしい。確かに二人は高得点だったが、先輩たちの操作も凄いものだった。ダメージを避けられないと悟ったのか、すぐに攻撃を受け流しにかかったように見えた。一瞬倒れたように見えたのは、どうやら演技であるらしい。

 

『―――しまった』

 

『ムッツリーニ君!?』

 

 

 ――――――Aクラス 工藤愛子 & Fクラス 土屋康太――――――

 ――――――保健体育  76点 &  0点      ――――――

 

 ――――――Aクラス 市原両次郎 & Aクラス 名波健一――――――

 ――――――保健体育  0点   &  0点      ――――――

 土屋君が戦死した。その後すぐに工藤さんが討ち取ったけれど、これでこのペアは脱落になる。Dクラスの突破ができたのは不幸中の幸いだろう。

 

「ムッツリーニが負けただと…!?」

 

「うそでしょ!?保健体育なら負けなしのはずじゃない!」

 

「…いえ、3年生の操作技術は土屋君のそれを上回っていたように見受けられます。そこへ一撃が決まったと思ったが故の安心感、油断が生まれた。そこをつかれましたね」

 

「なんてことだ…」

 

 土屋君と工藤さんの二人は、ここのクラスの突破口だったが故に、ほぼ引き分けの結果は予想していなかったのだろう。皆の士気も若干下がってきている。

 

「…さ、次のクラスはCクラスです。先ほど私が先行したために、此方の戦力は十分に残っています。次の探索グループは準備をしてください。残りの2クラス、広さを考えAクラスに探索力を残しておきたいですから、くれぐれも慎重に」

 

 私の指示に従い、皆が準備を始める。普段なら私の声など聴くはずもないが、先ほどの光景が余程ショックだったのだろう。藁にもすがる思いで私の言葉に従っている。坂本君が復活するまでの代理だと思って、私は全体指揮を始めた。

 

 

 

 

 

 

 Cクラスの探索も、思うようには進まなかった。探索組のおよそ3分の1を消費して、たどり着けたのは約70%…若干マイナーであるがゆえに、余計に不気味さを助長する妖怪が出てきたこともあって、中々奥へ進めない。気付けば残りの探索組は、ほぼFクラスのメンバーだけとなった。

 

「ここまで苦戦するとは…3年生の力をなめてかかってはいけないようですね」

 

「…あぁ、そうみたいだな。ここは一旦、Fクラスに任すとしよう!」

 

「う、ウチは嫌だからね!絶対いや!」

 

「わ、私もできれば遠慮したいです…」

 

「落ち着け、二人とも。ウチの男子に任せるだけだ。Fクラス1~3班、準備をしろ!」

 

 坂本君の言葉に、3ペアほどが探索の準備に入る。一組を先行させ、後の二組をある程度固めて探索させる。先行組がリタイアしたら、後の二組がスピードを変える。動きは遅いが、確実な方法だ。

 

『…ここまでが前のチームの最終到達点だな』

 

『ああ。ここからは未知の領域だが…ん?明かりがついてるぞ?』

 

 先行組がカメラを向けた先には、確かに明かりがついていて、そこには一人の女子生徒が佇んでいた。

 

『ようこそいらっしゃいましたお二方。私、3年A組所属の小暮 葵と申します』

 

「「「「眼福じゃあぁぁぁぁぁ!!!」」」」

 

 教室内の男子が一気に騒ぎだす。…艶のある声に濡れた瞳。少し着崩れした着物という、確かに男子生徒には少々刺激の強い恰好だ。確か、茶道部と新体操をやっている先輩だったと記憶しているが、着物は茶道部の制服のようなものなのだろうか…となると…。

 

『私、茶道部に所属しておりまして、そのためこの着物を着ているんですが…実は私、――――新体操部にも所属しておりますの!』

 

 そう言って小暮先輩は、はだけた和服を脱ぎ棄てた。その下には―――レオタード。一瞬にしてモニター周りの男子から歓声が上がる。これは対面している男子生徒にも適用されているらしく、モニターの音声レベルは赤を悠々と越していた。

 

「…後続2チームの失格も確認。どうしますか、坂本君……?」

 

「翔子、俺は別にあの先輩をみて欲情したりしたわけじゃない、お前の方がずっと綺麗だと思っているから、頼むから拗ねないでくれ!」

 

「………」ツーン

 

 どうやら小暮先輩の姿に少し見とれていたのを、霧島代表に見られたらしい。困った、その間にFクラスの男子チームが一気に流入してしまい、同時に一気に失格になってしまう。

 

「………バカしかいないんですか?坂本君のクラスは」

 

「決してそう言うわけじゃないと言いたいところじゃが…否定できん」

 

「吉井君だけは何とか押さえこめたのが僥倖ですね」

 

「うむ、明久も何とか理性を働かせてくれたようじゃの」

 

「…仕方ないな。ここは久保君と清水さんのペアを投入しよう」

 

 坂本君もどうやら霧島代表の機嫌をとれたようで、全体指揮に復帰してくれた。もう少し久保君は温存したいところだったが、これでほぼ探索組はゼロ。さっきの先輩の処がほぼ最後であったらしく、先ほどの映像の奥の方に二人の先輩が立っているのが確認できている。Aクラスの探索はもはや主力組の投入をする他ないので、ここで投入しておくのは確かに賢明かもしれない。

 

「…そうじゃな。ここを突破できるのはその二人をおいて他にはあるまいて…」

 

 秀吉の言葉に全員がうなずく。当の本人たちも準備はできたようで、そのまま肝試しへと出発して行った。

 

 

 

 ――――――Aクラス 寿湊   & Aクラス 中曽根みさお ―――――――

 ――――――現代国語 289点 & 277点        ―――――――

 

 ――――――Aクラス 久保利光 & Dクラス 清水美春   ―――――――

 ――――――現代国語 388点 & 135点        ―――――――

 

 チェックポイントでの対戦だ。久保君は流石学年次席というべきか、もう少しで400点に届こうとしている。清水さんの点数も、決して悪い点数ではない。若干不利ではあるが、十分に戦えるだろう、何より。

 

『オネエサマオネエサマオネエサマ』

 

『…さて、清水さんが言語を失う前に始めましょうか、先輩方』

 

『ひいぃぃぃぃぃ!?』

 

『湊、私は男の子の方とやるから、貴女は女の子(?)をお願いね!?』

 

『い、嫌よ!そっちの方が点数低いんだから、ちょっとでも勝率のある私が男の子の方にいくわ!』

 

『だって!この子絶対相手できないわよ!怖すぎるもの!』

 

 こうやって、清水さんの恐怖に先輩方が取り憑かれてくれている。ある程度予想通りに、二人は難なく撃破していた。モニターを見ていた島田さんが、清水さんのあまりの怖さに気絶してしまったが、そこは仕方のないことだろう。

 

「…ただ、問題もありますね」

 

「どうした、加藤。難なく突破できただろう?何が問題なんだ?」

 

「…さっきから清水さんの声が大きくなっています。このままだと『オネエサマ!!!』…たった今レッドラインを超えました。清水さん、久保君、失格です」

 

「………は?」

 

 坂本君の唖然とした顔も頷ける。清水さんの狂気は、大きな誤算だった。

 

「…仕方あるまい、次のクラスはワシが行こう」

 

「そうね、アタシ達姉弟なら、十分いけるはずだわ」

 

 そう言って、木下姉弟が立ち上がり、入口へ向かっていく。しかし、島田さんの気絶はどうしたものか…。

 

「あの…、私のペアの人がいないんですが」

 

「姫路さん?あれ、網田君がいないってどういうこと?」

 

 姫路さんの声に、あたりを見回してみるがそれらしき人物はいない。…待てよ?

 

「さっき姫路に声をかけようとしてFクラスの連中に袋叩きにされていた奴がいたが、そいつじゃないか?さっき保健室に運ばれていったが」

 

「………バカばっかですね、Fの男子は」

 

「…面目ない。アイツもおそらくは放課後までに復活するだろうが、少し困ったな…良し、明久と姫路をペアにするか」

 

「そうですね、姫路さんの学力と、吉井君の操作術なら、十分に突破力もあるでしょう。ただ…姫路さんの怖がりを上手く吉井君がフォローできるかが問題ですね」

 

 

 

 

 

『しかし、ああは言っても、あんまりお化け屋敷って得意じゃないのよね、私』

 

『姉上、セットのから傘お化けをまじまじと見ながら言っても説得力がないのじゃ』

 

 木下姉弟は順調にAクラスを進んでいる。後続に更に4組。最後のクラスだからと、一気につぎ込んではいるが、はっきり言ってあまり良策ではない。総崩れの可能性を考えると、あと3組は残しておきたかったのだが…突入していないペアは、総指揮の坂本君ペア、吉井君ペアと私だけになってしまった。できれば今突入しているチームで、なんとか最終チェックポイントまで行ってほしいものだが…。

 

『ぬ?そこに立っておるのは…』

 

『来たか、木下。待っていたぞ』

 

 秀吉が目を向けた先には、常村先輩が立っていた。どうやら秀吉を待っていたらしく、秀吉を見つけるなり声をかけてきた。

 

『ワシを待っていた?どういうことじゃ?』

 

『よくわからないけど、早く済ませてもらいなさい、秀吉。アタシらは先に 進まないと』

 

『そうじゃな、姉上。というわけで、何の用か知らんが、手短に頼むぞい?』

 

そう言う秀吉に、常村先輩は少し間を置き、真剣な表情で、その言葉を口にした。

 

『ああ、大丈夫だ。時間はとらせない。良いか、木下秀吉。

 

 

 ――――俺は、お前のことが好きなんだ』

 

 私は、本当に久しぶりに、秀吉の本気の悲鳴を耳にした。

 

 

 

 

 

「…なんで弟のアンタには、こうも男子の目が行くのかしらね。まあ、アタシはそのおかげで結構オイシイ思いをしてるけれども。だからって、アタシも一応女の子なわけだし、やっぱり男である秀吉に負けるのはちょっと納得いかないって言うか、穴は女の子の方が多いわけで、やっぱりその方が生産的だと思わない?秀吉」

 

 どこまでも視点が違う(ある意味常村と同じ視点になっている)優子であった。

 

 

 

 

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