―――文月学園旧校舎3F Fクラス―――
秀吉の悲鳴が起因となり、探索組が恐慌状態の連鎖に陥ったため、全員失格となった。戻って来た秀吉が謝ってくる。
「すまんのじゃ、雄二、明久、裕紀…このワシが、あんなにみっともない悲鳴を…」
「気に病むな、秀吉。同性――――しかもあんなむさい野郎に真剣に告白されて、悲鳴を上げない奴なんかいない」
「そうだよ秀吉。モニターで見ていただけの僕たちですら怖気が走ったんだ、直接聞いた秀吉が悲鳴を上げるのも当然だよ」
「まぁ、今回のおかげで更に耐久力もついたと思いますし、演技の幅が広がったと前向きに考えましょう?」
確かに、同性に告白されてもそっちの気がない限りは気味が悪いだけだろう。決して同性愛を否定するわけではないが、感情はどうしようもないだろうから。
「確かに告白も辛かったのじゃが、その後の『お前を想って書いたんだ』と言って朗読された詩の方が死ぬほどきつかったのじゃ…」
「仕方ないでしょう。私も若干気持ち悪いと思ってしまいましたし、それにあれはおそらく秀吉をピンポイントで狙っての作戦だと思います。まさかここまで温存するとは思ってなかったでしょうし、Aクラスは手が回らなかったみたいですね。仕掛けも散発的で、迷路のようになっていただけですから、そこまできつい物でもないことがわかりました。これなら、姫路さんも耐えられるでしょうし、私はもう出る必要はないですね」
Aクラスの仕掛けは空間を利用した巨大迷路で、散発的に襲ってくる召喚獣がいる程度だった。なら、吉井君のフォロー次第で姫路さんはどうとでもなる。
「まぁ、それなら大丈夫だろうとは思うが…明久、ちゃんと姫路をエスコートしろよ?」
「エスコートって…そんな、デートみたいに」
「で、デートですか!?あ、明久くん、よろしくお願いしまひゅ」
かんだ。間違いなく噛んだ。…なるほど、姫路さんと島田さんは友人であると同時に、恋敵でもあるらしい。
「あと、土屋君からこれを預かりました。あちらも連携をとっているようですから、此方がそれをしても構わないでしょう」
そう言って、私は小型のトランシーバーを取り出した。
「万が一、なにか不測の事態が生じた場合、すぐにこれで連絡を取ります。何もないことを祈りますが、用心に越したことはない」
「そうだな。加藤、指揮を頼んだぞ」
「加藤君、よろしくね?」
坂本君たちもそれを受け取り、入口へとむかって行く。私は二つのモニターを同時に見始めた。
―――文月学園新校舎3F Aクラス―――
加藤君に指揮を任せ、僕らはAクラスの入口をくぐる。後続で雄二たちが来ているけれど、正直あまり余裕があるわけじゃない。残っているのは僕と雄二のペアだけ、しかも点数的に考えると、どちらのペアもAクラスを相手取るには少々不利だ。負けても体育祭の準備と片付けをするだけとはいえ、体力のない姫路さんや女の子たちには過酷だろう。3年生も条件は同じとはいえ、一度賭けに乗った以上は勝たなきゃいけない。
「…姫路さん、あまりくっつくと、歩きにくいって言うか、ちょっと困るんだけど…」
「……………!」(フルフル)
「…仕方ないよね、怖い物は怖いんだし」
「…明久くんが守ってくれるから怖くないです…、怖くない…」
…そういうことを言われてしまうと、はりきらなきゃいけないなって思う。どんな状況であれ、頼りにしてくれるのは嬉しいものだし。
「…にしてもおかしいな、そろそろ何か出てくるころだと思うんだけれど…」
散発的とはいえ、さっきまでのAクラスならもう何か出てきているはずだ。いくらなんでも静かすぎる気がする。もしかして、僕らの方が御しやすいと考えて、雄二達に狙いを絞ったんだろうか…?
『確かに異常です。警戒だけは怠らないでください、いざとなったら姫路さんの口をふさいででも、悲鳴を上げさせないように』
「あ、加藤君、注意してくれるのはうれしいんだけど…」
「―――!―――!?」(モゴモゴ)
「全体的に裏目に出ちゃってるのでできれば先に自分の名前をお願いします」
『…申し訳ない』
加藤君が申し訳なさそうな声で返してくる。姫路さんに密着する機会を与えてくれただけで十分おつりは来そうだけれど…。
『それで、ですね。坂本君とは別ルートになっているんですが、吉井君との位置はほぼ壁一枚分でしょう。さっきまでの探索組でマッピングはほぼ終わっています。どちらのルートも最終的には同じところに…?』
加藤君が話の途中で怪訝そうな声を出した。どうしたんだろう。
『坂本君、そこには元々壁はなかったはずです。もしかしたら先輩方が引き離しにかかっているかも知れま…!』
…加藤君の言葉は少し遅かったようだ。一瞬にしてあたりの照明が消え、姫路さんの位置が解らなくなった。壁が動くような音がして、もう一度照明がついたときに目の前にいたのは…雄二だった。
『…相手の策に嵌まってしまったようですね。姫路さんを得点の高い霧島代表と組ませて、早々に脱落させる心づもりでしょう。霧島代表、姫路さんのフォローをお願いします』
「……わかった…」
壁の向こうから霧島さんの小さな声が聞こえる。どうやら姫路さんと一緒の様で、少し安心した。
「さて、雄二。図らずも僕らでペアを組むことになったけれど…」
「ま、しょうがないだろ。元々俺らで相手するって言ってたわけだし、常夏コンビもAクラスで抜きん出た成績でもないはずだ。上手く翔子たちが先に進めれば、俺らが出ずとも決着はつく」
確かに、姫路さんがなんとか持ちこたえてくれれば、確実に僕たちの勝ちだろう。でも、上手くことが運べば良いんだけれど。
『加藤です。霧島代表、その先に壁があると思いますが、そこを右へ。姫路さん、ちょっと声は聞こえますが、我慢してください。所詮は声ですから、私が何か喋りましょうか?』
「…お…します」
『わかりました。坂本君たち、少し姫路さんたちにかかりっきりになります。周波数を2Hz上げてください。もし緊急連絡があれば、其方につなげます』
「わかった」
そう言って、雄二と僕はトランシーバーの周波数を変えた。
『姫路さん、これは本当にあった話です』
「ひっ!加藤君、怖い話ならしないでください…!」
『あれは私が小学生だった頃のことでした…』
「…加藤、怖い話は…」
『ある日の夕方、私は親に頼まれてお使いに出たんです。ところが、慣れない道だったためでしょうか、私はいつの間にか迷ってしまいました。どんどん暗くなっていく空、人気の少ない道…私はまるで、世界に一人取り残されたように思いました』
「………!」
「加藤…!」
『そんなときに、私はある公園を見つけたんです。その公園の中央あたりに、何やら小さな影がたくさんありました』
「………」ウルウル
「…後で、怒るからね」
『私はそれがある方へ歩き出しました…。なんとそこには…。さ、霧島代表、そこがチェックポイントです』
「「…え?」」
『すいません、そこは主に音で驚かせるところだったので、私の声に集中してもらいました。ちなみにその話の落ちなんですが、子猫がたくさんいまして、その子達と遊んでいるうちに、父が探しに来てくれた、というものです』
「…可愛いです」
「…そのために、わざわざ?」
『さ、チェックポイントです。教室の広さとマッピングで、その位置以降に仕掛けがないことは確実ですから』
「げっ!常村、こいつら失格にならなかったじゃねえかよ、どうする!?」
「どうするもこうするも、戦うっきゃないだろ…」
『さて、私は坂本君たちの道案内に戻ります。周波数を変えるので、私の声は聞こえませんが、ちゃんと見ているので頑張ってください』
「「「「―――試獣召喚(サモン)!」」」」
―――文月学園旧校舎3F Fクラス―――
「―――ちゃんと見ているので頑張ってください」
…さて、いまFクラスにいるのは私だけになった。他の人にはEクラスと隣の空き教室に待機してもらっている。二つのモニターを独占する形になるのは申し訳ないが、此方も勝利がかかっているので納得してもらった。
「―――お待たせしました、坂本君、吉井君。道案内を開始します」
『…!ようやく来たか。待ち遠しかったぜ?』
『加藤君、どっちに行けばいいの?』
「まずはそこの角を右に―――!非常事態発生です。相手側の点数がかなり高い。常村先輩412点、夏川先輩408点です!」
Aクラス平均どころではない。トップクラスでも十分に通用する点数だ。代表たちも決して劣っているわけではないが、システムの経験年数が違う。厳しいのは間違いない。
『『なんだって…!?アイツらがそんな高得点を…!』』
「抜かりましたね。最終戦の教科決定権を彼らに与えてしまっていましたから、そこを突かれました」
…かなり善戦はしてくれているが、それでも厳しい。結局点数は削ってくれたものの、二人とも戦死してしまった。
「…霧島・姫路ペア、失格です。常村・夏川ペアの残留点数は、それぞれ209点と196点。坂本君、君たちの物理の点数は?」
『…俺が148点、明久は』
『98点。これでもちょっとは上がったんだけど…』
「…わかりました。少し厳しいことを言いますが、貴方たちは相手の点数を少しでも削ることに集中してください。最悪、100点台半ばまで削っていただければ結構です」
『え、でも…僕たちが負けたらそこで負け…あ、そっか!』
「私が出ます。できる限り、削ってくれるとありがたいですが…あと、できればなんですが…」
そう言って、私は彼らにお願いをした。
―――文月学園新校舎3F Aクラス―――
「結局、屑とつるんでるやつらは屑だってことだな!」
「間違いねえ。掃き溜めに鶴かと思っていたが、結局はごみだったか。ま、問題行動しか起こさない2年自体が屑ってだけかも知れんがな!」
そう言って、二人の先輩は笑い出しました。その言葉に、私は今までにないくらい、本気で怒りました。
「…行きましょう、霧島さん。負けちゃいましたから、もうこんな人たちの前にはいる必要もありません」
「…確かに。行こう、姫路」
「「あ?何が言いてぇンだよ?」」
「…こんな上辺だけでしか人を見ないような先輩に、付き合う必要なんかありません」
「んだとコラ!先輩に向かって、なんだその口のきき方は!?」
「負け犬のくせに、うっせんだよ!結果が全てだろうが!?」
「…成績が上がっても、こんなのにはなりたくない」
「全くです。最低な人間になるくらいなら、私は成績にこだわりたくないです!」
「てめぇ…言いたい放題言いやがって!アイツらのせいで俺たちは勉強しなきゃいけなくなったんだよ!」
「人に責任を押し付けないでください!勉強をする理由は、自分自身のためです!」
「勉強嫌いならそれでいい。でも、人に責任をなすりつけようとするなんて―――最低」
「「てめぇら―――!!!」」
「せいぜいそうやって虚勢を張っていればいい。そんな態度で、後悔するのは貴方達」
「明久くん達みたいにちゃんと努力する人を、笑ったりすることなんて許しません!」もう、私たちは戦えないけれど。それでも彼らは許せません。頑張っている人を笑うのは、がんばっている人を貶すのは―――!
「そこまでだな、姫路」
「ありがとう、姫路さん。あとは僕らでやるから」
明久くん―――?
「雄二、吉井…」
「坂本君、明久くん…」
「「なに、大丈夫だ。俺(僕)たちは絶対に負けない」」
―――文月学園旧校舎3F Fクラス―――
『さて、俺らとの勝負と行こうか?先輩方』
『正々堂々と戦わせてもらいますよ。この腕輪は―――使わない』
『『『『―――試獣召喚(サモン)!』』』』
――――――Aクラス 常村勇作 & Aクラス 夏川俊平――――――
――――――物理 209点 & 196点 ――――――
――――――Fクラス 坂本雄二 & Fクラス 吉井明久――――――
――――――物理 148点 & 98点 ――――――
私は彼らのバトルをしっかりと見続ける。吉井君の召喚獣の扱いを、先輩二人の召喚獣の扱いを。そして、坂本君の戦闘指示を。
「…思考はそのまま反映されるけれど、再現率はやはり高くても80%といったところか」
そのままバトルは続く。どうしても先輩方に有利なのは変わらないけれど、それでも彼らはかなり善戦してくれている。
「―――私の問題点は、召喚獣を上手く扱えないことです。ならば、学ぶ必要がある」
帰ってきていた姫路さんたちに呟くように、私は独り喋る。
「…霧島さんたちの戦闘を学び、彼らの戦闘を学ぶ。実践にはかなわないけれど、それでも十分に学べます」
「…加藤?」
「加藤君?」
「…問題です、彼らが負けた場合、2年生の負けになるでしょうか?」
「「あの二人で最後じゃ――――あ」」
「幸い私は点数消費をしていない。彼らが勝つならそれでいいんですが、私は理想を求められないから」
「…私は、理想を現実にしてくれると思っています」
「…私も。雄二たちなら、できる」
あくまでも彼らを信じている彼女たちに、私は眩しさを感じる。だが…
「…現実は、厳しい。さっき先輩方が言っていたように、結果がすべてと捉えられがちです。だからこそ私は、そう言っている人を、同じく結果で語って上げます」
――――――Aクラス 常村勇作 & Aクラス 夏川俊平――――――
――――――物理 150点 & 141点 ――――――
――――――Fクラス 坂本雄二 & Fクラス 吉井明久――――――
――――――物理 29点 & 21点 ――――――
―――さて、十分に学べた。私もそろそろ行くとしましょう。
「霧島代表、坂本君たちに、避け続けるように言ってください」
「…わかった」
「…加藤君、お願いします」
「ええ、2年生の、勝利に貢献してきます。あぁ、2年生にこう伝えてください――」
―――文月学園新校舎3F Aクラス―――
「「これで…留めだ!!」」
「――――っ!!!」
「チッ、流石にかなわないか…」
常夏コンビの言葉通り、そこで俺らは戦死が決定した。明久はフィードバックがきついのだろう、必死に歯を食いしばっている。
「これでお前らの負けだな?」
「さーて、お前らには2学期の体育祭、頑張ってもらうとするか!」
…俺たちの負けは、間違いない、但し、それが2年の負けになると思っているのが間違いだ!
「―――あ、終わってましたか」
「「締まらない登場の仕方だな、おい!」」
「すいません、ギリギリで間に合うかと思ったんですが…」
「「なんだ、テメェ!」」
加藤がまだ残っていることを、先輩方は気付かなかったらしい。
「最後の2年生ですよ…。さて、どのくらい減りましたか?」
「モヒカンが100点丁度、ボウズが108点だ」
「…ちゃんと、仕事はこなしたよ?」
「ええ、貴方達のおかげで、私は楽ができそうです。…カッコよかったですよ?」
「へっ、ぜひとも翔子に言ってもらいたいな!」
「僕も、姫路さんや美波に言ってほしいな…」
まあ、そうですよね。と加藤は苦笑する。全く、無茶な注文しやがる。
「さて、先輩方?どうせならちょっと賭けをしましょう」
「賭けだぁ?」
「フン、今の状態の俺らの内片方に勝ったって、全然驚きゃしねえよ。そんな負けること確定の賭けなんざ乗るか!」
「ふむ、なら、二人同時に来ていただいて構いません。まさか、一人に二人がかりで負けるとは言いませんよね?」
加藤の背後から何やら恐ろしい物が見える気がするのは気のせいだろうか?いや、明久の野郎も震えてる。間違いじゃなさそうだ。
「「あぁ!?んなわけねえだろ!吠え面かかせてやる!!」」
「そうですか、それはよかった。賭けの内容は、負けた側への命令権。先生、召喚許可をお願いします」
「許可します」
「「「―――試獣召喚(サモン)!」」」
――――――Aクラス 常村勇作 & Aクラス 夏川俊平――――――
――――――物理 100点 & 108点 ――――――
―――――― Aクラス 加藤裕紀 ――――――
――――――物理 408点 ――――――
「「何ぃ!?」」
「…左手でこれだけとれたんですね。なら、次のテストで挽回は確実か」
…加藤の点数に、思わず俺らも唖然としちまった。そして、その召喚獣にも。
「―――お袋!?」
「そう見えるかもしれません。ですが、見る人によって姿は変わります」
「で、でっかい蜘蛛だ!」
「お、俺には蛇に見えるぞ!?」
「僕にも、母さんに見えるんだけど…」
「ちなみに私には自分自身に見えます。初めて召喚したときにドッペルゲンガーかと思うほどに。―――鵺。人によって、見え方の異なる妖怪です」
鵺、伝承では「顔は猿に似ていて、胴は狸、足は虎、尻尾が蛇、そして『鵺のような声で鳴いた』という奴だな。鵺ってのはトラツグミのことで、鳴き声はするがなかなか姿が見えない鳥だ。そこから転じて、『正体不明の存在』という意味をもつ。恐らく本来の姿に見えないのは、俺たちが別の存在だと誤認しているからか。そういう能力があるって言うのは、ゲームや漫画の中でよく出る設定だ。
「先輩方に言っておきます。結果をなさなければ意味をなさない貴方達の考え方なら、今の貴方達の存在など、無意味なものです。…人を貶す暇があるのなら、単語の一つでも覚えなさい、愚物が」
加藤はそう吐き捨てるように言った。
――――――Aクラス 常村勇作 & Aクラス 夏川俊平――――――
――――――物理 0点 & 0点 ――――――
―――――― Aクラス 加藤裕紀 ――――――
――――――物理 408点 ――――――
―――文月学園新校舎3F Aクラス前廊下―――
「―――私は貴方達の手法を否定するわけではない。今回の対戦自体は、非常に素晴らしい物でした。元々は公平な条件の中、ここまで優位に運ばれたのはかえって気持ちのいいものでしたから」
確かに、最後の罵倒さえなければ、楽しんで勝負ができたんじゃないかと思う。実際に途中までは個人的な勝負なんぞ、忘れていたくらいだ。ですが、と加藤は続ける。
「私たちを圧倒的下位な存在だと、優越感に浸りながら、酷く侮蔑的におっしゃいましたね?努力を怠らなかった相手を、屑と吐き捨てましたね?貴方達は今、まさにその屑以下の存在なんですよ。どうですか、召喚獣の扱いにも慣れてない人間に、ましてや屑と罵った2年生に、あっけなく敗北した気分は?」
「「…………」」
「…さて、貴方達にはまずして頂きたいことがあります」
戦死した二人へと語りかける加藤。その姿は、俺も恐ろしさを感じる程に、圧倒的な雰囲気を醸し出していた。
「姫路さん、霧島代表、坂本君、吉井君に謝りなさい。心の底から」
「「…はい」」
「そして二つ目」
「「まて、もう命令はしただろう!?」」
「私は命令権とは言いましたが、回数の限定などしていませんよ?確認をとらないとは、なんともバカですね」
「「テメェ…!!」」
「しっかりと、反省しなさい。貴方達の行動は、最上級生としての自覚があってのものとは思えません。悔い改めなさい」
ぐうの音も出ないとはこのことだろうか。雰囲気に呑まれてしまっている。俺も、まるで自身が叱られているような気になるほどに。
「最後に。広い視野を持ってください。そんなに狭い視野では、将来が大変でしょうから。これは命令というより、お願いです」
その言葉を言ったとたん、加藤の雰囲気はあっけないほどに無くなった。まるで、元から無かったかのように。
「さて、2学期の体育祭での準備と片付け、よろしくお願いしますね?姫路さん、霧島さん。この二人は心の底から謝ってくれるそうですので、もう怒らないで。坂本君たちに怒った顔は見せたくないでしょう?」
皆さん、2年の勝利です!と、加藤はいつもの無表情で言った。
『『『『『いよっしゃー!!!!』』』』』
旧校舎の方から2年生の歓声が聞こえる。そして、全員が廊下へとやって来た。3年生も全員出てくる。廊下の両端で向かい合い、2年が一礼した。
「「「「「ありがとうございました!」」」」」
あまりの出来事に唖然とする3年生&俺達。しばらくして、3年生が吹き出し、返礼した。
「今度は負けねーぞ!」
「次は役回り交代ね!」
「終わった後の礼は当然だよな。これも講習なら」
「「「「「ありがとうございました!」」」」」
―――文月学園昇降口前通路―――
「結局、終わってみれば楽しかったのう?」
「ちゃんと謝ってもらえましたし、ちょっと怖い物が平気になったかもです」
「…今度は、負けない」
「ボクも、次は絶対負けないんだから。もちろん、ムッツリーニ君にもね?」
「…雄二、カッコよかった」
「ゲホッ!何言いやがる!」
「ああ、さっき霧島さんになら言われてもいいって言ってたもんね?雄二」
「なんにせよ、楽しめたしよかったわ。裕紀があそこまで指揮能力があったのもわかったし」
「優子さん、あれは結局皆動揺してたからですし…まあいいか。ちょっと寄るところがありますので、これで」
「うむ、またあとでの…じゃが、何か忘れている気がするのう?」
「「「「あ、自分も!」」」」
「「「「「…あ」」」」」
「加藤…怖かったよぅ」
「まさか本当に全員忘れているとは思いませんでした。薄暗い教室に一人は怖いですよね。さ、帰りましょうか。今なら皆に追い付けますよ?」
「…うん」
島田さんが廊下に来ていなかったから気になったのだが…。流石に少しの暴力は認めてもいいかもしれない。