馬鹿とテストと薄い影   作:のろし

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第二話

 裕紀の家は学校から10分ほどのマンションにある1DKで、そこのダイニングに高橋教諭は通された。部屋は彼女が見た限りでは綺麗に片付けられており、清潔に保たれている。

 

 というか、ほとんど物がない。シンプルなテーブルに、椅子が二つ、しかもそのうち一つは来客用であるらしく、女の子があわてて出していた。

 

 いくら独り暮らしとはいえここまで私物がないのはどうなのだろうかと思いながらも、高橋教諭は、いまは男子の服に戻った裕紀に話しかけた。

 

「最近はユニセックスというジャンルがあるのは知っていますが、加藤君の格好はどちらかというとクロスドレッシング、または女装と言いまして、特にどこから見ても女の子に見えたあなたの格好の場合、男の娘と呼ぶことも…」

 

 

「ええと、とりあえず高橋先生が見た感じよりはるかに戸惑っているのはとてもよくわかりましたが、落ち着いてください。これはバイトみたいなものですから」

 

 

 

 

 

 

「失礼、少し取り乱しました。ではあらためて、今日私が訪問した件についてなのですが、先日の学力強化合宿後に告示された停学のことでして」

 

 数分後、なんとか落ち着いた高橋教諭は、裕紀に自分が訪問した理由の説明に入る。

 

「あぁ、なんだか大変だったみたいですね。Fクラスの男子に聞いてみたんですが。かなり大規模だったのに、知らなかったのかって逆に聞かれちゃいました」

 

「その反応からしても、やはりのぞき騒動には関係していなかったんですね。申し訳ありません、学園側の不手際です」

 

 裕紀の反応に、やはりのぞき騒動には関係していなかったことがはっきりわかり、申し訳なさそうな顔をしつつ謝罪をする高橋教諭。

 

「あぁ、気になさらないでください。男子全員が絡むような騒動だったんでしょうから。女子の気持ちとかも考えれば、迅速な対応は当たり前です」

 

「いえ、だからと言って男子全員が参加しているだろうという先入観をもって告示したのは事実ですし、それは本来教師がしてはいけないことですから」

 

 高橋教諭の改めての謝意に、これ以上は言及しないほうがよいと、裕紀は話の続きを促す。

 

「学園側の謝罪はしっかりと受け取りました。それで、具体的に私の扱いはどうなるんでしょうか?」

 

「えぇ、そのことなんですが、先ほど加藤君が言ったように、女子のいまの様子を考えると…あなたの命が危ないと判断しました。ですので、表向き停学を解くことはできません」

 

「あはは、うちの学年は個性的な人が多いですからね」

 

「個性的、ですか?…そういうわけでして、加藤君の命を守るためにも、所定の期間登校はせずに、自宅学習をしていただきたいんです。もちろん出席扱いですので」

 

 登校=女子による殺戮という図式が出来上がる高橋教諭の発言に、個性的で返す裕紀。一瞬疑問に感じはしたが、そういう考え方もできるのか、と納得して話を進めた。

 

 

 

 

 

「では、課題はほぼ終わっている、と?」

 

 話を進めていくうちに、出された課題がほぼ終わっていることが分かりました。三日目にしてそこまで進んでいることに少し驚きをかんじます。Aクラスの生徒でも五日は必要なはずの課題です。いかに優秀とはいえ、クラスでの成績は並だったと記憶しているのですが。

 

「ええ、試召戦争のときに姫路さんの頑張りをみまして。問題を解く時間の短縮と正答率をあげるという目標で頑張っていたんですが…大分速くなりました」

 

「そうだったんですか。頑張っていることは先生もうれしいです。Aクラスは自ら仕掛けることはないですが、安心していては足元を掬われてしまいますからね。それに、それが全てではないにしろ、進学でも有利になりますから」

 

 自クラスの生徒の思わぬ頑張りに、私も少し誇らしくなりました。

 

「あ…。な、なんだか少し照れくさいですね。褒めてもらうって」

 

「照れなくていいんですよ。頑張っていることは認められるべきです、それはFクラスでも学年主席でもかわりません」

 

 そういうと加藤君は顔を少し紅く染めながらはにかんだ。先ほどの光景をみていたこともあって、それは本当に可愛らしく、しかし、彼の言葉に引っかかりを覚えた。

 

 しかし、私が入り込むべきことかどうかわからない。それよりも気になるのは。

 

「先ほど君は『バイトのようなもの』と言っていましたが、どういうことですか?女装とバイトの関係性が分からないのですが…」

 

「あー…私はこのとおり、身長が少し高めなので。よく女装用品ショップの試作品モニターのバイトをしてるんです。母が小さいころからそういう格好を好んでいたので、抵抗もありませんから。

母の知己からの紹介ですし、その人自身は服飾のお仕事に就かれていて、幼いころからやってたんです」

 

「お化粧品もですか?」

 

「最近需要が増えているらしいんですよ。知己の事業展開で化粧品も扱うからと中学後半から休みを使って一日試着して、感想をつたえるんです」

 

 最近は女装趣味の男性も増えているんですね。そういえば、Fクラスの吉井君も確か文化祭でウチのクラスの女子衣装を着ていましたし、結構主流なんでしょうか?

 

「別に格好に抵抗はないんですが、一応セクシャル・ジェンダー共に男性ではありますから。実際人に見られると恥ずかしいというか…」

 

 このブランドです。と出された名前は、服装品メーカーでも最近席巻しているところで、幼いころからであることも考えるとだまされている可能性も低いですかね。

 

「学園側へのバイトの許可願いも受理されたので、問題ないですよね?」

 

「ええ、しっかり許可が出ているなら問題ありません。ただ…」

 

「ただ?」

 

「くれぐれも一部の女子と男子にばれないように」

 

「あはは、一部に限らず他の生徒にはばれたくないですね。恰好には抵抗ありませんが、それで陰口をたたかれたり噂されたりするのは抵抗がありますから」

 

 決してそういう意味で言ったわけではないのですが、まあいいです。その後、加藤君が必要と言った追加課題を明日誰かに届けさせると約束して、お暇しました。

 

 

 

 

 

 まさか高橋先生が家庭訪問なんて思ってもみなかったな。私への処分も取り消しになったし、学園側へわざわざ抗議する必要もなくなったかな。

 

 それにしても、久保くんも私が参加してないことに気付かなかったとは…。もしかして私…影が薄いのかな?それで気付かれなかったとかなら凹むなぁ。

 

 Fクラス…か。観察処分者や悪鬼羅刹がいるクラス。今回の事件の主導者がその二人なんだっけ。周りに迷惑がかかっててもお構いなしなんだろうな。

 

 なんて…バカらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……雄二」

 

「…何だ翔子」

 

「Aクラスで騒動に関わっていなかった男子がいるみたい」

 

「あ?そりゃよかったな、負の遺産(あんなもの)見ずに済んでよ!ったく、そいつも根性無しな奴め…」

 

「雄二は私の裸…見たかった?」

 

「ごほっ…んなわけねえだろ、死んでも見たくねぇ」

 

「…それは許さない…!!」

 

「あ?まて、翔子!何故俺をお前の家に連れていく!?そして帰りつつ服のボタンに手をかけるな!!俺は公衆の面前で裸になんかなりたくな―――!!!」

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