―――――ここは病院だ。父も母も入院していたころの病室…――――
「全く、父さんも母さんも同じ病気とか…どれだけ相思相愛なのさ」
私は両親に軽く聞いている。この会話をしていたころには、二人ともに余命1カ月を切っていて、体だってやせ細っていた。なのに二人は豪快に笑い、
「「そう思うよな!もしかしたら死ぬ時間まで一緒かもしれないよ!」」
なんて言っていた。
末期の肺癌。正確には肺門型肺癌とか医者が言っていた。愛煙家だった二人は、「煙草を止めるくらいならお前を育て上げてから死んだほうがましだ」なんて言っていたが、残念ながら私はその時中学生。育て上げたと言うにはまだ5、6年足りない時期に、彼らは死んでいくらしかった。
「せめて弟妹の一人でもいたら僕は悲しむ暇もないだろうに、本当に残念」
「ああ、俺としても残念だな。母さんと二人、共に両親が死んじまってから出会って、親戚もいねえ。哀れお前は天涯孤独になっちまうわけだ」
「やっぱりもう一人くらい産んでおくべきだったかしらね。あんたの元気の良さに辟易しちゃって絶対作らない、って決めた12年前が恨めしいわ」
二人はそう言ってまた笑う。どこまでも悪びれない両親は、私にはむしろありがたかった。軽口の言い合いを面会終了ぎりぎりまで続け、私が帰った5分後に彼らは息を引き取った。最後の言葉が「せめて来週までは持ってよね」だったのに対する皮肉だろうか?病院から出るときに電源を入れ忘れた携帯は、私の後悔のひとつになっている。私がいるときに手を取って感動的なセリフを吐いて息を引き取るとか、奇跡的に回復して本当に私をしっかり育て上げるとかの小説的なストーリーもなく、彼らは逝った。臨終時間は完全に同じだったらしい。
「―――久しぶりに出てきたな、二人」
あの頃は一人称が僕だったな、なんて考えながらベッドから降りる。あの後は葬儀や児童養護施設へ入所しないための方法探しで忙しかったな、とぼやく。結局服飾メーカーの知人が後見人になってくれて、中学卒業まで面倒をみてくれた。高校からは私の希望で一人暮らしをしているけれど、しょっちゅうバイトと称して様子を見に来てくれている彼女には頭が上がらない。ただ、女装した私をなめるようにみるのは勘弁してほしいのだけれど。そんなことを考えているうちに、登校時間になった。父母の仏前に手を合わせ、私は学校へと向かった。
両親の死後、どこか達観、或いは諦観しているように見えるだろうことは私も理解している。実際常に一歩引いた目線にいることと、斜に構えたところがあることは自覚している。彼女からも、「たまにイラッとくる」と言われており、申し訳ない限りだ。まあ、何故私がこんなことを話しているかというと。
「この状態を仕方ないと思えるからでしょうか」
学園の門から昇降口へ向かう途中、目の前の男子が女子からキスをされた途端、背後からぶつかられ、転倒したかと思ったらそのまま数人の生徒に踏みつけられた。どうやら先ほどキスをされた男子生徒を殴り倒すための助走コース上に私がいたらしい。私を無視して男子生徒を取り囲む男子生徒の軍団。そのまま男子生徒はリンチを受け、校舎へ連れて行かれた。一部始終を見届け、起き上がったところでまた吹き飛ばされ、今度は霧島代表のとなりにいる男子生徒…坂本君がリンチ後、連れ去られた。
「一体何がおこっていたんでしょうか?どうやら連れ去られた人たちは坂本君と吉井君のようですが…」
停学明け初日なこともあり、男子諸君は元気いっぱいのようである。と、そんなことを立ち上がりながら考え、私は教室へと向かった。
教室に入ると、女子と男子の間で若干微妙な空気が流れていた。覗き騒動の際の後遺症だとは思うけれど、男子が入るたびにほとんどの女子が眉を顰める。私にも視線を向けられているが、まぁ仕方ないことだろう。覗きをされそうになって平気な女子はあまりいないだろうし。一時はこの空気も続くだろうけれど、それは男子の自業自得だからしかたないだろう。停学よりもいい薬かもしれない。
―――彼も参加していたらしいけれど、Fクラスは女子がほぼいないらしいから大丈夫かな?
午前の授業終了後、屋上でご飯を食べてると、二人の女子がやって来た。ピンク色の長い髪の姫路さんと、茶色い髪をポニーテールにした島田さんの二人だった。どうやら島田さんは機嫌が悪そうで、姫路さんがそれをしきりになだめている。
「ですから、明久君も悪気があったわけではないですし、それにキ、キスをしたのは美波ちゃんのほうなわけですから」
「う…わかってるわよ。ウチも早合点しちゃったところはあるし。で、でも!坂本より好きって書いてあったら勘違いしちゃうじゃない!そ、それに…初めてだったし」
「うーん…確かに私も坂本君より好きだ!なんて言われたら勘違いしちゃうかもですけど…」
…色恋話はぜひとも人がいないところにてしてほしいところだ。勝手に聞くべきでもないだろう、と席を立とうとするとあちらも私に気付いたようで、少し気まずそうにしている。図らずも目が合ってしまうと、非常に動きにくいんだなぁ、と理解した。
「ぁ…ご、ごめんなさい!人がいるとは思わなくて」
「いや、気にしないでください。こちらこそ話を勝手に聞いてしまって申し訳ありません。すぐに消えますので」
「いえ、私たちのほうがあとから来たのに気を使われなくてもいいですよ。ごめんなさい」
まさか思いっきり人がいるとは思わなかった…と呟いている島田さんと姫路さん。…やはり私は存在感がうすいらしい。
「あの…いまの話なんだけど」
「あぁ、大丈夫ですよ。他言はしませんし、するような友人も全くいませんから」
「え、友達がいないってどういうことですか?」
「人付き合いはあまり得意ではありませんし、不快にさせてしまってはいけませんから距離をとっているんです。ですから、クラスに友人と言える男子はまったく」
「そんな…不快なんておもわないわよ」
「そうですよ!全然そんなことありません」
二人は口々に私のことをフォローしようとしているけれど…あぁ。
「自分自身、人とふれあうのが苦手なんです。その態度が見えてしまうと相手も不快でしょう?それに、貴女達のクラスには幼いころからの知己がいますし」
「それでも、実際話してて不快じゃないんだから…って、ウチのクラスに?」
「だれですか?少なくとも学校で私たちのクラスの人と話しているところは見てないですけど」
二人は彼女たちのクラスに私の知己がいることにおどろいていた。…廊下などで話したりしていたはずなんだけどなぁ。
「…結構旧校舎にも結構行って話しているんですが。秀吉君ですよ」
「木下君ですか?」
「アンタと話してるのは見たことないはずだけど…」
「結構な頻度なんですがね…影が薄いんでしょうか?」
気付かれていなかった。気付かれていなかった…!どうやら自分の存在感が薄いのは間違いないらしい。
「…でも、やっぱり不快にはならないですよ?きっと気にしすぎなんです!…って、何の話をしていたんでしたっけ?」
「…あら?そうよ、アキったらなんであんなに…!」
「だからそれは悪気があったわけでは」
女の子同士の話はループするらしい。
「そろそろお暇しますね。昼休みもそろそろおわりのようですし」
10分ほど二人は話し続けていて、その間に昼食を摂り終わった私は、二人に教室へ戻ることをつげた。
「あ、ごめんね。気が付いたら話しこんじゃって」
「すみません。ほっといちゃって」
「いえいえ。私がお邪魔してしまったようなものですから。では」
二人に別れをつげ、私は教室へと戻った。
「ところで美波ちゃん、さっきの人」
「あ、名前聞いてない!」
「しかたないですね。木下君に聞いてみましょうか」
―――こうして流れは交差する―――
「なあ須川」
「ん、なんだ横溝」
「朝に吉井と坂本を捕まえる際、誰か巻き込まれたりしていなかったか?」
「うーん…なんかそんな気もするが」
「「ま、大丈夫だろ、我々FFF団は正義を執行するもの!」」
―――こうして確執は生まれる―――