Extra
それまで見張っていたアパートの一室の、リビングと思しき場所の明かりがふつと消え失せる。その様子を、二つの影は下からそっと見守っていた。
「明かり、消えたわね」
「だね」
「帰ったのかな、みぞれ」
「今夜はこのまま泊まるんじゃない? あの子の大学、結構遠いんでしょ」
「それはそうだけど。もしそうならヤバいでしょ」
影の片方が、ふう、と落ち着かないように溜め息を漏らす。もう片方は、それに肯定も否定もしない。それはあの部屋に居るであろう二人の間にかつて何があったかを知っており、そして今その部屋の中で二人に何が起こっているのか、それを知る術を全く持たないからだ。
「どうしよう。もし二人に何かあったら」
「何かって?」
「そのぐらいアンタだって分かってんでしょ。ったくもう、とぼけたフリして」
「別にとぼけてませんけど。てか、私らにはどうしようもないって」
こちらの溜め息は、やや辟易とした色を帯びていた。やがて雲間から顔を出した月明かりが照り、二つの影の正体を露わにする。そのうちの片方、しゃがみ込んで齧りかけのあんパンを握り締めているのは
「やっぱり今からでも踏み込んだ方が」
「いやいやおかしいから、いきなり行くのは。希美からは何の連絡も入ってないんだよ。みぞれからだってそうでしょ?」
そう問い詰めると、ふてくされたように優子が顔を伏せる。ホントこいつ、勢いで突っ走ろうとするのは昔からの悪い癖だな。そう思いながら足元に居る優子の後頭部を見下ろして、
希美が風邪でヤバいことになっている。
彼女から直接連絡を受けた夏紀はその日、大学の講義が終わった後で優子に連絡を取っていた。
「そんなわけだから、優子もお見舞い行くよ」
「はあ? 何で夏紀が勝手にそんなこと決めんのよ」
「希美、もしかしたら動けなくなってるかも知れないし。世話する人が居た方がいいに決まってるじゃん」
「だったら尚更、ドカドカ押しかけたら希美に迷惑じゃない。アンタもちょっとは考えなさいよ」
「おやおや、冷たいデスネ優子さん。希美は一人暮らし始めたばっかなんだから、絶対今キツいと思うよ。それとももしかして行きたくないの?」
「そんなこと言ってないし。勝手に人の思考を捏造すんな」
「だってそう言わんばかりの態度だったしさ。まあ別にいいけどね、あたしは一人でも行くから」
「だから何でそうなるのよ。アンタほんと私の話聞かないんだから。そもそも合宿の時だってねえ、」
「ハイハイ分かった分かった。んでどうするの、行くの? 行かないの?」
こんなやり取りがあって、結局は優子も希美の看病に来ることになった。途中のスーパーで看病の品をありったけ買い込み、行きの道中も二人でギャーギャーと言い合い、互いに険悪な空気を醸しながら街道を歩く。そして希美の家から最寄りのコンビニが向こうに見えた辺りで、夏紀は思いがけない人物が通りを歩いているのを目撃した。
「隠れて」
「は? 何よ突然……」
「いいから隠れろ!」
声量を絞りつつ鋭い言葉で優子を制し、二人は物陰に身を潜める。通りを真っすぐ歩いてきたのは、みぞれだった。夏紀の視線から優子もその事に気が付いたらしく、みぞれ、と小さく声を上げる。
「なんでみぞれがここに?」
「分かんない。優子、みぞれに連絡した?」
その問いに、優子は困惑顔でフルフルと首を横に振った。きっと嘘ではない。夏紀はそう直感した。
希美に関する事を、優子がみぞれに直接連絡する筈がない。と言うよりは、今回の件についてはあえて知らせないように気を遣った、と言うべきだろう。この三月、一人暮らしを始めた希美の家にみぞれを呼ぼうと優子が提案したのは例外中の例外だった。
「ここにみぞれが居るってことは、そういうこと、だよね」
「多分ね」
二人が物陰から見守る中、みぞれは迷いなく目の前のコンビニへと入っていく。夏紀たちの存在には、どうやら気付いていないようだ。
「どうする?」
夏紀は優子の判断を窺う。流石にこの状況をどうすべきか、自分一人では考えあぐねるものがあった。
「とにかく、様子を見ないと。希美がみぞれに直接連絡したのかも知れないし」
優子の答えに夏紀も頷きを返す。連絡をした事それ自体が異常事態とは言えるものの、この状況ではそう考える方が自然だろう。たまたま希美が風邪で倒れ、誰も連絡していないところにたまたまみぞれが遊びに来た、なんてことの方が不自然で、到底考えられない状況だった。
それも今日は週のど真ん中である。みぞれの住む家の位置を考えれば、土日の休みを利用して遊びに来るならともかく、学校帰りにフラリと立ち寄るような距離でもない。間違いなく彼女は、自ら来るべき必然性を感じてここまでやって来たのだ。
やがてコンビニからみぞれが出てくる。その小さな片方の手には大きいビニール袋が、もう片方の手には見覚えのある黒いケースが、それぞれ提げられていた。
「行くわよ」
みぞれの背中が見えなくなってから、優子と夏紀は行動を開始する。みぞれに気付かれないようにそろそろと、二人はみぞれが辿ったであろうその後を追っていった。
夏紀にとって、鎧塚みぞれという人物は、とても複雑な存在だった。
同じ南中出身であり、高校では同じ吹奏楽部の部員同士であり、高校三年間を通じてのクラスメイトでもあるのだが、そもそも夏紀は単独でみぞれと絡んだことがあまり無い。そして何より、彼女は夏紀が憧れていた希美に深い傷を刻んだ存在でもある。
もしもみぞれが悪意的に希美にそうしたのならば、そして当の希美自身もみぞれをはっきりと憎しみの対象として捉えているのならば、夏紀だっていっそみぞれを憎むことさえ出来ただろう。けれど、そうではないことを夏紀は知っている。だからこそだ。夏紀はみぞれに対してもう一つ適切な距離を取り切れずにいた。そしてそれは優子における希美についてもまた然り、だ。
同じ中学、そして高校出身の四人。表面的にはそうであっても、その内実は決してシンプルなものでは無い。それぞれの人間関係が互いに入り組んでいて、迂闊に解こうとすることさえ憚られる。そんな危ういバランスの元に、彼女達の繋がりは構築されていた。
三月、希美が一人暮らしを始めた時、夏紀はその報せを真っ先に受け取った。
『あの時約束した人生ゲームでもやろうよ。一晩中さ』
その誘いを受け、夏紀はそれならばと優子にも声を掛けた。そんな中、優子はみぞれにも連絡しようと言い出した。この機会に少しでも二人の関係を是正するキッカケを。優子はそう考えていたらしかった。
当然夏紀は反対した。新しい生活が始まって一年、ようやく落ち着きつつある希美の心に、また波風を立てるようなことはするべきではないと。けれど心のどこかでは、そんな自分の甘さが却って希美の成長を阻んでいるのではないか、という懸念もあった。そうして結局、夏紀は優子の言に負け、みぞれは呼ばれた。
久しぶりに四人で過ごしたひと時。その間、夏紀や優子が危惧するような問題は何も起こらなかった。起こさせないように優子と二人で常に気を配り続けた、というのも勿論あった。
それで一気に希美とみぞれの関係が好転した訳では全く無かったものの、翌日みぞれを帰りのバスに乗せて出発を見送った後、無事その一日をやり過ごせた安堵感と疲労から、夏紀と優子は二人揃って青白い息を吐いたものだ。
そんなみぞれが今、着々と希美の住まうアパートに向け、迷いなく歩を進めている。その事に気が気でないのは優子だけでなく、夏紀だってそうだった。
「止まって」
優子の短い声に、夏紀はぴたりと足を止める。
「ちょっと、止まれって言ったでしょ。何ぶつかって来てんのよ」
「そっちが急に言うから」
「わざとやってんじゃないの?」
「する訳ないっしょ、こんな時に」
小声で競り合いながら、しかし夏紀と優子の視線はしっかりとみぞれに固定されていた。路地のところで立ち止まったみぞれは辺りをキョロキョロと見回し、その中の一つの建物へと吸い寄せられるように近付いていく。やはりと言うべきか、それは希美の住んでいるアパートだった。
「優子、見える?」
「ここからじゃ無理」
「あっち。あそこからなら見えるかも」
反対側の道路を指差して、夏紀は優子と共にこそこそと移動する。万に一つもみぞれに気付かれることのないように。
二人が指定位置まで辿り着いた時、既にみぞれは二階にある希美の部屋の玄関前へ立っていた。間違いない。みぞれは希美に会いに来たのだ。夏紀が生唾を飲んだのと同時に、ガチャリと扉の開く音。優子はこの間一言も発さず、ただじっと状況を見守っていた。この状況で彼女が飛び出さなかったのは、ここに自分も居るからだろうか。そんな事を夏紀はふと考える。
やがて開いた扉の向こうにするりとみぞれが滑り込む。扉が閉じられるまでを無言で見届けて、優子と夏紀は抑えていた息を大きく吐き出した。
「どうなってんさ、これ」
「分かんない。てか、私に分かるわけないから」
宵の帳に包まれかけた優子の顔はすっかり汗だくになっている。自分だって似たようなものだろう。夏紀は袖口で、妙に落ち着かない自分の口元をぐいと拭った。
「アンタ、希美に連絡しなさいよ」
「連絡って、何をさ」
「だから、これからお見舞いに行くとか、そっちの様子どうとか、何でもいいから」
「この状況で? 出来るわけないって、希美からこっちには何の返事も来てないんだし。優子こそみぞれに連絡したらどうなの」
「それこそ出来るわけないでしょ。考えてもみなさいよ」
優子の言うことももっともだ。いきなりみぞれに『今どうしてる?』なんて尋ねるのは、それこそ不自然もいいところである。
それに問い方を一つ間違えたら、自分達がこうして尾行しているのがみぞれにバレかねない。いや、いっそバレてもいいのか? そうしたら自分達が希美の部屋に踏み込む大義名分が出来るのだから。だがそれが希美の本意とするところでは無いという可能性だってある。一体どっちが正解なのか。あまりに沢山の情報を抱え過ぎた夏紀には、もはやこの状況を冷静に判断することが出来なくなっていた。
「とにかくここでもう少し、様子を見るわよ」
こうして物陰に隠れて見張りを始めてから、かれこれ数時間。その合間に軽食を、と優子は見舞いの品のつもりだったあんパンを齧りはじめ、片や夏紀はパック牛乳にストローを差し、じゅるじゅると啜っていた。まるで出来の悪い刑事ドラマみたいだ。などと夏紀が考えていた時、突如として見張りの対象だった希美の部屋の明かりが消えた、というのがここまでの経緯である。
もしもみぞれが帰るのなら、急いで玄関付近に回り込めば立ち去るみぞれの姿を確認できるかも知れない。そう思って二人は足早に移動してみたが、さしたる移動距離でも無いにも拘わらず、周辺のどこにもみぞれの姿は見当たらなかった。そうである以上、彼女が希美の部屋を出たという確証は得られず、さりとて彼女がまだ部屋の中に居る保証もありはしない。夏紀たちにとって確かなことは、みぞれが希美の部屋に入ったという事実、ただそれだけだ。
もしも明かりが点いているうちにみぞれがアパートを出ていたとしたら、裏側に回り込んでいた自分たちがその事に気付ける由は無い。その場合、これ以上ここに留まって見張りを続けるのも全くの無駄であると断言する事が出来るだろう。
「後はどうしようもないんじゃない? みぞれがまだ部屋に居るにしろ、居ないにしろ」
辺りはすっかり暗くなっている。このままここに居続けたら、自分達は周辺の住人から不審者として見られかねない。周囲の気配を窺いつつ、夏紀はそれとなく優子に水を向ける。
「でも、みぞれが心配だわ」
「みぞれなら大丈夫だと思うけどね。あたしはむしろ、希美の方が心配」
「何でそんなこと、アンタが言い切れんのよ」
夏紀の物言いに引っかかるものを覚えたのか、優子が勢いよく立ち上がり、夏紀の正面に回り込んでくる。その不服に彩られた瞳に、夏紀は何も言い返さなかった。
優子はみぞれの側に立っている。だからこそ、優子の目線で希美の姿を見る際には決して好意的ではない感情も混じっているだろう。対して夏紀は希美の側に立っていた。希美が悩んでいた事、苦しんでいた事を、夏紀は良く知っている。そして優子を通じてみぞれの側の事情をも、夏紀は少しだけ把握するようになっていた。
だからこそ、希美とみぞれの問題の根深さが分かる。自分を通じて希美の事情を知らされている優子にしたって、これが分からない筈は無い。
いっそこの四人の思考を同時に共有出来たら。夏紀はそんなことを考える。そうしたらこんな問題はきっと一瞬で解決してしまうのだろう。その後ただちに仲良しこよしのハッピーエンド、という訳にはいかないにしろ、少なくとも今ほどこじれた状況では無くなる筈だ。人間ってどうしてこうも面倒くさい生き物なのか。夏紀はぼりぼりと頭を掻く。
「とにかく、今日はもう撤収」
「嫌よ。あたしはここに残る」
「ワガママ言わないの。もし警察にでも捕まったら、どう言い訳するつもり?」
とっておきの切り札を夏紀が突きつけると、優子は喉をぐうと詰まらせた。大学生とは言えど未だ親の庇護下にある自分達にとって、勘弁願いたい。親元を離れ一人暮らししている優子にしたって、それは同じだろう。
「……分かった」
苦悩の末にやっと観念してくれたのか、優子は渋々と地面に置いていたビニール袋に手を伸ばした。看病の為に、と思って買い込んだその中身も結局のところ、ほとんど出番を迎えることなく終わってしまった。後で何かに使えばいいか。仰々しく膨れ上がった白い袋を眺めながら、夏紀は小さく鼻を鳴らした。
「希美とみぞれ、何話してたのかな」
「さあ? 私、超能力者じゃないし」
「二人がまたトラブってないと良いんだけど」
「そう思うなら週末あたり、みぞれにそれとなく連絡してみれば?」
そうする、と優子が小さく頷く。中で何が起こっていたのか、そして二人がどうなったのか、それは結局分からず終いだ。心のモヤモヤを抱えた二人はそれを解消する術も見出せぬまま、夜の大通りをとぼとぼと歩く。
「私も明日あたり、希美に連絡してみるよ。今度はちゃんと見舞いに行くって言って」
その連絡を希美にしなかったのは、夏紀にとって本日最大のミスだった。一応希美に伺いを立てるメッセージを送ってはいたものの、返信が無かったことからそれほどまでに具合が悪いのだと判断し、あえてそれ以上の打診を控えたという事情は勿論ある。だがそれがまさか、こんな展開になるとは思ってもみなかった。
希美は何故みぞれを呼んだのか。その理由にも全く見当がつかない。希美が自分から喋ってくれるのを期待するしかない。けれどそれはきっと望み薄だ。そんな風に夏紀は結論していた。
「あの二人ってさ」
やにわに優子が口を開く。何? と夏紀は続きを促す。
「これからどうなるのかな」
どうだろう。夏紀は二人の行く末に思いを馳せる。
希美とみぞれ、二人の歩む道はもう分かたれてしまった。順調に行けば、みぞれは音楽を生業として生きていくことになるのだろう。彼女には音楽教師のような道よりは、やはり奏者として、音楽家としての道を歩む方が相応しい気がする。いつかそんな形で華々しいステージの上に立っているみぞれの姿を、夏紀は容易に思い描く事が出来た。
希美は、きっとこれからも希美らしく生きていくことだろう。希美は多くの優れたものを持っている。彼女自身はそれを大したことの無いものだと考えているのかも知れないが、周りはそう思ってはいない。もしも希美自身がそのことに、自分が持つものの価値に気付くことができれば、きっと希美も大きく飛び立つ日が来る。そう夏紀は確信している。
だけれども。そんな二人の道が今後の人生で交わる機会は、果たしてどのぐらい有り得るだろうか? 流石にそこまでの予測はできなかった。もしもそれでも二人を繋ぐ何かがあるのだとしたら、それは『絆』と呼べるものか、はたまた『運命』とでも呼ぶべきものか、そんなものぐらいしか無いのではないか。
「分かんない」
ぐるぐるした思考を端的にまとめて言葉にしたら、結局こんな一言にするより他は無かった。
「だけどさ。あたしはあの二人が、また昔みたいな感じに戻れたらいいって思ってるよ。優子と同じくらい」
「夏紀……」
こちらを向いた優子の声はわなわなと震えていた。今にも泣き出しそうなその顔に、夏紀はニタリと口角を吊り上げてみせる。
それはただの願望であり、見通しの全く立たない非現実的な夢のようなものかも知れない。だけどそんな未来が、例えごくごく僅かな可能性なのだとしても、そこにあって欲しい。夏紀はそう思った。
希美は十分に苦しんだ。そしてそんな日々を乗り越え、彼女なりに成長しようとしている。いつかどこかでそれが報われなかったら、あまりにも可哀想じゃないか。希美には報われて欲しい。一人の友人として、自分は心からそれを願っている。
この世はそう都合良くはない。そのぐらいは分かっている。けれどだからこそ、希望を願うこの気持ちを失ってはいけない。少し大げさかも知れないけれど、自分はそれをずうっと信じていたい。それが、夏紀の偽らざる胸中だった。
「とにかく、今日はこれまでだね」
夏紀がそう宣言したところで、この先の道は分岐していた。
ここを右に曲がってしばらく進めば、優子の住まうアパートへ辿り着く。そちらへ行かず真っすぐ進めば駅へと至り、実家住まいの夏紀はそこから電車に乗って家へ向かうことになる。つまり二人の帰路はここで分かたれているのだった。それじゃ、とも言わず、夏紀は黙って真っすぐの道へ向かおうとする。
「待ちなさいよ」
呼び止められ、夏紀はゆるりと振り向いた。半ばそうなるのを分かった上で。
「アンタ、
仏頂面の優子からは、しかしどこか不安げな気配を滲ませていた。それを見て、夏紀はふふんと鼻を鳴らす。
「勿論。優子サンがお望みでしたら、そうしますよ」
「ちょ、違っ、バカ。別に私が望んでるわけじゃ、」
「ハイハイ。ちゃんと分かってるって」
夏紀は歩みを戻し、そして優子の手首を掴む。全く素直じゃない。そういう所も昔から変わっていない、と夏紀は愉快げに笑みをこぼした。
コイツが、優子が、自分と二人きりの夜を過ごす時、どんな顔をしているか。どんな声を出すのか。きっと希美もみぞれも、かつて彼女を部長と呼び慕った面々も、誰も知らない事だろう。それは夏紀だけが知り得る真実であり、そして夏紀はそれを、他の誰にも教えるつもりなど無かった。
「私の可愛いお嬢様」
からかうようにそう囁くと、優子は恨めしそうな顔を向けてくる。夏紀はその手を引き、右の道へ向かって歩き出した。
夜空に浮かぶ月が二人の背中を照らし出し、その先で、二つの影は一つに重なり合っていた。