「相変わらず圭ちゃんは上手いねぇ~。流石、こういう場面では役に立つ!」
園崎さんは嬉しいのか、前原君に拍手を送りながらの賛辞を述べていた。
「で、沙都子? あんたも孝ちゃんを部員として加えるの、賛成かい?」
「えぇ、いいですわ!」
最後の壁であった北条さんもクリア。
それが意味していることは――――
「よし! これにより、全会一致で認められた! おめでとう篠原孝介くん!」
「あはは。ありがとうね……。で、まだ聞いてないんだけど結局何する部活なの?」
「我が部はねぇ。この深刻化した世界への順応性を高める事を目的とした部活であり――――!!」
「レナはみんなで仲良くやりたいなぁ、はぅ~! それでね~それでね~!!」
「レナさん! この世界は食うか食われるかで成り立っていますのよ? 食わなければ生き残れませんわー!」
「……要はみんなで色々なゲームで遊ぶのです」
3人が思い思いに言っている中、古手さんだけが的確に僕の質問に答えてくれた。
なるほど、これはこれでいい連携なのかもしれない……のかな。
「なぁんだ。それなら楽しく出来そうじゃないか。なぁ、孝介?」
「うん、そうだね。みんなで楽しく――――」
「をーほっほっほ! 無知というのがこれほどまでに恐ろしいとは思いませんでしたわ!」
僕は君の言っている意味を理解するのが恐ろしいです。
「2人ともぉ、あたし達の部活をそんじょそこいらの部活と同じにしないで欲しいねぇ」
顎をさする園崎さんの目は不気味に光っている。
その目には標的を見つけた野獣のごとき鋭さ、そして狡猾さ、それが感じ取れた。
「な、何だよみんなして。何かあるのかよ……」
「あはは! 圭一君、このゲームには罰ゲームがあるんだよ」
「をーほっほっほ! さぁて今日はカモが2人も入ってきた事ですし、とても面白くなりそうですわー!」
「……罰ゲームはとーっても恐ろしいのですよ。にぱ~☆」
……何故だろう。1人だと思っていたのに、いつの間にか三人全員の眼光も鋭いような気がする。
みんなの言葉は僕達二人の身の危険を教えてくれるのに十分役立った。
罰ゲーム。この単語から判断できることはたったひとつ。
このゲーム……負けたら死よりも辛い運命が待っているのかもしれない。
思い返される北条さんの行動。あれが甘口としたら、辛口なんて想像を絶するものなのかも。
「だ……大丈夫だろ。勝てば罰ゲームは受けなくて済むんだからな…………」
「くっくっく! 圭ちゃん、手が震えてるよ。さっきまでの威勢はどこに行ったんだい?」
「う、うるせー! ここここれは武者震いって奴なんだよ!!」
「前原君……それかなり見苦しい」
かく言う自分の手も震えていた。
まるで戦場に取り残された哀れな1人の兵士のように、孤独と恐怖が付きまとう。
罰ゲームが何なのか分からない以上、この想いを払しょくする事は出来ないだろう。
もしかしたらこのゲームはそれも加味してのゲームなのか。
分からない。みんながこのゲームをするわけが分からない。
「さぁてと、十分楽しんだことだし、そろそろ本日の部活を始めるとするかねえ」
園崎さんは自分の後ろに設置されていた個人用のロッカーをあさる。
何が入っているのか、こちらからは見えないのだけれど、がさごそと音を立てる辺りかなりの量が積まれているのが分かる。
本当に園崎さんは学校で遊ぶために来ているのか、そう思えてならない。
学生の本分を忘れている人は嬉しそうに1つの遊具を取り出してこちらに見せてきた。
「今日は圭ちゃんと孝ちゃんのデビュー戦だからねぇ。シンプルにトランプといこうか」
「トランプといっても色々とありますわ。何を致しますの?」
「そうだねぇ……」
かなり古びたトランプをシャッフルしながら考える園崎さん。
しばらくの後、やる事を思い付いたのかトランプの山から1枚だけカードを抜いた。
「今日はジジ抜きでいこうか。圭ちゃん、孝ちゃん。ルールは知ってるよね?」
「うん。基本はババ抜きと一緒だけどジョーカーの代わりに適当なカード1枚抜いてやるんだよね?」
「その通りだよ。今回はジョーカーを抜いた状態で始めようか」
園崎さんはシャッフルし終えたカードをみんなに配り始めた。
トランプ自体がとても古いためか、一つ一つのカードが痛んでいて、傷がついている。
うっかりと力を入れればトランプを破ってしまいそうだ。変なことしないよう、気を付けないと。
「しかしこのトランプ、かなり傷物だな。……もしかしてみんなどれがどれだとか分かってたりしてな。わっはっはっは!」
「まさか、そんなことあるわけないよ」
「だよな! そんなことしたら、俺らに勝ち目ないもんな!」
「はは……全くだね」
「「……」」
えーと。あれれ?
「お、おい。何で何も言わないんだよ……。何でそんなバカを見るような目をしてるんだよ!?」
「……にぱ~☆」
「まさかだとは思うけど……」
「圭一君達もすぐに覚えられるよ! どれも特徴的だし!」
「えぇ~~~!! それってかなり反則じゃない!?」
まさかの大胆告白。
みんなカードの傷だけでどのカードか分かるらしい。
それはテスト中のカンニング並の反則だ。
ジジ抜きというのは、ババ抜きと違ってジョーカーが何なのか分からない。
だからこそスリルがあるし、自分が最後までババを持っているのか分からない恐怖がある。
しかし先程の発言はジョーカーが何になったのかだけでなく、相手の手札も知っているという意味と同じ。
言ってしまえば、僕が自分の手札を公表して「さぁ、お前の持っているのと同じ数字のカードを引け!」とさらしている状況と同じなのだ。
勝ち負けではない。
これは負けルート一直線のゲームと化していた。
当然、隣に座る前原君が黙っているわけもなく、
「汚ねぇぞ、お前ら!! これじゃあ圧倒的不利じゃねぇか!?」
「会則二条。1位を取るためにはあらゆる努力をすることが義務付けられておりますのよ!」
「それって何か違わない!?」
確かに努力して覚えた事には変わりないかもしれないけど。
「くっくっく! という訳で今回の罰ゲームは1位がビリに1個命令! これでいこう!」
「ぐ……!」
「応援してるよ! 圭一君、孝介君」
「え、もう高みの見物気取りなの!?」
もうあの4人に勝ち目はない。
勝てるとしたら前原君しか存在しない。一騎打ちの状態だ。
こんな危険な賭けに飛びつく必要なんてどこにもない。僕は前原君の方を見た。
「どうするの? 前原君……」
「……いいぜやってやる」
「そうだよね流石に――――ってえぇ~~!?」
てっきり拒否権を発動するものだろうと思っていたのに。
何が前原君をそこまで突き動かすのだろうか、僕には分からない。
それは他のみんなも同じ思いだったらしく、園崎さんがみんなを代表して少し感服したような声をあげていた。
「圭ちゃん。この状況でも勝負を投げないなんて……流石というべきかな?」
「は! 今さら逃げ腰になってどうするんだぁ? 人は時として引けない状況が訪れる。今がその時なんだ! 俺は決めたぞ! こんな逆境だからこそ、勝つために熱くなれるんだろうがぁあぁあ!」
「……圭一はとっても勇ましいのです」
「愚かの間違いですわよ。梨花」
人は時として引けない状況、まさかこんな場面で聞くとは思いませんでした。
そして、そんなご立派な意思を聞かされてはこちらとしても逃げる訳にはいかない、雰囲気的に。
……これはもう死に行くしかないようで。
「さて孝ちゃん。どうするの?」
「……。うぅ……やるよ。やらなきゃ僕、かなり格好悪くなっちゃうし」
「決まったね! じゃあ勝負は七回戦。一位と最下位だけ誰かをカウントして、それぞれの数で決める。これでどうだい?」
みんなに異論は無かった。
早速みんな自分の手札を手に取って、ペアになった数字だけを切っていく。
そんな中、園崎さんたちのささやきが。
「なるほどね。ジジはあれか……」
「孝介さんの手札にはあれがありますわね」
「……みぃ。圭一の手札には僕の欲しいものが多いのですよ」
早速泣きそうです。
正直、トランプの傷だけで何のカードを当てれるってよっぽどの事ですよね……。
分からん。この人たちの熱意のベクトルが。
さて、次は前原君と篠原君との奮闘シーンが見られるかも……?