初心者だからの洗礼を受ける事になった僕たちは少しは戦えると信じていた。
相手がどれほどの敵でも善戦出来るときはあるのだと。
しかし結果は予想とは裏腹に残酷なものだった。
「圭ちゃん。左から手札はJ、K、3、2!」
「うがあぁあぁあ!!」
前原君は完璧にトランプの中身を当てられてしまった。
これで3度目の的中だ。もはや嫌味でやられているとしか思えない。
些細な抵抗を続ける前原君は恨みを込めるとばかりに力を入れてシャッフルをしている。
……だが園崎さんにそんなもの通用するはずもなく。
見事自分の手札の枚数を減らすことに成功していた園崎さんは余裕の笑みで前原君を挑発していた。
「くそ、これはまずい……」
そう呻きながら、僕の手札から1枚を抜く彼。もちろん確実性のないもので、ペアを引き当てられていない。運に頼る彼の戦術は手札の交換ばかりだ。
これでは数の減りようもない。圧倒的不利を彼は強いられていた。
一方僕の手札は残り2枚。
先程から運だけはいいのか、前原君とは違って手札は順調に減っている自分でも驚きの展開である。
「後2枚。つまりここで僕が当たりを引けば……!」
「孝介君にヒーント。私の手札には孝介君が欲しいカードが1枚あるよ」
嬉しいヒントだとは思うけどなぜだろう。素直に喜べない自分がいた。
やはり手の内がバレバレという状況は何かみじめな気がしてならない。
ちなみにみんなも順調に手札は減っており、園崎さんだけが残り1枚の勝利目前。
次であがる可能性は非常に高いといえる。
目の前にある竜宮さんの手札は3枚。
……つまり僕が勝つためにはここで引き当てないといけない。3分の1の確率で引き当てるしかないのだ。
さて、どれが勝利のためのカードか。
悩んでいるところに向かい側から声が聞えた。
「ありえないですわ……! 孝介さんは今のところ2回連続でペアを引き当てています事よ!」
「……しかもそれしかないってカードを引き当てているのです」
まさかもうカードを覚えたとか!? 等といらぬ妄想を働かせているようだ。
そんなわけがない。どうやって50枚もあるカードを1時間で覚えきれるのだろう。
今回、というよりどうやら今日は本当に運が良かっただけであり、それがたまたま今証明されているだけなのだ。
「よし……運を信じてこれだ!!」
3枚ある内の真ん中を思いっ切り引き抜いた。
理由なんて存在しないただの当てずっぽうなのだが、みんなから感嘆の声が。
その瞬間、確信に変わる。これは自分の求めるカードなのだと。
「これが孝ちゃんの実力って奴だね……」
「な、なんですてぇ~!?」
「孝介君! 凄いかな! ……かな!!」
周りが僕を称賛し、思わぬダークフォースの誕生に盛り上がっている。
こんなにも驚いてくれるとこちらとしても嬉しいものだ。
手札に残るのはたったの1枚。
これは前原君が取ってくれるはず。自分のあがりは揺るぎない。
「こ、孝介お前っ……! なんでそんなに運がいいんだ!?」
「あははは……。昔っから運はいい方だと思っていたけど、今回ばかりは我ながら凄いと思うよ…………」
なにせ三連続なのだ。その確率は半端じゃない。
「あはは! これは面白い結果が見られそうだね!」
「みぃ。これは負けられないのです」
みんなが意気込み、カードを引き抜いている。
そして、園崎さんまで出番が回ってくると場が静まり返った。
ターニングポイントと言いたげな緊張感。
園崎さんは口元を歪ませて呟く。
「ここは部長のプライドにかけても絶対に1位にならないとねぇ……」
「だが魅音! 俺の手札に望むものが無かったら1位は無理だぜ!」
「くっくっく! 圭ちゃん。さっき孝ちゃんから引いたカードって……ハートの7だよね?」
「ぐぁ……!! さ、しゃぁな?」
声が裏返っている。嘘を付くなら堂々と構えていないと。
園崎さんは面白くするための演出なのか、自分の手札をみんな……主に僕のために公開してきた。
1枚だけの手札。そこにはクローバーの7が存在している。
「な、7だな……」
「圭ちゃん、悪いけどあがらせてもらうよ」
「ま、待て!」
そう言って自分の手札を机の中に入れてシャッフルをした。
まだ諦めきれていないようで、必死の形相がもの悲しさを漂わせる。
もう勝ち目はないというのに。
「ここまで来てもまだ悪あがきとは、圭一さんも諦めが悪いですわね……」
「何とでも言え! さぁ魅音、上から何番目だ?」
シャッフルしたカードの束を手でサンドして、園崎さんに突き出す。
確かにこれで傷は見えないし、完全に運頼みというものになる。
なるほど、考えたものだ。これで園崎さんが確実に上がれる可能性は無くなった。
園崎さんもその行動が何を意味しているのか把握したようで、軽く口笛を吹いていた。
「へぇ……考えたね圭ちゃん」
「これなら傷も折り目も関係ねぇだろ! さぁ言ってみろ!」
「そうだねぇ。じゃあ――――」
園崎さんは迷う事なく前原君が先程シャッフルするために使っていた机の中に手を入れた。
「机の中にって……え?」
「な……み、魅音!?」
「くっくっく! 圭ちゃんの事だからね。確実に私を外すためにはこんな事を――――っとあったあった」
本当に彼女の手にはカードが握られていた。しかも予想していた通りのハートの7。
「凄いよ魅ぃちゃん! 良くわかったね!」
「ま、圭ちゃんの考えている事なんて単純だから」
「ぐおぉおぉお!! 反則までして魅音に負けたぁあぁあ!」
「……かわいそかわいそなのです」
どうやら古手さんは誰かが辛い目にあった時になでようとする傾向がある。
つまる所、前原君に対してよくなでる傾向にあるようだ。
しかし、今回は机を2つ挟んだ状態なので手が届いていない。
それでもなでる様な仕草を見せて慰めようとしている姿は、古手さんの優しさ(?)が垣間見れたような気がした。
「これで私が一歩リードって所だね。しかし孝ちゃんの運の良さには流石に焦ったよ」
「孝介さんがここまでだなんて……私間違っていましたわ」
「間違ってる……それって何かな?」
「孝介さんを我が部の部員にして、圭一さんは除外すべきだって事ですわ」
「おい沙都子! それは一体どういう意味だよ!」
「どういう意味もなにも圭一さんと孝介さんとでは実力の差がはっきりとしていますって事でしてよ!」
「ぐっ……」と苦い顔を表に出すが、反論は出来ていない。
前原君自身も先ほどから感じていたという事だろう。
だがそれでも自分のプライドにかけてなのか、すぐに己を鼓舞し、奮い立たせた。
「沙都子。お前は何も分かっちゃいねぇ。最後の最後に逆転するのが華ってもんなんだぜ! 見せてやるよ! この俺、前原圭一の本気をなぁあああ!!」
そう豪語したのは良かったけど、あまりに無慈悲なハンデを乗り越えるには物足りない。
結局1回戦の敗者はあっさりと決まってしまっていた。
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