ここまでの流れは長期戦といったものより短期戦ばかりの試合展開であった。
改めて言うが僕達2人以外は何のカードなのかが分かっている。それすなわち、みんな自分の欲しいカードを的確に引き当てて、さっさと罰ゲームという危険から逃げ出しているのだ。
1位を視野に入れての戦いもあるのだけれど、やはり最下位をまず逃れたいという意思もあるのだろう。そして駆け引きという面では運試しに走るよりも効率がよいことから、この状況は生まれている。
みんなもそのつもりで挑んできた。だから実質みんなは僕らを貶めるためにやっていることなのだ。
だが、唯一の誤算が存在する。それが僕だった。
奇跡的にも今日の僕は運がいい。それはもう、このままガラガラ抽選でもすれば、金色の玉でも引けそうなぐらいだ。
流石に一回戦の様に連続で引き当てる、という事は出来ないが、高確率なのは変わらない。手札は順調に減ってくれた。
……となると、分かることが1つだけある。
「こ、これで4回連続最下位だ……」
「この時点で前原君の罰ゲームは決定だね……」
前原君だけが最下位という底なしの沼に両足を突っ込んでいた。
しかももう罰ゲーム決定。残り3回戦は消化試合という名の煮え湯を飲まされ続けるだけなのかもしれない。
可愛そうに……対岸の火でも見てるような気分だ。
「くっくっく! 後は誰が圭ちゃんに命令するかだけど」
「今、首位なのは魅音さんでしたわね!」
「……ボクも一勝したのですよ」
「はぅ~! 私も1勝したよ!」
最下位は決定したが、1位は混戦だ。誰もがまだ1位になる権利を有している。
園崎さんが2回、古手さんが1回、竜宮さんが1回。
もちろん僕だってまだ可能性はある。まぁ、それは望み薄な考え方だと思うが。
「ちょっとタイムだ!」
「あらぁ? ここにきてまだ何かするつもりですの? いい加減腹を括って、罰ゲームという楽しい時間をお待ちなさいませー」
「はん! そんな安い挑発には乗らないぜ。まだ俺は諦めねぇ!」
そう公言したのはいいのだが……何故その後に僕の方を向いてくるのだろう。
「どうしたの? 前原君?」
「ちょっとお前と相談がある。ちょいと来てくれ」
「え、あちょっと……」
僕には質問する権利が与えられていないようだ。
手を引かれるがままに連れて行かれる場所は廊下。
他の4人は前原君がまた何かをするのだろうと囁きあっていた。
「……で、話って何? 遺言なら家族にした方がいいよ」
「父親にはもう少し欲情を抑えた絵画を書いて欲しいと――――じゃねぇよ! 何でそんな変な考え方なんだよ!?」
「えー前原君のお父さんってそんな……」
「違うからドン引かないでくれ! あと先に言っておくが俺は真っ当だからな!?」
何も聞いてないのに、そういうと説得力が無くなるのに……。
前原君の叫びが向こうの4人にも聞こえてしまったのではないかと思ったのだが、幸い向こうでは談笑しているだけで気にしている様子はない。
とにかくだ、前原君は咳払いで場の雰囲気をリセットしたのち、再び真剣な話に戻す。
「お前にしか頼めない事がある」
いきなりだった。僕に向かって頭を下げてきたのだ。
その突発的な行動には流石に予想外だった。
とりあえず頭を上げてもらおうと進言しても、彼は固くなに首を横に振るだけだ。
「頼む! 俺に協力してくれ!」
「だ、だから何!?」
さっぱり話に付いていけない。
主語、述語、目的語をしっかりと明記してくれないと伝わらないのに。
口から出てくるのは前原君の希望だけだった。
「俺の罰ゲームは確定だ。だがまだ望みはある!」
それがお前だと顔を上げて手を握ってきた。
「ぼ、僕なんかに……!? 無理だよ! 何も出来ないよ!」
「いや、出来る! 俺とお前の2人なら!」
「2人って……」
それはつまり協力をして勝つというものだ。見方によってはズルと言ってもいいだろう。
しかし今更前原君が抵抗しても、罰ゲームは免れられない。1位を多く取れても、最下位の数多い場合、優先度は後者に移ってしまうのだ。
それは前原君自身が理解しているはずなのに……。
「覚えているか、今日の罰ゲームの内容?」
「確か1位の人が最下位に1つ命令……もしかして……」
ようやく分かった。前原君の言いたい事が。
「お前の考えてる通りだ。俺とお前が協力して――――」
「お前を1位にさせる!」
理解はしていても納得はできない。この人は宇宙の構造を知れたから宇宙を作れると言っているようなモノだと理解しているのだろうか。
それを伝えるためにも、前原君に難しいことを力説する。
「それこそ無理な話だって! つまり僕が3連勝しないと勝てないって事だよね!?」
残りの試合を全部勝たなくてはいけない。それが彼の求めた奇跡。
他の4人がカードを知っているという事を除いたとしてもその可能性はあまりにも低い確率でしか存在しないのだ。
「確かにそうだ。俺達は奇跡の中の奇跡を起こさなければならない」
「あの4人はカードの中身を知っているんだよ? そんな状況下で1位を取るなんて……」
「あぁ、確かにこれは無謀な賭けなのかもしれねぇ……だが」
ニヤリと笑うその顔にはどこか自信が含まれていた。
彼は僕の肩を掴み、痛いと思うほど強く握ってくる。
「それは個人戦だったからだ。俺と孝介、互いが敵視していたために、手を取り合い、真の敵と戦うという貴重な機会を全て潰してしまっていた」
「真の敵って、また大袈裟だね……」
「いや、大袈裟じゃねぇ。考えてみてくれ。あいつらが1位になった時の罰ゲームを……」
少し考えてみる。犠牲者が出そうな罰ゲームだって言っていたような気もする。
確かに普段恐ろしいと言っていた事もあるし、あのメンバーが嘘をつく事も無いだろう。
たらいを落としたりと日常的な時でもしてるのに、それが罰ゲームともなればきっと物凄いレベルのものだろう。……不登校にならないければいいけど。
前原君なんてずっと一緒にいるんだから、4人の恐ろしさをもっとよく知っているはずだろう。
危険視しているのも頷ける。
「だから頼む! お前が1位になって俺を救ってくれ!!」
懇願される形になってしまった。
前原君は僕が1位になって、軽い罰ゲームを考えて欲しいと言いたいのか。
困っているからの頼み、か。答えはもう決まっているけど。
「わかったよ、まぁこのままやられっぱなしも癪だからね」
どうせこのままやっても前原君がやられるのを見ているだけだ。
それも嫌だし、こちらとしては園崎さんたちの優位性を覆すチャンスだ。
面白いかもしれない、みんなにとっても。
後は、先ほどの恩返し的な意味も含まれている。勉強会に誘ってくれて、フレンドリーな対応をしてくれた。その期待に応えるなら今だと思ったのだ。
「で、どうするの? 具体的な作戦とかは?」
「方法はな――――」
懇切丁寧に説明してくれた。本当にさっき考えたのかと思うぐらい、練られた計画だと舌を巻きそうになる。
長い間喋っていたので、そろそろ園崎さんが顔を覗かせに来るかもしれないという危惧も存在していたが来ることはなかった。これが余裕ってやつなのだろう。
まぁ、もしかしたら自分が思っていたよりも時間は進んでいなかったのかもしれない。
「――――という訳だ。どうだ? 完璧だろ?」
「完璧もなにもそれって僕達も反則行為に走るって事だよね……。それにその方法が成功しているとしても、上手く行くかどうか」
「上手く行く。俺の手腕とお前の運。この2つが揃えば最強だ! 少なくともカードを知っているというハンデは克服出来る」
それでも勝てるという保障は無い。
まぁでも相手も反則行為はしているわけだし、自分達だって反則したところでぐうの音は出ないことだろう。
「まぁ……やれるだけやってみるよ」
「へへ! そうこなくっちゃな!!」
お互い笑顔で、熱い握手をもう一度交わす。
こうして男2人だけの協同接戦が始まった。
二人の共同戦線が始まった。
ここから巻き返しなるか……?
……というわけで昨日は更新できずに申し訳ありませんでした。
これからもゆるゆると更新していきたいので、よろしくお願いします!
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