「……前原君、指示は?」
「……ぐっ、おかしいぞ。おい……」
口元でぼそぼそと会話をしているのだが、正直会話をせずとも表情で理解出来る。
先程から何も指示が無いことと、焦りを見せている前原君。
何が起きているというのか。
「あらぁ? 孝介さん何をしていますの? 早く致しまして?」
「あ、う、うん……」
北条さんの催促で僕は適当にカードを引いた。
スペードの2。これは僕が求めているカードではない。
「ほら? 次は圭一君の番だよ」
「あ、あぁ……」
前原君も促されるままにカードを引こうとしている。
何かがおかしい、それは2人とも肌で感じていること。
しかし、どうしてか、どうすればいいのか分からないまま、ただ時間を浪費しているのだ。
前原君は苦虫をかみつぶしたように顔を歪めている。
そして仕方なくカードを引き抜こうとした、その時だった。
「あははははは!」
園崎さんが堪えきれんとばかりに笑い出した。
本当に唐突で、正直肩がビクッと震えてしまうほど。
それでも園崎さんは机を何度もたたきながら、大爆笑をしていた。
「ど、どうしたんだよ魅音……?」
「あっはっは! 圭ちゃんがまさか一位を譲るなんて、らしくないねぇ!!」
「ちょっと……! 魅音さん、まだ作戦の途中でしてよ!?」
「え、作戦?」
その言葉には嫌な意味でしかくみ取れない気がする。
「そうだよ。あんた達はまんまと私達の手のひらで躍らされていたのさ」
「お、お前らまさか…!」
「…………ボク達、みーんな圭一の作戦には気づいていたのです」
「な、何だとー!?」
「ごめんね圭ちゃん。最後まで黙っていてあげようと思ったんだけどねぇ。やっぱりおっさんにはダンマリはちと辛かったよ」
園崎さんは誰も期待していない自分たちの作戦の内容を得意げに語りだした。
まず前原君が僕と2人で抜け出した時、まず何かしでかすとは大胆想像ついたらしい。
考えられたのはカードの細工。カードに新たな傷をつけて相手を撹乱させるというもの。しかしこれは前原君1人で出来るため、僕を連れていく意味がない。
更に罰ゲームが確定していたあの状況では今から行っても蛇足にしか過ぎないのだ。
……となれば、僕を連れ出した理由は一つ。
「2人協力し合うって事だってね」
「まさか、すでにばれていたとはね……」
共同戦線についてはその通りだ。異論する余地がない。
そしてそれが分かったという事ともう1つ。聞きたい事があった。
「もしかして手札をそろえていた方法についても知っていたのかな……?」
「うん! ちゃんと分かっていたよ!」
「なんだと!? 俺が考えた方法がばれていただとー!?」
「をーほっほっほ! 圭一さんの考える事なんて水たまりの底ぐらいしか深さがありませんわー!」
「圭ちゃんの事だからねぇ。どうせ私が孝ちゃんの手札を取っている間にこっそり見てたんでしょう? ”孝ちゃんの手札を”」
僕の有り余る手札を指差す得意げな園崎さん。まさかここまで言い当てられてしまうとは、悲しいものだ。
こんな短時間でカードを暗記する事なんて出来ない。覚えても十数枚だろう。
それが最初に考えられた自分たちの考察。
そう判断した僕らは2人でカンニングをする事で勝ちを取りにいった。
僕達の席は運命なのか、それとも必然だったのか隣、しかも横隣りだ。
それに対して園崎さんは隣といっても僕から見れば斜め45度に位置している。
その配置を利用しない手はない。前原君はそれでひらめいたらしい。
まず僕達の場所を交換する。逆になったポジションで開始し、僕が園崎さんに手札を抜かれる時に前原君は僕の手札の中身を盗み見るのだ。
そして前原君自身の手札に、僕が持っている手札と同じカードがないかをチェックする。
あればそれを僕が取れるように目線を使い、教える。誰にも悟られないように、いかにも自然といった感じで。
それが僕達の作戦だった。前原君のばれないように僕に教える技量、僕のカードを引き寄せる今日の強運。
この2つを使って勝つつもりだったんだけど……。
「全部ばれていたって訳か……」
「そうですわ。全てが演出。みんな分かってて、最後まで泳がせていただけですわ」
「そ、そうなのか……」
結局はみんなの手のひらで弄ばれていただけなのだ。
前原君も小さく呻きながらも、竜宮さんの2枚の手札から左側のカードを抜く。
だが手札を切れずにさらに渋い顔に変わっていく。
「まぁ唯一の違いは圭一君じゃなくて、孝介君が1位になるって事かな? ……かな?」
「そうだねぇ。まさか圭ちゃんが1位を譲るとはねぇ。ま、最後はみんなで手札の操作を行ったぐらいだからたいしたものだよ」
僕は愛想笑いでその場をごまかしたが、本当の事を言うとそれもちゃんとした作戦の1つだった。
前原君曰く、こういった事をすればまず自分が疑われるだろうとの事。その心理を利用してやろうとの事だった。確かにそこは上手く騙せていたようだ。
だから今まで泳がせていた、とも取れるだろうけど。
「……会則一条で、狙うのは1位のみなのです。圭一はいけない子猫さんなのです」
「まぁ、圭一さん達には何も言っていませんでしたし、仕方がありませんけどね。それに勝負はもう決まってしまったのですわー」
北条さんがもう試合終了の宣告を挙げた、という事は何かしらの根拠があるというもの。
カードを見えていれば試合の展開も分かってしまう。奇跡はもうない。
だからこそ前原君は言わずにはいられなかったようだ。
「ま、まだ勝負が終わった訳じゃねぇ!! 確かに魅音は残り2枚で梨花ちゃんに取られたら、手札1枚のリーチ状態だ! しかし、それはレナも一緒の条件。順番から言えば次はレナが引く番だし、沙都子の手札にはまだ3つのカードがある! レナが1位になれば、2勝した3人の優勝決定戦が始まるだろ! まだ孝介にもチャンスが――――」
「はぅ……ごめんね圭一君。私には無理なんだよ……」
竜宮さんの少し辛そうな顔は自身も勝ちたいという欲求は存在していたのだろう。
だからこそ、辛い真実の内容を僕は聞く。
「手札に同じヤツがないんだね」
「うん。ごめんね、圭一君……」
愕然としている前原君は固めたこぶしを机に叩きつけてその悔しさを表していた。
「ちくしょう! レナはあがれないのか……!」
「圭一さんもよっぽど運に見放された存在のようですわー」
「な……何でそうなるんだよ!?」
「くっくっく……圭ちゃん。さっきレナから取ったカードって、スペードのQだよね?」
「あ? ……あぁそうだ」
「実はね。沙都子の手札にQがあったんだよ。残念な事にね」
北条さんはそれを証明するためなのか、手のひらを返すかのように自分の手札を公開してみせた。
「1と9とQ……」
「そうなんだ。ちなみに今レナの手札に残っているのは3。どうしても揃えられないんだよ…………」
「じゃ、じゃあ! 俺は自らチャンスを潰してしまったのかぁあぁあぁあ!!」
屈辱。自分の手で勝利という可能性を消してしまったことに、しばらくの間、自分を戒めてしまう事だろう。なんと恐ろしい――――
「…………それだけではないのですよ?」
その台詞は僕の方を向いて言われた。
「え? …………僕かな?」
「孝ちゃん、さっき引いたのって……これと同じヤツだよね?」
2枚ともカードを見せてくれる。園崎さんの手札は2と4。1枚だけあるというのならまだしも、両方とも僕の手札には存在している。つまり僕に勝利などないと教えてくれたのと同じだった。
「つまり梨花ちゃんがどっちを引いても、園崎さんは残る1枚であがれる。俺達に勝ち目はないって事か…………」
「さっきまでの運の良さの分、今は運が悪くなったって事だね……」
前原君と顔を合わせて事の結末がどう転ぶか理解してしまったという絶望を感じ取る。
こうしてこのトランプ勝負は園崎さんの優勝という事で幕を閉じたのだった。
この部活、いじめがあって怖い……
4人でグルになって手札操作って……
まぁ、これが部活のメンバーなんだろうな。そんな気がした。
そして今日は自分の誕生日だー! いえーい!