「ま、待てよ魅音!? そいつは……いくらなんでも無理があるだろ!」
罰ゲームは最初に取り決められた通り、優勝者となった園崎さんの案で行われたのだが……とてもというには語弊があるのかもしれないけど、酷な内容ではあった。
青ざめながら後ずさる前原君とニヤニヤとしながら近づく園崎さん。
姫様をいじめる悪代官を見ているみたいだ。今は悪代官をいじめる姫様になってるけど……。
園崎さんの手にはどこから仕入れてきたのだろうか、詳細不明のメイド服。
ロッカーから取り出してきたときには本当に四次元まで続いているのではと思ってしまったぐらいだ。……フリルがついているし、可愛らしい衣装とだけ言っておこう。
それを誰に着けてもらうか、この状況下で聞くのは愚問に等しい。
壁際まで追い詰められた前原君は小動物のように震わせていた。
「み、魅音! 最初なんだから優しい罰ゲームにしてくれ! それはハード過ぎる!!」
「なーに甘い事言っているの、圭ちゃん? このまま部員として認められなくなってもいいの?」
「それは確かに嫌なんだが、それを認めるのも嫌だぁあぁあ!」
「け、けけ圭一君がメイド服……。はぅ~! お~持ち帰りぃ~!!!」
「竜宮さんちょっと血が出てるって、ほらティッシュ!」
テンションが最高潮に達しているのか、体をくねらせながら前原君に対する妄想で楽しんでいた。
僕のポケットティッシュを受け取って鼻をかむ竜宮さんは何枚もティッシュを消費していた。
竜宮さんはおしとやかなイメージだったけど、これは意外というか、部活メンバーとしてほっとしたというべきか……。
「そういえば孝介さんは初めてですわね……」
「初めてって……竜宮さんのこの…………状態の事?」
「えぇ。レナさんがこうなると誰にも止められませんわ」
「はあぁぅううう!!」
うん、出血多量で倒れないことを祈ります。ティッシュもうないし。
「……かぁいいモードなのです」
「か、かぁいい…………?」
「そうですわ」
「……」
今のどこにかぁいい要素が存在するのだろうか。人の感性とは十人十色とは思うが、それとはまた違う性癖な気がする。
だからこそなんか……こう、言葉で言い表せない驚きというかショックがある。
「お前ら! 仲良く会話している暇があるなら俺を助けろ!」
「あ~ら圭一さん? 何で私達が助けなければならないのですか?」
「レナが俺に対して変な妄想を、」
「へ、変な妄想じゃないよ~!」
『すぱぱーん!!』
刹那とはまさにこの事を言うのだろうとコンマ数秒後に思い知らされた。
気づけば前原君が吹っ飛び、その後に衝撃音が教室に響き渡る。
前原君自身がヘッドスライディングでもしたのか。しかしそれは頬に見えた大きな赤い手形が存在していたことから否定される。
というより前原君はピクリとも動いていない。大丈夫だろうか。
「あははは……。そういえば圭ちゃんは初めてだったね」
園崎さんが困惑していた、流石にこの展開までは予想出来ていなかったようで……。
おおよその流れは理解できるけど、とりあえず聞いておく方が得策だろう。
……今後のためにも。
「は、初めてって?」
「かぁいいモードのレナのパンチ……なのかはよく分からないけど今はそう呼んでいるんだ。今日はまだ甘い方だよ」
どうやらまだパンチかどうか判断出来ていないらしい。平手打ちかもしれないし、断定は難しいのだろう。というより音が遅れてやってくるって。それってつまり音速、いや光速を超えたという事なのだろうか。今の竜宮さんならプロのボクサーでも一瞬で葬れそうな気がする。
「ま、まぁ今の間に圭ちゃんの罰ゲームを執行しようかねぇ」
「じゃあ私もお手伝い致しますわ」
「罰ゲームって…………え!? 今ここで?」
「そうだよ。とりあえず上から着替えさせようか」
園崎さんは何の恥じらいもなく、前原君のボタンに手を掛けた。
そこからゆっくりと脱がしにかかっている。
「い、いや! ちょ、ちょっと僕トイレに行ってくるね!」
とりあえず落ち着きたかった僕はそんな理由を述べて飛び出した気がする。
廊下に出て扉を閉めた僕は大きくため息をついていた。
「何であの人達脱がす事に躊躇いを感じないの……?」
やっぱりあの人達と上手く付き合うのは難しそう。そう感じてしまってもおかしくないはずだ。僕の感性がおかしいということはないだろう。
向こう側ではまだ盛り上がっているようで笑い声がよく聞こえる。出来るならお着替えが終わってから教室に入りたい。
となると、どこかでしばらく時間を潰す必要がありそうだ。
「……トイレ行こう」
口に出したせいなのか、少しだけそんな気持ちになった。
トイレに行っている間に、罰ゲームも終わっているだろうし。
そう思って歩きだそうとしたのだが、2、3歩ですぐに立ち止まってしまった。
そう、重要な事に気づいたのだ。
「トイレってどこだ?」
そう言えば場所の確認をしていなかった。
まぁ、その辺をうろつけばすぐに――――
「……みぃ」
「あ、古手さん」
古手さんがこちらを下から覗きこむ形で僕を見つめてきていた。
僕の袖をきゅっと握りしめ、引っ張ることから、何かを求めていることは明白だ。
「一体どうしたの?」
「…………どこに行くのですか?」
「え、あぁ。ちょっとトイレに行こうと思ってね」
「……ならボクも行きたいのですよ」
「そうなの? なら場所教えてくれない?」
「……いいのですよ、にぱ~☆」
ニッコリと笑って先導してくれた。ありがたいと思いながら先導してくれる方向は玄関口だ。
校舎には無くて、外にあるのだろうか。
そのことを疑問に思いつつ後ろ姿を追っていく。
「……うん。ここどこ?」
見渡せば菜園がある。倉庫裏という事もあって人の気配も無い。
古手さんが立ち止まった所がここなのだ。当然トイレなんて存在していない。
彼女は振り返って首をかしげるとさも当たり前のように答えてくれた。
「……カレー菜園なのですよ」
「カレー菜園?」
「そうなのです。ジャガイモやニンジンなどカレーの具材を育てているのです」
「それって知恵先生だけが喜ぶ菜園だね……」
しかも話を聞くと、生徒が担う水やり当番制もあるらしい。自分の目的のために子供達を利用するとは流石カレー信者というべきなのだろうか。
しかしここまで行くといかがなものか……じゃなくて、
「で、トイレは?」
「……みぃ?」
「いや、そんな不思議そうに首を傾げられても困るよ」
「……」
だからって見つめられても……。
何も言ってくれないのでどうしようか困っていた時だった。
断末魔が響き渡った。どうやら前原君が現実という悪夢を見てしまったらしい。
まぁ、これで戻っても大丈夫だろう。
時間つぶしにはなったと、仕方なしに話を再開させる。
「前原君、気がついたようだね。トイレには行けなかったけど戻ろうか」
「…………待って欲しいのです」
古手さんが僕の行く道を塞いできた。
「……篠原、話があるのです」
「ん、どうしたの?」
「……」
また何も言わないが、思慮している無言なのだろうか。
こんな所に連れて来たのももしかしたら彼女にとって聞きたいことがあったから……なのか。
とにかく黙られては先に進めないので、催促をしてみる。
「僕に話って何?」
古手さんの質問は至ってシンプルな質問だった。
「…………どこから、来たのですか?」
「へ?」
古手さんの表情から、もっと真剣な話だと思っていたので素っ頓狂な声を上げた。
つまり僕がどこ出身か聞きたいって事だろう。でもそれを聞いてどうしたいのか、そもそも今ここで聞くべきなのか、僕には分からない。
嘘をつく必要性もないしありのままの状況を話す。
「自己紹介の時、言ったと思うんだけど聞いていなかったのかな? 僕は〇〇県出身だよ」
「……質問を変えるのです」
「え? うん」
「どうやって雛見沢に来たのですか?」
「どうやってって……」
引っ越しでの移動手段を聞いて古手さんに何かしらの得があるのだろうか。
「車だよ。道路を使って約2時間」
「……本当にそうなのですか?」
「あははは。これに嘘つく理由がないくらいだよ」
「……」
「あ、えっと……何かゴメン」
どうしてか謝らないといけないような気がした。古手さんは別の答えを期待していたようで、少し落胆の色を見せていたからだ。
だが……古手さんはどんな答えを期待していたのだろうか。僕にはそれが分からない。
次見せた古手さんの顔はいつも通りの笑顔だった。
「……ごめんなさいなのです。ボクの気のせいなのですよ。にぱ~☆」
そう言って前原君たちの場所に戻ろうとする。
僕は何も言えず、結局それで二人の話し合いはお開きとなった。
よし、これで第二章終了! 次からは第三章……の前に何かしらが入るよ☆