◆相談
「古手さんって不思議な子だなぁ……」
新たに出来た友達、そして家族と離れて部屋の中、ようやく一人になると自然にそんな言葉が漏れていた。
『ありえない』
『どうやってここに来たのですか?』
『ボクの勘違いなのですよ』
古手さんが発していた言葉が、脳裏でぐるぐると回る。
仰向けに転がった僕は、家の天井を……その先をずっと見ていた。
古手さんは何かを僕に期待しているのだろうか。それとも何かを知りたいのか……。僕に関係することで、だからあんな質問をしたんだろう。でもあれに深い意味があるのだろうか。転校する前の状況なんて彼女にとって必要でもないはず。
古手さんの目的、それが分からない。
「て何考えてるんだろ……僕」
こんな事考えようとすることは古手さんを少し疑っている心があるという証拠だ。
せっかく接してくれようとしている友達に対して、いきなりこんな事情を知ろうとするなんて。
……違う。そうじゃない、このもやもやはそんな意味じゃない。
不安だ。……今後友達を信じていけるかどうかといった、不安。
でも、どうして?
友達がいなかったから……違う。
僕が小心者だから……違う。
もっと、もっと違う何かが……。
いくつも並べられる疑念の連鎖。
急に胃が締め付けられるような感覚が僕を襲い、お腹をさすりながら呻いていた。
古手さんに対して疑る気持ち、そして知りたいという正直な気持ち、でもそれは早急すぎるという自分を抑制する気持ち。そして……先ほどの不安。
そんなものが一つに混ざって、声にならない言葉が派生されていた。
「……どうしたの、孝介?」
いつからそうしていたのだろうか。
とりあえず落ち着きを取り戻して見れば、驚き不安そうに眉を潜めている母さんの姿がいた。
どうやら母さんに先ほどの呻き声を聞かれてしまったらしい。
「ご、ごめん。変なところ見せてしまったかな……?」
「一体どうしたのよ、何か悩み事?」
クスッと笑い、僕の隣に座り込んできて優しい声で聞いてきた。
僕も座りなおしてその胸中を話そうと考えた。
「悩み事というか……ただ今考えていることに対して不安を感じてしまったからさ」
「何に? 私に話せる内容?」
「友達の事で……ね」
僕は今日あった出来事を語り始めた。そして……最後に感じた不安も。
自分の思った事も含めて、言葉少ないながらも語る。
母さんは時おり僕の話に軽い相槌を打ちつつも、基本は黙って聞いてくれた。
そして一通り聞いた母さんは僕と同じく、やはり最後の不安の部分について助言をしてくれた。
「大丈夫よ。あなたが心配するような人たちじゃない。きっと信じてくれるわ」
「よく言うよ。母さん、別にその人たちに会ったわけじゃないのに」
「分かるわよ。話を聞くだけでどれだけ孝介を想ってくれているか、分かるもん」
「そうかなぁ……」
「でも、確かに変な子ね、古手さんって子。何でそんな質問をわざわざ人気のない場所で言ったのかしら?」
「さぁ、僕にも分からない。一体何の目的があってそんな事言ったのかなぁ」
「……」
窓の外では僕達の静けさを打ち破るようにひぐらしが鳴いている。
それがもの悲しさを感じるな、そんな事を感じていた時だった。
「……でも母さん嬉しいわ」
いきなり母さんがそんな事言い出した。
「え、何が?」
「くすくす。いやね、あなたがこんな風に相談してくれたのが、あまりにも久しぶりだから」
「そう……かな? 二ヶ月前にも友達との喧嘩で相談したと思うけど」
くすくすと母さんが人をおちょくる際に癖でそんな笑い方をするが、今回は何故笑うかがよく分からなかった。
あの時は貸していた本を友達が無くしてしまったというモノだし、僕が殆ど愚痴っていただけだ。
そもそも相談することに対して、何か嬉しいことでもあるのか。
そんな疑問はよそにおかれ、母さんは思い出したように「あぁ、あの時ね」と苦笑いしていた。
「たった二か月前の出来事を忘れてるなんて、母さんももう歳なんじゃないの?」
「あら、そんな事言うと明日は孝介の嫌いなカキフライになるわよ?」
「すいませんでした」
つい部活のノリで言ってみたのだが、まだまだ母さんには口で勝てない。
いつか言葉で勝てる時なんてあるのだろうか……。
「くすくす。部屋に入る時の顔を見た時はかなり深刻そうな話だと思ってたんだけど、今の様子から見れば安心ね」
「うん。母さんと話てたら、気が楽になったよ。これから仲良くなれればいいなぁ。みんながもっと積極的に関わってもらえるように願っているよ」
「なら、古手さんともこれからも仲良くしないと。せっかく出来たお友達なんだから」
「うん、ありがとう母さん。母さんに相談して本当に良かったよ」
「こんなんで良かったなら。……じゃあ寝るわ、お休み」
その時母さんは嬉しいような、悲しいような微妙な笑顔を見せていた。
「うん、お休み」
明日に備えて、僕も部屋の電気を消した。
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◆忘れられた日記【?】
もう嫌だ。こんな毎日を過ごすなんて、もう耐えられない。
今日は腹を蹴られた、今もズキズキする。もしかしたら胃を痛めてしまったのかもしれない。
顔を見たくないというのなら、顔を見なければいいじゃないか。何でこっちに被害を……。
明日も登校中に殴られるのだろうか、そうなのか。そんな恐怖さえ、頭の中でグルグルと渦巻いて……。
親はいない、今日もいない。先生に相談しても鼻で笑うだけ。何たって証拠がないのだ。
それに、自分があまり積極的にしゃべれないのが原因だ。本当ならもっと早くに言うべきだっ た……!
……いやそもそも何でこんな目に合わないといけないんだ。
どうして……こんなに、苦しいんだ……ぐぅ、胸まで苦しい、喉は潰れそうだ。
違う、そんな話じゃない。そうだ、自分が悪いわけがない。どう考えても加害者が悪いんだ。
そうだ、そうにきまってる!
いつからだ。こんな毎日に変わってしまったのは。本当にこれが望んでいた環境だと言うのか。
違う。違う、違う! そんな事なんてない……絶対に望んでいたのはもっと穏やかで、静かな……それだけだ。
いつも通りの生活……
いつも通りの日常……
何もおかしな事は無かったはず。何も間違ったことなんてしていなかったはず
なのに……変わってしまった。自分にとって不都合でしかない、この状況。
これからももっと悪化してしまうというのだろうか。
嫌だ、いやいやいやいやいや!!
もう自分を抑えるのだって辛い、苦しい。この状況を打破するにはどうしたらいい?
そうだ、考えろ。自分が原因ではないはず……となると周りの誰かがこの事態を起こしたんだ。
誰だ? 一体誰がこんな事をしてきたというんだ。
何故こうなったのか、こうなった理由だ。それをちゃんと考えないと。
両親の周り……違う、近所の近く……違う。
裏切った友達……違う。
もっとだ、もっと根底に潜んでいた悪魔を見つけ出さないと、この負の連鎖は終わらない。
もっとだ、もっと考えろ……
『ここから先は破られている。続きと思われる日記をここに記述しておく』
……そうだ
あいつだ
あいつのせいで全てが変わったんだ
あいつが…………したせい……
だから俺が、犠牲になったんだ。
あの野郎……人に苦しい思いをさせやがって
何を、したってんだ
ぶっこわしてやりたい
あい つを にくんでやる す べてを こわし やがって
憎 い 憎い憎 い憎 いにくい憎 い憎いにくい 憎い憎 い憎いにくい憎 い憎い憎 い………
(その後は黒く塗り潰されて解読不可)
これは一種の余談的な感覚で見てもらいたいです。
■……物語の内容
◆……物語の真実を見極めるための???