少女は必死に正解の道を探した。
探す途中で変わった百本の道。
少女は挫(くじ)けずに本当の道を探した。
なおも変わる百本の道。
少女は諦めて原因の道を探した。
そこに見えるは百本の道。
少女は泣きながら真実の道を探す。
Frederica Bernkastel
ガタンっ!!
「……ん?」
「おっ? 起きたか、孝介」
目を開けて早々、そんな声が聞こえる。
この声は――――父さんの声だ。15年間ずっと聞いてきた低く、でも包容するかのような優しい声。
今更間違いようがないその声は僕を呼び続けていた。そういえば車の中で居眠りをしたんだっけ。
その時、もう一度体が浮くような衝撃が訪れた。どうやら何か踏んだようだ。それで車が跳ね、その反動から自分は目が覚めてしまった。
簡潔に状況を説明するとこうだろう。
……しかし固い椅子の特典、尻が痛くなることを忘れていた。やはり長いこと寝るべきではないなぁ。とにかく頭を働せることが第一だ。
髪の毛を掻きむしっていると、父さんが運転しながら目だけをこちらに向けてきた。
「もうすぐで新しい家に着くからな」
「新しい家……?」
「そうだ」
新しい家と言われてもピンとこない。今僕どこにいるのか?
まだはっきりとしない頭を動かした僕は車の外の景色を見やる。ふと近くに見えた看板にこう書かれていた。
「ひなみ、ざわ……?」
「何だ? 初めて聞くような口調だな。行く前に言ってただろ?」
「……。あぁ……、そういえば」
引っ越しが決まった食卓での会話中、そのような単語を聞いた気がする。自然が多い場所、みんな明るい人たちで、少し田舎であるということも。
だけど……目の前に広がるのは僕の想像していた田舎とは大きく違った。
改めて周りの景色を見て確認してみる。家は疎(まば)ら、商店街や店舗も見えない。見える限り、畑の方が多数を占めている。寝る前の都会とは一転、「ど」が似合いそうな程の田舎っぷりだ。
先程跳ねたのもまともに整備されていない道路のせいなのだろうな。
僕はその気持ちを隠そうとせず、不満を伝えた。
「思った以上に田舎だね……」
「そうか? ここでの生活も悪くないと思うぞ」
「えぇ……」
不便そうなこの場所のどこに良さがあるのか。確かに悪くないのかもしれないけど、良さもないように思える。ただ、もうここに住むことになったし、住めば都。決まったことにグダグダ愚痴るのも……。
曖昧な返事しか出来なかった僕に、父さんとは別の声が助け舟を出してくれた。
「でも貴方、いくらなんでもここはあまりにも田舎過ぎない?」
そう助手席から自分の身を案じてくれるのは母さんだ。活発で行動派の父とは違い、僕から見ても大人しく、ロングの髪も相まって昔は『大和撫子』なんて呼ばれていたようだ。あくまで自称だけど。
でもそんな母さんが苦言を呈するのだから、この村はよっぽどということなのだろう。
「いやいや、十分だろう。ここだって十分都会だって言えるぞ!」
「たとえば?」
「山菜がうまい! 米がうまい! 空気がうまい!」
「それ、田舎の良いとこベスト10に入る内容なんだけど……」
他には近所の繋がりが強いとか。きっと言い出したらそんなのが出てきそうだ。
「孝介の事もあるし、もっと街に近くても良かったんじゃない?」
「何言っているんだ? ここは転勤先も近いし、何より一戸建てが買えたんだぞ。お前だってここを紹介してくれた時に言ってたじゃないか。『早く一戸建てが欲しい』って」
「でも、孝介にとって良くないんじゃないかしら……?」
母さんが何かを訴えるような表情で見てきた。何を言いたいのかは大体想像出来た。
「大丈夫だよ。同級生もいるだろうし、上手く作るよ」
「なんだなんだ。友達作りで悩んでいるのか? もし悩んでるなら――――」
「あーはいはい。ここなら上手く作れるから大丈夫だって」
悩んでいるなら友達に相談、なんて言うのが目に見える。
だからそんな必要ないことを説明したというのに、父さんは不思議そうな顔を見せてきたのだった。
「ここならと言われると、前がダメだったみたいに聞こえるな」
「え……? あぁ、ごめん。そんなことないから」
確かに、今の言い方だと引っ越す前に問題でもあったかのようだ。
一応こういう場所だったら繋がりは大切になるだろうし、相手もきっと優しくしてくれるだろうという意味で言ったつもりだったけど、誤解されてしまった。
あまり考えずに喋っていたのもある。起きたてだからかもしれない。
「それよりあなた、そこ右よ」
「え? あ、本当だ」
父さんは運転よりもこちらの反応に意識が向いていたようだ。母さんに言われて思い出したかのようにハンドルを切る姿は一瞬だけひやりとする。
こういう狭い道だと、田んぼに突っ込んでしまうことなんてよくありそうだ。大けがだってありうる。引っ越し初日に入院生活……うん、全く笑えない。
そう考えたとき、不意に胸の周りが気になった。しこりというべきか、何か違和感を覚えてしまう。手で触ってみる。何もないことが少しだけ不安に思ってしまった。
「全くしっかりしてよ? こんな所で事故とかしたら早速近所から後ろ指さされるんだから……」
「登校初日から話のネタが出来ると思えばいいんだって」
「そんなの必要ないから。ね? 孝介?」
「あ、うん」
急に呼ばて適当な相槌。正直聞いてなった。それでも母さんは満足ぎみに頷いていた。
うーん。さっき何を不安に感じていたのだろう。何だかうやむやになった様な気もするが……まぁいいや。大切なことなら思い出すはず。きっと自分の考え過ぎだろう。
もしかしたらまだ頭が働いていない部分があるのかもしれない。そう思いながら僕は欠伸をしていた。