「あはは。圭一君! 何してるの?」
「レ、レナ……」
「ごめんね待たせちゃって。もう十分堪能出来たし、帰ろうか!」
手に掴みきれないほどのがらく……かぁいい物を抱え、状況を知る由もない竜宮さんは気さくに話しかけてきた。表情は明るく、今日の収穫が多かったことが窺える。
「お、おう……」
それに対して、前原君は富竹さんの言葉からいつもの元気がない。完全に先ほどの言葉で吸い取られてしまったようだ。
2人の表情は対極。喜びと綻びが生じた違いを僕に見せつけた。
今の僕は、どんな表情をしているんだろう……。
「あれ? レナちゃんかい? 通りでさっき見た女の子がかわいいと思った訳だ」
「あ、富竹さん。こんにちは!」
「こんにちは」
「え? 2人は知り合いなんですか?」
「うん。富竹さんは毎年この時期になったら来てくれるかな!」
竜宮さんがそう言いながら、富竹さんに笑顔を向ける。
2人の関係はそれだけでも良好なものと受け取れる。
これからも話をしたい、そんな雰囲気を漂わせる2人だがあいにく太陽は沈みかけ、すでに夜の帳が下りようと準備を始めている時間だ。
そろそろここを出ないと、時間的にも厳しいことだろう。
「さて、そろそろ僕も帰らないと。鳥達もいなくなった訳だし」
「そうですね……」
真意を聞いておきたいところなのだが、今は聞けない。それは隣の前原君の表情を見るだけで判断出来た。
富竹さんはカメラを腰に付けた小バックの中に詰め込み始める。
「あぁ、最後に。君のナース服かなり似合っていると思うよ。しっかり写真に収めさせて貰ったからね」
「それは今すぐ消してください!!」
そう言えば僕の服は人前で見せられるモノじゃなかったのだ。今すぐそのカメラを渡して貰わないと困った事態に。
だが、既に小バックに入れられたカメラを奪い取ることは出来ない。
……そもそももうこれを取り返したところで今日出会った人のフィルムを奪い去ることが出来ないのは変わらないのだが。
「ははは! 今度はメイド服で頼むよ」
「嫌に決まってるじゃないですか!!」
「それじゃ、またね」
先程の真剣さとは一転しておどけた口調でそう言うと、僕の制止を待たずに去っていった。
愕然としている僕はいいとして、竜宮さんはようやく前原君の表情を気にしたようだ。
「どうしたのかな? 圭一君何か考えていない?」
顔を覗き込む竜宮さんを避けるかのように、前原君はこちらを見てきた。
「いや、孝介と話し込んでた内容がちょっとな」
「それってもしかして私のことかな、かな?」
「そんな事じゃないさ。それよりもレナは宝、探せたのか?」
「うん! ケンタくん人形!」
嬉しそうに手を振り回す彼女に、僕は正直な疑問をぶつけた。
「覚えてる限りではフライドチキンで有名なお店の前に置いてるおじさん……だよね」
「うん☆ はぅ……思い出すだけでお持ち帰りしたぃよぅ!!」
あのおじさんがどう見たらかわいいのか。彼女のかぁいい琴線がどこに存在するのか全く分からない。
そもそも、ケンタくん人形なんてこんな場所に放置される理由が分からない。
前原君はその疑問については考えず、竜宮さんの要望についてを考えていた。
「別に捨てられてしまった物なんだ。持って帰っても誰も怒らないぜ?」
「うぅ……それが出来ないんだ。色んなものが下敷きになってて……灯りが無いし暗くて危ないから」
確かに足場の悪いここで作業するには危険が高い。
なるほど、そう判断したからここまで戻ってきたのか。
「やっぱり明日しかないんだ……」
竜宮さんは仕方ないと自分に言い聞かせているようで、その顔ではあっさりと諦めろと言いづらい。
どうやって言えば竜宮さんに伝えられるかなぁ、そう悩んでいる僕を置いて前原君の判断は早かった。
「なら明日また来ようぜ。3人で手伝えばあっという間に作業出来るさ」
「えっ……? いいのかな? かな?」
「う、うん。竜宮さんの困り事だもん」
「それに上手い弁当を作ってくれた件もあるからな。その恩返しだ」
前原君と顔を合わせて笑う。歯を出して見せる晴れやかな笑顔に、前原君も先ほどの憂鬱な気持ちは晴れたのかと思えた。
その前に僕と同じ考えを持っていたことも喜ばしい。
困っている竜宮さんを恩返しという形で上手く協力しようとする形は見事としか言いようがなかった。
当の本人も両手を上に突き上げて嬉しそうに笑っていた。
「ありがとうね! 2人とも!」
「じゃあ放課後にまた3人で来ようか」
「うん!」
竜宮さんのバックでお花畑が咲いている。口ぐちに語られる内容はお花畑とは程遠い不良品だけど。
「……レナ、1つ質問いいか?」
「まめでんきゅ~……はぅ? 何かな。圭一君?」
「いや確認したいことなんだけど」
もしかして……僕の予想が正しければ彼が聞こうとしていることは1つしかない。
前原君はこの場が雰囲気がよくなるのを待っていたのだろう。
そうした方が事件の可能性がない場合は冗談という形で済ませられるから。
そして……相手は簡単に口にしやすい状況になりやすいから。
出来れば僕の……いや僕達の思い違いか聞き間違いであって欲しい。
こんな優しい雛見沢にそんな物騒な事件があったなんて信じたくなかったから。
今でも思い出せるあの言葉。
『確かまだ右腕が見つかってないんだろう?』
あれがもし本当なら……。
「どうしたの?」
前原君は気まずくなってしまう事を覚悟したうえで、聞く。
「レナ、ここら辺って……」
「あれ、まだ言ってなかったかな? ダムの工事現場なんだ。今は跡地になってお宝の山になってるんだよ! はぅ……思い出すだけでお持ち帰りしたいよぅ~」
また嬉しくなったのだろう。
僕達の質問に夢心地といった感じで答えてくれた。
なるほど。やっぱり予想通り、工事現場の跡地だったのか。だから、こんなにも不法投棄が増えてしまったのだろう。
しかしダムを建築しようとしたとは、またまた大規模な事を考えたものだ。
求めている内容が違う前原君は、再び重い口を開く。
「レナ。このダム工事現場で何か……例えば事故、起きなかったか?」
「知らない」
いつもの温厚な竜宮さんと違い、冷たく、拒絶するような言葉。
先程の明るさもその一言によって霧散し、お花畑は蜃気楼のよう消えた。
次に残ったのは目を細め、己の感情を殺し、ただ冷酷に努めようとする彼女の姿だった。
その眼光は喉元にナイフを突きつけられたような感覚。何も言わせない。そんな気持ちにさせられた。
背筋が凍る思い、というのを始めて味わった。これほどまでに恐ろしく……そして悲しいものなのか。
寝床へと帰ってしまったのか、鳥やひぐらしが鳴いていないことが、今は辛い。
「レ、レナ……?」
「ゴメンね。私も実は去年引っ越して昔の事件とか知らないんだ」
瞬きした瞬間、彼女はいつもの朗らかな顔を見せてくれた。明るい雰囲気も戻っていて、先ほどの姿は僕の作り出した虚像だったのではないかと錯覚しそうだ。
「あ、そうなの? てっきり昔から住んでいるとばかり思ってたなぁ」
「あはは! 確かに幼い頃はここに住んでいたんだけど、一度ここから離れて都会の方に行ってたんだ」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ竜宮さんも一応都会っ子だね」
「あはは! そうなるね」
竜宮さんが引っ越してきたのだから、事件について知らない。
先程あんな声を出したのは、よほどそういった暗い話は嫌だった。
そういう事で”一応”理解出来る。
竜宮さんはいつも明るく振る舞っているような子、ましてや女の子なのだ。そんな子がそういった事件など暗い話に興味を持っているのもおかしな話だろう。
僕はそう呑みこんでいたが、隣の前原君はそう素直に納得出来ないようだ。
彼は明らかに少し苦さを含めた顔を見せていた
「じゃあ帰ろ! 早くしないと暗くなっちゃうよ!!」
「あ、うん。早く帰らないと、親も心配しちゃうしね」
「そうだね。圭一君もそれでいいかな? ……かな?」
「あ……あぁそうだな」
心なしか圭一君の足どりは行きより重くなっているように見えた。
その事を僕は言える訳がない。
そして、それをどう思っているかの心中を語ることもない竜宮さんも内容について触れなかった。
結局、行きと帰りでは影のでき方以外にも違うモノが見えていたような気がしたまま、帰り道を歩き続けていた。
今回はあとがきに書く内容はない!
ただ蚊を倒した嬉しさを噛みしめて寝ようと思いますw