■訳探し編【Ⅳ-Ⅰ】
「あぁ~それはレナのツボだね! ケンタ君人形なんて最たる例だと思うよ」
昨日の件を園崎さんはおかしそうに笑い、そして場に並んでいたトランプの内の2枚をめくろうとしていた。やはり彼女たちにはしっかりと認識していたことなのだろう。
「僕、竜宮さんがああいうのに興味があったとは思わなかったよ」
「……趣味や興味は人によって違うのです、にぱー☆」
因みに言っとくけどここには竜宮さんはいない。今は日直のカレー菜園の水やり当番で抜けているため、彼女は途中参加という形で合流してくる。じゃないとこんな会話はしない。苦言気味に言ってしまった僕は竜宮さんへの今後の接し方も考えておこうなどと考えていた。
園崎さんは小さく「よし、これだね」と言いながら2枚のトランプをめくる。
……5とKだ。揃っていないと心の内で安堵する。
外れてしまった彼女はまためくったカードをもとの裏向き状態に戻そうとしていた。
「しかし神経衰弱とはな……。魅音はこういう暗記もんは苦手そうなだが」
前原君が言うように、今しているのは神経衰弱である。裏向きにばらまかれたカードから2枚をめくり、同じ数字、つまりペアだったらそれを貰うという記憶力が肝となる遊びだ。だからこそ前原君はもっと心理戦を必要とする遊びをしないのかと意外に感じているのかもしれない。
それに対し、園崎さんの表情に焦りはなかった。
「ちっちっち、甘いね圭ちゃん。神経衰弱は記憶力が全てって思ってるでしょ?」
「何だぁ? またイカサマをしようって魂胆か?」
「会則第二条。1位のためにはあらゆる努力をすることが義務付けられておりますのよ!」
それは前の戦いで十分理解している。
今回は取ったカードの枚数で競い合うことになっている。前回のようにカードの中身が傷で分かるようなら、試合なんて無いに等しいものとなるだろう。
もちろんトランプは新品で、今日開封したと言わんばかりの輝きを見せている。もちろん傷もない。
……傷から判断出来ないと思われる以上、今回はどんなトラップで翻弄してくるのだろうか。
「……僕の番なのです」
カードの数字を透視したいとばかりに凝視している古手さん。そのまま、
「……これなのです」
めくって見えた数字は2と9だ。古手さんは3連続で外れている。
それでも古手さんは微笑していた。それが外れた悔しさなのか、それとも余裕からの笑みなのか……。
「をーほっほっほ。梨花も大した事ありませんわね!」
「…………みぃ。次は沙都子の番なのです」
「北条さんって、こういうゲームには強そうだよね」
「当たり前ですわ! トラップというのは常に状況把握と配置の記憶が大切なんでしてよ?」
「ふーん、じゃあよ。今までめくったカードも覚えてるのか?」
「をーほっほっほ。とりあえずこれとこれが5ですわ!」
予言通り、めくったカードは5の番号が。流石自信に満ち溢れていた彼女が宣言出来ることだけはある。それだけではなく、彼女は続けてカードを1つ1つ指を差してはそのカードを当ててみせていた。
もはや一方的な私のターンで、もう全てのカードを把握している。終わってみれば、北条さんの足元にはカードの山が出来ていた。
「あちゃー……。こりゃあ沙都子の一人勝ちになりそうだね」
既に白旗を上げようとしている園崎さんに対して、
「へっ! この勝負は3回戦。まだ2回あるんだ。逆転なんていくらでも可能なんだよ!」
「……久しぶりに僕も1位になりたいのですよ」
まだ諦めずに逆転を狙っている古手さんと前原君。流石と言うべきなのだろうか、後悔することなく、先を見据えているところは見習わないといけない。
っていうより、僕も頑張らないと。
「をーほっほっほ! 追われるということがこんなに楽しいとは思いませんでしたわ!」
「へっ! ブロッコリーとカリフラワーの区別も出来ねぇのに、いい気になるなよ沙都子!」
「なっ!?」
「まだ1回戦。いくらでも逆転の手はあるってもんだ!」
「……言いますわね、圭一さん! ならどこまで足掻けるか、楽しみにしておりますわよ!」
闘争心を燃やす2人を見て、そういえばと僕は園崎さんにまだ決めていない内容について聞いてみた。
「そういえば今日の罰ゲームは何?」
「ん? まだ決めて無いっけ?」
決めていない。まぁ罰ゲームの内容はそこまでしんどいものではないと思っている。
竜宮さんもいないことだし、何よりそう願っている自分がいる。さて、どうなることやら。
見れば、園崎さんは事前に決めていなかったようだ。思案顔になりながら、うーんと唸っていた。
困り果てていると古手さんが助け舟を出していた。
「……みぃ、ならボクに考えがあるのですよ」
「なんだい、梨花ちゃん?」
「……みんな1枚ずつ罰ゲームを紙に書くのです」
「書いてどうするんだ?」
「1位の人はその中から1枚引いて、それを最下位にやってもらうのです」
なるほどそれはみんなが罰ゲームを考えられるし、何より面白そうだ。園崎さんも納得といった感じで、全体の中で決定的になろうとしていた時、
「みんなぁ~! お待たせぇ!!」
ドアを開けて入ってきたのは、先程まで水やりをしていた竜宮さんだ。ようやく部活が出来るということで嬉しいのだろうか、ニコニコと満面の笑みだった。
竜宮さんは意気揚々と前原君の隣に座ったと思うと、周りを見渡す。
「ようやく終わったよ~! 今は何してるのかな、かな!?」
「レナ、分かったから少し落ち着け」
少し興奮気味の竜宮さんを宥めながら、前原君が今回やっているゲームについて説明した。
「はぅ……神経衰弱は、レナには少し苦手……」
「僕も少し苦手だよ……。どうも記憶するって事が苦手で……」
さっきの神経衰弱も結果最下位と散々な結果で終わってしまった。
このままだと罰ゲーム決定なので、何とかその事態は避けたいと考えてはいるのだけれど……。
「で、罰ゲームの件だが……」
「それなら、さっき話し声が廊下まで聞こえたから分かるよ!」
「あ、そうなの?」
「ま、学校には俺たち以外誰もいないからな」
「はぅ~。罰ゲームの内容はもう決めてるよー!」
「何だろう、輝かしい竜宮さんの顔を見ると変な寒気が……」
「悪寒だね。レナは結構怖いよ~」
「……みぃ。なら紙を配るのです」
古手さんが先ほどまで用意をしてくれたのだろうか、ありがたい。
小さく綺麗に切られた正方形の紙が6人の手に渡る。
「分かっているとは思うけど、誰にも見られないようにしてよ」
「魅音、そういって俺の紙を覗きこむのはどうなんだ……?」
「どうしよう……どうせ1位は絶望的だろうし……」
最下位を想定しないといけないのは自分である。となればこの紙に書くことはおのずと決まってくるというのが悲しい。
罰ゲームが大きすぎると後悔してしまうのが自分という事もありえるし、小さすぎると罰ゲームとしてはイマイチ……。
「孝ちゃん」
園崎さんがこちらを見つめてきた。その目は真剣であっても、口角は吊り上っている。まるで、『頭を使え』と言っているような感覚にさせられた。
何だろう、園崎さんは何を狙っているというのだろうか。
罰ゲームをかわせる方法なんていくら頭を捻っても――――
「あ…………」
その時、頭の中の靄が晴れたような、はっきりとしたイメージ
園崎さんを見たからなのかは分からないけど、突然頭の中から出てきた方法があった。
……ただこれをやるのは凄く卑怯な気がしてならない。そもそもこれをやってはルールさえ、変わってしまうような気がする。
困ったので、もう一度園崎さんを見るとニヤッと笑っていた。その瞬間、直観的に感じてしまう。
「……卑怯ってありだよね」
「ん? 何か言ったか?」
「ううん! なんでもない!」
何故だろう。卑怯はありえるもの、そう言い聞かせつつ部活によって自分の変化があったような気がして悲しかった。
昨日は投稿できずにすみません!
これから新章。前原君を止めることが出来るのか、頑張ってほしいものです。