「みんな入れた?」
それぞれが互いの顔を見やりながら、紙を入れ忘れていないかを確認している。
誰も何も言わない、それをきっかけに園崎さんは箱の中の紙をシャッフルさせ、近くの机の上に置いておいた。静かに置かれたそれは、今まさにパンドラの箱。
まだ試合中だから、終わるまではこのまま開けられることはない。それは生殺しと同じような焦燥、苦行そして恐怖。そこから放たれる威圧、それだけで首が絞められそうだ。
……なんて言うけど、実際は怖くてたまらないだけです……あ、前原君が手を叩いている。
「さて、続きをやろうぜ!」
「お待ちくださいまし。……圭一さん、今回は私と勝負をしませんか?」
「勝負だと? それなら今決めたじゃねぇか」
「その勝負とは違いましてよ。私達だけでの一騎打ちですわ。まさかここまで来て辞めるなんていいませんわよね?」
「ほー、言うようになったじゃねぇか。沙都子ぉ」
「御託は結構ですわ。で、どうしますの?」
「はっ、そんなの決まってるぜ! お前の挑戦、受けてやる!」
何でこう罰ゲームをしたがるんだというツッコミはしない。
2人の目はすでに戦いの目に変わっていて、寄せ付けないオーラを湯気のように体中から漂わせていた。別に実害を被るわけじゃないし、まず自分には関係ないことである。あと変に関わると痛い目を見るのは自分だからやめておこう。
「さぁて、そろそろ始めるから場所を開けてくれない?」
「……次は負けないのですよ」
「沙都子、この瞬間からターゲットはお前だ!」
「私を見るのは結構ですが、スポットを当てすぎては周りが見えないですわよ」
「へ、そのスポットは広いからな。安全すぎるくらいだぜ!」
「何言ってるんだろう、この2人」
まぁ……もう放っておきましょう。
「ねぇ竜宮さん? 途中参加なのに大丈夫なの?」
「え、何がかな?」
「いや、一位取れる数も少なくなるしさ……」
「あはは。確かに罰ゲームになる可能性は高いかな~……あ、またそろった。後残り30枚かー」
「あれぇ? 全部取られてるぅ?」
「あぁ孝ちゃん。レナの心配するなら自分の心配した方がいいよ」
竜宮さんの傍には既に大量のカードが山と積まれていた。何この人、一巡目で20枚相当引き当てるとかもはや神の目でも使用してるんじゃないかと疑いたくなるんですけど。
その後も、竜宮さんは己の感性(?)を利用してカードを集めていった。他にも古手さんや園崎さんも順調に場のカードを減らしていく。そんな中、前原君と北条さんは互いの邪魔をし合い、未だに2ペアといった少数での戦いを繰り広げていた。
……え? 僕? ははそりゃあ引けませんよ、こんな面子ですもん。
「をーほっほっほ! 圭一さんもやりはしましたが、残り4枚。この中のペアを引けば私の勝ち! それでは、」
「おっと風が吹いたぁ!!」
前原君がそんな事言いだしたかと思うと、手をかざしてカードを守ろうとする。
と、思ったのに指が鉤状に変えたかと思うと、次の瞬間にはカードが捲れてしまっていた。
これほどわざとしましたと言っている行動は珍しいとさえ思える。
「ちょっと!?」
「悪いなぁ、沙都子。残り4枚のカードを守ろうとしたら、手が滑ってカード1枚が表になっちまったぁ」
「ぜ、絶対わざとですわー!!」
「人聞きの悪い事言うなよ、沙都子。こいつは不慮の事故って奴だ。しかしこいつはもう駄目だから、シャッフルしねぇと」
「あ、あー!!せっかく場所を覚えてましたのにー!!」
「……沙都子は可哀想なのですよ、にぱー☆」
「……」
北条さんが可哀想だとは思えない。だって前原君にたらいをお見舞いさせて、カードを入れ替えていた人だもん。
「さて、続行だ」
「これと、これ……。うぐ、外しましたわ」
確率的には当たってもおかしくないと思っていたが、北条さんも流石に運の良さまでは引きだせていないようだ。捲った2つの数字が違ったことで、勝敗は決まってしまったも同然だった。
「んじゃあこれで!よし、俺の勝ちだ! これで沙都子とは一勝一敗、まだ負けないぜ」
「ひ、卑怯極まりないですわね……。そこまでするのなら、私ももう手加減なんか致しませんわ!」
「へへ、こい沙都子!!」
もはや一騎打ちの様相。前原君たちの激闘はみんなにも感化されており、自然と場のムードも高まっていく。古手さんたちにもまだチャンスがある以上、そうなるのが当然といえば当然だろう。
「さて、最後の試合を行うよ! みんな、カードを集めるからー」
「「「はーい」」」
僕はすっと自分の近くの地面に手を置く。
床、冷たいなー……本当に、もう現実を突き付けられて悲しい。
最下位は免れられない状況。自分はとりあえず外でもみとけばいいかな、なんて思っていた。
時間とは有限なり