ひぐらしのなく頃に 決 【訳探し編】   作:二流侍

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■訳探し編【Ⅰ-Ⅱ】

 車の中では今後の事、ここでの生活の事、そして僕の今後のこと、そんな引っ越し後の話をだらだらと進めていた。

 そんなに話が出来るとは思っていなかった。

 というより自分のことで話を進められても「知らない」としか言えないのに。

 それもこれも、ポンコツ自動車のせい。本当に進むのは自動車だけで良くて、話なんて止まっておけばよかった。今はそう思ってしまう。

 結局すぐ着くと聞いてから20分経過してからのこと。

 いや、体感的にはもっとかかっていたと言っても構わない。

 車が停まったときの安心感と疲労感はみんなに伝えきれないものだろう。

 

 ……まぁ、余談はこれぐらいにして。

 

 今、窓の外に見えるのは白い壁と赤い天井が見える一軒家。新築なのか、さび付いた部分は存在せず、夕焼けの赤い光を反射していた。どうやらここが僕たちの新しい生活場所。

 田舎だから古びた木で出来ているものだと思っていたから少し意外だ。

 

「さて、着いたぞ」

 

 車が止まると同時に扉を開けた。

 ザクッと、土を踏む時しか鳴らないような音を立てながら、長旅で固まった身体をほぐすために身体を弓なりに伸ばす。

 

「うわー……」

「どうだ新しい家は? 凄いだろ?」

「……確かに凄いね。庭で打ち上げ花火しても問題なさそうだよ」

 

 父さんが嬉しそうに聞いてきたので、皮肉を込めたコメントをしておいた。なお、父親は全くその意味を理解できていない様子だ。

 まあ一戸建てだけのことを考えると、マンジョン住まいだった自分にとって二階建てというのは素直に嬉しい。敷地も広めに取られているのか、庭も広く、きれいに塗装もされている。家について文句はない。

 問題は、と懸念すべき家の両サイド。

 ……家ないなぁ…………。

 片方の道は真っ直ぐで奥行があり、その道中に家がちらほらと視認できるのだが、それでも近所と言える距離には家が存在していない。もう片方は緩やかなカーブを描いて道が形成されている。しかし畑と森といった自然100%。何もない。

 やはり近くにスーパーがないと、不便に感じる。今でさえそう思うのだから、過ごしていく中でその気持ちはもっと大きくなるだろう。

 それに近所の付き合いもなさそうだ。色々なところで、都会のときと環境が大きく異なっている。順応するのには多少の時間がかかりそうだ。

 

「不安だなぁ……」

「ん? 何か言ったか?」

「……別に」

 

 なーにが、自然が多くていいところだ。近所はカエルとかセミだでも言うのだろうか……。

 

「それにしても遅いな引っ越し屋。先に来ていると思っていたんだが」

「渋滞に引っかかったのかもしれないわね」

 

 どうやらテレビなどの大きい物を乗せたトラックはまだたどり着けていないようだ。

 小物類は確かに車で運んではいたが、それも数知れた量しかない。

 家の鍵はあるが、引越し屋さんが来るまで動けない。そんな状況だった。

 

「あなたどうする? 晩御飯というには早すぎるし……」

「ん~、確かに。まだ時間もあるし……。よし孝介、せっかくだからお世話になる学校に行くか」

「学校かあ。うーん……」

 

 その言葉を聞いて少し躊躇っていた。

 興味はもちろんあるけど、疲労を感じているし、これ以上振り回されるのかあという気持ちが微妙にある。

 ……それに緊張もする。まだ夕方だし、ばったりクラスメートとなる相手と鉢合わせる可能性だってあるのだ。そんなときに明るく接することが出来るのか、上手く自己紹介できるかどうか、自信もない。

 

「別に孝介は学校に入らなくてもいいさ。俺が少し用あるから、ちょっと見ないかってぐらいだからな」

 

 まぁそれぐらいならいいかもしれない。時間が余っているのは確かだし、車から出て、校舎を遠目から見ておくだけなら別に何もないだろう。

 

「分かったよ、それなら行く」

「よし、決まりだな!」

「じゃあ私は家で待ってるわ。引っ越し屋さんがいつ来るか分からないし」

「あぁ頼むよ。じゃあ行くか」

「うん」

 

 今回は助手席というのもあってシートベルトをしっかりと付ける。

 父さんも同様にシートベルトを着けていると、母さんが窓をコンコンと叩いた。

 

「貴方、くれぐれも安全に。いい、安全にね?」

「分かってるさ」

 

 父さんは先ほどの急ハンドルなんて棚に置いて、グッと親指を立てる。

 そのままエンジンをかけ、車は勢いよく動き出すのだった。

 

 

 

 ……車の中で大きく揺れながら、移動すること5分位。父さんが「おっ」と言って、あれが学校だと指し示してくれるのだった。

 2階建ての木造建築、確かに学校と言われればそんな気もする。

 ただあくまで気もするだけであって、これが学校なのかと疑いたかった。先ほどの一軒家の方がまだ綺麗だし、広く見えてしまう。正直がっかりした気持ちはあった。

 

「さぁ着いたぞ」

 

 車が止まり、ドアを開ける。入り口の校門が見えるが、そこに木で張り付けられたプレートが目に入った。

『雛見沢分校』

 分校という意味がいまいち分かっていないのだけど、学校という意味だろう。

 校門を通って、中の様子を窺う。グラウンドは広くて、僕たち都会より広いかもしれない。もしかしたら子供の数が多いのか。……いや、あの家並みから考えにくいか。

そして校舎……と明言出来ない木造建築は既に木が腐っている部分も見える。長い間使われているのがよく分かり、地震でも起きたらぺしゃんこになりそうだと不安に感じた。

 今は夕方なのでグランドには誰もいない。都会では子供が残って遊んでいたので少し驚きだ。

 他の場所にでも行っているのだろうか。

 総合的に判断。

 ……やはりここは学校と違う別の場所では。

 もう一度裁定の余地あるはず、そう信じてまじまじと見ていく。

 その時父さんが僕の隣にやってきた。

 

「どうした孝介?」

「いや…………少し大きな家を改良しただけに見えるし、本当に学校なのかなぁって思っただけ」

「自分の学校に向かってそれは無いだろ」

 

 ははは、と父さんが笑っていると、

 

「あら? あなた達は…………」

 

 若い人の高く、少しハスキーな声。その声は後ろから聞こえた。どうやら初めて雛見沢住人とご対面出来たのかもしれない。

 首をひねって確認したとき、予想した通り、若い女の人が立っていた。短く切りそろえられた髪、清潔そうな白いワンピースが見事に今の暑い季節を表しているかのようだ。

 女性は水やりをしていたのだろうか。ジョーロを片手に持っている。

 

「あぁ、すみません。あなたは学校関係者の方でしょうか?」

「はい。この学校の教師ですが……」

 

 あちらは部外者かと、瞳をスッと細め、少し警戒の色を示していた。

 僕たちは勝手に学校の中に入っている。先生というのであれば、その対応は正しいと言えるだろう。

 

「これはこれは。えぇと、昨日電話した者でして……」

「あ、あぁ、昨日電話して下さった方でしたか」

 

 話が早くて助かった。警戒を解いたかと思うとにこやかに微笑むその姿は勇ましさから一遍、優しい先生に変わっていた。

 

「こんにちは。ようこそ雛見沢へ」

「えっと……こんにちは」

「私は知恵留美子って言います。よろしくね」

「あ、お、お願いします知恵先生」

 

 ペこりと頭を下げて、この人が今後お世話になる先生だとインプットしておく。

 

「それでさっそくですけど、明日から学校に行かそうと思うんですが大丈夫でしょうか?」

「え!?」

「どうした?」

「い、いや……別に」

 

 父さんの発言に驚いた。

 どうやら父さんは僕が明日から登校出来るように取り計らってくれたようだ。しかし、いくらなんでも新しくなったこの場所に慣れる前に学校に行くのは早急では……。

 僕の感想をよそに話は進んでいく。

 

「で、どうなんでしょう? 先生の方では問題がありますか?」

「いえ、特に。ですが授業のためにドリルを買って貰う必要があるんですよ」

「え、ドリルをですか?」

「はい。私達の学校は少人数のために全学年同じ教室なんです」

「はぁ」

 

 父さんはため息にも似た息を吐いていた。

 

「ですから基本は低、中学年に授業中心、高学年は自習が中心になってしまうんです。そのため高学年には自習のためにドリルが必要なんですよ」

「よく分かりましたが、それを売ってる本屋はどこにありますか?」

「ちょっと複雑なので地図を持ってきますね」

「あ、私も行きます。孝介も来るか?」

 

 自分は少し迷った後かぶりをふった。何も自分が行く事はない。すぐに終わりそうだと思えたし、

 

「ここで待ってるよ」

「そうか、じゃあお願いします」

 

 こちらですと言って、2人は学校の中へと消えた。

 まぁ、あんなこと言ったけど、1人になって特にやる事もない。

 学校の様子を堪能した僕は車の方へ戻った。

 

「はぁ……不安だ……」

 

 扉に背もたれて、これからここで過ごす未来を考えながら目を閉じる。静かになると遠くでひぐらしの鳴く声がよく聞こえた。

 本当に田舎なんだと思わされる。友達100人とは行かなくても10人は欲しい。

 ……そのためには自分が頑張らないといけないんだけど。

 とにかくこれからかー。そんな不安を少しだけ感じていたときだった。

 

「…………みー。見ない顔なのです」

「えっ?」

 

 呼びかけられると思わなかった。驚きの声を上げてしまう僕はすぐさま目を開け、相手を見つける。

 そこには小さな女の子がいた。

 青色のロングヘアー。前髪は綺麗に切り揃えられていて、顔は幼子特有のまん丸さを持ち、お餅みたいだ。そしてどこか不思議な彼女、お人形みたいなかわいらしさといえばいいのかもしれない。

 身長は小さめ。考えるに小学2、3年ぐらいだろう。

 そんな少女が自転車を手で支えながらこちらを見てきた。

 その表情は優しい笑みなのだが、なんだか驚いてるようにも見えるのは気のせいだろうか。

 

 ……相手からのアクションが無いので、こちらから話を振ってみる。

 

「えっと……君は?」

「ボクは古手梨花なのですよ、にぱ~☆」

 

 そう言うと彼女はにっこりと笑ってくれた。

 彼女が乗ってきた自転車のカゴの中には買物袋がある。どうやら、お使いの帰り道にここまで来たけど、そこに見知らぬ少年がいたから声をかけた。

 そんなところだろうか。

 

「……名前はなんて言うのですか?」

 

 そういえば人に聞いといて自分自身の紹介を忘れていた。

 

「あー……そうだったね。ゴメン。僕は――――」

「ありがとうございます。おかげさまで分かりました」

「じゃあ明日、待っていますので」

 

 続きの言葉は戻ってきた2人の会話に邪魔されてしまった。

 知恵先生は見送りのために門までついてきたようだ。

 そして古手さんの姿に気づいた彼女は意外そうな声で、

 

「古手さん? 一体何をしているのですか、こんな所で」

 

 やはりここの生徒なのだろう。名前を知っているし。

 古手さんは笑顔を一切崩すことなく、自分がいる理由を述べた。

 

「……買い物の帰り道なのです。沙都子が玉ねぎを切らしたと言うので買ってきたのですよ」

 

 サトコ……。

 その言葉は母親の名前なのだろうか。古手サトコ……う~ん、若干言いづらい。しかもサトコと呼び捨てにしていいものなのだろうか……。

 知恵先生は呼び方を指摘せず、今ここにいる事を指摘していた。

 

「それでももうこんな時間です。最近は物騒なので早く帰りなさい」

「……みー。了解なのです」

 

 自転車にまたがり、ペダルを漕ぐために足をかける。

 その時一瞬だけこちらを見てきた。別れの挨拶でもしてくるのだろうか。

 そんな事を考えていた僕に、古手さんは口を開く。

 

「……?」

 

 小さく、本当に動いていたのかと疑いたくなるような口調で言っていた。

『こんなのありえない』と。

 何がありえないのだろうか。まさか、自分のやっていた事の中にいけないことでもあったのだろうか。

 不安に駆られる間にも古手さんは回れ右で帰ろうとしている。

 慌てて引き止めようと、

 

「ねぇ……古手さん。どういう意味なの?」

 

 だが自分の声は聞こえなかったらしい。

 こちらに背を向けたその姿は小さくなっていく。

 取り残されたような気分だ。あれが古手さんというものなのだろうか。……しかし先ほど見せてくれたかわいらしい容姿と、雰囲気とは一変していたので、どっちが彼女なのか疑わしく思えてしまう。

 唖然としている僕をよそに2人の話は古手さんについてに変わっていた。

 

「へぇ、さっきの子供が古手神社を」

「はい。古手家はここ雛見沢の御三家の1つでもあるんですよ?」

「それは凄い。さぞ、豪華な家なのでしょうなぁ」

「いいえ、親が他界してしまって……。今は集会裏の倉庫で――――」

 

 その後の会話など聞いていない。古手さんの後を見続けたまま、僕は古手さんが見せた違和感に心を奪われていた。

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