「や、やっと落ちた……」
罰ゲームの後、トイレに直行して顔についた汚れを洗い落とそうとしたのだが、これが中々落ちない。丁寧に厚化粧された顔はこびり付いたかびのように邪魔で、鬱陶しいものだった。
ハンカチで顔に付いた水滴を拭う。ハンカチはこういうことに使うつもりはなかったんだけど……。
隣では未だに蛇口を全開にさせて洗顔をしている人が文句を垂れていた。
「くそ、全然落ちねぇ……」
「仕方ないよ、前原君は油性だし……」
「そもそも何でお前は水性なんだよ!?」
「……人柄?」
「うがッ! そ、そうかもしれないが……腑に落ちねぇ」
「油性だけに?」
「そういうフリじゃねぇから!」
観客のいない2人のコントをしながら、僕は少しだけ前原君を羨ましいと思っていた。
実際に弄られているのは前原君の方だ。それは当然だと思うのだけれど、僕は前原君と違って遠慮されているのではないかを思える。油性と水性が良い例だ。どうしても相手との心の距離が存在するのだろう。
もっと、近くに来てもらってもいいんだけどな……。みんなと仲良く罰ゲームしたいし。
そんな希望を描いるとき、前原君は諦めたようで濡れた前髪をかき分けていた。
「もう仕方ないか、くそぅ」
「まぁ、水だけだと落ちないよね」
「もっとしっかりと洗わないといけないな、家で石鹸でも使わないと無理かなぁ……でもなぁ……」
苦々しげに呟いて、これからのことを考えている。
だが顔は未だに黒く塗られていて、まるでタヌキだ。その顔で言われると、言い方が悪いけど滑稽でしかない。
北条さんも目の周りに黒く塗るとは、意地の悪いことをしたものだ。
「ははは……。まぁ今回は精神的なものじゃなかったし良かったかもね。ほら正月の羽根つきと思えば……」
「そうだな。今度こそはみんなにあんな事やこんな事を…………ぐふふ」
さっき僕が言ったことを忘れてしまったようだ。だから油性にされるんだろうなー。
「ほら、変な妄想をしてないで早く帰ろう。みんなはもう帰っちゃったし」
「薄情な奴らだぜ……」
「別にこんな姿を見せても笑われるだけだよ……」
教室に戻って、帰り支度を始める僕ら。既に閑散とした教室に夕日が差し込んでおり、中々の哀愁さを醸し出している。そんな雰囲気に合わせたためか、黙々と机をもとに戻して、鞄の中身を詰めていく。ドリルや筆箱を肩掛け鞄に入れながら、明日は体育があったっけ、などと考えていた。
「そういやさ」
「ん?」
「孝介ってさ。梨花ちゃんと何かあるのか?」
「え、どういう事?」
唐突な質問。同じく帰り支度をしながら彼はこちらを見てきた。
「別にふと思ったことなんだけどよ。梨花ちゃんって親しい人間、ていうより仲間には下の名前で呼ぶんだよ。ほら、俺には圭一って言ってるだろ?」
「あーうん。そうだね」
確かにそうだ。北条さんなら沙都子と呼ぶのは分かるけど、園崎さんには魅ぃ、竜宮さんにはレナと呼んでいる。
でも、それがどうしたのだろうか?
「それでなぁ……」とお茶を濁しながら前原君はこの問題点を提示してきた。
「お前に対しては篠原で呼んでるんだよ。結構付き合ってきたっていうのに……」
「でもまだ会って間も無いし、仕方ないんじゃないの?」
「いやぁ、俺の時はすぐに下で呼んで貰えたんだがな……」
「それは前原君の明るい性格とか関係しているのかもね」
彼は納得はしたけど、理解はしてないような顔をしていた。ただそれが事実なのだから仕方ない。
僕と違って前原君は一緒にいると楽しいし、盛り上がる。暗い空気を明るく変えてくれる。
そういった人は直ぐに色んな人と仲良く出来るはずだ。僕には出来ないことである。
「それに、僕は篠原でも全然構わないし、事実僕も古手さんって言ってるからね。別にいいんじゃないかな?」
古手さんには古手さんの考える事があるのだろう。僕と同じように親しくなってから下の名前で呼びたいという人なのかもしれないし。それこそ早く仲良くなれるようにすればいいだろう。
「ま、まぁ孝介がそう言うなら……な」
少し不満そうな前原君。
もしかしたら僕と古手さんの心の距離がある事が気になったのかも。
「別に気にしないで、これって当事者の問題が大きいから」
「何とかしてやりたいんだがな……」
「ははは、気持ちだけで充分だよ。ありがとう」
関係ないことでも親身になって考えてくれる前原君は本当に優しい人なのだろう。
今度前原君に何かあった時は僕も似たようなことをしたい。
「あ、そうだった、前原君どうするの?」
「はぁ、一体何の話だ?」
やっぱり思い出した話を突拍子もなく言っても、流れから理解はしてくれないか。
ポカンとしている前原君に、学校に取り付けられた時計を顎で指した。
「ほら、昨日竜宮さんと約束したやつ……もうそろそろじゃない?」
「あ、しまった! そういや今日レナのお宝を取りに行くんだっけ!?」
そう、今日はあのゴミ山の中にあるかぁいい物を取りに行くのだ。未だにかぁいいもの基準が分かっていない僕たちにとってはもしかしたら足手まとい、もしくは力作業だけに駆り出されるだけなのかもしれないのだが。
前原君は鞄を手にしながら、もう片方の手で顔をなでる。懸念していることは1つしか思い当たらない。
「この顔で行くのは少々躊躇ってしまうぜ……」
「圭一君は一旦家に帰ったら? そのマジック、かなり頑固そうだしね」
「孝介はどうするんだ?」
もちろん竜宮さんの手伝いに行く。
もう夕方だし、今頃はかぁいい物を取ろうと必死になっている竜宮さんが見れることだろう。
「分かった。なら、俺も顔洗ったらすぐにそっちに向かう」
言ってすぐに返答してきた辺り、前原君も手伝うつもりのようだ。
とりあえず今後の方針が決まったところで、僕らは鞄をしょい込む。
「早く行動しないとね。もう夕方だもん」
「だな。レナを待たせる訳にはいかないしな」
お互いの想いを再確認したのち、僕らは急ぎ足で教室のドアを潜り抜けていった。
もう一度あのダム建設場所まで向かいます。
そこで何が起こるか。
さぁて、早く書かないとなー。
~~~~余談~~~~
文章書くのって難しいですよね……。
思ったような表現を簡潔かつ分かりやすい文章にしないといけないし……。
最近は書き方の本とかを読んではいるけど、実践まで出来る人ではないのでなー。
沢山の人の小説を読ませてもらって勉強中なわけでして。
いつか分かりやすい文章と言われる日が来るのだろうか……(遠い目)