ひぐらしのなく頃に 決 【訳探し編】   作:二流侍

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■訳探し編【Ⅳ-Ⅶ】

 その言葉は聞きたくなかった。自分の名前を呼ばれたその言葉は今まで生きてきた中で一番冷たく、無感情なものであったと言える。

 ほぼ条件反射で本を隠したのち、呼ばれた方向を振り向けば、予想していた通りの人物がこちらをじっと見つめていた。

 その表情は無に等しい。今怒っているのか、悲しんでいるのか全く分からない。

 

「何してるのかな、かな?」

「あ……はは…………あはは。ば、ばれちゃった……」

 

 誤魔化すには無理があるただの引き笑い。当然竜宮さんからの反応はない。

 読むのに集中し過ぎたせいとはいえ、全く近づいてきた事に気づかなかった。竜宮さんの忍び足スキルを褒めるべきなのか、それとも自分の無神経スキルを悔やむべきなのか。

 

「……」

「あ、そうそう。今から竜宮さんの所に行こうとしたんだ。ほら、今日人形を、」

「見てたんだよね?」

「……え?」

「レナね、見たんだ。孝介君がさっきまで何かの雑誌を読んだのを」

 

 手に持つ雑誌がこの瞬間だけ石のように重く感じた。

 

「い、いやそんな事……ない」

「……嘘だよね?」

「そ、そんなことは――――」

「嘘だっ!!」

 

 その瞬間、大地と空が委縮してしまうほどの怒号を彼女は発した。ひぐらしは鳴り止み、鳥は巣で縮こまり、地面は動揺する。彼女の今だけを見れば、どれほど温厚な性格を主張しても理解してくれないだろう。

 彼女の目はしっかりと自分の目を見つめている。何事の嘘でさえ許さない。そんな気持ちにさせられた。

 自分は正直に答えるしかなく、最後の抵抗とばかりに迷いながら答えていた。

 

「ごめん、実はダム建設でのバラバラ事件を……」

「だよね。孝介君はそれを見てたね」

「で、でも! それだけで、それ以上のことは――――」

「それだけ? 本当にそうなのかな?」

「え?」

「……どう思ったかな、かな?」

「ど、どうって別に……何とも――――」

「レナ。嘘付くのも、付かれるのも嫌いだよ」

 

 彼女はうそ発見器でも身に着けているのかと思いたくなる。

 竜宮さんは自分が言い切る前にしっかりと釘をさしてきた。

 

「お願い。本当の事を言って!!」

 

 お世辞も言えないこの状況。穴があったら隠れたいと思うくらい、追い詰められているような気がしていた。

 

「でも、僕は……あ」

 

 その時、目線を落として彼女の手を見た。固く、握りしめられたその手を。

 彼女の手は強い意志のもとにこぶしを固めていたが、それと同時に小刻みに震えていた。

 そう彼女は怖がっている、この状況、そして僕の信教の変化があったことに。

 それでも聞かなければならない。その勇気は今心境を隠そうとする自分よりもよっぽど立派なものだと思えた。

 

「竜宮さん……」

 

 自然と先ほどまでと違う感情が芽生えている。今はもう、逃げようとは思っていない。

 

「そうだね。ちょっとだけ……怖い。あんなに優しい村人が、ダム建設反対するのは分かるけど、石を投げたりして暴行を行うなんて……。それにこんな事件があって犯人はまだ捕まっていないかもしれないし、村で何かを隠しているのかもしれない。そんな気持ちにはなるよ」

「そう……」

「あ、だけど別に過去の事だし―――」

「嫌いになったかな、かな?」

「え?」

 

 その言葉には驚かされた。

 確かに事件の事を知って戸惑っている部分は少なからずある。無いなんて嘘をつく方がこの時において、ただのその場凌ぎでしかない。それを竜宮さんは危惧しているのだろうと。

 村のことをどう思ってしまうか。それも彼女にとっては質問の内容に含まれるのだろう。

 しかし嫌いになるなんて事は……あまりにも飛躍した話ではないだろうか。村を嫌いになるなんて、そんなことを感じたことはない。

 

「こんな怖い過去のある村を……人を」

「人、か……」

 

 竜宮さんは自分が同じ村人だから嫌われるのではないか、そのような恐怖を持っているのかもしれない。

 先ほどの握りこぶしもそういう意味があったのか……。もっと驚いた的な世間話程度に発展するものだと思っていた。

 

「確かに村の人達は凄い事……ううん。直球に言えば酷い事をしてきたのかもしれない」

「はぅ……」

「でも……だからって今とは関係無いよ」

「え?」

「みんな優しいし、何より竜宮さんや前原君みたいな頼もしくて、強い仲間がいるんだ。」

「……」

「だからみんなを信じてる。みんながそう言うんだから、僕はそれを信じるよ!」

「…………本当?」

「うん」

 

 力強く頷くと、竜宮さんはニッコリと笑ってくれた。

 ……これが彼女の望んでいる答えならいいんだけど、自分はこう思ったということだけを。目線を逸らして僕はゴミの山を見つめることにした。

 今見られると、また竜宮さんに言及されてしまいそうだったからだ。

 

「でも、竜宮さん」

「何かな、孝介君?」

「どうしては黙ってたの? 知ってたなら教えてくれれば良かったのに……」

 

 この前は知らないと言って嘘をついていた。それは前原君に怪しまれる結果になり、僕のようにこのような話になってしまうと、色々と面倒事があると思えるのだ。

 これを話してくれないと、僕はともかく、前原君を信じさせることなんて出来ない。

 

「えっとね……」

 

 彼女はうつむきがちに、そして自信ないおそるおそるといった声で声を絞り出していた。

 

「……魅ぃちゃんと話してたんだ。まだ来てから一ヶ月しか経っていない2人に、この事を知ったら嫌がるんじゃないかなって」

「そんな事ないのに……」

「なら孝介君には無い? 自分が話したくない事や秘密にしておきたい事」

「え、それは……」

 

 無いと言い切りたい。人に話せない程辛い過去は自分の記憶ではないから。

 でも、どうだろう。人にそういったことを話すということもしてこなかった人だ。今更どうですかと聞かれて即答できる経験が不足している。

 竜宮さん達にはあるのかもしれない。それはつまり、彼女たちにとって後ろめたい気持ちが存在するからだろう。そんなのあったのなんて、軽々しい発言は出来るはずもなく、ただ自分は伏し目がちになるしかなかった。

 

「知ってるよね? この村の過疎化が進んで人がいなくなってるの」

「う、うん。確かに少ないね」

「村にいても学校を隣の街にする子供も少なくなくて。だから……」

 

 そこで言い淀む竜宮さん。だから代わりに僕が想像できる内容を続けた。

 

「この村が嫌いになった前原君が隣の街の学校に移るかもしれないって事?」

「……うん……・」

 

 彼女らしくない、コクリと注視しないと気付かないような小さな頷きだった。

 

「それに圭一君達にはこの村を好きでいてもらいたいから……」

 

 孝介君はもう知っちゃったけど、と竜宮さんは呟いていた。

 話して受け入れて貰えばいいのだが、万が一にも嫌われたら……。

 そう思ってしまって言えなかったんだろう。僕だってそうなるだろうから気持ちは分からなくもない。

 良い事より悪い事を考えてしまうのが人の心理なんだから。

 

「だから圭一君に黙ってて欲しいかな、かな?」

「でも……」

「時期が来たら、ちゃんと私から話すから。だからお願い!」

「…………」

 

 今までずっとこれを隠してきた彼女たち。多少の罪悪感もあるはず、辛い想いをしているのに、それでもなお、前原君のことを思っての行動をしている。前原君って本当に好かれているのが分かる言葉ばかりだ。

 そして、それをうらやましいと思っている自分がいるのも確か。

 彼女が言うんだ。それを信じるのが、友達の役目だ。

 

「分かった。竜宮さんを信じるよ」

「ごめんね。孝介君」

「じゃこの話はもう終わりにして、早く人形を取ろう。もう暗くなり始めたし」

 

 このままだとまた明日と同じように日が暮れて、取れなかったなんてことになってしまう。

 なるべく早く取り掛かるべきだ。そして話を切るためにもそんな形で話題を変えようと、人形へと向かった。

 




最近のクライマックスシリーズが面白い件について
今日で決着だからなー。楽天か巨人、どっちが勝つのやら……。

あ、あと投稿して一か月経ちました(ちょっと遅いけど)
みなさんのおかげで閲覧数も4000、お気に入りも50いきそうなくらいに。
本当に細々とやっていくと思っていた自分にとって感謝感謝です。
これからも感想、閲覧などこの小説を盛り立て、楽しんでいただければ幸いです!
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