人形があると言われた場所まで、幾多のがれきを超えてたどり着いた僕たち。
途中で足を取られそうになるのを竜宮さんに助けてもらいながら、僕はひしひしと今の協力関係に嬉しさを感じていた。
「……で、人形は取れそうなの?」
隣にしゃがみこんでいる彼女に尋ねる。
「う~ん。何かに押さえられていて難しそうかな、かな?」
「どれどれっと……」
どうやら竜宮さんがある程度は片付けてくれているようだ。両脇には積み上げられたゴミが見えてる。小物ばかりだったのが幸いしていたからか、積み上げていくことのに苦労はしなかった様子。
それでもなお、人形の上にはゴミと呼ばれそうな物が置かれている。しかもとても1人、2人で持ち上げられない大きなモノばかり。もうケンタくん人形を引っ張る以外の方法がない。
となると、家の天井の骨組みに使われそうな梁(はり)が人形を閉じ込めているので邪魔だ。複雑に人形と絡み合っており、このままでは取り出すことが難しい。
「確かに、これじゃあ物を動かしても取れないなぁ。何か切断できるモノを持ってこないと」
「うーん。……あ、それなら家に良い物があるよ!」
頭の上の豆電球が光る竜宮さん。
「でも家なら行ってる間に夜になるかも……」
「家は近いから大丈夫だよ! それに早くこの人形をお持ち帰りしたいし!!」
どうやら一刻も早くこの人形をお持ち帰りしたくてたまらないようだ。待ちきれないとばかりに手をブンブン振っている姿がその証拠といえるだろう。まぁ前原君も来るようだし、待っていてもいいだろう。
「分かった。じゃあお願いしようかな」
「うん! ちょっと待っててね!」
竜宮さんは相変わらずの慣れた足さばきで、このガラクタ山道を上ってくと、すぐに姿を見せなくなった。
こんなゴミ山で彼女はいつも1人で動き回っている。それがよく分かるものだ。
新たな視点になった、この辺りを見回してみた。こうやってゴミ山脈の中に入ってみると、色んなものが積み重なり、自分の隣にそびえ立つ圧迫感を感じる。見下ろすだけでは感じなかっただけに、その感覚は新鮮かつ恐ろしいものだ。
いつ崩れてもおかしくない砂上の砂で出来たお城のような、脆い山にいつ崩れるかという恐怖も感じてしまいそう。
……と、1人になった寂しさのせいか、そんな不安しか感じなくなっていることに数秒を要していた。
「とりあえず物でも退かしておくか」
ある程度は竜宮さんが片付けたものの、まだ沢山上から押さえつけられている。特に引っ張り出すために邪魔をしてきそうな物は極力避けておきたい。
どうせやる事も無いのだ。気を紛らわすにはちょうど良い仕事内容といえるだろう。
大きく重いモノは極力後回しにして、とにかく両手で抱えれるようなモノばかりをどかしていく。
竜宮さんが昨日からやってくれていたおかげで、数自体は少ない。気を付けないといけないことはどかすときに、足元が疎かになってしまうということだけだ。
何度もこけそうになりながら、物をどかす作業。一見単純作業に見えるのだけれど、こけないための神経を使わないといけないので、重労働と言われても頷ける内容だといえる。そもそも運動が苦手、というより体力が無い自分は10個ぐらい運ぶだけでもう汗だくになっていた。
「ふう、でももう退かすモノは無いかな」
他のものが無くなったおかげで、先ほどより人形の足や腕といったパーツが見える。後はこの梁さえ何とかすればケンタくん人形を助けることが出来るだろう。
「とりあえず竜宮さんを待つかなぁ……」
待つにも後何分待つか分からないし、何より疲れた。
何処か座れる場所は無いかと探していると、視界の端に人影が見えた。
こんな時間帯にこんな場所。来るのは2人の内のどちらかに違いないと目を凝らした。
「あ、前原君!」
こちらからは逆光で見えないのだけれど、背が高く、肩掛け鞄のシルエットが見えたことから、1人の人物を特定していた。
だけど返しはこない。遠いせいだろうか、聞えなかったのかもしれない。
何かを持っているようにも見えるし、もしかしたら何かをしているのかもしれない。
先ほどよりもお腹に力を込めて、叫んだ。
「おーい!! まえばらく~ん!!」
「……ぁ、孝介か」
ようやくこちらに気付いたようだ。ここだよとアピールするためにも、手を振って見せる。
しかし、ここだとかなり見上げる形だ。1階と2階くらいの差があるのではないかと、改めてこの場所の高低さに驚かされる。
「ちょっと待ってろ」
何かを鞄に仕舞い込んだのち、前原君は足場の悪い場所を沼地をかき分けるかのように悪戦苦闘しながらもこっちに向かってきた。
シルエットが段々色を帯びていくように見える。顔がよく見えるようになると、僕は1つのことについて話しかけた。
「ちゃんと顔洗ってきたんだね」
「お、おう……それよりな、孝介……」
「うん? どうしたの?」
「あのじ…………。……いや、なんでもない」
「ん?」
前原君の顔には黒いシミ一つもない清潔な顔なのに、その表情は全く晴れていない。
口を大きく開いては閉じる。それを繰り返したのちに、先ほどの言葉を後悔混じりに呟いていた。
「どうしたの前原君? 何か困ったことでもあったの?」
「いや……そんな事ねぇよ」
言葉にはいつものような覇気はない。それだけで何かあったのかは分かる。
本人は隠したいことのようなので、これ以上は質問をするつもりはないのだけど……。
「レナはどうしたんだ?」
「え、あぁ……」
前原君は首を動かして、周りの確認を行っていた。
「竜宮さんは今道具を取りにいってるんだ」
「道具? どうして道具が必要なんだ?」
「退かそうとしても、梁が閉じ込めちゃっててね。どうしても取れないんだ」
囲まれている梁の中の人形を指差す。
「……なるほどな」
「だから、この梁を壊すために必要なものを取ってきてもらっているところなんだ」
「あ、2人とも~!!」
その声を聞いてまず思ったことは本当に早い、ということだった。
竜宮さんはあっという間にこちらまでやってきて、晴れやかな笑顔を見せる。
「圭一君も来てたんだね、ありがとう!」
「レナ……」
「凄いの持ってきたね。……それ一体なに?」
「うん? 鉈だよ」
「まぁ、切断にはうってつけだけど……」
竜宮さんに持ってるのは、普段見かけないような物騒な物。
もう夜になりそうな時にこんな少女が鉈を持っている姿を他人に見たら、さぞかし怪しまれる事だろう。とはいえ、これ以外に物騒じゃない物をもってこいと言われても返答に困ってしまうのだけど。
「どうしたの、前原君? 何か辛そうだね?」
竜宮さんが前原君の顔を覗き込みながら、質問をしている。やはり考える事は同じのようだ。
「いや……何でもねぇ。ほらレナ、鉈を貸してくれ」
「あ、うん」
受け取った前原君はすぐに梁を叩き始めた。渋い顔をそのままに、彼は力を込めて打ち付ける。何度も何度も叩く前原君の姿は何かを振り払うように迷いを鉈にぶつけているようにも見えてしまった。
そして、
「よし、これでいいだろう」
「うん。これなら退かせられそうだね」
「だな。みんなで引っ張るからな……じゃあ行くぞ、せーの!」
壊れた梁を退かして、人形を引っ張りだそうとしたら、意外にも簡単に取り出せた。
ぽろぽろと埃が落ちるが、比較的土をかぶっていないことから、綺麗に見えるケンタくん人形は、みんなに向けて笑顔を見せていた。
「ほらよ、レナ」
「はぅ~! ケンタくん人形かぁいいよぉ~!!」
「良かったね。竜宮さん」
僕の言葉は聞こえていない。彼女はケンタくん人形の不気味な笑みに頬ずりをしていた。本当に嬉しそうで何より。
……しかし前原君は人形たちと違って終始仏頂面のまま、帰路に着くまでずっと表情を変える事はなかった。
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