「さぁて、今日は圭ちゃんいないし部活は無し! それぞれ好きなように遊んでいいよ!!」
放課後を迎えた今日。園崎さんはクラスメートが帰り支度を始めている最中にそう報告していた。
「をーほっほっほ! せっかく圭一さんのために特上のトラップを用意させて貰ったのに残念ですわー」
「そうだ。今日魅ぃちゃんと一緒におはぎを作ろうと思うんだけど、一緒に作る?」
「……今日は近くで安売りしているジャガ芋、人参やカボチャがあるのです」
「り、梨花! 朝も言っていましたが、カボチャは不要でしてよ!」
何故かカボチャだけやけに食いついていた。
苦い顔になっている北条さんに対して、僕はある1つの仮説が出来た。
「何、北条さんってカボチャ嫌いなの?」
「そ、それは……」
「…………沙都子はカボチャが苦手なのですよ、にぱ~」
「り、梨花~!」
「別に隠すことじゃないから大丈夫でしょ」
園崎さんにそう窘められた北条さんは「うぅ……」と呟きながら、俯いてしまった。
なるほど、彼女にとって嫌いな、苦手なものを知られることはあまり良しと思わないのだろうな。
まぁ、僕もそうだから何とも言えないけど。
北条さんがちらちらとこちらを見てくる。別に先ほどの情報だけでどうこうしようと思わないのに……・。
「も、もう行きますわよ梨花。それでは皆さん、また明日」
「……また明日なのですよ」
「あ、うん。またね」
「……梨花、先ほどのことは今後口をチャックに……」
こちらに背を向けてもなお、言い合っている二人はとても楽しそう。いつもあんな仲睦まじい関係を築けたらいいだろうな、なんて園崎さん達が鞄をしょい込むまで考えていた。
「さて、あたしはレナと一緒におはぎ作りに専念するとしますかぁ!!」
園崎さんも気合い十分のようだ。誰もいないからと言っても、教室の中で叫ぶ程の気合い。
手と足にストレッチを施しているけど、別に足は関係ないのではないのだろうか……。
「今日は孝ちゃんは来ないようだし、レナと2人で目指せ50個!」
「それ前原君の胃にもたれるだけだからやめてあげて!」
「しかもわさび入り!」
「病人になんという仕打ちなの!?」
どうやら僕は参加しない形になるようだ。来なくて良かったと思うべきか、行って止めるべきと思うべきか。非常に悩ましい問題である。
僕が苦笑いしてると、向かいに立つ竜宮さんも園崎さんに笑いかけていた。
「うん。圭一君においしいって言って貰えるように頑張るよー」
「くっくっく。圭ちゃんにどんな面白い事させようかねぇ!」
「……え? わさび以外に何かするの?」
「そりゃあもう、思いつく限りのことをだね……」
「圭一君にあんまり過激な事をしちゃ駄目かな、かな?」
流石に竜宮さんのストップがかかる。やはり竜宮さんも前原君に対する行為に目を伏せる事は出来なかったのだろう。
僕と竜宮さん。2人に言い寄られては園崎さんも強行は出来ないようで。
降参と手を上げて、彼女は自重を誓ってくれた。
「分かってるってぇ。まぁとりあえず外出ようか」
そう言いながら、僕らは廊下に出て玄関口を目指す。
「本当に何もしないよね?」
「何? おじさんのいう事は信用できないの?」
「いや、そういうことじゃないけど……」
「あっはっはっは! 圭ちゃんの身をそこまで案じているなんて、孝ちゃんもかなり優しい性格だねぇ。そんなんじゃ部活に勝てないよぉ」
「……ねぇ、魅ぃちゃん」
「何?」
「あれ」
僕たちは靴箱から入れていたものを履いて、玄関を通ろうとしているところだった。
いつも通り家を目指すだけの工程の1つ。足を止める必要性は無い。
なのに先行していた竜宮さんは外に出て一歩も動かなかった。何かあるのか、僕らも竜宮さんの見ている先に視線を合わせる。
校門に車が留まっている。それだけが普段と違っている箇所だった。
「普段見ないね、あの車」
「ねぇ魅ぃちゃん。あの車って……」
「ちっ。大石さんだね」
「大石……さん?」
「んっふっふ~。私の事を呼びましたかぁ?」
含みのある、ねっとりとした言い方。近くでこの声を囁かれれば鳥肌が立ってしまいそう。
そんな声が後ろから聞こえたので降り向けば、中年太りのお腹を見せつけた男性がいた。年期の入ったしわを寄せ、黒髪に白髪を交えて灰色になった髪の男性だ。この人が先ほど言っていた大石さん、という人なのだろうか。
園崎さん僕らの代表というかのように1歩前に出る。
「大石さん。みんなの税金貰っといて、相変わらず警察の人は暇そうだね」
「んなっはっは!! それを言われると、ちとキツイですねぇ。ま、今回は千恵先生に話があっただけですから」
その時、僕と視線があった。
「おんやぁ~? この子はどこの子ですか? 記憶に無いですねぇ」
「あ、えっと……?」
僕に振られたので、自己紹介しようとしたのだが、園崎さんが手を伸ばしてそれを制してきた。
園崎さんの表情は威嚇、相手をじっと見つめて、何も言わせない、関わらせない。そんな強い意志が目に宿っていた
「孝ちゃんだよ。篠原孝介。新しく来た転校生」
「なるほどぉ。こんな寒村にもまだ来てくれる人がいるとは。いやぁありがたいですねぇ」
大石さんは若干周りを引かせるような笑いをした後、僕に手帳を見せてきた。
といってもただの手帳では無い。警察だけが持つとされる特別な手帳。
それが意味することはただ一つ。
「警察……の方ですか?」
「んふふふふ、ご名答。大石蔵人です。以後お見しりおきを」
自己紹介はそこまで、と思ったのだが、まだあるらしい。
手帳を片付け僕だけを見てきた。
「丁度いいですねぇ。篠原さんとゆっくり話したいのですが、お時間よろしいでしょうかねぇ?」
時間なら確かにある。だけど……。
ちらっと園崎さんを見ると、彼女はとても嫌悪感に満ちた目で大石を見ていた。
どういう訳か分からないけど、園崎さんはこの大石をひどく嫌っている。でも警察だ。何か悪いことが起きるとは思えない。
急に寄りかかってきた身元不明の船。はたして乗っていいものか……。
「車の中なら涼しいですし、嫌なら途中で下りて貰って結構です。なんなら送っていきますよぉ」
矢継ぎ早にそう言われても、更に迷うだけ。
大石さんはそれが狙いだというのに、未だ気づけない自分がいた。
「レナは別に孝介君を止めたりしないよ」
隣に寄ってきた竜宮さんは僕に囁くようにして、助言をしてくれた。
僕も大石さんには聞こえないよう注意を払いながら、声のトーンを落とす。
「どうして? 竜宮さんは大石さんの事、嫌じゃないの?」
「どっちって言えば、嫌だし苦手だよ。でも大石さんはこの村によく来るし、警察。仲良くしてもいいと思う。でも、話すなら気をつけてね」
竜宮さんは後の事を考えるべきだ、と僕に言ってくれているのだ。
その言葉は十分、自分の中で決断するにたる要因となった。
「分かりました。ちょっとでいいなら……」
「ちょっと、孝ちゃ――――」
「魅ぃちゃん」
抑えた声。それでも言葉を一閃するかのように、ハッキリと聞こえた竜宮さんの声は、園崎さんが続けようとした言葉に制止をかけていた。
そしてすぐに見せる笑顔。
「レナ達は先に帰るね」
有無を言わせないような雰囲気で、園崎さんと一緒に帰っていった。
多分後で説明をしてくれているだろう。
そして、2人を見送ることも出来ず、目の前には微笑みかけてくる男性が1人。
「さぁ、車に乗りましょうか」
そう言って僕を誘導してくれた。
大石さんだぁああ!
こっから話は大きく転ぶような気がしないでもない……