「怪奇……ですか?」
「毎年ですがね。必ず1人消えて、1人死んでしまうんです。祭の後に」
「1人消えて、1人死んでしまうって……そんな……!」
ダム建設のあの事件に続いて怪死が存在する事件。それも毎年だ。
竜宮さんはあの時、僕に打ち明けたあの時そんなこと言ってくれただろうか。いや、言ってくれていない。それはつまり、まだ僕を信用できずに隠しておきたかった事実……。
彼女たちは僕に嘘は言わずとも、必要な部分しか伝えてくれなかった。
まるで村の表だけを見せて、裏はひた隠しにするかのように……。
それは、信用されていないからの表れだろう。そう思えば思うほど、胸の中に残るもやもやは大きくなるばかりだった。
「古手家の頭首、妻と北条家の夫婦がその怪死事件の犠牲者です」
大石さんは、吹かしていたタバコを車に内蔵されていた灰皿容器の中でもみ消した。
「……見事なまでに村から意味嫌われていた人達が犠牲になりましたね」
詰まる声を誤魔化そうと自然と声が大きくなる。
「そう。私はバラバラ殺人事件と同一人物による仕業と考えているのですよぉ」
確かにこの3つの共通点を述べれるとなると、反対派にはあってもおかしくはない。殺されてしまう理由が。そしてそのタイミングが。
「犯人が、園崎家……という事ですか?」
「んっふっふ。その通りです。ですが実際に殺しているのは園崎家では無いとされていますがね」
「この事件ですがねぇ。実は村人達ではこう言われているんですよ」
「……」
「『オヤシロ様の祟り』ってね」
「オヤシロ様……」
あまりに具体的な説明と警察という身分だからか、真実味がある。
既に、仲間を信じる自分と大石さんを信じる自分が闘っていた。
いや、少し仲間を信じたい自分が劣勢といってもいいかもしれない。
仲間だと信じていたはずが、こんなにも隠されてきた。だって仲間だと思っているならきっとあの時、ダム建設跡地での場で全部言ってくれるはずなのだから……。
それを隠し続けるということは、つまりそういうこと。彼女たちは僕にどうして欲しいのかさえ見えてこなくなってしまう。
大石さんもそうだ。今までのいう事が全て本当だと、言い切れる確証のないもの。全て自分の想像で補っている部分が多い。
……僕は、どっちのいう事に納得するべきなのか。分からない。
「ここら辺じゃあ、有名な神様ですよ。園崎家は村人にこのような噂を流す事で、自分達の影を隠しているんです」
得意げに話す大石さんは手帳をパタンと閉じる。
「…………実際に園崎さん達に聞いた事あるんですか?」
「犯人が自分の事を暴露するとお思いですかぁ。んふふふ……」
「そう……ですよね…………」
「ですが、北条家等の事件について、園崎家は否定をしなかった。それだけは覚えておいて下さい」
僕はその言葉に反論も出来ない。
ただ下唇を噛んで、己の葛藤に苦しんでいた。
「んっふっふ、お話はこれ位にしましょうかねぇ」
結局終わってみれば、自分は手の平で踊らされ続けただけだった。大石さんは自分のペースに引き寄せる事が出来てさぞご満悦なことだろう。
俯いていた時、車が小刻みに上下に揺れはじめる。大石さんが車のキーを回したのだ。
「どこまで行きますぅ? 前原さんのお家までなら、最近お話したので、ご存知なんですがねぇ……」
その一言に脊髄反射的に僕は聞き返してしまった。
「え、前原君と話をしたんですか!?」
「はい。と言っても、篠原さんより大まかな内容でしたがねぇ、んふふふふ……」
「……」
前原君もこの話を聞いていたとは……。その事実は大石さんが考える以上に面倒な事態に発生してしまうことを予言したことと同じように聞こえる。
「それで、どうしますかぁ?」
「い、いいです。歩いて帰りたい気分なので」
正直今はもう、誰とも喋りたくない。1人になりたいのだ。
だからこそ、大石さんの申し出には応じない。
「んっふっふっふ。了解しましたよ」
あまり気にしてはないようだ。もしかしたらその言葉を予想していたのかもしれない。
簡潔な一言と共に、大石さんは僕に1枚の紙切れを渡してきた。受け取ってみると、名前と電話番号が書いてある。
「渡したのは私の番号です。ここに掛けて貰えばすぐに私に繋がるようにしてありますので」
何が言いたいのか明白。今は聞き込みはせず、後に情報を引き出していきたい。そんなところだろう。
「分かりました」
ポケットに入れて扉を開けた。外の蒸し暑さをムンと肌で感じていると、「待ってください」と呼び止められる。
「これは言わば忠告なんですがねぇ」
「……まだ何かあるんですか?」
「真剣に考えて下さいよ」
大石さんの目は本気で、その真剣な表情に少し寒気を感じてしまう。
「……何の話ですか?」
「次の事件、実は前原さんと篠原さんが危ないと私は踏んでいます」
「……え……?」
先程の流れからいって、綿流しの後の事件の事を話しているのだろう。だが、僕達が狙われる理由は存在しないはずだ。
だって自分達は悪い事は愚か、村人達には好印象なのだから。
それなのに僕達が殺される?
流石に机上の空論すぎる。有り得ないと言い切れる内容でしかない。そう考えると、怒りよりも先に笑いが込み上げてきそうだ。しかし真剣に忠告されている身、その感情は抑えた。
「何で……僕が狙われるんですか?」
「ここから先の話は、貴方が協力関係になってから話します。話し過ぎると貴方が危ないのでね」
「……」
何も言わなかった。いや、言えなかった。
「決して他人に言ってはいけませんよ。特に園崎さん達には」
「……」
答える事なく、僕は扉を閉めた。
祝、10万字を超える! この小説も長いこと、ちまちま書き続けていたかいがあったというものですよ。