ひぐらしのなく頃に 決 【訳探し編】   作:二流侍

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■訳探し編【Ⅴ-Ⅴ】

「――――とまぁ、仕事先で困ったんだよぉ」

「ふふっ。それはお疲れ様」

 

 今日は父さんの帰りが早いようだ。僕が帰るころには、すでにゆったりとしたTシャツを身に纏っていた。今は食卓で母さんと2人、仲良く談笑している。

 久々の家族全員揃っての食卓。機会が少ない分、こういった事には喜ぶべきだと言うのに、心は曇りがかかって、晴れていない。何かが自分の心の中で霞みを生んで自分の真相を見えなくしている。自分自分じゃない、そんな気にさせた。

 そしてそれは自分の食事速度にも影響している。……いや。影はなく、実際に食事速度に響いていた。

 

「おい、どうした? 箸が全然進んでいないじゃないか」

 

 そんなの今の食事量を見れば一目瞭然のようで。

 ゆっくりと自分は顔を上げて、父さんを見て、僕は首を傾げた。

 

「何?」

「何じゃないだろう……。どうした? 何か悩み事があるのか?」

「まぁ……ね」

 

 一口サイズのご飯を摘んで、自分の口の中に入れる。

 心なしか小さく、少しだけ固くなった米粒が無性に悲しかった。

 そんな姿を2人が見過ごすわけもなく。

 

「どうしたの? 私達に相談出来る事なら話してくれない?」

 

 母さんの優しさに触れながら、僕はゆっくりと首を振る。

 

「ごめん。話せるような内容じゃないし、それに自分でも気持ちの整理が出来てないから……」

「そう……」

「くよくよするのはよくないぞ。お前だって男なんだから」

「あなた、今はそういうことを言うべきではないでしょう」

「……あ、あぁ。そうかすまない」

 

 尻ごみする父さんの発言を無視して、母さんは自分の瞳をじっと見つめてくる。

 それがまるで、今の不安を見通されそうな気持ちになってしまい、視線を逸らしてしまった。

 

「友達に相談は出来ないの?」

「あ、それは……」

 

 咄嗟に言われた選択肢。友達。

 ……言える訳がない。内容はなんたって、その友達の事なんだから。

 園崎さん、竜宮さん、北条さんに古手さんに隠された事実。そしてそれらの節さえも見抜くことが出来ず、ノウノウとそばにいた僕。この関係を世の中では『仲間』と呼べるのか。

 

「……つッ!」

 

 痛みが自分の身体で広がるのを感じる。そこでようやく自分が下唇を強く噛んでいたことを理解した。

 

「もしかして友達の事?」

「……」

「そうなのね?」

「……そうだよ」

 

 ぶっきらぼうに言っておく。自分の思いをぶつけ、その言葉は気持ちの吐露となっていた。

 相変わらず母さんの察しの良さには舌を巻くものだ。だけどそれが今は恨めしくも思う。

 自分の中を見透かされるようで、そして勝手に決めつけられたような気がしてしまうから。

 とにかくこれ以上は騙すことが出来ない。そう思った僕は半ば諦めといった感じで首肯した。

 

「友達? なんだ、喧嘩でもしたのか?」

「そんなのとは違うよ」

「じゃあ父さんたちに気を使う事ないじゃないか」

「……難しいこと言わないでよ」

「は?」

 

 父さんの言いたいことだって分かる。何も分かっていない父さんには僕の言っている内容は滅茶苦茶で、よく分からないものだろう。

 だからこそ、その言葉が辛かった。

 

「僕だって……よく分からないんだ……! 父さんたちに伝えて、悩ませる意味があるのかって。困るのは、他の誰でもない自分じゃないかって!」

 

 答えなんてあるのか。そう、僕はそれが分からない。見えない答えをひたすら求め、迷走している自分にアドバイスを受けたところで、明確な道を導き出すことが出来るのか。

 その怒りは誰に向けられたものか、よく分からなかった。

 

「孝介……」

「……ごめん」

「私達に言えない事なら、追求はしないけど……」

 

 母さんは僕に気を使ってくれたんだろう。その言葉は非常に弱弱しく、深く追求することを恐れているようにも見える。

 その優しさは僕の中でも、遠い自分の心にも感じる。それと同時に何かを言わないといけない。そんな気にさせてくれた。

 

「おい?」

 

 しかし、これを言っていいのだろうか。大石さんの言葉を鵜呑みにし、この村の隠された真実を教えて、僕は親にどうして欲しいのだろう。友達のことについてどう助言して欲しいのだろう。

 ……そんな簡単な内容でさえ、僕の中では大きな障壁となっていた。

 

「孝介、聞いてるか?」

「聞いてるよ」

「なら――――」

「孝介」

 

 父さんの言葉を食って掛かるようにして、母さんは僕の隣まで移動してきた。

 そして座っている僕を後ろから抱きしめてくる。

 

「え!? ちょっと!」

「……すごい震えてるわ。怖いことがあったのね」

「ぅ……」

「ずっと……1人で抱えようとしているのね。誰かを想って、誰かを恐れて」

 

 僕の口は、開いたまま固まってしまう。

 

「ごめんなさい」

 

 母さんは何故か謝ってきた。

 

「私は……あなたがこんなに怖い思いをしているのに気付かなかった。たった1人の息子のことさえ何も気づけない母さんを許して」

「そ、そんなこと……」

 

 そんなことされれば、怒ることも出来なくなってしまう。毒気を抜かれたかのように、自分の中でモヤモヤしている気持ちが少しだけ抜けるような気がした。

 それは自分で分かったことがあったからだ。今の母親の言葉はまさに自分にも言える内容、当てはまる真実であると。

 そして、今の自分は、まんま園崎さんたちが感じている不安そのものなのだと。相手を想い、自分だけで隠しきれるか、そして相手にどう思われてしまうか。そのような不安も感じてなお、1人で抱え込もうとする決意。

 

「はは……」

 

 自然と笑ってしまう。だって自分が感じている不安を相手にもしているなんて、なんて滑稽な話なんだろうか。

 でも、それでもやはりそれが仲間なのか、という気持ちは変わらない。

 隠す理由は分かっても、伝えられる信用を与えられていない。それは仲間としての要素に欠ける。

 だったら言わなければならない。

 自分がそうして欲しいように。家族に打ち明け、信じてもらい、自分の心境について考えてもらえればいい。例え答えを迷走し、道を導き出せずとも、その場で踏みとどまることこそが最も恐れるべきことなのだ。

 今なら分かる。それが僕の望んだ、そしてやるべきことなのだと。

 

「……父さん、母さん。この話をしたら二人にも危険があるかもしれない」

「また……いきなりだな。そんな大層な話が、」

「あなた、少し静かにして」

 

 叱られた父さんは少し意外な顔をしながらも、口を閉じてくれた。

 母さんは僕から離れて、隣に座って微笑みかけてくる。

 

「孝介、話せるなら母さん達に相談しなさい。私達は孝介の言葉を信じる。例えどんなことがあっても味方で居続ける。それは、ずっと変わらないわ」

 

 その言葉は、どんな言葉よりも自分の心に響いた。

 

「……ごめん」

「謝ることなんてないわよ。今までやってきたことがなかったのを後悔していぐらいだから」

「話は一週間前に戻るね――――」

 

 見えない答えを見つけるために、自分は再び歩き始める。




やはり親と相談するってことは大切ですね……。
昔の頃を思い出しながら書いていました。
正直に言うと、このやり取りは自分の実話をもとに書いていましたね。……父親はいなかったけど。

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