ひぐらしのなく頃に 決 【訳探し編】   作:二流侍

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■訳探し編【Ⅴ-Ⅶ】

 廊下に置いてある電話機。これほど遠いと感じたことがあっただろうか。それほどまでに、自分の中で受話器を取ることを恐れている。

 だが今は受話器が外された状態。相手が待っている以上、自分の身勝手な理由で待たせるわけにはいかない。そんな偽りの気持ちを強く押し出しながら、受話器を手にして耳に当てた。

 

「…………もしもし」

 

 返事が全くない。しばらく待って、もう一度言おうと思った時だった。

 

『孝介……君……?』

 

 恐る恐る、何か下からものをいう言い方といえばいいだろうか。

 彼女の言い方には躊躇いが感じ取れた。それは、夜遅くに電話してきたことに対する悔いなのか、それとも別の意味なのか。

 

「…………竜宮さん……」

『今大丈夫かな、かな?』

 

 食卓の方に目を向ける。

 父さん達はこちらには目を向けず、ただ楽しそうに会話をしているように見えた。

 

「うん大丈夫だよ。竜宮さん」

『あのね、今日の事なんだけど、会えないかな? かな?』

「……大石さんの事?」

『えっと、それもあるけど……とにかくダム建設跡地で会いたいんだ』

 

 それも彼女にとってはそれは何か大きな枠組みの1つとして見ているのだろう。

 ……こっちは真剣に悩んでいたというのに、だ。それは怒りよりも悲しみの方が大きかった。

 遠回りな言い回しはしたくないので、率直に言わせてもらう。

 

「またこんな時間に、どうして?」

『……実は、圭一君の事で話があるんだ』

「え……?」

 

 前原君に何かあった……ということなのだろうか。

 

「それってどういう意味!?」

『……ごめん。ここじゃ話が出来ない』

「何で!? 別にここで話をしたって……」

『それ以上は言えない。だから――――』

「何だよ……それ」

 

 口調が荒々しくなったことに僕は慌てて口を閉めた。

 まただ。また竜宮さんは僕に隠し事をしようとしている。

 それはこの状況では言えないことなのか、ただ僕を信頼出来ていないのか。そんな気にさせられる。

 辛い事実をグッと堪えて、再び聞いた。

 

「ねぇ。本当に、前原君の話だよね?」

『う、うん。どうしたのかな、かな?』

 

 明らかに戸惑っている。僕がこんな聞き方してしまうのを彼女は意外に感じてしまったのだろう。

 それでも、僕は聞かずにはいられない。

 

「正直に答えて。前原君の話とか言って、僕を……騙そうとかしてないよね?」

『……大石さんから何か聞いた?』

「違う。僕が求めてる答えは……それじゃない」

 

 ―――1歩踏み出す勇気が必要なの

 先ほど言ってくれた母さんの言葉が頭の中で反芻している。

 そうだ。仲間に頼る、頼られるためには、自分から聞き出すことも大事なんだ。

 恐怖に打ち勝つためにも、僕はあえて恐怖と向き合う。友達に疑う、という事を。

 そして……友達を信じないといけない。

 

『そう……だよね……』

 

 竜宮さんの答えは、迷い迷いの答えだった。

 

「右腕が無くなる事件以外に、怪奇的な事件があったんだよね」

『それは……』

「お願いだから、躊躇わないで……!」

『……神隠しにあう事件があるっていうのは、レナも聞いたことはあるよ』

「本当なんだね」

『……うん』

 

 やはり大石さんが言ったことは正しいということになる。

 彼女が……嘘。

 そう、嘘になった瞬間だった。

 出来れば、僕の情報が嘘だって、言って欲しかった……。

 村に伝わる秘密を知ってしまった恐怖。黙っていたことへの怒り、悔しさ。そして、まだあるのではないかという疑念。

 そんな負の感情は自分の中で大きな自分を生み出し、今も出てこようとしている。

 勝たないといけない。この感情に呑まれたら、駄目だ。

 ――――仲間なら信じろ。ぶつけてみろ。それが正しいなら、きっと相手にも伝わるはずさ

 父さんの言葉を今借りる。

 そう、ぶつけるのだ。この恐怖を取り除くために。

 

「他にもあるでしょ、竜宮さん。その事件の事についてまだ情報が」

『……オヤシロ様の祟りのことかな、かな?』

「それだけじゃない。北条さんのことも、園崎さんのことも、古手さんのことも。全部、全部知ってたんでしょ?」

『うん』

 

 淡泊な回答に思わず聞かずにはいられなかった。

 

「僕らは仲間……何だよね?」

『どうして今、そんなこと聞くの?』

「いいから。答えて」

『そうだよ。私たちは仲間、そして――――友達だよ』

 

 友達、その言葉は今の僕には重すぎる単語だ。

 

「友達……ねぇ、竜宮さんは前言ったよね? 嘘を付くのも、付かれるのも嫌いだって」

『う、うん……』

 

 向こうはいきなり話を変えられたようで、戸惑っているようだった。

 仲間にぶつけるんだ、この想いを、この不安を。

 

「だったら……竜宮さんが嘘付かないでよ……! 僕は信じていたのに、嘘付かない君を、その言葉と君の気持ちを!」

『孝介君……』

「だから…………信じさせて。頼りたくて……それで頼ってもらいたいんだ! 僕はまだ仲間なんかじゃないって、ずっと不安で、恐くて……こうやって何も伝えられないと何もかもが分からなくなって……」

『そんな事、ない!』

「じゃあ何で黙ってたの!?」

 

 靄の中にある言葉が次々と吐き出されていく。段々口調は荒くなってしまう。それでも気にしてはいけない。

 想いをぶつけるために、自分は自分の気持ちを言っていく。

 

「……どうしたらいいの? 僕は竜宮さんの言葉を鵜呑みにしたらダメなの? それとも竜宮さんは鵜呑みにした僕を笑いたいの?」

『そ、そんなことない!』

「じゃあ教えてよ! あの時、あの場所で。全てを信じると僕が言ったあの時に!!」

 

 受話器の向こうが静かになる。

 悲痛に叫ぶ僕の声はいつの間にか、枯れて裏声になってしまう。それでもなお思い返されるのはダム建設での2人で話し合っていた。あの瞬間。

 あの時に、全部を言ってくれたら、こんなことにはならなかったのに……!

 

『孝介君にあの時言っても信じてくれなかった! あの時は、事件の事だけでもショックだったのに……』

「それで、苦しんでるのは……僕なんだよ……」

 

 全てを信じたい、だからこその苦痛。僕はきっと我が儘を言っている。

 それでも……言うのをやめない。

 

『違うよ、孝介君……!』

「何が違うの! もうそんな曖昧な言い方で誤魔化さないで……!」

『……』

「黙ってないで何か言ってよ」

『レナも、言いたかった』

「言いたかったじゃなくて、言ってよ!」

『レナも……苦しかったんだよ……』

 

 その瞬間、僕は言葉を失ってしまった。

 竜宮さんも、苦しんでる?

 その言葉には驚きしかなかった。いつも明るく振る舞っていた彼女。ニコニコとひまわりみたいに笑って嬉しそうにみんなと歩いていた彼女。

 そんな時、ずっと彼女は苦しかったとでも言うのか。そんなそぶり、1回として見せてなかった。

 

『レナは、孝介君たちがこれ以上辛い想いをしてほしくなかった! 分かってた。2人を騙していたこと、そういう事をするの自分が一番嫌いだってレナは知ってる!』

「竜宮……さん」

『だけど!! そうするしか孝介君たちと一緒に居られないと思ってて! そうしないと、孝介君や圭一君は……どこか行っちゃんじゃないかって……』

 

 電話越しから伝わる彼女の叫び、そして相手を想いやる……優しさ。

 僕らと一緒にいたいから、だから隠していた。誤魔化してた。

 だって、それはたった1つの想いでしかない。

 

『ずっと……友達でいたいから』

 

 だから嘘をつく事を選んだ。

 彼女はそう言って、黙ってしまった。

 

「で、でも……あの時も村を好きでいてもらいたいって、それだけで……自分たちのことは何にも……」

 

 彼女自身、苦しんでるなんて言ってなかった。

 あの時は僕らの事ばっかり語って自分のことなんて一切言わなかった。気にさせるような言動も無かった。

 よく分からずに混乱する頭でも、これだけは言いたいと思えた。

 

「辛いなんて……一言も、言ってなかったのに」

『あはは……そんなの当たり前だよ。だって、ずっと疑われるんじゃないかって想いを言ったら隠すことが出来ないから。いつかばれて、自分たちに疑いの目が向けられるって恐怖もあるから』

「それを、ずっと隠してたの? 僕……前原君が来てから、ずっと」

『魅ぃちゃんも、梨花ちゃんも、沙都子ちゃんもそう。みんな、圭一君たちに騙してる罪悪感があった。後悔があった。裏切っているって魅ぃちゃんなんて泣いていたよ』

「それなら……!」

『……でも、それ以上に部活での喜びの方が何十倍も私達の想いを強くさせてた』

「部活?」

『うん。毎日が楽しみで、放課後になったらみんなで騒いで、遊んで、ふざけた。そんな日々を……私達は選んだんだ』

 

 思い返される日常、突発的に行われては毎回火花をまき散らし。トランプなんて毎回カードの細工当たり前、みたいになっていた。

 罰ゲームだったらどこで入手してきたのか分からないようなメイド服やら、バレエで使う衣装のようなものを着させられたり。

 そんな馬鹿げた日々は……とても楽しかった。僕だってそう言える。いや、そうだったはず。

 何で忘れていたのだろうか。ずっと前に望んでいた内容だ。こんな日々が続けばいいって。

 それなのに……いつの間にか自分の中で考えることが出来てしまって、変な空想を描いてしまって……自分から、そんな日々を壊そうとしていた。

 分かっていなかったのは、自分だった。

 

「僕もそうしたかった……」

『分かるよ、孝介君の気持ち。さっき痛いほど伝わってきたもん』

「でも僕なんて……何も楽しませることなんて出来ていない。みんなが楽しませてくれただけで」

『そんなことないかな! かな!』

「え?」

『だって、同じ部活”仲間”なんだもん。これからもずっと、一緒に楽しみたい。だから、』

『レナを……私たちを信じて!』

 

 仲間、ようやくその言葉を全身に感じ取った気がする。

 その瞬間やってきた嬉しさと……安堵。

 心の霧はまるで逃げるかのように散っていく。晴れた世界はどこまでも広く、そして――――澄み切っていた。

 その時、伝うようにして流れている頬の感触は、今の喜びを表したものだった。

 

「ぅん……うん!」

 

 その言葉を何度も何度も繰り返している自分がいた。




大きく変わってしまいました。
本当に消去前の作品を見ていただいた方には申し訳ないことをしてしまいました。
しかし、個人的にはこちらの方が好きです。

迷惑をかけてしまいました。
この場で謝罪させてください。本当にすみませんでした……!
以降の謝罪内容については活動報告に書かせていただきます。
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