ガタンっ!!
車は少し大きめの石を踏みつつ、ダム建設跡地までガスを吹かし続ける。やはり舗装されていない道は凸凹で車は何度もバウンドし続けた。しかもダム建設跡地はひとどおりが少ない場所。そのために道は狭く、村の道よりも凹凸の荒さが目立つ。当然か。元から新たに開拓するために簡易的に用意した道なのだから。
極力スピードを落としながらハンドルを回す父さんは渋い表情だ。流石にいくつもの曲がった道や舗装してない道を運転してきたとはいえ、慣れないものなのだろう。ただでさえ、今は夜道、目の前の車の明かりだけが、道を示す唯一の手がかりだ。フロントガラスから目を離すことなく、こちらに言ってきた。
「こんなところに道があったのか……孝介。揺れるから注意しろ」
「わかってるよ」
「全く、その友達とやらはこんな場所を1人で歩いてきたのか?」
竜宮さんのことを言っているのだろう。斜め後頭部座席から見える父さんの横顔は少しだけ不安げだ。もちろん、道から踏み外してしまえば崖と形容してもいいような急斜面の下に落ちてしまうも危惧しているとは思う。しかし、父さんが呟いた言葉にはもう1つの意味が含まれていた。
「竜宮さんは、その…………女の子だよな? こんな明かりのない場所だと襲われたら危ないぞ……」
父さんはこんな夜道をうろつくのはもしもの時に危ないのだと言っているのだ。確かに周りに助けてもらえるような家はないし、叫んでも誰も助けてくれない。明かりは無い以上、うかつに逃げ回ることも出来ないし、下に落ちればそれこそ助けを呼ばないと大変な事態になってしまう。そんな状況に、父さんは不安を感じていた。
「大丈夫だよ。竜宮さんは慣れているから。……それに誰かが竜宮さんを襲おうとしても、この場所で彼女はやられたりしない」
「ほ~」
「関心してるの? その言い方」
「まぁな。そして俺が襲うなら後ろからガバッといくかなとか思ってた。ぐへへ」
「……ここで事件が起きたら父さんを警察に差し出すよ」
相変わらず父さんの冗談は冗談に聞こえない。こんな親がいる子供はどうなってしまうか見てみたいよ。……まぁ、僕だけど。
「竜宮さんはそんなに慣れてるのか?」
「まぁ、長年歩き続けてるだろうからね。きっとすいすい~っとこんな道を渡るだろうし」
竜宮さんはこの道をたったかぁいいものを見つけるという理由で歩き続けた。
暗かろうが彼女にとっては目を瞑っていても渡ることが出来るくらい、体の感覚で覚えてしまっていることだろう。
そして、誰かが襲おうとしたものならという話は気にすることはない。きっと彼女は返り討ちに出来る。それはこの目で部活での経験、見てきたものがあるから確信めいた自信があった。彼女は機転が効き、ひっそりと相手の裏をかくことが出来る。時には相手が気付かないようなやり方で。それで何度苦渋を味わってきたことか。
そんな昔話を思い返して、つい笑ってしまう。心配なんて不要どころか、邪魔でしかない。
「竜宮さんのことを信用してるんだな」
「え……まぁ、そうだね」
そしてこれもまた、思い出す。父さんが口にしたように、自分もそんなことを言ったことを。
「前原君……」
前原君は仲間を信じる強さがあった。それは今もあるのだろうか。それとも……もうそれを信じることさえ疑ってしまっているのか。
僕に仲間の大切さを教えてくれたのは他でもない、彼だ。彼がいたから、僕は仲間を求めるようになって、仲間に助けてもらい……そして今なら仲間のもとへ向かおうとしている。
感謝をしてもしきれない。僕に出来ることはたった1つだ。今度は彼を助けていきたい。
……たったそれだけ。
「おぉ? 何か思いつめたような表情になっているな」
「べ、別に何でもないよ……」
「あながち友達のことでも悩んでいたってところか」
父さんはそう言いながら、ハンドルを反時計まわりに回す。もうすぐでダム建設跡地が見えてくるはず。そんな記憶を呼び覚ましている中、自分を呼ぶ声が。
「孝介」
「え、何? ごめん。なんか言ってた?」
「いや、別に。大した話じゃないさ。ちょっと聞いて欲しいことがあってな」
コンマ数秒の間を入れた後、彼は続けてこういってきた。
「ごめんな」
「え? いきなり何?」
「まぁ聞け。お前にずっと謝りたかったんだけど、タイミングを逃しちまってさ。今まで言うのを躊躇ってた」
「……なにそれ、父さんらしくない」
僕は笑う、父さんは笑わない。その2人の差が今の気持ちの差を表している。次第に自分も笑えなくなっていった。
父さんはそれを機に口を開く。
「ずっと前から仕事、仕事って言ってな。昔はお前との交流よりも会社での交流を優先していた」
「それは、前から分かってたけど……」
小学校の頃、父さんも母さんも共働きの環境で自分は育っていた。まだ働き始めて浅く、新入とは言わないが、中堅と出るには分からないような曖昧な時期だった。研修と言われては、親の都合で転勤もした。都会だから人との関わりは多いと言われては、休日でも家を出て行った。時間は夜遅いことなんてざらな話だ。
「お前を取り残して、家から出ていく……。そんなことばっかりしてたな」
「まぁ……そうだね」
小学校の頃はそれが特に辛かった。毎週遊べるような相手は出来る頃には、違う場所へ。宿題に困っても教えてくれる親はいない。取り残された自分は家が監獄にさえ感じていた。後ろを振り返っても誰もいない。そんな日々。
勿論ぐれてみたこともある。部屋に引きこもってみたり、わざと風邪を引いてみようとしたものだ。
だけど、大人と子供の事情は大きく違ったようで。
何回か呼びかけた後、父さんたちに聞こえた言葉は「じゃあ、行ってくるから」だった。
「……本当に悪いことをしたと思っている」
「別に、もう慣れてたから――――」
「ここを選んだのも、そういった理由がある」
父さんが意外な一言で僕の口を言葉で塞いできた。
ちょっと短いですが、これで投稿します。
今日は部活の公演なので、今から用意して向かわないと……!
今日の夜12時超えたあたりで、もしくはこの時間ぐらいにまた更新する予定です。
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