ひぐらしのなく頃に 決 【訳探し編】   作:二流侍

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Episode 『心の中』
■訳探し編【Ⅵ-Ⅰ】


 放課後がこんなに待ち遠しいと思う日は今後なかっただろう。もちろんあまりよろしくない意味で、だ。計画を立てた次の日、自分は蒸し暑い学校でずっと無言になっていた。やはり前原君は来てくれていない、その事実だけが心に重く圧し掛かっている。

 校長先生が打ち鳴らすベルが聞える。それはつまり授業が終わったと知らせると共に、やるべき時が来たと言う事。鞄を持って無言のまま出ていく。後ろから部活メンバーが見ていてくれた気がして、少しだけの安心感を受け取った。

 昨日の夜道に比べれば周りは明るく、いつもの村の光景が広がって見通しが良い。しかし、それでも自分の足取りは重い。どうしても不安は拭いきれない。

 大きくあいた間隔毎に電柱が点々と滞在していて、それを眺めながらずっと歩き続けていた。

 

『いい?孝ちゃんが出来ないと思ったら諦めてもいいから。その時はまたみんなで考えよう』

 

 園崎さんが最後にかけてくれた言葉が頭の中で、反響している。自分にとって初めてと言っていい1人での行動。

 思わず鞄の紐を強く握りしめる。その手は暑さのせいか、少し汗ばんでいた。

 今までこんな責任のある仕事をした事があるのだろうか? いや、仕事と言ったら語弊があるのかもしれない。ただ、仲間としての行動といったほうが正しい。

 今までみんながしてくれた。やってくれた。それを聞いては一緒に行動する。自分の今までを振り返ってみたら、そんな付き添いの人間でしかなかった。

 出来るのだろうか。どうしてもそんなことを思う自分がいる。そして、否定してしまう自分の存在もいることはいた。

 

「ここが前原君の家……」

 

 竜宮さん達の言葉通り、みんなの家と比べると、一回り大きい家のようだ。といっても、都会にある家と比べたらそこまで目立つ大きさでもない。

 家の構造は二階建てとなっていて、今はカーテンがしかれて中は見えない。夕方なので、明かりがついていない可能性もあるけど、実際はどうなのだろう。とりあえず静かな雰囲気であることは間違いない。

 本当にいるのか分からないまま、とりあえず前原君の家のドアを叩いた。

 チャイムではない、ちゃんと叩いた。そっちの方がちゃんと会えると思えたからだ。

 とにかく、いてくれる事を望むしかない。そう願いながら待つこと一分。

 ドアノブから何かを外すような音が聞こえた。ガチャリと音を立てると、ドアはゆっくりと開いた。

 

「な、なんだ。孝介か」

 

 その顔を見て、フッと緊張感が無くなりそうになる。良かった、いてくれたし出てくれた。

 だがドアのチェーンがかけられていて、そこからしか話し合えない状況に気づく。やはり前原君は僕と壁を作ってしまっていた。それが今はチェーンとなっているような気がする。

 前原君は何かに怯えていて、目が少しおどおどしている。まるで、何かに狙われた小動物のようだった。

 目の下には隈も出来ている。そんな姿を見るのが言葉にならないほどつらかった。

 

「ごめん、こんな時間に」

「な、なんだよ。…………俺は今忙しいんだ」

 

 その間の空け方、前原君が嘘をつこうとしているのがわかる。

 だけどそんなことは気にせず、話を進めた。

 

「明日の話なんだけど、明日の体育は水鉄砲をするから、もし銃を持っていたら持ってきて」

「あ、ああ。そんな事か」

「大丈夫? 体調不良だって聞いたけど……」

「そ、それを聞いてどうするんだよ?」

 

 ただ心配しただけでもこの反応。よっぽど心に正直になれず、疲弊している姿が目に見えた。

 

「いや、ただ心配しただけ……」

「そうか。じゃあな、みんなにはよろしくとだけ伝えておいてくれ」

 

 さっさと閉めようとした前原君に僕は待ったをかける。というより僕がドアを掴んで半ば強引に開けさせた。流石に僕の強引なやり方に目を見開く前原君。

 

「な、なんだよ! もう話は終わった――――」

「大石さんの話」

 

 その一言で前原君の顔が一気に青ざめていった。やはり前原君は大石さんに会って、それで彼が不安になってしまっている。

 大石さんのことを嘘だと言うのは簡単だ。だけど、彼にその言葉を信用させるには警察の肩書き以上の証拠を提示しないと、大石さんの言葉を疑ってくれないと思う。

 今は我慢するしかない。

 

「前原君も大石さんから話を聞いたって聞いたんだけど」

「あ、あぁ…………まさか、お前もあの話を聞いたのか!?」

 

 前原君自身興味のある話となったのか、いやに反応が良かった。扉が開かれると思ったのだけど、それでもチェーンは外さない。まだ警戒の色を解くには至らないようだ。

 やはり僕だから信じてくれた節がある。同じ境遇だからこそ、この話は通用したのだ。

 ……さて、ここまでは大丈夫だ。

 

「僕も話は聞いたよ」

「お前もか!? はは……そうか、そりゃあお前はむしろ被害者になりそうだからな」

「あの話を信じてるの?」

「え……」

「園崎さんたちの話でしょ? あれを信じているのかって聞いてるんだ」

「お、お前は信じてないのかよ!!」

 

 チェーンの事を忘れて大きく開こうとする前原君。そのせいで大きな音を響かせてしまった。前原君の親にばれないかと思っていたのだが、幸いにも僕たち以外の人の様子はないようだ。

 どこに行っているのか知らないけど、こんな状態の前原君を置いて仕事なんてなんて無責任な親……と昔の両親を思い浮かべながら思う。

 前原君は未だにまくし立てながら、

 

「あれだぞ、俺たちはもしかしたら、殺されるかもしれないだろ!?」

「落ち着いて、こんな場所で……誰に聞かれるか……」

「こんな場所だからだ! 今だって誰に見られているか」

 

 前原君の警戒心が別のところで強まる。いけない、このままだと彼の心中を知ることが出来ない。

 とにかく彼の家に入りたいと思った僕は少しだけ彼に攻めようとする。

 

「だって、あんなに突拍子もないようなことを言われても」

「突拍子もくそもねぇだろ!! あいつらはきっと俺たちを殺すんだ!!」

 

 根も葉もない言いがかりと誤解を解きたいのだが、ここで言っても聞いてもらえない。ここは手筈通り進めないと。

 

「……どうしてそう思うの?」

「どうしてもクソもあるか! あいつらは俺たちにあんな事件があったことを黙っていた。嘘をついていた! それが証拠だ!!」

 

 昔、僕が思っていた事と同じ。やはり前原君も被害者なのだ。だけど、僕と大きく違ったのは打ち明ける人がいなかったこと。この一点だけの差。

 この状況の前原君でも、間に合うのだろうか。期待しか出来ない状況のもと、とりあえず僕はこう言った。

 

「僕だってそれは思ったよ。……でも、確実にやったって証拠がない。彼女たちはやってないって言ってた」

「そんなのただお前を騙す言葉だけだ」

「そんなことはない。だって僕らは――――友達じゃないか」

「前にも言ったよな孝介? 友達なら、そんな嘘はつかない」

「……信じられないの?」

「孝介、同じ仲間だから教えてやるぜ。あいつらの言葉を信用したらダメだ」

「どうして……どうしてそんなこと言うの!?」

 

 その言葉は何より聞きたくなかった。前原君には最後まで信じてくれる仲間想いの優しさが好きだった。なのに今の発言、そは彼自身を否定することだとさえ思えたのだ。

 本心ではないと信じたい。いや、こんな虚偽ではなく、本心を知りたい。だからこそ、自分は強気で攻める事を選んだ。

 

「教えてよ前原君。僕も君と同じように疑っていた。信じられなかった! でも……まだ信じたい気持ちがあったのも本当だった。だからぶつかった、だから自分の気持ちの恐怖を吐けた。だから……今はこうしていられる」

「……」

「でも、今の前原君は僕とは違う。君は……もう誰も信じられていない」

 

 想いをぶつける。そうするしか今の僕には出来なかった。いや、そうすれば前原君も本心を語ってくれると信じていたからだ。……僕がそうであったように。

 

「……当たり前だろ」

 

 その言葉はあまりにも無慈悲に感じてしまった。

 

「何で、そこまで……」

 

 頑なに自分の心を見せてくれないのか。それとも本当に、彼はもう……。

 

「俺だってこんな事はしたくない。だけど、悪いのは……あいつらだ」

 

 口を閉じて、苦い顔をした後に前原君は急にドアを閉めると、何かをいじる音が聞こえた。その後外れる音と共にドアを開かれた。

 チェーンは外れている。

 

「こっちに来てくれ」

 

 僕の返事を待たずに前原君は家の中へと入っていった。まるで僕が断らないかのように、振り返って確認を取ろうともしない。

 予定通りというべきなのかは分からないけど、これは僕だけには信頼している、そういった裏返しの行動だとみていいのか。とにかく、前原君を追わないと。

 一言おじゃましますと言葉を口にしといて中に入った。

 玄関にバットがおいてあったのが気になった。

 普通なら気にはならないだろう。だが、そのバットは所々へこんでいて、とても使えるようなモノには見えなかったのだ。もはや使用用途が見えないそのバットは部屋の中にあるお札の如き違和感と歪さを醸し出していた。

 僕が目を取られていると前原くんがこちらを向いて説明してくれる。

 

「それは護身用だ」

「こんなもの、どこから?」

「……学校で借りたんだよ」

「何のために?」

「襲われた時に身を守るためだよ」

「襲われたとき……」

「万が一に備えてだ」

 

 だが前原君の真剣な顔つきには、そんな仮定の話で済ませていないのが一目瞭然だ。

 何も言えなかった。いや、言ったら次の言葉は彼への批難になってしまいそうだったからだ。

 出掛けた言葉を深呼吸で呑みこみ、そのまま僕も廊下を歩き始める。

 

「結構広い家だよね。お父さんって何してるの?」

 

 僕なりの気を効かせたつもりで言ったのだが、前原君の反応はなく、その足は台所へと向かっている。

 何故台所に? そう思っていた僕はそこで目にした光景を忘れる事はないだろう。

 

 

「嘘……でしょ…………」

 

 状況を見た僕はそう呟いていた。

 白い壁に打ち付けられた丸いあずき色の形。点々と付けられていて、汚く周りに飛び散っているのがわかる。もはや原型はなく、くしゃりと潰されたそれは、もはや何かさえ分からなくなっていた。

 でも、僕はこれが園崎さんたちの作ったおはぎだと分かる。分かってしまう自分がとても悲しかった。

 あれほど前原くんのことを考えて作ってくれたのに、結果このような無残なやり方で食べられないなんて……。一体なんて園崎さん達に言えばいいのだろうか。

 前原君はそんな事気にする様子もない。それどころか、地面に落ちたおはぎを踏みつけて進みながら、壁のおはぎを指差す。

 

「見ろ」

 

 片付けなかったのか、そんな言葉なんて今の僕に思いつくはずもない。冗談で済まされないこの状況。前原くんに言わずにはいられなかった。

 

「前原くん。なんでこんな事を! せっかく作ってくれたのに……!」

「なんで、だと!?」

 

 急に目を大きく見開いて僕を凝視してくる。なぜその対応を取るのか分からない。悪いのは明らかに彼だ。友達の想いを踏みにじる彼の行為は見過ごせるはずがない。

 思わず眉をひそめていると、前原くんは壁をもう一度指差した。

 

「これを見てなんとも思わねぇのかよ!?」

「前原君がこれをして何を見ろと……」

「違う!!」

 

 前原くんはおはぎを掴み取ると僕の前に突き出してきた。

 でもそこにはあんことそれを包んでいた皮しか存在しない。

 何故そんなものを見せつけてくるのか、全く理解できなかった。

 

「これがどうしたの?」

「どうしたのじゃねぇよ!!」

 

 あんこの中身をよく見るように指示される。確かによく見ると、中は少し赤みがかっているのが分かった。

 

「これはもしかして……辛子?」

 

 そうか。これが園崎さんが部活用に考えておくと言っていたものか。

 人の看病に辛いもの、流石の自分も苦笑いせずにはいられない。

 

「ははは……。園崎さんもよく考えるよ」

「馬鹿かお前はぁっ!!」

 

 怒号の叫びは僕の中の頭にガンガンと響いた。驚きを隠しきれない僕をよそに、前原くんは手に持つおはぎを再び壁に投げつけた。

 

「釘があるのがわからねぇのか!?」

「え……!?」

「あいつらは俺を殺そうとしてるんだよ!」

 

 そんなバカな。そう思って急いで確認を取ろうとする……が、

 

「そんなものは見当たらないけど……」

「くそぅ! 俺が何をしたっていうんだよ! あいつらが勝手に秘密にしてたことを知っただけで殺されるなんてごめんだ!」

 

 呼吸が荒く、目は大きく見開かれている。身体は小刻みに震え、必死に己の湧き上がる感情を抑えつけている。

 これも疑心暗鬼になったせいとでも言うのだろうか。あまりにも精神患者のそれを脱しているほどの狂気さにかける言葉が見つからない。

 

「ま、前原君……」

「嫌だ、いやだいやだいやだいやだいやだぁああ!!」 

「と、とにかく落ち着いて」

「これが落ち着いていられるかぁ!」

 

 突き飛ばされて、近くの椅子にぶつかってしまう。痛みが全身を襲うが、それよりも前原君のことが心配でたまらなかった。

 

「俺は死にたくない!! 殺されたくない……!」

「前原君!」

「落ち着け、そうだ、落ち着くんだ。COOLになれ、前原圭一……! 状況をよく考えるんだ」

 

 僕の声も前原君の耳には届いていない。返ってくるのは自分の中にある不安のつぶやきだけだった。

 どうしたらいい? こんな彼を僕はどうやって救えばいいんだ。

 悩む僕の前に、前原君はこう聞いてきた。

 

「お前は……俺の味方だよな……」

 




いくらぶつかろうとしても彼には届かない。だったら孝介はどうするのか。
彼の最後の言葉を受けての孝介は……

いや~。ここが大きな山場ですな。上手くいきますかねw
いつの間にか2か月書き続け、総話にしてもうすぐ50話。ちまちまと長いこと書いてここまでとは……
お気に入りは110を超え、UAは8000を超えるというありがたい話。
もう架橋を迎えているのですが、これからもよろしくお願いします!
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