ひぐらしのなく頃に 決 【訳探し編】   作:二流侍

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■訳探し編【Ⅵ-Ⅱ】

「とにかく落ち着こう。精神的に参っているし、話は椅子に座ってからでもいいし……」

 

 精神的に参っている、その言葉に嘘はない。それは彼の目の隈が何よりの証拠となり、今までの情緒不安定な行動も納得できる。

 そして、こんな状況にまでなっている彼を放っているご両親の姿に非常に腹が立った。こんな時にこそ、親というのは相談に乗って助けてあげるべきだと言うのに……。

 だがいないものは仕方がない。彼の細く、すぐにでも切れそうな精神の糸を繋ぐには自分しかいないのだ。

 

「あ……そうじゃなくてだな……」

「とにかく」

 

 僕は未だに応えを求めようとしがみついてくる彼を立たせ、台所近くの椅子に腰かけるよう誘導する。

 何度も崩れ落ちそうになる彼を肩で支えながら、僕は彼にこう言っていた。

 

「味方なのは当然だよ。僕は前原君に助けてもらったんだ。恩を仇で返すような薄情ものじゃない」

「だ、だよな! 俺だけを信じてくれるよな!?」

 

 前原君が言った言葉の裏には期待しか含まれていないような気がした。瞳の奥底にあるもう一つの感情が渦巻いているのを言葉の切れ端で感じながら、そう思う。

 俺だけ――――それはつまり他の人間には裏切り、前原圭一のみを信じてくれる。それが彼の望みであり、不安に感じている内容。

 それに応えるのは簡単だ。僕が賛同すること。それだけでこの不安を取り除いてあげられる。それは手に取るように分かるし、それに応えてあげたい。今の前原君は心の拠り所を失った人。誰かの助けを、暗く、深い闇の中で見えないながら叫び続けているのだ。

 手を伸ばしてあげたい。その気持ちは十分に持っている。言葉によって生まれるその腕や手は彼を引っ張り上げる事が出来るだろう。

 

「それは……」

 

 そして……それが分かっていても僕は言い淀む。だってそれは一時でしかないことを自分が一番よく分かっているから。そんな事をしても昔の関係を取り戻せない。伸ばした腕は奥底の闇から連れ戻せても、結局は闇のまま。みんながいる光の場所までたどり着けない。

 それでは意味がないのだ。

 

「どう……なんだよ……!」

 

 彼のすがる目は否定を恐れていた。僕を完全に仲間、というより依存するような形で見ている。今すぐにでもこちらに掴みかかるような勢いで、前かがみになっている。

 椅子から立ち上がろうとするのを、僕は片手で力いっぱい抑えながら、彼に言った。

 

「……分かってる。僕は、前原君の味方だよ」

「違う! 俺が聞きたいのは他の――――」

「明日、園崎さんたちと話をしよう。それで確認しようよ」

 

 彼はハッと息を飲む。まるでそれを聞きたくなかったかのように。拒否する目がこちらに向けられた。

 

「んな事できるかよ!」

「そんなことはないよ」

「お前だって、あの話を聞いて、あいつらの嘘が分かっているはずじゃねぇのか……!?」

 

 どうしても彼には園崎さんたちの言葉を虚言でしか受け取れない。それがどれほど彼女たちを苦しめていることか、彼にはもう自分のことしか見えていない。

 

「嘘かどうかは彼女たちの話を聞いてからじゃないと。大石さんの話を聞いただけじゃ、真実は見えない」

「お前……どうしちまったんだよ! あいつらにそそのかされて頭がおかしくなっちまったのか!?」

 

 彼はつばを飛ばしながら、まくし立てるように言葉を吐いていく。

 

「あいつらは仮面を被っている……! 俺には分かる。大石さんの言葉を受けて、レナが襲ってきた件もそう。そして今回の釘の件ではっきりとした! あいつらは俺を……いや、俺たちを笑顔のもと、殺そうとしてるんだよ! 何で分からないんだ!?」

 

 竜宮さんの一件……? それはいつ起こったのか、自分ではわかっていないけど、彼の妄想が生み出した恐怖になっていることは分かる。

 どうか落ち着いて欲しい。そう願いながら、僕は力強く訴える。

 

「分かってないのは前原君の方だよ! 彼女たちの想いをどうして素直に受け止められないの……」

「受け止められる……だと? はは、笑える冗談だぜ……」

「出来るよ。だって前原君には仲間を信じようとする気持ちがあるじゃないか」

「お前に何が分かるんだよ! ……んなもの、」

「きっとあるよ。僕だって変われたんだ。みんなのおかげで、そして……前原君のおかげで」

 

 毒のようにじわじわと浸食していた僕の心を察してくれた親がいた。その毒を全て吐き出してもなお、強く信じてくれた仲間がいた。

 そして……毒の中にも希望にすがる想いをつなげてくれた前原君の姿があった。

 全てが真実であり、その言葉には強い想いがある。

 前原君にこれ以上、希望の火を小さくさせる訳にはいかない。仲間を信じ、共に認め合う関係をこれからも築くためにも、彼には僕の想いを伝える必要があった。

 

「俺の……おかげだと?」

「みんなを信じようとした心。僕は前原君のそんな強い君を見たから友達を信じ、そして仲間を信じた」

「……」

「前原君は僕を変える力を与えてくれたんだ。……ありがとう」

 

 前原君は僕の顔を、目を見つめてきた。不安な瞳を僕もしっかりと受け止める。

 瞳の中にはこれまでの出来事が流れているような気がした。

 たった半月も経ってない僕たちの関係。それでも、こんなにも温かなな日々を過ごしてきた日はない。笑いあい、ふざけ合い、誰よりも関係を深めてきたと言える。僕らは何年も共に過ごした友達に負けない仲間だ。だからこそ、取り戻せると信じている。またあの日みたいに”みんなで”笑いあえるはずだ。

 それが僕の今の気持ちだった。

 

「感謝されたところで、どうにもならねぇよ……」

「そんなことないよ。これから変わればいいじゃないか、みんなに話を聞くだけでも、大きな変化があるかもしれないよ?」

「そうか、お前は……そこまで……」

「うん。僕はここまで変われた。特別なことなんてなかった。だからきっと前原君も……」

「……俺はお前のようになれない」

「僕だって君になる事なんてできないよ。だから前原君は前原君でいけばいいんじゃない?」

「俺自身…………か」

「真っ直ぐな想いをちゃんと伝えれば、きっと彼女たちにも伝わる」

「……そうかよ」

 

 はははと苦笑いをした後に、不安を顔にだし、こちらに向けながら僕に尋ねる。

 その表情にはもう、すがる想いはない。ただ真っ直ぐに、前を見つめる彼の姿がそこにはいた。

 

「俺はお前を…………信じていいのか?」

 

 今、前原君は手を伸ばした。僕に救いを自ら求めたのだ。

 ならば僕も手を伸ばさなくてはならない。言葉は考えるよりも先に出ていた。

 

「もちろん。今度は、僕が助ける番だ」

「そんなことはない。これからも、お前と共にいるんだからな」

 

 その笑顔は弱弱しいが、僕に見えるのはそれが彼の希望の先に見えた笑顔につながる第一歩に見えた。

 

「そうだね。一緒に園崎さんのところで話を聞こう」

「あぁ、うやむやになっているこの心に……けりをつける」

 

 良かった。彼は迷いを晴らすために彼女たちに全てをぶつけるつもりでいてくれている。それは以前の自分が行っていたこと。あとは全て彼女……竜宮さんに任せる事で前原君の暗い闇をみんなで引っ張り上げる事が出来るはずだ。

 昔の自分にも出来たこと、前原君が出来ないはずがない。

 

「仲間って便利な言葉だよな」

 

 前原君は意外な言葉を口にしていた。

 

「便利っていうか……僕には頼もしい言葉に聞こえるな」

「頼もしいと思えるのはお前が優しいからだよ」

「そうかなぁ?」

「あぁ、お前は優しすぎるんだ。みんなの言葉を聞いて、それを信じられて、全く……」

「何回も言わせないでよ。僕にだって悩むことぐらいあるんだから。それを信じさせてくれたのは他でもない、仲間の存在なんだよ」

「そう……だよな」

 

 ゆっくりと頭を抱えて、彼は小刻みに震える。

 自分を支えようとしている彼の姿を、僕はただ黙ってみていることしか出来なかった。

 

「どうして……どうしてこうなっちまったんだ……!」

「……」

「もう、俺は決めたことなんだ。それなのに、まだ……」

 

 そこには言葉の端々には不安、恐怖、そして疑惑。全ての心の闇が詰まっていたような気がした。

 前原君の心には何か小さく、だけど大きな変化があったのだ。

 そこに割って入ろうとする恐怖、それに打ち勝とうと、彼はもがく。

 背中を押すしかない。僕に出来ることはたったそれだけで、それが一番彼にとって嬉しいものだと思ったからだ。僕は震える彼の背中を手でさする。

 

「今からでも取り返せる。ちょっとの勇気があれば、きっと乗り越えられるよ」

「悪い……悪い……!!」

 

 前原君の今あふれんばかりの気持ちの全てを言ってくれた。

 それしか言葉に出来ず、その言葉を何度も繰り返している。

 言葉は嘘偽りのない、確かなものであり、そして再び元に戻れる希望が持てたということを知った。

 僕はただ、黙って前原君が震えが止まってくれるのを静かに見守ってあげていた。

 




ついに話数にして50を突破!

物語はついにクライマックスへ向かう。
前原圭一の心の闇を打ち払うことに成功したと安堵した篠原孝介。
しかし、物語は思わぬ展開へと向かう。
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