ひぐらしのなく頃に 決 【訳探し編】   作:二流侍

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■訳探し編【Ⅵ-Ⅲ】

 全てを取り戻すとした次の日。僕と前原君は朝早くから合流しようと口約束していた通り、前原君の家の前で、少し早く顔を見合うことになっていた。朝はいつもより涼しげで、夏のむんとする蒸し暑さがない。ここまで来る間に汗を掻かずに済んでいる。……とはいえ、快適な朝かと言われれば否定しか出来ない。

 僕は目の前で立ち尽くす人の顔を見て感じていた。前原君は相変わらずやつれた表情をしていて、目には覇気があまり感じられないと。確かに不安要素に真っ向から立ち向かうと決めた以上、快適に眠れたなんてことはないだろう。虚ろな瞳で、多少戸惑いを見せているのも無理ない。

 

「おはよう」

「おう……」

 

 簡単な挨拶さえ、彼の耳には入っているのか怪しいものだった。

 

「どうだった? 話す内容は決まった?」

「まぁな。大まかだが、一応」

「そう……それなら良かった」

「……この時間なら、あいつらに会わずに済むんだよな?」

 

 あいつらとは園崎さんたちのことだろう。自信を持たせるためにも首を縦に振る。

 彼女たちには学校で先に待ってもらうように電話している。簡潔に『後は前原君の口から直接伝えられるだろう』と。だから大丈夫。何も心配するようなことはない。

 とにかく前原君を不安に感じさせないよう、こちらで出来ることは配慮すべきことはした。彼のタイミングで話してもらうために、僕らは最前を尽くすべきだ。

 

「そうか……。なら、いいんだが……」

 

 それでも彼の目は周囲を警戒している。実は裏で隠れてみているのではないのだろうか。そんな気持ちがこちらからでも見え隠れしている。

 とにかく学校に行こう、ここで待たせても前原君の不安を煽るだけになるから。

 

「園崎さんたちは多分学校で待ってくれていると思う」

「……そうか」

 

 その時、突風が近くの田んぼの稲を揺らす。カサカサと音をたてたそれは微かで、普通なら気にすることない。稲刈りは近いのかな、なんて考えるだけ。ただそれだけの話だったはず。

 

「だ、誰だ!?」

 

 ――――それなのに前原君はそちらに振り返り、誰もいない相手に向かって身構えていた。当然、彼の前に現れるものなどいない。無言の時間が続いて数十秒後、ようやく前原君は自分の誤解を認めていた。

 

「な、なんだ。誰もいねぇじゃねぇか……はは」

「前原君……」

 

 まるで小動物の危険本能みたいな動きだ。常に神経を研ぎ澄ませ、敵を想定し、行動する。そんな行動を見ていて僕は思わず忠告したくなるほど、怖かった。その状況は絶対に神経が持たない。いずれ彼自身が精神的に崩壊してしまう、と。

 

「くそぅ。こんなんじゃいけないってのに……!」

 

 更に僕は、身構えていた前原君に対し気になったことを問いかける。

 

「……ねぇ、そのバット、持っていく必要があるの?」

「え、あぁ」

 

 身構えていた時に持っていたバット。それは昨日、玄関口で見つけたバットだった。

 べこべこになったバットを右手に持っている前原君は、バットをこちらに見えないように背中に隠して説明してくれる。

 

「こいつはな、学校から借りていたものだったからな……返さないといけない」

 

 前原君は手に持つバットに力を込めた。単なる決別したいという想いから持っていくのか。それとも恐怖に打ち勝つための決意の表れなのか……それとも護身用なのか。

 残念ながら今の時点では把握することが出来なかった。

 

「とにかく行こうか」

「そ、そうだな! あまり長居はよくないからな……」

「全く、自分の家なのに長居したくないって」

「……」

 

 冗談が通じない。軽率な発言だったかなと後に後悔しながら、並行に歩き始めた。

 最初はてっきり、後から付いてくるものだと思っていただけに素直に嬉しい。やはりまだ自分とだけは信頼までには至らなくとも、信用をしてくれている。それだけ分かったような気がした。

 とはいえ、会話をする余裕までは前原君にはないようで……久々に2人で歩いているような気がするのに、一言もしゃべれない状況がしばらく続いていた。

 前原君が気になっていたけど、僕が隣にいることで少しの安心感があるのか。想っている以上に驚きとか、びくつかせたりと警戒心をあらわにしていない。ただ唇を噛み締め、じっと前を見つめることばかりしていた。とにかく早く学校に行きたい。そう思えば、自然と早足になっている自分がいた。

 そんな状況が続く中、周りは朝の静けさから徐々に農作業のために出歩く人が増え始めていた。暑い炎天下の中でもタオルを首に下げて、Tシャツ一枚で作業する姿は都会では中々見られなかった。いつもなら、前原君たちと会話しているから、こんな些細なことを気にしていなかった。

 そんなことを見ながら、僕は気になることを口にしていた。

 

「そういえば、前原君って僕と同じで転校だったよね?」

「ど、どういう意味だよ? いきなり話しかけてきたと思えば……」

「いや、対して深い意味はないよ。ただ、前原君も都会から引っ越してきたって思って」

「……そんなのどうだっていいじゃねぇか」

「どうしてなの?」

 

 その時、前原君の肩が大きく跳ねあがったのを、僕は見逃さなかった。

 

「どうして……だと?」

「うん。やっぱり親の転勤とか? まぁそれが普通だよね。僕の両親もそうだったし」

「聞いてどうするんだよ?」

「え?」

 

 思わず聞き返してしまった。僕が疑問に思ったのは内容についてではない。彼の言い方についてだった。なぜなら彼は、とても威圧的に、声色を変えていたからだ。

 怒っている。そう思うのに、そう時間はかからなかった。

 

「お前は、俺の過去を知ってどうするんだよ……!」

「い、いや。別にそんな深い意味で聞いたわけじゃないんだ。ただ、」

「誰かに聞いてこいって言われたのか? そうなのか!?」

 

 前原君が詰め寄りながら、僕にそう聞く。

 

「そんな。誰もそんなことを気にしないから」

「ぐっ……!」

「歯ぎしりなんてして……そんなに怯えることないじゃないか」

「そう……だよな。お前には関係ないことさ。そうだ、お前は悪くない」

 

 最後の言葉が引っかかった。その言葉には……彼の本心があったような気がしたからだ。

 だからこそ聞きたい。何を前原君は気にしているのか。そして……前原君は本当に仲直りをするつもりで学校に行ってくれるのか。

 だがその言葉を口にする前に、

 

「ふふ、あぁら? 朝から口喧嘩なんて、機嫌でも悪いのかしらぁ?」

 

 女性はそう言う。驚きを隠せずに首を後ろに回してみれば、口角を上げ、微笑ましいというよりいたずらをして笑っているような妖艶な笑みを浮かべている女性がいた。最初に思ったのは、そのおしとやかなイメージと共に、村の人にしては服装が少し目立つ人だと思った。

 足のラインが見えるような黒いパンツにピンクのインナー、そして薄緑のジャケットを身に着けている。

 少したれ目なその人は、こちらに向かって軽く一礼をしてくる。

 

「おはよう、かしら? それとも初めましてというべきかしら?」

「は、初めまして……」

 

 戸惑いながらも挨拶は返しておく。前原君はじっと見つめるだけで、相手にしたくないようだ。

 とりあえずここは自分が対応するべきだろうと、自分の鞄の中をチェックしている女性に話しかける。

 

「すみません。いきなり話しかけられる仲でしたか?」

「ふふふ。そうね、いきなり話しかけられても困惑するだけですものね」

「はぁ……」

「私は鷹野 三四というの。あなたの母親からよく聞いているわ。篠原 孝介くん」

 

 母さんのこととなると、仕事の関係なのだろうか。となると入江診療所の人だと思うのだけれど。

 

「えぇ、その通り」

「え?」

 

 思わず口元を抑えてしまう。自分はうっかり思った事を口にしてしまったのかと思ったからだ。

 

「あはは、ごめんなさい。別に何も言っていないわよ。ただ、多分こう思っているんでしょうね、と思っただけ」

「そ、そうなんですか……」

「本当に面白い子だわぁ」

 

 何か掴みどころのない人だ。話していて、それがよく分かる。話していてもどこか、違うことを考えていそうで、それで何か裏があったりしそうなタイプ。ぶっちゃけて言えば一番苦手とするタイプだった。

 

「……そうそう、面白いといえば、その子もかしら」

「な、なんでしょう……」

 

 前原君はあまり関わりたいと思っていないようだった。目を合わせようとはせず、早く話を切り上げたいオーラを身に纏っていた。

 そんな姿を見て、鷹野さんは楽しそうに笑う。

 

「前原君、だったかしら? 良く聞いてるわ、色んな人から、色々とね……」

「色々……なのかよ」

「気にすることじゃないわ。本当に、些細なことですし」

「……」

 

 明らかに前原君は嫌がっていた。こぶしを固め、不安に言葉を失っている彼は、望ましい状態ではない。今、彼の気持ちに不安を募らせることは今後の竜宮さんたちへの障壁にもなりかねない。それだけは避けないといけないのだ。

 

「すみませんが、僕たちは行くところがあるので」

 

 間を割って入るように、前原君を守るようにして、僕は話を遮った。

 

「あら、ごめんなさい。私ったら、喋るのが本当に好きだからついね、喋りたくなるのよ」

「そうですか。それならまたの機会で」

「ふふふ、形だけの社交辞令、ありがとう。また会えるといいわね」

 

 本当に何しに来たのだろう、そう思ってしまう僕に、鷹野さんはもう一度こちらを向いた。

 

「前原君もやるならしっかりやらないと……ね。頑張りなさい」

 

 その応援だけを残して行って欲しかった。そう思いながら、僕は再び前原君と登校までの道を歩き続けた。




鷹野さんの登場。
朝からの勤務できたとは思うのですが、しかしまぁ、こんな時に……そう思う孝介は己の不運を嘆きながら学校に向かうのであった……。

―――――
余談

昨日は日間ランキングに乗っていたようで……本当に評価、感想していただいている方々、いつも読んでくださってる方には感謝しきれません。お気に入りは140を超え、UAは10000になろうというところまできました。これからもよろしくお願いします!
そしてこの機会に読み始めた方もありがとうございます!

これからもゆるゆるとですが、暇な時間に読んでいただけるような作品を目指して頑張りますよ!
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