鷹野さんの茶々が入ったことにより、一層場の空気が悪くなる。学校までの道中に話しかけれる話題を一旦口にしようとしては、前原君の神妙な顔を見て閉じてしまう。その繰り返しを自分の中で続けていた。
凄い考えているし、何か話しかけたら悪いような気がする。そんな気持ちでずっと遠慮が続いてしまったのだ。そんな関係をしてはいけないと思いつつも。
学校までの距離がこれほどまでに遠いと思ったことはなかった。それは以前から楽しく登校してきたという話とは全く別物。緊張感と圧迫感でただ学校に着くことがダメな気がしていたから。
このままでいいのか……そんな疑問さえ残る中、遂に僕らの目の前に『雛見沢分校』と書かれた木製看板が視界に入る。
「久しぶりな気がするな……」
前原君の第一声はそれだった。懐かしむほど日程的には休んでいないのに、そう隣で呟いていた。彼にとっては迷い、そして決断するまでの時間だったのだ。2日とはいえ、その長さは日常よりも比較的にならない長い日だったに違いない。
前原君は遠くを見つめるような姿を、僕はそんな風に捉えていた。
「じゃあ行こう。前原君」
「あぁ。わかってる。行こう――――」
「待って。圭ちゃん!」
僕らが行かなくても、向こうが待ちきれないようだ。
玄関まで歩こうとした僕たちに、後ろから呼び止める声は微かに震え、だけど諦めのないしっかりとした声が聞える。もう、一生忘れないであろう人の声。
振り向くことよりも、呼ぶことを選んだ前原君はその人の名前を口にした。
「……魅音……」
「圭ちゃん、来て……くれたんだね」
そこでようやく僕らは振り向いた。今日の主役といっていいその人は、胸に手を当て、己を鼓舞するかのように握りこぶしを固めていた。園崎さんと、竜宮さん。距離にして二歩半、微妙な距離がまた悲しい。それでも2人の姿は少し安堵の表情を浮かべているように見えた。
とにかく来てくれてよかった。そんな言葉が顔から読み取れる。そう思えるだけ、自分も安堵の気持ちになれた。
だけど……それも表情までで出来ることなのも事実。この雰囲気を和ませるまでには至らない。もう凝り固まったこの雰囲気を崩すには、どんなムードメーカーを持ってしても難しい話だった。それでも、彼女は諦めないはずだ。
溢れる言葉を整理しきれない園崎さんは、しどろもどろになりながら、必死に言葉を紡いで会話を続けようとしていた。
「あ…………あははは! 圭ちゃ~ん。来たのなら、ちゃんと教えてよねー! 風邪だって言うし。昨日も風邪だし。連絡はないし。もしかしたら圭ちゃん、今日も休みなのかなぁって。でも、今日来たってことはあれだよね。元気になったってことで、」
「魅音、俺と話がしたいんじゃないのか?」
「え……あ、うん」
やはりこの雰囲気、この壁は大きすぎるようだ。園崎さんも
助けを求めたいというように、竜宮さんの様子をうかがってみる。
ジッと前原君の顔を見ているだけで、園崎さんの方を見ようとはしない。
園崎さんへの助け舟は出さないつもりなのだろう。もしかしたら園崎さんの指示なのかもしれない。責任感の強い彼女なら、そうやってお願いしていたとしてもおかしくない。
園崎さんは怯えつつも、気持ちを全部見せようとしていた。
「……単刀直入に言うと、私は圭ちゃんの誤解を解くために来たんだよ」
「あぁ、それは孝介から聞いた。そのためにここに来たからな」
「まずは……謝らさせて。圭ちゃんがこの村を好きになって欲しいかったからって、嘘ついてた。それは本当なんだよ……本当にごめん!」
バラバラ殺人事件についての事を認め、謝罪。これは許しを請うためよりは自分の気持ちから出る罪を感じての行動。園崎さんは頭を下げた姿は必死よりも、後悔に近かった。竜宮さんもその後に続くように頭を下げる。
前原君はその姿を見ても動揺などしない。何を感じているのだろうか。
「……魅音、とにかく頭を上げてくれ」
「う、うん」
「話を聞きたいんだ。お前らが秘密にしていたこと……事件について教えてくれ」
「圭ちゃんが気にしているバラバラ殺人事件だけど。私たちは関与してない」
「だけど園崎家は否定も肯定もしなかったって聞いたぞ」
「それは……」
「ばっちゃの命令だったんだよ」
竜宮さんが思わず横やりを出そうとしたところを抑える園崎さん。やはり彼女は何も言うなと言われているんだろう。
ばっちゃというのは文字通り園崎家のおばあちゃん、ということなのだろうか。その人がその時、園崎家の権力を握っていたことになる。でも、こういうときに権力を握るのは男の人だと思っていたからちょっと意外だった。園崎家は女性の方が地位が高いということなのだろうか。
そんな疑問を置いて、後継者の園崎さんの話は続く。
「ばっちゃは警察が容疑者として、裏で操っているのが園崎家の一味だと考えているのを知った」
「それは無実なのか?」
「うん。根も葉もない戯言」
「なら何で嘘を怒らなかった?」
「もちろん怒ったよ……ばっちゃ以外は」
一拍を置いて、園崎さんは答えた。
『それを上手く利用することによって、家の威厳に変換することが可能となるのではないか』と。
彼女は語る。それが園崎さんの言うばっちゃの計画だ。
それは園崎家の秘密の家訓として、如何なる天災をも全て自分たちがおこした出来事にするというものから考えられたものだと。
「んなこと言ってもよ。警察が騙されるわけがないだろ。きっと真実で解明できるし、ぼろが出る」
「そこは、分からない。どうして真実を騙せたままなのか……」
「なんだよそれ、俺を馬鹿にしてるのか?」
「馬鹿になんてしてないよ。でも、本当に何で警察が解っていないのかが分からない」
そう彼女は苦言する。
ばっちゃの存在は園崎家の心臓部分といっても過言ではないようだ。しかし、彼女の言うひた隠しにする以上、彼女1人でどうこう出来るものでもないはず。
「それに……ぼろなんて出ても、揉み消す権力が園崎家にはあったんだよ……」
「権力だと?」
「……そこは、詳しく教えられていないから分からない。でも、今なら県知事とかは園崎家も関与していたりするし、外部への繋がりはとても強かった、と思う」
権力で真実を言わなかった事実を消す。その言葉はどうなのかは分からないけど、今まで公に出来ていない現状がある以上、無視はできない言葉だ。
前原君はただ黙って聞いているだけだ。変な追及もしてこない。
「だから園崎家は実際に事件をうやむやなままにさせた。何も語らず、何も弁明しない。警察は勝手に妄想を膨らまして、ただ私たちを犯人だと仮定して捜査していた。……ばっちゃはそれを狙っていたのにも関わらず、だよ」
その後も彼女は説明してくれる。北条家に対する仕打ち、そして今の想い。園崎家、公由家、古手家における権力さの変化。
……そして、人1人消え1人死んでしまうことへの園崎家への対応。
彼女は今、前原君が考えているであろう疑問を全て教えていた。予期できる内容を語り、時間も忘れて喋り続ける。遠くで授業始まりの合図が鳴っても、太陽が雲に隠れて、影が差しこんできたときも、手の指さえ動かさず、彼女は口だけを動かし続けた。
僕たちだけ、時が止まったかのような錯覚さえしそうだ。ずっと固まっている4人の構図は崩れることはない。
ようやく園崎さんがしゃべり終えたとき、それはちょうど授業終わりのベルが鳴りだしたときと同時だった。
「――――圭ちゃん。これがあたしが伝えるべき、真実の全てだよ」
彼女はもう一度頭を下げる。迷いなく、ただ気持ちを行動に示していた。
「本当に……ごめん」
バラバラ殺人事件の犯人説は嘘の情報。それを伝えきったと僕は思える。全部をぶつけてくれた。彼女が出来るであろう精一杯を見せつけてくれた。
隣にいる前原君は震える声を絞り出すようにして喋ってくれた。
「それが、お前の真実なのか」
「そう……本当に言えなくてごめん……でも!」
そう言って勢いよく顔を上げて、彼女は前原君に訴えかける。
「こんなことやったらダメだって分かってた! いずれ伝えないと、教えないとと思ってて……でも、言える機会がなくて、段々伝えるのが怖くなって……それで言えなくて……で!」
「もういい」
耐え切れない、そう言いたげな彼は園崎さんを言葉で切った。
そして彼はこういう。
「十分……お前の気持ちは分かったから」
「圭ちゃん……あり――――」
「もう、いいぜ」
「圭……ちゃん?」
その時、竜宮さんがハッと息を飲んでいるのが分かった。
目線は今も前原君の方、僕もそっちを見やる。
彼はこちらを向いていて、そして……笑顔だった。
その時の表情をどう表現したらいいのだろう。
笑顔なのは笑顔だ。でも純粋に見せてくれる笑顔ではなく、何か作って見せるような笑顔。そこに影が存在し、こちらが恐怖する笑顔。
喜びよりも不気味さが先行する。
「ま、前原君……?」
「孝介、お前は俺の仲間だ。――――だから助けてやる」
「……え?」
「俺がお前を守ってやる!」
その言葉の意味を確認する時間なんてない。
一瞬の出来事、校舎近くの蛇口についていた水が地面に落ちるころには全て終わっていた。
前原君は園崎さんの元に走り寄って、そして――――
「こいつで終わりだぁあああぁあ!!」
園崎さんの頭を狙って、バットを振り下ろしていた。
魅音を殴った圭一、その行動には迷いはなかった。でも、どうしてこうなったか。それは次回に続きます。
……はい、ちょっと遅れてしまいました。何度も考え、納得のいく内容にしようとした……はい、嘘ですw
リアルで野暮用が出来たので。
その間にお気に入りは140超えましたね、本当にありがとうございます!