鈍い音を打ち出していた。
木と金属をぶつけたかのような、あまり何かが壊れたといった甲高いものではない。それは中の何かが変化してしまうような籠った音。それが何の音かという説明は今の自分では出来そうにない。
喚きに近い叫び声、目の前が真っ白になっている僕はそれが自分の口から出しているとは思えない。
「あ……はは…………ははは」
ただただ茫然とするしか出来ていなかったこの世界に、バットを構え、高らかに勝利を宣言している人物がいた。園崎さんの血がついているそのバットは生暖かい血が付いており、今の彼の狂気さをより恐ろしいものに変えていた。
「あはははははは!! やったぞ! これで俺たちは助かったんだぁ!!」
膝をついて、そのまま仰向けに倒れてしまった園崎さんに近寄る。……良かった、まだ息をしてくれている。咄嗟に手のひらで直撃を防ごうとしたのだろう。指が捻じれ、爪が割れているけどそれが命を繋ぐ小さな行動になった。本当に良かったと思う反面、これ以上の被害を出させるわけにもいかないという危機感に至る。彼女の頭に損害は軽減されたとしてもこれはまずい。
今はとりあえず竜宮さんに園崎さんのことを任せ、僕は前原君と対峙した。
未だに笑い続けている彼に、思わず責めるような口調で咎める。
「ど、どうして!? 自分がやったこと分かってるの!」
「やったぞ孝介!! 俺は孝介を守ったんだぁ!!」
まるで答えになっていない前原君。更には唖然とするしかない僕に前原君はこちらまで歩み寄って手を繋いできたのだ。
「孝介! これで俺たちを苦しめる敵はいなくなったんだぁ!!」
「どういう意味なの!? 意味が分からないよ!」
「孝介はな、騙されているんだ。魅音の言葉にただ騙されているだけなんだ。だから俺が救った。お前を救ったんだ!!」
それが仲間なんだからなぁ!
そう言う前原君は何かに憑りつかれたとしか思えない程血迷っていて……異常だった。何かが吹っ切れていて、それでいて全てを敵視するような目……。その時に全てを悟る。前原君は今日、園崎さんと仲直りをしに来たわけではないということを。何のために今日、恐怖を乗り越えて園崎さん達の元に向かったのかを。
『あぁ、うやむやになっているこの心に……けりをつける』
それはお互いの心をぶつけ合うという意味では無かった。
『もう、俺は決めたことなんだ。それなのに、まだ……』
それはぶつけ合うことへの恐怖からでは無かった。
そう、全て僕の勘違い。全て間違えてしまったのだ。
前原君は僕のいうことを信じてくれてはいなかった。昨日言っていた僕の言葉は前原君にとって、ただ危機感を呼んでいただけ。僕がただ園崎さん達の言葉に踊らされていると思ったから。僕が彼女たちを信じてしまっているから。
そう感じたから、前原君は『僕のために』バットで殴った。そう、仲間と言ってくれた僕のために……。
そう考えると、怒りよりも自分への後悔をしてしまう。想いを伝えたのだけですべて上手く行ったと思った自分の浅はかさを、今この状況の一端を担っている自分がいることを。
どうすればいい、そんな考えが身体を強張らせていた。
「う…………うぅ。けいちゃ……ん」
「魅ぃちゃん!」
か細くても、僕の耳にはしっかりと入った。あれだけの攻撃を受けてもなお、声を掛けれるのか。
後ろで気絶していると思われていた園崎さんは竜宮さんの腕の力を借りて顔を上げていた。殴られた頭を抑えることもなく、片目を閉じている。血は出さずとも痛みがあり、脳にダメージを受けてまともに前を見れず、ぐにゃりと視界が歪んでいるだろう。そう思うだけでわが身のように感じて辛くなってしまう。
「魅音……」
「圭ちゃん……ごめん」
園崎さんは涙を流した。それは痛みから来るものではないと誰もが分かる。それを見て前原君はどう思っているのか。
「やめろよ」
思わず前原君を睨んでしまう。彼は心底うんざりしたような、鬱陶しいものを見るかのように見ていた。まるで心に響いていない。既に前原君は園崎さんを敵としか見ていないのだ。
それでも、園崎さんは伝えようとしていた。彼女自身の想いを、彼女の今やりたいことを。
「ごめん」
「はッ! 何だよ、それ」
「ごめん」
「……やめろ」
「ごめん……!」
「黙れよ! 犯罪者がぁ!!」
前原君はもう一度バットを振り上げた。
「俺はお前達を仲間だと思っていた! 思っていたのにだ……! 仲間ってのは嘘や隠し事なんて付くのかよ!? 違う! そんなの仲間であるはずがねぇ!! だから俺は……。俺はぁ!!」
「圭一君っ!!!」
思わず肩をびくりと動かした。それだけ彼女の声に驚いてしまったのだ。
竜宮さんがここまで叫んだことがあったのか。腹から出して、喉を震わせる。彼女の声はサイレンなんか目じゃない程。それは彼を黙らせ、場の雰囲気を一変させるのに十分な威圧を放っていた。
「圭一君の仲間って、嘘や隠し事を付くか、付かないで決めてしまうの!?」
「……あぁそうだ。仲間ってのは信じあえる存在だ。なら、そんなモノ付けるはずがねぇ!」
「レナは……そうは思わない」
竜宮さんはゆっくりと顔をあげて、圭一君と向き合う。
「レナはね。嘘や隠し事を付いたとしても。付かれたとしても、それでも心の底から信頼出来るモノだと思う! 圭一君は形だけの仲間意識しか捉えていない!」
「ははは、俺の方がおかしいって言うのかよ!」
「おかしいよ! どんな嘘や隠し事があっても、信じあえる関係こそが、」
「その隠し事が俺たちにとって、怖いモノとなっていたらどうなんだよ!!」
「それでもレナは信じてる!」
「……」
「レナはみんながそんな事をしていたとしても……きっと理由があると思う。それは昔の圭一君だって考えていたことだよ? だって、それを教えてくれたのは他でもない――――圭一君だもん。だから私は信じる、圭一君が信じてくれるためにも、私はそういったことでも信じて見せるよ!」
そうだ、彼女はそうやって自分を信じさせてくれた。彼女も仲間を想い、そして前原君を想っている。だからこそ、こうやって訴えても、冷静に自分のことを言えているのだ。
前原君も、きっと竜宮さんの言葉を聞いて、何かしらの想いを伝えてくれるはず。それは仲間を……竜宮さんたちを信じたいという想いを。
そう思いたかった。だけど、実際に出てきた言葉は僕の予想とは全く違ったものだった。
「それは……レナだからじゃねぇのか」
圭一を取り戻そうと動き出したレナ。だけど、彼はレナの想いを別の理由があるからだと言う。
それは一体……。
遅くなってしまいました!
何とか投稿出来て良かったですw また連載出来るようにゆるゆると頑張ります!